TEST


 

 

**********4th−day Vol.3 **********





【 渋谷 道玄坂警察署 】



 陣内瑠璃子の身柄確保―
 奈津美がその報を受けて、道玄坂署についた時には、すでに園美と樹里が取調室前の廊下にいた。
「どうしたの?2人とも。彼女、中にいるんでしょう?署の取り調べに加えてもらえばいいじゃない」
 長い廊下を歩き、2人に近づきながら奈津美は言った。

「監査官、ご足労かけてすいません」
 2人は姿勢を正して敬礼する。
「ハ、何しゃちこばってるの?どうせ、またアイツが階級の上下こだわれって言ったんでしょう?」

「えぇ、まぁ」
 2人は苦笑した。
「その浮かない表情の原因は何?」

 そう言われて2人は取調室の扉に視線を投げた。
「今、陣内瑠璃子の担任と寮母が入って所轄から補導の経緯説明を受けています」
「それで?」
「副長、あ、いえ監査官。実は・・・・・」
「樹里、いいわよ。アイツがいないときは今まで通りでいきましょう」
「すいません。奈津美先輩に見ていただきたい資料が・・・・」
 クリヤケースに入った資料を樹里が手渡した。
 資料のあいだからこぼれて写真が奈津美の足元へ落ちた。奈津美がすぐさま拾い上げる。
 ロングヘアーの顔立ちの整った清楚な印象の少女の写真と茶髪のパーマのかかった同じ少女の写真だった。

「誰?このコ・・・・」
「黒髪の方が今朝撮影、茶髪は池袋東署からの回付資料、いずれも同一人物です。奈津美先輩、見覚えありますか?」
「全然」
「ですよね。でも私たちが良く知っているはずなんです」
 そう言って樹里は園美と目を合わせると困惑した表情を隠さなかった。

「まさか!」

「そう、『陣内瑠璃子』なんです。資料に生徒証のコピーもあります。陣内瑠璃子本人だと担任と寮母も確認しました」
「似ても似つきやしないじゃない。間違いなく別人よ!」
「そうです。おそらくは我われが探していた女子校生は『陣内瑠璃子』の名を騙っていましたが・・・別人です」
「なんてこと、そ、そうしたらあの那智の妹は・・・」
 奈津美の顔が青ざめる。



 その時、取調室の扉が開いた。
「本当に申し訳ありませんでした」
 25前後のスーツ姿の女性と小柄な老女、写真で見たばかりの制服姿の少女が廊下へと出てきた。
 担任と寮母は部屋の中にいるであろう少年課の担当に頭を下げていた。

「3人には申し訳ありませんが、あともう少しお時間頂きますよ」
 取調室から出てきたのは本庁の石原だった。
 担任たち3人を奈津美たちへと引き合わせた。
「そこにいる特務機関の方々に今お話したことをもう一度お願いしたいんです」
「石原さん・・・・・・・」
 奈津美は石原がいることを知らされていなかった。

「やぁ、伊部副長!いや今は監査官様かな?戦線復帰おめでとうございます」
 3人を樹里と園美に引き渡す。
 樹里と園美は近くにあった休憩ブースに3人を導く。

「陣内瑠璃子の情報は石原さんが知らせてくれたんです」
 樹里の言葉に奈津美は「えっ」と小さく口にした。
 ともすると単件の少年保護で見過ごされてしまいそうな所轄の事件を石原は網の目を張って情報収集していたことになる。

「ヒマですからね、自分は。閑職出向ですから。監査官様の応援でもしようかなってね」

「やめてよ。そういう言い方、しかも私自身原隊復帰じゃないから極めて不本意なのよ」
 石原の意図を図りかねながら奈津美は苦笑した。

「なに言ってるんです。チーム6の今回の作戦監査ならチームにべったりなんだから、原隊復帰のようなもんでしょ?」
「そうかなぁ?」
「昔で言えば軍目付、十分じゃないですか。伏見局長の見事な采配とLS内じゃ、もっぱらの評判です」

 『でしょ?』と石原はおどけてウインクしてみせた。

「あなたは人の噂や風評まで調べるの?」
 石原の分析に奈津美は呆れている。
「もちろん、LS全てにおいて本庁に調査報告するのが自分の任務ですからね」
「あなたの方が今の私の仕事お似合いよね。コツでも教わっておこうかしら」
「またまた、キツイんだから。今回はオレからの『貸し』ですからね」
 石原は情報の提供を『貸し』と言って苦笑いを浮かべた。

「だめよ、私、貸しは作らない主義なの」
「じゃあ今夜メシでも奢って下さいよ」
「考えとくわ」
 奈津美は笑った。
 恐らく石原は貸しとは名ばかりで、今までの本庁の者と違いLSに対してかなり協力的だった。
 貸しとでも公言しなければ自分自身の気持ちの上で立場上協力できないからなのだろう。
 しかし、本庁のしかるべきところでは容易に情報が入手できるものだと奈津美は感心した。



「それはそうと、陣内瑠璃子のことだけど・・・・・」
 奈津美はすぐに仕事の話を石原にふる。
「はいはい、聞かれると思ってました。渋谷のセガミュージアムで朝から普段着姿で遊んでいる彼女を警ら中の所轄が見つけて職質、保護したそうです」

「本当に彼女が陣内瑠璃子なの?」
「本当に本物かと聞かれると困っちゃいます。まあ、担任と寮母がそう言ってますし、所持していた生徒証、定期券、クレジットカードの会員証も陣内瑠璃子のものですし、間違いないんじゃないんですか。ただし、我われの追う陣内瑠璃子とは別の存在です」

「何、その言い方。本人は何て言ってるの?」
「そこ行って聞いてみたらどうです?本人に直接」
 石原はすでに陣内瑠璃子に接見して状態を知っているらしく苦笑した。


 休憩ブースでは樹里と園美の聴取が始まっていた。
「そうです。この子が陣内瑠璃子です、間違いありません」
 担任の若林純が済まなさそうに言った。
「レディスワットの飛鳥井といいます。こちらは黒川です。実は陣内さんは私たちの追っている事件の鍵を握る人物として、その行方を追っていたのです」

「えっ・・・・この子が?この子が何をしたっていうんです」
 寮母は目を丸くする。

「申し訳ありませんが、今はお話しできない内容の方が多いんです。ただし、私たちが探していた陣内瑠璃子さんと、そこに居られる陣内瑠璃子さんは、どうも全くの別人のようです」

「おっしゃってる意味がよく分かりませんが・・・・」
 寮母も担任も顔をしかめた。



「あの・・・・申し遅れました、担任の若林といいます。彼女は先週、放課後の合唱部の活動を終えてから帰寮しないまま行方が分からなくなりました。感受性の高い子で周囲の不用意な言葉にもいたく傷つく子でした。最近、母親の再婚が彼女にはココロの負担にもなっていたようで、ここ2〜3ヶ月はかなり不安定だったので気にはしていたんですが・・・・・。正直なところ、以前から1日や2日の失踪も日常茶飯事のこととなっていたため、学校側も彼女の失踪を気にかけるまで出遅れた感があります。申し訳ございません」

 奈津美は、まだまだ枠にはまらない生徒に対処できうる経験が十分になさそうな感じを担任の若林にもった。

「ウソです。遊び癖の抜けないコで、いつも寮を抜け出しては渋谷や池袋界隈で深夜まで仲間と遊び歩いてるんです。そのあたりでは顔の知れたコだったようです。池袋東署からわんさか資料でてきました。しかも、うちのデータベースにまで。私立は隠そうとしますからねこの手の情報は、平気でウソや詭弁言うんだから」

「えっ・・・・・」

 背中越しに奈津美の耳元で石原が囁いた。
 地声の大きい石原の声はしっかりと周囲の人間に届いてしまう。
 若林は詭弁があっさり暴かれて寮母と顔を見合わせた後、渋い顔でため息をついて、もう言い返そうとはしなかった。
「ちょっと待ってよ、石原君。うちってLSのデータベースに彼女のデータがあったっていうの」
「そうなんです。涼子さんが見つけました。援助交際で夏に現場を押さえられて保護してるんですよ、それが初犯」
「どうして・・・・なぜ新宿の事件の時にヒットできなかったの」
「監査官殿、名前ですよ、な・ま・え。さっき先生が言ったでしょ、10月に再婚して『陣内』姓に変わったんです。補導時には『青井』でした」
「うちのシステムじゃ氏名が検索キーなのよね」
 奈津美は舌打ちした。
「初犯ということもあり親の保護の下、帰らせましたが、まあ見つかったのが初犯ってだけでね。恐らくは以前からずっこんばっこん・・」

 地声の大きい石原の言葉に寮母と担任の視線が冷たく向けられる。
 奈津美も思わず咳払いをして石原をたしなめた。


「いけね。すみませんね。口が悪くて。それで失踪前日まで市村美佐子という同級生と渋谷に遊びに来ていたことが確認されています」
「市村美佐子ね、茶羅に探らせる」
「えっ?」
 石原はメモに落とした視線を奈津美に向けた。
「祐実が・・・チーフが潜行捜査で茶羅を学院に入れている。あの陣内瑠璃子が本人でないことをあのコはすでに疑ってたのかも」
「そ、そうなんですか?潜行捜査を?」
 樹里と園美がうなづいた。

「教えてくださいよ、そういう重要なこと」
「だから、今教えたの。ギブ&テイクはオンタイムでいかないとね」

 それだけきくと、奈津美は若林の前に一歩進み出た。


「若林先生、彼女の学校でのことについては、あらためてお時間を取って頂きますが、今は直接本人に失踪していた間のことを聞きたいのですがよろしいですか?」

「は、はぁ・・・・・・・・・」
 担任は困惑気味だ。
「恐らく、我われが追う別の『陣内瑠璃子』が、このコの失踪中に何らかの接触があったと考えます」
 奈津美はそう言って、園美と樹里に視線をなげた。
 2人はうなずいて彼女の前に立った。


 園美は本当の陣内瑠璃子といわれる少女の前にしゃがみこんだ。
 その脇で樹里と担任の若林と寮母が見守る。
 椅子に座る彼女と視線の高さを同じにした、威圧的な印象をあたえないため。
「陣内さん、私はレディスワットの飛鳥井といいます。悪いけど、あなたが学校からいなくなって今日ゲームセンターで保護されるまで、何処で何をしていたのか教えて欲しいの、いい?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 当の瑠璃子は何も答えずにただ呆然と園美を見つめていた。
「陣内さん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「陣内さん!陣内瑠璃子さん!」


「恐らく何を言っても同じだと思います」
 背後から石原が言った。
「石原さん、彼女・・・一体」
「無言、無関心・無表情、無感情。保護した時からずっとです。一言も喋りません。まるで抜け殻のようですよ」
「そんな・・・・・。先生、彼女は以前から・・?」
「いいえ、自分の意志を表に出さないような子ではありません、むしろ大人びてあつかましくさえある扱いにくいコですわ」
 若林があけすけに言い放った。
 すでに学校の評判を気にして言葉を濁す気も失せたようだった。
「陣内さん、陣内さん!」
 両腕をもって揺すってみても、瑠璃子の表情は奥に沈み込んだまま、無表情だった。
「薬物の線でも疑って、検査しようと思ったのですが・・・・」
 石原の言葉を担任と寮母が遮った。

「やめて下さい!彼女が、うちの生徒がそんな事をするような子ではありません!お断りしたはずです。彼女はきっと失踪中に大きなショックを受けているんだわ!彼女は被害者よ」

 担任も寮母も態度が頑なだった。
「なら、なおさらです。我々の機関直結の医療機関が都内にありますから、そこへお連れします」
「私ども、学院にも付属病院があるんです。ご心配にはおよびません」


 園美は樹里へと視線を投げる。
 樹里も園美の意図を汲み取った。
(やるよ!)
 園美の目がそう言っていた。
(うん。気をつけて。2人は私がひきつける・・・)
 樹里が軽くうなづいた。

「お2人にお尋ねしたい事があります。ちょっとよろしいですか?」
 樹里が担任と寮母に声をかける。
「こちらへ、お時間はとらせません」
 樹里は寮母と担任を別のブースに移した。
 瑠璃子と園美が2人っきりになる。

(さっすが、わかってるね)
 園美は樹里の行動を粋に感じながら、陣内瑠璃子に向き直った。
「瑠璃子さん、瑠璃子さん。いい、わたしの目を見て。わたしの目をじっと、奥を見るように」
 瑠璃子には意思の光はない。
 瑠璃子の視線を園美に向けさせるのではなく、園美が瑠璃子の虚空を見る目線に合わせるようだった。
「奥を見るのよ、もっと、もっと、目を凝らして・・・・」
 瑠璃子を即時任意同行できないと判断した園美と樹里の2人はこの場で瑠璃子に催眠訊問を試みることを思いつた。
 園美の意を理解して樹里は身元引受に来た担任らを遠ざけたのだった。

 園美は瑠璃子の両肩を優しく掴んで、まるでキスでもするかのように顔を近づける。
 そうすることで瑠璃子の視界の全てを自分の目で占める。
「ゆっくりと、ゆっくりと時間が戻っていくわ。あなたが学校を離れるときまで・・・」
 自我を失っているかのような瑠璃子に果たして催眠誘導ができるかどうか、園美は少し自信がなかった。
(でも、でもやるしかない!)
 自分にそう言い聞かせた。
 その時、一瞬、瑠璃子が瞬きをした。
「えっ・・・・・」
 園美が小さく声を漏らす。

 再び開かれた瞼から、今までとは明らかに違う意思の光が宿ったような大きな目が現れた。
 瑠璃子の両手が園美の両頬に添えられると、一気に力で引っ張られて唇を重ねられる。
「なっ・・・・・」
 園美は予想外の展開に動揺した。
 唇を離した瑠璃子は額をあわせるように園美に向かって前かがみになるとこれ以上ないくらい目を近づけた。
 無表情の瑠璃子を園美は必死で引き剥がそうと力を込めても微動だにしないほど、瑠璃子は園美の肩を掴んでいる。
 園美の視界には大きく見開かれた真っ黒な瑠璃子の瞳がいっぱいに広がる。
 「い、イヤ・・・」
 転落、着地点のない無間の落下が継続するような異様な体験が全身を襲う。
 園美は何が起きたかわからないまま、気が遠くなっていくのを感じた。

「園美!」
 異変に気づいたのは奈津美だった。
 瑠璃子が座る椅子の前、床に眠るように園美は崩れ落ちた。
「園美、どうしたの園美!」
 樹里も石原も慌てて歩み寄る。
 奈津美が園美の背に手を入れて上半身を起こした。
 園美はさっきまでの瑠璃子のように茫然自失といった無表情で目を開いたままピクリとも動かない。
 聞き取れないほどの言葉を口にしながら、園美はすでに誰の問いかけにも応えなくなっていた。
「82・・・4・・・1・・・・・5・・」
「なに?何が言いたいの?園美、園美!しっかりなさい!何を伝えたいのっ?」
「・・・・・・・・・・・」
 かすかに動く口元からは、すでに何を言わんとしているのか読み取ることは不可能だった。


「あれ・・・・先生、わたし・・・・ここどこ?」
 生気の戻った陣内瑠璃子が周囲をキョロキョロと見渡した。
「じ、陣内さん!気がついたのね」
「わ、私、どうして・・・・。たしか、渋谷の109脇で援交相手の連絡が来るの待ってて・・・・」
「エンコーですって!ま、な、何ですって!じ、陣内さん!あなた一体!全体!!!!」

「あっ、いっけね!なんかわかんないけどココ警察だよね、カッコいいお姉さん方いるし。あれ、わたしなんでこんなダサダサなカッコなの?制服どうしたんだっけ?大切な商売道具なのに」

「陣内さん!あなたってコはっ!」
 寮母と担任の若林は目くじらをたてる。


「園美!しっかりしてよ!園美ったら!」
 樹里が声を張り上げて、肩を思い切り揺すっても園美の表情には感情のかけらも見えなくなっていた。
「石原さん、救急車を!」
 奈津美が石原を急かす。
「は、はっいっ!」
 石原は一瞬の出来事に呆然としていたが、すぐに走り出した。
 
「園美!園美!」
 樹里の声がかすれて目に涙がたまる。
「これもあの『陣内瑠璃子』の仕業だって言うの!」
 奈津美が唇を噛み締める。
「あの・・・・陣内瑠璃子は・・わたし・・ですけど」
 恐る恐る本物の瑠璃子が話しかける。
「陣内さん、今あなたがここにどうしているの説明は後回し。あなたが覚えている限りの今までの記憶、全部話してくれる?」
「え・・・・、うん。別にいいけど・・。でもなんだか私、すっごくお腹空いてるんだけど」
 奈津美に圧倒されて瑠璃子は言葉につまった。




【 聖オスロー女学院 高等部2年 】



「沙羅ネエ、なんか会いたいってヒトが廊下に来てるけど・・・」
 クラスメートの1人が茶羅への面会を伝えに来たのは終業のホームルームの終わった直後だった。

「人気モンだねぇ〜、真奈先生には呼び出されるし、これまた大学生からも誘われるし」
「えっ?大学生?先生の呼び出しの催促じゃなくて?」
「うん、そう言ってた。キャンパス近いから、うちの大学。きっと沙羅ネエの噂を聞きつけたんだよ、きっと」
「なんだろう・・・・」
 茶羅は廊下に立っている薄桃色のボタンダウンにブレザーを羽織った女性に目を凝らした。


「あなたがサラさん?」
 廊下で会うなり大学生はいきなり切り出した。
「え、ええ。そうですけど・・・」
「私、英文の稲田佳美」
「はぁ、稲田さん、あの・・何の御用でしょうか?」
「ここでは話せないわ。私と一緒に来てくれる?」
「すみません。私、担任の先生にも呼ばれてるんです。理由をはっきりしていただかないと困ります」

 茶羅は毅然と拒否する態度を示す。
「陣内瑠璃子さんのことで、と言ったら?」
 佳美の顔が微笑んだ。
「えっ?」
「探しているんでしょう?彼女のことを」

 茶羅に緊張感が走る。
 高校生の表情から一転して険しい顔つきになった茶羅の顔を見ても佳美は顔色を変えずに微笑んでいる。
 はたから見れば世間話程度の話にしか思えない。
「一体、稲田さんは何者なんでしょうか」
 
 脇に抱えた紙袋の口を佳美はワザと開いて見せた。
「あっ・・・・」
 思わず声を出した茶羅が見た紙袋の中身は見間違うはずのないレディースワットのトレーニングウェアがキレイにたたんであった。
「どう?あまりここでは話したくないの。もう分かってくれるわよね」
 含みのある言葉に茶羅はうなづいた。
(このヒトは私がLSの仕事で潜入していることを知ってる。陣内瑠璃子のことも知ってる。きっと関係者なんだ)
「あの・・・どこに行けば」
「人気のないところでいいかしら?8階の英語科のラボ室なら放課後、誰も来ないと思うけど」
「ラボ室?」
「荷物をもってついてきて」
 茶羅はすぐに用意をして2人は出て行った。



「ねぇ、聞いて、聞いて!瑠璃ちゃん、渋谷で保護されたんだってーっ!今、職員室で聞いちゃったの。もうすぐ帰ってくるって」
 走って教室に飛び込んできたクラスの一人が大ニュースとばかりに大声で触れ回った。
「あれ?綾瀬さんは?一番に教えてあげようと思って急いできたのに」
「なんか大学生のヒトと話があるって出て行っちゃった。そのまま寮に戻るっていうから、そしたら部屋で歓迎会しようね」
「いいね、いいね。瑠璃ちゃんも帰ってくるならダブルお祝いしようか」
 すでに7〜8人で話は盛り上がっていた。

「ちょっと、いい?」
 話の輪の外からの声に皆が振り返る。
 そこに隣のクラスの美佐子が立っていた。
「なんだ、ミサじゃん。ねえ、聞いた?瑠璃ちゃん、見つかったんだって。もうすぐ帰ってくるってよ」
「そう・・・」
 ミサは表情一つ変えない。
「あれ?嬉しくないの?どうしたの、顔が怖いよ」
「別に。ところで、綾瀬沙羅っている?」
「なんだ、ミサも沙羅ネエに用事?」
「いるの?いないの?」
「今、大学生に呼び出されて出てったよ」

「村岡さん、教えて。どこへ行ったのかしら?」
「あっ、真奈せんせぇ・・・・」
 座っていたので見えなかったが美佐子の後ろには学級担任でもない真奈までがいた。

 真奈と美佐子は沙羅の行方だけきくと揃って教室を出て行った。
「何なんだろうね?ミサも先生も、知らない大学生まで沙羅、沙羅、沙羅って」
 クラスメート達はあまり気にも留めず、茶羅の入寮の歓迎会の話を続けた。




【英語科 ラボ室】



「稲田さん、早速ですけど話してください」
「そうね。何から聞きたい?」

 ラボ室はヒアリングトレーニングのため個々のブースに間仕切りされ、ブースごとにヘッドフォンとパソコンが設置されている。
 2人は教室の一番奥にある講師用の教壇にいた。

「稲田さんのコト。陣内瑠璃子と、レディースワットと、どういう関係なんですか」
「まず私のことからね、いいわ。私は稲田佳美、あなたの姉にして、瑠璃子さまの妹」
「えっ、それはどういうことで・・・・・うっ」
 茶羅が問いただそうとした瞬間に佳美は茶羅の右手をとって抱き寄せるようにして唇を重ねてきた。

「うっ、うぅぅ、ぐぅっ、い、いや、い、やだ」
「ンフフフッフ」
 唇を重ねたまま佳美は喉の奥から笑っている。
 佳美に握られた右手が自由にならずに必死で顔を反らそうと体を左右にひねる。
 佳美の左手は茶羅の腰を力ずくで掴みかかり身動きがとれない。

「ンフフッフフ」
 さらに佳美が重ねた唇から舌を押し入れようとした時に茶羅の体に普段以上の力が入った。
「な、なめんなぁーっ!」
 ぴったりと押し付けられた下半身に割り込ますように思い切り右ひざを蹴り上げた。
 佳美の体が教壇から転げ落ちた。

「痛い!痛いよう〜、いったぁ〜いいぃぃぃ」
 打ち所が悪かったのか佳美は茶羅の足元で苦悶の表情を浮かべてのた打ち回った。
「痛い!痛いよう〜、いったぁ〜いいぃぃぃ」

 佳美の苦しみ方が痛々しく、茶羅はさすがに心配になって駆け寄った。
「あ、あの・・・すみませんでした。だ、大丈夫です・か・・キャアーっ!痛っ!」

 近寄って腰を下ろした茶羅の制服のスカートの中に一瞬にして佳美の右手が突っ込まれたかと思うと茶羅のパンティーに手をかけた。
 臍の辺りから思い切り引っ張られた茶羅は逃げようと腰を浮かしたところで一気に足元までパンティーをひき下ろされた。
 あとはもう思い切り引っ張り上げられるとあっという間に小さな布キレは佳美の手中に奪われた。

「んフフフフ、あったかいわ、茶羅の匂いがする。感じちゃう、私、すっごく今感じてるの」
「なんで、なんで、こんなことするんだっ!」
 顔を怒りと羞恥で真っ赤にしてスカートの上から股間を押さえるようにして茶羅は怒鳴った。
「まぁ、怒ったところも可愛い。茶羅、イイコトしよっ!ここなら誰も来ない」
 にじり寄る佳美におののきながら茶羅は佳美との間合いをとる。



「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。何のつもりっ・・なんですっ!」
 動揺の隠せない茶羅は焦りと緊張で呼吸を乱し、肩で息をしている。
「さすがね、深田茶羅さん」
「さっきは名前しか呼ばなかったから分からなかったけど、どうして私の本名を知ってるのっ!」
「何を言ってるの?私が知ってるのはあなたが深田茶羅ってことだけよ」
「あなたは一体・・・・」
「さ、気を取り直して楽しみましょうよ、茶羅」
 そう言うと佳美は淫靡にゆっくりと舌なめずりをした。
 ゆっくりとボタンダウンのシャツをはだけていく。
 シャツの色に合わせたピンクのブラがあらわになった。

 格闘・武道は十分な訓練を受けたと茶羅は自負していた。
 しかし予想外の相手の行動に、茶羅のまだ踏み込んだことのない世界へ連れ込もうとしている相手に、体の震えが止められずにいた。

「フフフ、震えてるの?こういうこと初めてなのかしら?ウフフ大丈夫よ、お姉さんが優しく教えてあげるから」
「こ、来ないで!ケガしたくなかったら近付かないで!私に少しでも触ったらケガするわよ!」
「ウフフッフ、またさっきみたいに私を蹴り飛ばすのかしら?痛いからイヤよ」
「お望みならやってあげるっ!」
 茶羅はすでに真剣な戦闘モードになっていた。
 半身になって武道の構えの姿勢をとる。


「あははははは、やってごらんなさいよ。あなた、そうしたら丸見えよ」
 佳美はふてぶてしく笑った。
「えっ・・・」
 一瞬、茶羅は自分がパンティーをもぎ取られたことを思い出して顔をさらに赤らめた。
「そんな恥ずかしい恰好を繰り返すのなら、いいわ、ここから出て行きなさい。追いかけて皆のいるところで襲ってア・ゲ・ル」
「卑怯モノっ!」


「フフフ、瑠璃子お姉さまのこと知りたいんでしょう?だったら素直にならなきゃダメよ」
「う、うるさい!く、来るな!」
 佳美は切れた唇の血を拭いもせずに茶羅との間合いを詰めてにじり寄る。

「もしかしたらファーストキスだったの?うれしいわ、でもあなたの初めては瑠璃子お姉さまのものよ」
「勝手に決めないで!」
「フフフ、それはどちらのことを言ってるのかしら?ファーストキスの方?それともバージンじゃないってことかしら?」
「くっ!うるさいっ!」
「あなたも瑠璃子お姉さまの妹になれば、恐れも不安もなくなるわ。動揺なんかしない、いいことばかりじゃないかしら」
 
 佳美のタータンチェックのスカートが床に落ちる。
 シャツの裾から見え隠れするパンティーの秘部が明らかに湿っている。
 内腿に光るのは佳美の秘部からのものに間違いなかった。

「ウフフフフ、かわいい子ね、茶羅ちゃん。わたし、あなたを見たときから、もう昂ぶっちゃってヌレヌレよ、ホラ」
 パンティーの上から指で溝をなぞる佳美の目はギラギラと欲情していた。

「く、狂ってる・・・」
「まさか。数日前に瑠璃子姉様に会って私は目覚めたの。ホテルでの体験は言葉にできないくらいよ」
「ホテルって・・・ま、まさかお前は歌舞伎町のホテルTIMEで保護された2人のうちの」
「私の名を聞いてもあなたピンとこないんだもの。捜査にしては勉強不足ね」
「うっ・・・」
 茶羅は言葉が出ない。
 確かに教室に佳美が来た時点で彼女のことを思い出していれば不用意に人気のないところには来なかった。
 事件当夜の記憶がなく、任意の事情聴取にも消極的だった彼女が美香のように『セルコン』の手にかかっているかもしれないということは想定の内に留めたはずだ。


「借りたトレーニングウエアが役に立つなんてね。あなた、これ見て私が関係者だと思ったのかな」
「・・・・・・・・・」
「ただのバカだね」

 茶羅は自分をできうる限り落ち着かせようと努めて、次の行動を探り始めた。
(すでに私の潜入が露見してるなら、悔しいけれど長居はできない)

 茶羅は相手との間合いを考えながら、一気に身を翻して出口へと走りだした。
「く、くやしいけれど・・・撤退!」
 猛ダッシュで出口の扉のノブに手をかけて勢いよく引く。
 大丈夫!出れる!そう思った瞬間、目の前のやわらかいヒトの壁にぶち当たった。
 廊下に一歩踏み出した途端だった。
 倒れそうになる茶羅を抱きとめたのは真奈だった。
 目の前に真奈の白いジャージと豊かに膨らんだ胸があたったのだ。
「あ、綾瀬さん、どうしたの一体。探してたのよ、呼んでも来ないから」
「あっ、小西先生・・・・」
「本当に真っ青よ」
「助けて、先生、助けて。うちの大学のヒトが、私のこと、私にヒドイことを・・・・」
(ここはこの先生にも一役買ってもらって庇護してもらおう)
 茶羅はか弱い一般女子高生を装う手段に出た。

「・・・・・まあ、それは大変。わかったわ、先生が綾瀬さんのこと守ってあげる。ねぇ、ミサ」
「はい、せんせぇ」
 真奈の表情はどことなく意味深な含みを帯びて不敵な笑みに思えた。
 後ろにいて気づかなかったがもう1人、クラスにはいない女子高生が一緒にいた。


「ひっ・・・・・」
 次の瞬間、茶羅を抱きしめた真奈は、茶羅を前後で美佐子と挟み込むようにして抱きしめてキスをし始めた。
 茶羅はすでに悲鳴の上げようもなかった。
 美佐子は後ろから茶羅のうなじに舌を這わせながら両手は胸を制服から手を忍び入れて愛撫し始めた。
「い、いやぁーっ」
「ふふふ、可愛いよ、沙羅。私が食べてあげる」
 美佐子がスカートのホックに手をかける。
「いや、いや、いや、いやーっ」
「だめよぉ、ミサ。このコは私が食べるの」
 2人の息遣いが茶羅の体に伝わると茶羅は恐怖のあまり体をより震わせた。
「やだぁーっ、はなしてぇーっ、はなしてよぉーっ」
 激しく抵抗する茶羅のスカートのホックを容易に外せないでいた美佐子の手が偶然スカートの中へ潜った。

「あっ、へへへへへ〜、真奈センセ、このコ、パンティー履いてないよ」
「まぁ、それはいけないわ。イヤらしい子ね、お仕置きだわ」
「いや、いや、いや、いやーっ」

 動揺で涙が止まらない。
 両手を美佐子に後ろ手に握られて自由が利かない。
 真奈が茶羅のシャツのボタンを外す。
 フロントホックも外されて露にされた乳首に真奈の舌が絡む。
「い、イヤっ!何するのよ!舐めないでよぅっ!」
「ウフフフ、いいの?やめて?堅くなってるわよ、あなたの乳首」
 真奈の欲情した顔が茶羅の恐怖心を煽った。


「なにしてるの!彼女に用があるのは私よ!」
 追いついた佳美が声をあげる。
「寝てろよ、おめえ」
「えっ・・」
 佳美の下から声が聞こえ、視線を落としたその時に鋭い眼光と小さな指が佳美の眉間にちょんと指された。
 その瞬間、まるで糸が切れた人形のように佳美はその場に崩れた。
 半裸に剥がれて目を開けたままピクリとも動かない。
「コイツ、陣内瑠璃子の『おもちゃ』か」
 琥南はまるで狩りをした猟師のように動かなくなった佳美の顎を取って値踏みをするような仕草をした。


「いや、いやぁ、やだぁ、やめてぇ、はなしてぇ」
「お姉ちゃん、お姉ちゃん、陣内瑠璃子のこと調べてるんだって?先生から聞いたよぉ」
「だ、誰なの?小学生じゃない、何をしてるのこんなトコで!誰かヒトを呼んで!助けを連れてきて」
「オレ質問してるんだけどね」


「助けて、助けて、お願い、やめさせてぇ〜」
「その前にお姉ちゃんが何のために陣内瑠璃子のこと探りいれてんのかちょっと聞かせてもらおうか」
「なんなおよぉーっ、一体、この学校はなんなのぉーっ!」
 半裸に近い状態に剥がされた茶羅は冷たい廊下に真奈とミサの2人がかりでうつぶせに押さえつけられた。
 足を閉じれないように間に2人の足が枷になり、ミサの指がゆっくりと茶羅の秘部になぞられる。
「ふん、ふ〜ん、やめてぇえよぉぉぉ、おねがぁぁぁい。さわんないでよぉっー!」
 すでに茶羅の姿は陰湿ないじめに合う高校生にしか見えず、警察官としての誇りなどはかなぐり捨てられてしまっていた。

「イヤだといってもムダだから言っとくぜ。俺にかかれば姉ちゃんなんかあっという間にあらいざらいのこと喋っちまう」
 琥南がゆっくりと小さい体を廊下にへばりつく茶羅の顔の前に下ろした。
「さてと、お姉ちゃんもオレの道具になってもらおうか。そのあと、詳しく聞こうじゃないか」


「ちょっと待ってよ」
 琥南の後ろから声がした。
 冷たい声は怒りの色を底にたたえている。
「ほう、やっとおいでなすったね。陣内瑠璃子さん」
「フフン、・・ということはあなたも飼い犬・飼い猫の類ね、ダサ」
「言うじゃんかよ!メッセンジャーといって欲しいね」
「ガキがませたこと言ってんじゃないわよ」
「あんたが中々見つからないから、暇つぶしに組織のために『草むしり』をしてママからご褒美もらおうと思ってよ」
 そう言って琥南は茶羅に冷たい視線を投げかけた。
「ひっ・・・・」
 茶羅は恐怖に背筋を凍らせる。




 琥南の視線の先にはエレベータから出てきたばかりの陣内瑠璃子が腕組みをして立っていた。
 身じろぎもしないで斜に構え琥南を睨みつけている様は鋭利な刃物のようだ。
 隣には瑠璃子が数日前にし新宿で稲田佳美と共に飼い慣らした大倉由貴子が寄り添っていた。

「そのコは私の獲物よ。邪魔だてするなら、十分覚悟することね」
「いいんだぜ、オレはどっちだって。ケガしないうちにその減らず口やめたらどう?オネエちゃん」
「やる気?ガキのくせに!」
「怒るなヨ。まずは人の話を聞けって」
「真剣にやるつもりなら容赦しない」
「だからよ、オレが言ってるのは、まずはヒトの話を聞けって・・・」


 瑠璃子が音叉をスカートのポケットから取り出した。
 肩に当てて共鳴音を打ち鳴らす。
「あなたの話を聞くんならコッチだって予防線を張らせてもらう」
「なんだって?」
「あなたは私と同じ匂いがする。多分、あなたもヒトを言葉で絡めとる使い手なんだ」
「チッ!鋭でぇヤツ!」
 琥南は舌打ちをした。
「フフ、図星」
「あっ、テメ、なんなんだよ、おい」
 音叉の音に反応して佳美が起き上がると背後から琥南を羽交い絞めにした。
 瑠璃子の後ろから大倉由貴子がそれに加勢するようにして琥南の制服を剥がしにかかる。


「やめろ、オレは話をしようって言ってんだけだぞ。何しようってひゃ、ひゃはやひゃーっ」
「うふふふっふふ、どう?2人とも上手でしょ。短期間でも歌舞伎町で覚えこませたんだからスゴイわよ。しかも自己抑制なく、スポンジのようにタブーなことからなにまで全部素直に吸収させた」

「あひゃは、な、なめんなぁコラ」
 2人は体格の劣る琥南を押しつぶして組み伏せるようにして全身を嘗め回し愛撫を始めた。
 一瞬にして屹立した琥南のイチモツを佳美が潤滑油で溢れかえるように大きく口をあけた自分の秘部に深々と差し込んだ。
 差し込んだ後リズミカルにグラインドを始める。
「チチチチチ、チクショウ。感じるじゃネエか」
「フフフ、気を半分でも別の方に持っていってもらわないと私が危ないもの。チンケな体格が災いしたわね」
「ダメだって!オレの気がそがれたらそこの2人の支配力も低減して・・・。うわっ、ケツに指入れんななよぉ」
 琥南が言う前に真奈と美佐子の動きが緩慢になってきた。


(今だっ!)
 茶羅は必死の思いで力を振り絞る。
 真奈と美佐子を跳ね除け、半裸のままラボ室から出た廊下を疾駆した。
 陣内瑠璃子の脇を通り過ぎるにも恐怖に身をかがめながらすり抜けるように去っていく。
 さめざめとした瑠璃子の目を見て茶羅は更に背筋が凍る思いがした。
 瑠璃子は茶羅に一瞥しただけでひき止めようともせず、ピクリとも動かなかった。

(とにかく、身を潜ませて、祐実さんに連絡とらなきゃ)

 エレベータは来るまでに時間がかかるようだったので階段へと勢いよく駆け下りる。
 踊り場を折り返して階下を見下ろして次の一歩を進めようと踏み込んだ時、茶羅の足は止まった。

「おい!どうすんだよ!逃げちまったじゃねえかぁ!あいつはサツのスパイに違いないのに!」
「ピンポ〜ン、すごいじゃない」
「お前、知ってて逃がしたのかっ!逃がしちまったら元も子もないんだぜぇ。おぉぉぉぉおぉ、やめやめ、カリは・・カリを・・刺激すんな」

「大丈夫、逃がしゃしないわ。私には時間がない。もうすぐ本物の陣内瑠璃子が帰ってくる」
「何だって!聞いてねえぞ。けっ、あのババア、あっけないくらい見限りやがって。オレのこと信用しなかったな」

「ママのお使いだったのね」
「お前が連絡しネェからイケねえんだぞ!しかも学校にも居やがらねえ、オマエがな」
「私は忙しいのっ!ここへはあのコ処分しに来ただけ。連絡入れるのめんどいもんね」
「れ、れ、連絡くらいイレろぉ〜。またオレがワリ喰っちまう!」

「ゴメンね、入れる、入れてあげるわ。由貴ちゃん、佳美ちゃんと代わってあなたが入れてあげて。とっても激しくしてね」
「はい、お姉さま」
 佳美の代わりに間髪いれず由貴子がスカートをたくし上げて琥南にまたがった。
「いくよぉ〜、思いっきり由貴激しいのいっちゃうからね」
 そう言うと由貴子は腰を思い切り上下に動かし始めた。
「うをををををを、な、なんで、勃起がおさまらねえぇんだ!オレがスキ者だからって息子がなんで、なんでぇぇぇっぇ」

「フフフフ、あなたも私の音叉の響きに絡めとられたの」
「な、なにぃ〜」
「軽度の肉体支配、うれしいでしょ、『勃ちっぱなしのBADBOY』よ」
「オレが入れろって言ったのはママに連絡をだ!っちゅーのっ!」
「私が素直に言うこと聞くと思う〜?」


「真奈!ミサ!オレを助けろっ!この女たちを引きはがせ!擦り切れちまうよぉっ」

 ゆっくりと立ち上がった真奈に落ち着いた動作で背後から颯爽と近づいた瑠璃子は共鳴させた音叉を真奈のこめかみにあてた。
「あっ・・・・」
 電気に触れたようにぴくっと震えて真奈はフリーズした。
 美佐子にも同じように音叉の共鳴をこめかみにあてて、美佐子の動きも封じた。

「てめぇ!オレの道具に何しやがった! あっこら穴に入れた指でさわんなっ、あっダメ、袋の裏舐めちゃダメ、あっああっ」
 琥南は由貴子と佳美の2人にいいように性感を攻められて体から『力』を削がれ続けている。
「バカね、こんな浅い支配で手駒のように使うなんて」
「バーローっ!今日来たばっかだぞオレはっ!そんな時間かけてられっか!」

「じゃあ、それがあなたの敗因。さぁって、先生、あなたはどうしてこのコの命令に従ってるのかなぁ〜」
 瑠璃子は真奈の頬から顎にかけて優しく撫でるようにして囁いた。

「さ、私だけに教えて」
 その言葉に真奈は琥南に植えつけられた暗示をまるでテープレコーダーの再生のように口にし始めた。


「琥南は私の欲望を満たすためのただ1人の存在・私は琥南のことを思うたびに性的快感の波に襲われ、自分で自分をコントロールできない・私は琥南を自分のものにしておくために彼の言葉には必ず服従する・私の欲望は彼を専有することで満たされる・・・・・」


「うわぁ〜、えげつな〜っ、けっこう屈折した従属のさせかたするんだね、あんたって。琥南だっけ?」
 瑠璃子は真奈から吐き出される暗示の内容を興味深深で聞き込んだ。
「うっせぇぇ!いいだろ、オレの自由だろ。あっ、いてててて、噛むな、噛むなぁーっ、ちんちん」
「結構、興味あるんだよね、お仲間のテクニックってさ」

 そう言っている間も真奈の口は琥南に植えつけられた言葉を吐き出し続ける。
「・・・私自身の尽きることのない性の快楽を貪るため・私は琥南を愛する・琥南を愛する・だからわたしはショタコン・だから琥南を気が済むまでしゃぶりつくす、吸い尽くす・・・」

「ほい、わかった。いいよ、ストップ」
 瑠璃子は真奈の唇に指で静止をする。
 真奈はそのまま動かない人形になった。

「よ〜くわかった」
 瑠璃子は含み笑いを浮かべた。
「なにが!」
 琥南はすでに脂汗を浮かべ、苦悶の表情が見え隠れする。
 だが全く萎えない自分自身の下半身を攻め続けられて、すでに体力は衰えていた。
「琥南が焦ってたってこと。極端な変節した暗示はそれだけ人を変貌し易くするし、操りやすくするモンね」
「だったら、なんだってんだ!オレだってこの仕事こなして自由になりたかったのに!」
 琥南の表情が崩れた。
「なに?琥南、泣いてるのぉ?」
「オレの場合はお前なんかと違って記憶まで封印されちまうんだぞ!
「わりぃかよぉぉぉ!お前のせぇだからなぁ〜、ひ、ひくっ、ううっ。グスっ」
「結局、あんたも囲われの身なのね」
「ばかぁ〜、陣内瑠璃子のばかぁ〜、ひぇ〜ん、えっ、えっぐ、ヒック、ぐすっ」


 瑠璃子はやれやれといった表情で携帯を取り出すとすぐに発信をした。
「・・・・・・・・・わたし。テスト生だよ、『陣内瑠璃子』って言えばいい?」
 電話の琥南にも相手はわかっていた。

 瑠璃子は押し黙ったまましばらく相手の話を聞いていた。
「わかったよ。減点でもいい・・・。うん、これからは連絡入れるようにする」
 しおらしい瑠璃子の態度に琥南の視線は釘付けになった。
「うん、それも応じる。ここにいる大学生の1人を遣わせる、好きに使っていいよ。うん、うん・・・・・」
(も、もしかして・・・・・)
 琥南の胸中に淡い期待が浮かぶ。
「『とっちゃんぼーや』?」

「そ、それオレ!オレのこと!」
 琥南が口を挟む。

「今、会ってる。うん、うん・・・」






【ラボ室から階下の教室へむかう階段の踊り場】


「そ、そんな・・・うそ、嘘よ!こんな、こんなことって・・・・」
 綾瀬沙羅こと深田茶羅は目の前に映る光景に凍りついた。

「み、みんな!どうしたのっ!何をしているの!私よ!沙羅よ!」
 話しかけるというよりは、むしろ絶叫に近い大声で階下からまるで軍隊のように隊列で押し寄せてくるクラスメートに訴えた。

「みどりちゃん!尚美ちゃん!村岡さん!松浦さん!ながさわさーん!」
 じりじりと後退する沙羅に一段、一段クラスメートは取り付かれたような無表情の面立ちで押し寄せる。
 誰1人として茶羅の訴えに反応する者はいない。


「なんでぇ、なんでなの!なんで、こんなこと・・・」
 茶羅の頬に涙がつたう。
 ふっと研ぎ澄まされた危険を察する気配に振り向く。
「う、うそ!」

 階上のエレベータのある方から同じようにクラスメートが憑かれた表情で間合いを詰めてくる。
 すでに階上・階下の両方から挟まれた茶羅は完全に退路を絶たれた。


(ダメ!茶羅!絶望しちゃダメ!ダメだと思って諦めたら次の一手も浮かばなくなる。冷静に、最後まで、あきらめない)
 警察学校のときに実戦演習できた教官役の奈津美の声がふっと頭をよぎった。

「ようしっ!」
 茶羅は真っ赤に泣き腫らした目に最後の闘志を燃やして意を決したように下唇を噛みしめた。
(階下のみんなを蹴散らして脱出するしかない!向こうだってバランスを崩せば階段から落ちるんだ。チャンスは上よりこっち!)

「えぇぇぇぇええーいっ!強行突破ぁーっ!みんなぁーっゴメン!」
 階下から昇ってくるクラスメートに倒れるように勢いよく茶羅はタックルを敢行した。
 クラスメートごと階段を崩れ落ち、陣形を崩してさらに階下へと走りだす方法を茶羅は選択した。
 自分が負うケガのことも、今日友達になったクラスメート達を傷つけてしまうことも、今は忘れ、祐実に学院の異常を伝えることを優先しなければならないと茶羅は決断したのだった。


 勢いつけて宙に浮いた体、視界に広がるクラスメートの顔が迫ってくる。
 一瞬の出来事がすごく長く感じた、まるでストップモーションのように。
 茶羅は目をつむった。


「えっ!!!!!! えぇっ?」
 茶羅の声は驚き以上に絶望に近い嘆きのような言葉だった。
「いや・・・・・いやぁーっ」

 ボーリングのピンのように弾けて落ちるはずの自分の体とクラスメート達の姿はそこになかった。
 茶羅の体はしっかりとクラスメート達に受け止められ、両手・両足・腰・胸まで取り押さえられてしまった。
 抗おうにもクラスメート達の腕の力には鍛え抜いた茶羅が力を込めてもピクリとも動かせないほどの制圧力がみなぎっていた。
「いやぁーっ、いや、いや、いやーっ!」

 階上からのクラスメートも一団の集団となり、その真ん中に拘束された茶羅が抵抗する気力さえ奪われて階上のラボ室へと運ばれていく。

「・・・・・・・・・・・・・・」
 すでに茶羅には恐怖のあまり意志を外界と一瞬にして隔絶したような無感情・無気力が支配し始めていた。




 
 


 

 

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