TEST


 

 



**********4th−day Vol.2**********





 陣内瑠璃子は、特殊な能力をもっている。
 彼女は『セルコン』と呼ばれる組織の目に留まり、強制的に『TEST』といわれる課題を負うこととなった。
 奔放な彼女は組織の課題を快くは思わず、組織の力の前に抗いきれないながらも自分勝手な行動を続けている。


 ママは組織『セルコン』の一員。
 セルコンのもつ都下の会員制の店を任され、『セルコン』の客との接触を図っている。
 陣内瑠璃子の『TEST』の進行役を務めているが、奔放な瑠璃子に逆に振り回されている。
 連絡のとれない瑠璃子に対し、メッセンジャーとして『琥南』を遣わせた。


 レディースワットは警察組織の中で特別編成された女性のためのスワットチーム。
 彼女たちはその犯罪ケースからチーム1〜チーム8で構成されている。
 チーム6は組織売春を根絶するべく結成されたチームで『セルコン』の一員と目される売人グスタボを追う。
 事件を追う最中、チーム内の反目が生まれ、殉職者も出る。
 当時のチーフ・伊部奈津美はその責任を追及され副長へ降格、功績の大きい明智祐実が抜擢されて新チーフへ就任。
 事件はチーム6をも巻き込んだ展開を見せ始めていた。
 加納美香が別人格を植えつけられて『セルコン』に取り込まれ尋問中に逃走。
 その尋問の際に目前に迫る『ブラッククリスマス』と呼ばれる組織の売春オークションを突き止めた。


 明智祐実はチーフ6の最高責任者(チーフ)。
 チーフ候補の誰よりも若くして、着任早々、次々と事件解決の功績を打ち立てた彼女は一気にチーフに昇り詰めた。
 誰よりも上昇志向が強く、プライドの高い彼女は先輩隊員との確執を生み、彼女たちを懐柔することもない。
 密かに手に入れた洗脳薬『レディードール』を使い、部下を自分の命令どおりに動く人形として隷属させる。
 数日後の売春オークション『ブラッククリスマス』での売春組織『セルコン』の壊滅を功績に昇進をもくろむ。







【 聖オスロー女学院 体育館 】



 真奈が出席簿に見慣れない『綾瀬 沙羅』の手書きの名前を見つけたのは陣内瑠璃子のいるクラスの授業の時だった。
 午前中の最後の授業、これが終われば昼食をかねた昼休みに入る。
 自分のクラスに戻れば琥南に会えると真奈の心は躍っていた。
 今朝の衝撃的な出会いから貪るように琥南を嬲っても未だに満たされない真奈の欲求はいまも琥南を求め続けていた。


(陣内さんは欠席か・・・。琥南くんがっかりするかな、真奈が慰めてあげなきゃ、ウフフ、舐めてあげよう)
 真奈の顔がいやらしく緩んだ。
(初日のオリエンテーションと称して呼び出した後、体育科の面談室にでも連れ出せば2人っきり)


 自分が琥南の精神操作を受けて淫靡でショタな女教師に変えられたとは微塵も思っていない。
 心から自分の嗜好で、自らすすんで小学生を喰いモノにしていると信じ込まされていた。
「あら?」
 クラスの名簿の最下段に手書きで書き込まれた『綾瀬沙羅』の名前を見つけた。
「さ、さらさん?綾瀬沙羅さん?」
「はい!」
 真奈の前に座って待機していたクラスの群れの中から、元気な女生徒が1人立ち上がった。

「綾瀬さん、あなた・・」
「先生、綾瀬さんは今日から転入してきたんです」
 クラス委員である松浦亜弓が言った。

「あら?そうなの」
「はい!綾瀬沙羅と言います。よろしくお願いします!ダブりです。あらかじめ言っちゃいます。ババァです、みんなより」
 クラスの間から笑いがこぼれる。
 クラスになじみ始めている、それを皆も快く受け止めていると真奈は感じた。


「ウフフ、元気がいいわね、綾瀬さん」
「あっ、で、でも頭悪くてダブったんじゃないですよ。病弱で、体が弱くて出席日数が足りなかったから」
「フフフ、いいのよ、そこまで言わなくて。ここに中途で入れるんですもの、相当の実力でないと無理なことよ」
 真奈は彼女の出欠欄に○でチェックした。

 まだ真新しい下ろしたての体操着に身を包んだ彼女の姿に真奈はふっと目を見張る。
「こ、このコ・・・・」

 学院の体育館は2年前に新築され最新設備の整えた4階建で屋内プールまでついたものだった。
 真冬の今でさえ空調設備は館内の温度を適度に調整している。
 この時期でも生徒の服装はジャージ姿とショートパンツ姿半々である。
 汗ばめばすぐにでもジャージではいられない。
 準備運動を終えた始業直後はともかく、時間が経過すると誰もがシャツにショートパンツ姿になる。
 
 すでにショートパンツに長袖の沙羅を見て真奈は思わず言葉が漏れた。
「綾瀬さん、あなた、前の学校でなにか運動していたのかしら、部活とか?」
 真奈の視線は沙羅の体をくまなく観察している。
「えっ?い、いえ、そ、そそ、そんな。わたし病弱だから」
 沙羅は、はっとして意味なく口元を抑えた。
 まるで何かまずいことでも言ったかのように。

 真奈の目に映る沙羅の体は、鍛え上げられた腿と二の腕、広い肩幅は明らかに運動によるものだ。
(それも生半可な鍛え方じゃない。わざと体の筋肉を常態で目立たないようにして鍛えてある)
 大学でスポーツ科学を専攻した真奈の目に沙羅への興味が湧いた。
(部活なんてものじゃない。完璧にプログラムされたカリキュラムで個別部位的に鍛えられたカラダだわ)

「先生、どうしたんですか」
 クラス委員の亜弓が真奈が言葉を失っているのを不審がった。
(見てくれは他の女生徒と変わらないけれど、このコの運動能力は相当なモノのはずよ。このコの病気って何?)
 真奈の思考は沙羅への興味一色になった。


「ご、ごめん、ごめん。さぁ、みんな立って」
 真奈は慌てて全員を立たせた。
「今日は器械体操の鉄棒の続き。できないものは放課後の『特別講習』を敢行するわ」
 真奈の言葉に「えーっ」と驚きと不満の声が上がる。
 寮生である彼女たちにとって特別講習は放課後の自由時間を奪う大敵である。
「まずは、新人である綾瀬沙羅さん」
「は、はい」
「あなたがみんなと同じレベルか、別に追加講習が必要かどうか、確認しなくちゃね」
「そ、そんな・・」
「初めて受ける授業では必要なことよ。出ていらっしゃい」
 集団の中から抜け出した沙羅が真奈の横を通って高鉄棒へと歩いていく。
 落下対策で敷かれたマットへと足を乗せる。
 ゆっくりと真上にある鉄棒を見上げた沙羅の前に真奈が歩み寄ってクラスメートに聞こえない小声で話しかけた。


「綾瀬さん、あなたの実力を見せて頂戴」
「そんな、実力だなんて」
「私の目はごまかせないの。そのカラダ、どうやってつくったのかしら?」
「えっ?」
「病弱もいいけれど、あなたが前の学校でどんな生徒だったのか興味あるなぁ。調べちゃおうかなぁ」
「そ、そんな、困ります(まずいよ。そんなことされたら嘘の経歴と祐実先生との仕事がばれちゃう)」

「だったら、あなたの実力を見せて。私が興味引かれたのはあなたの鍛え抜かれたとしかみえないそのカラダだけ」
「こまったなあ」
「正直に見せてくれたら、ここだけの話で終わらせる。でも私が顧問をする体操部へは勧誘するけれど・・・」
「・・・・・・・・過去は詮索しないでくれますか」
「不問にするわ」
 真奈は言った。

(ちょっとだけ。加減して、周りのみんなより少し上手な程度に見せればいいか・・・)
 ちらっと沙羅がそう考えながら真奈の視線を盗み見た。
 すかさず真奈は一言付け加えた。

「私の目はごまかせないの。本気出さなきゃ、いくらこのクラスのレベルと同程度の『演技』しても補講だからね」
(ま、まいったなぁ。陣内瑠璃子が欠席してる上に補講で時間を奪われちゃ捜査に支障をきたすしぃ・・)
 沙羅の顔は明らかに困惑している表情を隠せなかった。
「まぁ、体育学部出た私が言うのもなんだけど・・・」
「な、何か?」
「それだけのカラダを持ちながら運動がからきしダメならただのバカよ。宝の持ち腐れ、生ゴミだわ、フフン」
「むっ!」
 沙羅の中で負けん気の強い、未だ子どもっぽさが抜けぬ未熟な性格が真奈の挑発に敏感に反応した。

 そう、転入生・綾瀬沙羅は祐実が送り込んだ捜査員・深田茶羅だった。





【メディカルサイエンスセンター 研究室818 】



「まいったなぁ〜、どうしちゃったのよ」
 京香は苦笑いを浮かべて、困り果てていた。
 真剣な眼差しで肩まで震わせて睨む奈津美を見て、京香の目は笑っている。
 それがまた奈津美を苛立たせることになる。


 昨日の首都高で起きた瞳と弘美の自損事故を気にかけて奈津美は二人が運び込まれたここへと足を運んだ。
 謹慎を解かれ、監査官の任務に就いたおかげで自由な行動が許されていた。
 病院とメディカルサイエンスセンターは併設されている。
 奈津美は京香を訪ねたのだった。


 憮然とした表情で奈津美は語気を荒げた。
「まいってるのはこっちの方よ!悪い冗談はやめて、京香!資料を出してよ」
 次第に声の大きくなる奈津美、2人の会話はかみ合わない。

「だから何の資料ぉ?私が持ってる資料といったらLS隊員個々の身体データファイルとカウンセリングファイル。そんな奈津美の言ってる資料なんて聞いたこともないわ」
 半分呆れた表情で京香は奈津美にとりあおうとはしなかった。

「ウソでしょう?京香、ほんの数日前のことよ。あなた、私に言ったじゃない。私の言うことが正しかったって!明智祐実の隊則違反を服務法廷で告発できるから今はまだ動くなって!」
「奈津美ぃ〜、本当にマジで言ってるの?悪い夢でも見たんじゃない。私にはあなたの言っていること、本当に初耳よ」
 京香の表情はウソを言ったり、隠しているようには到底見えない。
 奈津美は別の危惧を口にせずにはいられなくなった。


「まさか・・・・まさか京香、あなたも祐実に・・・・・・」
「何言ってるの?私が明智さんに脅かされているとでも?本当にどうかしてるのは、あなたの方よ」
 呆れ顔の表情から京香の顔に苛立ちが浮かんでくるのが京香にはわかった。
「祐実は、祐実は、おそらく非合法なやり方で人を操っている」
「えっ?操るですって」
「あなたは、あなたはその証拠である『モノ』を手に入れていたのよ」
「わ、わたしが?何言ってるの、本気で言ってるワケ、そんなこと」

 奈津美の眉がピクリと反応した。
「そんなこと?そう、あなたにとってはそれはもう『そんなこと』なのね」


「ふぅ〜、もうどうすればいいわけ?私は別に操られてもいないし、明智チーフをかばいだてする理由もない」
 2人がまるで申し合わせたように同じ言葉を同時に吐いた。
 京香も奈津美も疲れ果てて椅子に座り込んだ。
 その時、内線電話が鳴る。
「はい818、筒見です。はい、はい、わかりました。うかがいます」
「奈津美、2人が目覚めたそうよ。行こう、話はそのあと」
「うん・・・・・・・・・」
 首都高速で事故を起こした瞳と弘美の容態が安定し、集中治療室から移されていた。




【PD チーム6 スタッフルーム】


 全員が揃うミーティングが始まる。
 いつもは奈那や麻衣子に進行を任せる祐実が、今日に限っては自分から話を始めた。
「みんな、聞いて。この事件は追っていたグスタボの売春組織の全容を掴むことになる大きな事件、そしてこの事件の解決は今まで追っていた数多くの事件を一気に解決に導くものと確信しているわ。美香の催眠訊問で判明した『ブラッククリスマス』は恐らく売春パーティーに違いないと読んでいる。『セルコン』なる組織を挙げる今までで最高のチャンスになる。すでにオペレーションの許可は下りた。このパーティーで組織の全容を掴み、関係者全員を検挙する。いい?気を引き締めていくわよ。罠を承知で敵の中に突っ込むわ」
 祐実の言葉に全員が緊張感をもってうなづいた。

「それから・・・・・・。今までの事件の推移からこのチーム内、もしくはその周辺のどこかに『子猫』なる敵のスパイがいると思われている。疑いたくはないけれど、全員にその可能性があるといってもいい、私自身が疑われても仕方ないくらい」
 祐実の言葉に周囲が騒然となった。
「もう少し説明が必要ね。スパイは本人が望んでその身を我われの組織の中に投じているのではなく、一方的に敵の手の中に堕ち、本人が望むと望まざるとにかかわらず精神の自由を奪われ敵に我われの動向をもらしている疑いが拭いきれない」
 全員が祐実の言葉に顔を見合わせた。誰も言葉が出ない。

 祐実は全員の反応を確かめるように時間をおき、全員が落ち着くのを待って話を続けた。
「みんな美香の尋問映像は見たわよね、あの美香にしても本人自身は尋問まで操られている自覚はなく、本人がやっていないと、スパイではないと強く主張していたわよね。それが結果はご覧のとおりよ」
 全員返す言葉も出なかった。

「だから科捜研から取り寄せたクスリがあるから全員に飲んでもらうわ」
 祐実からの結論としての言葉は突然の印象を全員に与えるほど単刀直入だった。
「ちょっと待って下さい。私たちを疑ってるんですか?しかも薬って何なんです」
 樹里が不信感をあらわにした。
「勿論、私はあなた達を信じてるわ。チーフとしてね」
「だったらそんな変なクスリなんて飲ませてどうしようって言うんです・・・・・・」
 樹里が不安げに言う。
「待って。話が唐突過ぎたわ」
 祐実は一呼吸おいて話を続けた。
「あなたたちもチーム1が麻薬捜査の際に危険防止の為に服用している抗薬SD100を知ってるでしょ。園美、答えて」

「はい。相手に拉致されて薬漬けにされても体の拒否反応や薬害を最小限に抑える解毒的効果を持つ薬です」
「そう。それが一般的に言われるこの抗薬の基本情報、でももう一つの特徴があることはあまり知られていない、園美」
 祐実の話をつなぐ形で園美は訓練生時代の知識を紐解く。
「もし、今すでに何らかの薬物の影響がある場合には、結膜炎状の目の充血や爪の内部がチアノーゼに似た紫色になるなど諸反応が出るはずです」

「使い方として薬物中毒の検査薬としても有効よね。判定可能な麻薬種は約80種、どう?」
「え、えぇ、間違いありません。その通りです。薬物中毒の検査には十分有効だと思います」
 園美は全員に説明しながらも、これから祐実が口にするであろう言葉の真意を測りかねていた。

「そう、それの改良版で薬物による精神的な暗示や脅迫などに自我を喪失しない為の抗薬SE300。まだ全国に供給できるほど生産が追いついていないのを科捜研に無理を言って今回のオペレーションの人数分調達したの。効果はオペレーション当日まではカバーできる。しかも、もし今の段階で暗示を受けて精神的な操作をされている者が服用するとその支配を解く効果が臨床で実証されている。自我と暗示との軋轢から軽いショック症状を来たすことがわかっている。でも安心して、副作用はそれ以外一切ない。皆で飲めば、今の時点で何の反応もない限り、全員がシロだと証明できるし今後の予防策にもなる。飲んでくれるわね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「強制はしない。ただ今回のオペレーションはともするとお互いが信じられなくなる事態が考えられる。美香や西野巡査のようにいつ誰かが豹変するとも限らない。疑心暗鬼の中でタッグを組んでオペレーションを遂行できる?」
 誰も反論できなかった。
 自分自身が言葉で潔白だと証明するすべはない、薬を飲んで反応がでないのを立証する以外に。
「今、お互いが自分自身の意志で動いていると信じて疑わないのは結構。ならば作戦中にもし少しでも不審を抱く行動があれば私は辛くても冷徹になる心構えがある」




「私・・・・・飲みます」
 奈那が手を挙げた。
「私も・」
 矢継ぎ早に美穂も進み出た。
 計算ずくの芝居だった。
 
 奈那には昨日のうちにそうするように命令してあった。
 ただし、すでに服用させ人形となっている2人には短期間に再服用させるのはまずい。
 そのためにLDに似せたビタミン剤カプセルをすでに胸のポケットに3錠入れてあった。

「ありがとう、奈那、美穂。あなたは伊部副長や江梨子と仲が良かったから私についてきてくれないと思ってた。ごめんなさい、謝るわ。ありがとう、うれしい」

「このオペレーション必ず成功させましょう。江梨子の仇をとるためにも」
 奈那のその言葉は祐実が考えに考えた『台詞』だった。
 恐らくは奈那自身、すでに自我を崩壊させ人形と化している今、本心からでた言葉であろうはずがない。
 奈那の言葉に必ず他の者達は共感を覚えるはず、祐実のもくろみは的中した。

 樹里や園美は意を決したようにうなづいた。
「チーフ、私、飲みます」
「私も・・」
 祐実は心の中でほくそ笑んだ。

「チーフ、薬を下さい」
「待って、その前に飲まなければいけない人間がいるわ、この私よ。私が真っ先に飲まなきゃね」
 そういって胸のポケットから取り出した錠剤をみんなに見せた後、その1粒を口に放り投げた。

 ペットボトルの水で一気に流し込んだ。一種のパフォーマンス以外のなにものでもなかった。
 飲んだのは似せたビタミン剤だった。
 手渡した錠剤を奈那も美穂もまた同じように飲んだ。

「チーフ、私も飲みます」
「私も」
「私も」

 全員が雰囲気に酔って熱病にでもかかったかのように立ち上がった。
(フフフフ、成功ね)
「ありがとう、みんな。まさか全員が同意してくれるとは思わなかった」
 祐実はわざと少し声を震わせて目を潤ませる。
(どう?感極まってるように見えるかしら?)

「ありがとう、本当にみんなありがとう。全員が同意してくれるとは思わなかったから残りの錠剤は私の部屋に置いたままなの。奈那、とってきてもらえるかしら。これカードキー」
「はい」
 奈那は祐実からカードキーを受け取った。
「右の一番上の引き出しよ」
「わかりました」
(フフフ、これもお芝居、しゃれっ気よ。わざと奈那に持ってこさせる。全員が一斉に服用すれば個人差はあれ10分も経たずに全員が暗示を受け入れる態勢になる。1時間後には全員私に忠実な人形よ、フフフ)

 奈那はすぐにチーフ室から戻って来た。
「チーフ、薬が見当たりません」
「なんですって!」
「右の1番上の引き出し、それ以外もすべて見たんですけれど」
 祐実は奈那を押しのけ跳ぶようにチーフ室に戻る。

「そんな馬鹿な、さっきまで確かにあったのに」
 慌てている様子が傍からも見て取れるほどだった。
 しばらく探したあと、落胆の色を隠せずに祐実は戻って来た。

「チーフ、ないんですか?SE300」
「・・・・・ごめんなさい。ちょっと自分でもどこに置いたのかわからなくなっちゃって・・・」
「チーフも疲れてるんですよ、きっと」
 小雪が祐実を気遣った。

「見つかり次第、提供するわ。あなた達の意思が確認できて今はそれだけで嬉しい」
「また科捜研からもらったらどうですか?私が連絡しましょうか?」
 樹里の言葉を祐実が慌てて制した。

「ダメよ、ダメ。お願い、もう少し待って。まさかせっかく貰った新薬を『失くしました』じゃ、言い分けできないでしょ。ゴメン樹里、もう少し待って」
「・・・・・はぁ」
 祐実の落胆ぶりを樹里ははかりかねていた。

「最終オペレーションミーティングは作戦当日午前、それまでに全員今日配ったオペレーションプランのファイルを徹底的に頭に叩き込みなさい」
「はい」
 全員返事をする。
「チーフ、今回のCD(コード:作戦符牒)は?プランに記載がないですけど・・・・・」
 園美が落ち込んでいる祐実に問いただす。
「いけない・・・・忘れてた、メモして。奈那はN、麻衣子M、樹里はE、涼子はR、園美S、小雪K、雪乃はY」


 コードは警察無線を傍受され情報戦に及んだ際の防御策の一つとして、お互いを氏名で呼ばないことで個人を特定させないものだ。

『祐実のおかげで話はこれまでだ。エレン、パーティーで会おう』
 樹里の脳裏に催眠尋問の後に逃走を許した加納美香の別人格『BLACK BOX』が口にした言葉が響いていた。
「なぜ、なぜ私の過去のコードネームを・・・なぜ」
 結論の出せない自分自身に樹里は苛立った。


「チーフ、チーフがYではないんですか?」
 雪乃が問いただす。

「私はAにする。美穂はF、瞳はE、弘美はH。美香はCにする。もし現場で目標物として美香を発見したらCDは『CAT』よ」
 薬の行方に気を取られ、祐実はすでに心ここにあらずといった状態だった。
「今日中にCDを決めたらオペレーションシステムに各自登録のこと」
 そう言い残して祐実はチーフ室へと引き上げた。
 その時スタッフルームの電話が鳴った。




【 聖オスロー女学院 体育館 】


 昼を告げるチャイムが鳴り真奈の授業が終わりを告げる。
 いつもは昼食をとりに一目散に体育館を走り去る彼女たちが今日は1人の生徒を取り囲んで動かない。
 その中心に沙羅がいた。

「すっごい!すっごいね!綾瀬さん!」
「どうしたらできるの?誰にならったの?部活本当にしてなかったの?」
「ねね、ねぇ、今日から綾瀬さんのコト、みんなでサラ姉って呼ぼうよ、ね、いいでしょ。サラ姉」

 全員が沙羅の高鉄棒に度肝を抜かれた。
 まるで国体かオリンピックでも見ているかのような錯覚までした。
 自分の予想と技量を遥かに超えた沙羅の姿に真奈は言葉も出せないままだった。
 あとの授業さえ上の空だった。
(このコ、一体何者なの?体連に上申すれば国際試合の代表候補にだってもしかしたら・・・)
 ずっと授業中そればかり問い続けていた。


「先生・・・・『生ゴミ』これで失礼します」
 気がつけばクラスメートに取り囲まれた沙羅が真奈の前にいた。

「生ゴミなんて言わないで、ごめんなさい。私の器量が小さく思えてもう自己嫌悪。大したものよ、素晴らしいの一言だわ」
 真奈は沙羅を賞賛こそすれけなすことはできなかった。
「いいんです、私、目立つのキライなんです。だから約束、守ってくださいね。この通りっ!」
 おどけるような姿ながら、本気で懇願する沙羅を真奈は図りかねた。
「え、えぇ。分かってる。約束よね、でも絶対体操部に必ず入部してもらう」
「年明けまで考えさせてくださいね(まあ、その頃にはこの学院ともオサラバだし)。失礼します」

「綾瀬さん、お昼一緒に食べよぉ」
「あん、わたしも、わたしも」
「私だって!」
「沙羅お姉さまっ!」
 クラスの大半に囲われて体育館を後にする沙羅の姿はまるでスターのようだった。
(まいっちゃったなぁ、祐実先生に目立つことはするなって言われたのに。いきなり初日に大失敗)
 表面の笑顔とは裏腹に沙羅の心中は反省しきりだった。


「そうだ。松浦さん」
 マットの片付けで、みんなとは遅れて帰りかけていた松浦亜弓と長澤ゆかりが真奈の声に立ちどまる。
「はい?なんですか、先生」
「今週、陣内さん授業出てきてないようだけど、風邪かしら?」

「どうする?」
 亜弓が隣にいた体育委員のゆかりに問いただす。
「うーん、喋っていいのかなぁ」
 ゆかりは困惑顔だ。
「ちょ、ちょっと、私は先生なのよ。私に話せないことってあるの?」
 明らかに事情を知っていそうな2人の態度に真奈は少しムキになった。

「そ、そうですよね。でも・・・・」
 今度はゆかりが亜弓を窺う。
「大丈夫だよ、先生なんだもん。それに真奈先生が担任の若林ちゃんに聞いちゃえばバレることだし」
「だよね」

「バレる?バレるって?」
「先生。実は寮母先生から口止めされてるんですけど、ルリちゃん学校を飛び出して夜遊び行ったきり帰ってないの」
「えっ!」
「でも、寮母先生が何とかするから心配するな、他の人に言うなって」
「もうかれこれ5日も経つのよ。警察には知らせたのかしら・・・」
 真奈は瑠璃子の以外な状態に驚いていた。
「私たち、よくわかんないよ。寮母先生と若月先生が考えてるみたい」
「ルリちゃん、今までも結構門限破ったり、隣のクラスのミサちゃんと遊びまくって反省室入れられてたし・・・」
「連絡は?あなたたち携帯は」

「ゆかりや他のコもメールや電話したけど音信フツー。ミサちゃんなら分かるかも」
「分かったわ、ありがとう」
 真奈は今聞いた情報をもってすぐに琥南の所へ行こうと歩き出した。

「わたしたち、なんか、今日おんなじこと何度も聞かれるね」
 急ぎ足になった真奈の足を止めたのは亜弓のその一言だった。

「ねぇ、松浦さん。私以外に陣内さんのこと聞いた先生がいるの?」
「先生じゃないよ、綾瀬さんだよ」
「えっ、綾瀬さんって・・・あの今日転入してきたばかりの綾瀬さん?」
「そう。結構変でしょ、来た早々にルリちゃんのこと聞くから私たちも驚いたんだよ」
「そ、それで?」
「知り合いなの?って私がきいたら、「ちょっとだけ」って」
「そう、ありがとう。さぁ、早く戻ってお昼になさい」

 真奈はそういうと2人より先に体育館から出て行った。



【 聖オスロー中等学校 体育科指導室 】



 昼休みの校内の喧騒が扉一枚向こうから聞こえてくる。
 施錠して2人きりの指導室に琥南と真奈がいた。
 おおぶりのソファに下半身だけ裸の琥南に、ほぼ全裸で愛しげに琥南のイチモツに頬擦りする真奈の姿があった。
「これよ、これは絶対私のモノなんだから!誰にも渡さないっ!」


「わざわざ手の込んだ潜り込みまでして探し回った結果が行方不明で校内にいませんってなんだよ、それ」
「担任の若林さんにも聞いたけど、詳細は教えてくれないの。あまりおおっぴらにしたくないみたい、ねぇ舐めていい?」
 真奈はゆっくりと舌先を尖らせて琥南の股間に近づけていく。

「おい、どうすんだよ。あのババアに連絡するにしたって土産がなにもねぇじゃねえか!」
「ねぇ、琥南く〜ん、咥えたいの、堅く大きくしてよぉ」
「バカ!お前が感じさせないでどうして堅くすんだってば!いっけね、あと10分しかねえ、連絡、連絡」
 携帯を手に取った。
「ダ・メ・よ。先にご褒美ちょうだいよ〜、わたし、琥南くんのために頑張ったんだから」
「おい、こら、放せ、バカ。連絡が先だっちゅーのっ!」
「ダーメ。これはナイナイしましょ」
 真奈は力ずくで携帯を取り上げると対面側の空のソファに投げ出した。

「ねえ、ちょうだい。真奈にちょうだい。真奈に琥南くんのご褒美ぃ〜」
 そう言って真奈はチロチロと琥南の先端に舌を這わせた。
「うおっ!っと、うまいね、先生」
「うれしいっ!私の経験の賜物よ。付き合ってたカレが口うるさく注文するんだもん」
「はぁ〜、そんな顔して、しかも教師でもって、『経験の賜物』かい。世も末だねぇ」
「この間の日曜だってアイツ、ホテルで・・・・・・あ、あれ、どうしてわたし・・?」
「ん?どうかしたか?」
「どうして、わたし・・・・あんな男にさせたの・・・かしら・・?」
「よくなかったろ?お前はショタなんだ」
「そう。そうよね。私はショタなのよ、琥南くんが大好きなの。クラスの男の子はみんな私のものよ」
「おいおい、そんな暗示してねえぞ、暴走すんな。オレのことだけ考えるんだ、いいな」
「は、はい」



「ほしい〜欲しいよぉ〜、もう我慢できないのぉ〜っ、なんでぇ〜どおしてぇ〜、したいんでしょぉぉぉ、だったらしてよぉ」
 書棚にもたれ掛かり、制服のスカートをずり下げて下半身をあらわにした美佐子は大きく開脚した足を投げ出して座り込んでいた。
 床のフローリングにも染み出した愛液がこぼれて光沢を放っている。

「ねぇ、ねえったらぁ、お金なんてもう要らないからぁ、ねぇ、気持ちよくしてよぉ〜、ミサのことイかせてよぉ」
 美佐子の手はクチュクチュといやらしい音を立てて秘部の奥へと潜り込んでまるで別の生き物のように穴をまさぐっている。
 ぴっちりと着込んだブレザーと赤いリボンに白いシャツから透ける膨らんだ胸のブラのデザインがくっきりと目に映る。
 上半身の高校生らしいいでたちと、妖しくうねる裸の下半身とがさながらAVを目の当たりにするようだった。

「く〜っ、こんな年季の入ってねぇケツの青いガキでこれだもんな、世の中の男が人生狂わすわけだぜ」
「だーめっ、琥南!琥南はわたしが楽しませてあげるんだから、こんなマセがきになんか勿体無いわ」
 真奈はクイっと琥南の顎をとって自分に向かせると一気に唇を吸って唇を琥南にねじ込んだ。



「イヤ、イヤ、イヤーっ!ミサにも、ミサにも頂戴よぉっ!せんせぇーっ、真奈先生ばっかりズルイよぉーっ」
 美佐子はそういいながらも秘部をいじくる指が止まらない。
 なにも知らずに真奈に呼び出された美佐子は、そこにいた下級生の、まだ小学生かと見まがう男の子の言葉に絡めとられた。
 最初、陣内瑠璃子のことを聞かれた時には絶対にとぼけてはぐらかせてしまおうと思ってた。
 はなっから担任でもなんでもない中等部の教師に話をバラスなんてコトは思いもよらぬコトだった。
 だが、次の一瞬、自分でも自分自身に何が起きたかわからないまま激しい情欲に襲われてあっという間に下半身を濡らした。


 渋谷で援助交際を始めてかなりいい稼ぎをしていたこと、陣内瑠璃子とツルんでいたこと、相手にしてきた男の数や相手の連絡先の入った携帯、すべて洗いざらい喋ってしまっていた、快感を得るために。
 
「知ってることを全部話してもらおうか、じゃないとその勝手に動きだした指だけじゃ昇りつめても絶対お姉ちゃんはイケないよ」
 屈託のない、むしろ可愛くさえ思える下級男子生徒の言葉どおり、美佐子は感じすぎるほど感じているのに最後まで達しなかった。
 自分の感じるところを一番よく知っている自分の指が的確に美佐子を刺激して昇りつめているのに、あと少しというところで快感の波が押し寄せてこない焦りのような怒りにも似たパニックに美佐子はイケるんだったらもう自分のすべてをこの2人に支配されて身を委ねてもいいと思うまでになっていた。

「ぜ、ぜんぶですぅぅぅぅ〜、い、いままで、話したことがミサの知ってるぜんぶなのぉぉぉ。あぁぁぁぁぁぁぁ、おねがいぃぃぃぃぃーっ、もう、もう、もうだめぇぇぇ」


「ふう、大したことも出てきやしないか。ツツツツ、性欲優先だよな。来いよ。ぶっ刺してやるぜ、うれしいかぁーっ!」
「うれしひひぃぃぃ、して、して、して、してぇ。ミサ、なんでもするぅ、なんでもしますからぁ〜っ。欲しいもの、全部あげるうぅぅ」
 琥南の言葉を聴いた途端、美佐子は脱兎のごとく琥南のいるソファに駆け寄ると真奈を突き飛ばして琥南の股間に自分の股間を突き刺した。
「ひゃんっ!いい、いい、いいよっおぉぉぉ」

「な、なにするのっ!教師突き飛ばして!ヒトの男を横取りする気!このメスブタ!」
 真奈は目を吊り上げて激しく怒鳴りつけた後、美佐子の髪を思い切り引っ張って琥南から美佐子を引き剥がそうとする。

「真奈先生、犬になれっ!ワンワン、臥せっ!おあずけ!」
「えっ・・・・・、きゅ、キュ〜ン、クフ〜ン、フ〜ン、ハッハッハッハッ」
 琥南の言葉と目の前に突き出された指に、真奈は一瞬にして犬のように全裸のまま臥せてモノ欲しそうにじっと上目使いでソファの横で尻を振る。



「ふふふ、ミサとか言ったっけ?」
「ふぁい、はぃぃぃぃぃぃーっ!」、
 琥南のイチモツを自分の下半身で咥え込んだミサは半身を起こした琥南の小さな上半身の首周りに手を回して抱きついた。
「一瞬で昇りつめる。オレのヒト押しで一瞬にして今までに味わったことのない快感が全身を突き抜けてお前はイくんだ」
「してっ!はやく、はやくぅぅぅぅ、ミサに早くちょうだいよぉぉぉ」
「イッた瞬間にお前の魂は塗り変わる。もう援交なんか一切興味が湧かない。お前はオレに報いることだけでしか感じないオンナになれ」
 そう言って琥南はクイっと屹立したモノが刺さったままのミサを腰使いで突き上げた。

「いっぃぃぃぃぃぃぃいぃぃっぃーっいくぅぅぅぅぅぅぅぅ〜」
 電気ショックを浴びたように全身を激しく震わせて一瞬のうちに美佐子はソファからしなだれ落ちて床で余韻の震えに襲われていた。
 目は虚空のかなたにおよいで、すでにこの部屋に呼び出された時のような意志のこもった反抗的な目つきは失われていた。
「フフフ、お前もオレの手駒だ。これからすぐにでも働いてもらうぜ。ミサ型監視カメラ1台ちょうたぁーつ!」
 琥南はソファに上体を起こすと足元でモノ欲しそうに舌を出して「おあずけ」の姿勢で従順に待機する真奈を見た。
「ワンワン!真奈、さあおいで。今からは先生だよ、犬じゃないよ」



「うれしぃぃ。いっぱい、いっぱいちょうだぁい。もう授業中から琥南くんのことで頭一杯、ヌレヌレだったのよぉ」
「だったらもっと働けよ、どんな情報でもオレにもってこいよな」
 真奈が琥南の上にのしかかった。

「あっ、そういえば」
「おう!なんだよ」
「あ・と・で」

「じゃあ、やらネエよ」
「あん、いやん。いやーん、やだよぉ、ほしいのぉ」
 真奈は駄々っ子のように体を揺さぶる。
 真奈の胸が小気味よくプルプルと揺れた。

「琥南くんと同じように陣内さんのこと聞いてたコがいたの」
「別にいいんじゃないの?友達ならよ、おめぇ、もっとマシな情報取れよな、大人なんだろが」
 そう言って琥南は真奈の左胸を鷲づかみにする。

「あん、それがぁ、ウフフフ、今日転入してきたばかりのコでぇ〜」
「なに?」
「しかも他のコたちと比べ物にならないくらい運動機能の発達した子なの」
「フン、なんか、におうな。真奈、そのオンナ連れて来れるか」
「琥南くんのためなら、わたし何でもするわ」
「後で呼び出せよ」
「でも昼休みはダメよ。琥南くんからご褒美もらう約束なんだから」
 そう言って真奈は自分から琥南のイチモツを手に取ると奥深くに誘導した。
「あん、いい、あったかいよぉ。きもちいぃ、動いて、うごいていい」
「ったく。水族館のイルカか、お前は。何をするにもご褒美かい。まあオレもキライじゃなからよ、ソラっ」
「あああぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁ、いい、いいいい、いいのぉぉぉぉ」

 真奈のヨガリ声はマナーモードになっていた琥南の携帯の振動音を打ち消していた。






【 新宿 会員制BAR エリオット本店となり 会員制喫茶SEA-BOSE 】





 ママは怒りに任せて自分の携帯を放り投げた。
「どいつもこいつも私を軽く見すぎてるんじゃない?」
「呼び出してもつながらないんだろ、こうなる可能性は予期してたんじゃないのか」
 携帯を拾い上げるとナイトホークは優しくママに携帯を返した。

「やり方を任せてやった恩をあのコは踏みにじった。定時の連絡を無視するなんて、基本から失格だわ!!」
「琥南は結局はまだガキなんだよ。それを忘れない方がいい」
「冷静ね、あなた。またあのコを封印してもらえるかしら?」
「ママも判断が早すぎるくらい早いね。もう少し時間をくれてやったっていい、夜まで待てよ」

「パーティーは目前よ。あのコにはパーティー当日までに課題を作成して、当日『TEST』の審査を受けなければならない義務がある。用意は分刻みで進めないと。いちいち迷ってられないわ。今夜は前夜祭がわりの『打ち上げ』があるのよ、忙しいの!」
「琥南を回収するとして、あのコ(『受験者』)はどうするつもりだ」
「コッチにだって考えがある。少しくらい混乱するけど展開が早まれば儲けモンだわ!それと琥南にはキツイお仕置きしてよ」
「どのくらいの?」
「アイツだってトラウマの一つ二つ抱えればいいんだわ!死なない程度に!」
「怖いな、オンナって」
 ナイトホークは「クク・・」と笑いをこらえた。
「ウフフ、それそれ。オンナは怖いと思わせてよ、あのとっちゃンボーヤにもオンナが怖い生き物だってコト分からせれば暴走もしなくなるわ、きっと」
「フッ、どうだかね。じゃあ、行くよ」

「任せたわ、私は『クラッカー』のところにいる」
「琥南は自宅に帰しとくよ。報告はメールでいいね」
 ナイトホークは扉のノブに手をかける。
「そうだ、ねえ、ナイトホークさん?」
「なんだ、他になにか?」
「あなただって『オンナ』なのよ。忘れちゃダメよ、怖い存在なの」
「ふっ、忘れてたよ」
「あらっ、もったいない」
 2人はそれだけ言うと別れていった。







【メディカルサイエンスセンター 病棟】


「ごめん、悪いけど奈津美の話、想像か夢の話としか思えない。まったく記憶にないわ」
 京香と奈津美は意識の回復した弘美と瞳の面会に病室へ続く廊下を歩いていた。
「本当よ、本当なのよ!だから私はあなたが誰かに何かされたんじゃないかって思ってる」
「誰かになにかって?」
「精神を操作されている・・・・・例えば明智祐実に」
「えっ?アハハハハハ、いやだ、奈津美、一体何を言い出すのかと思えば」
「真剣よ、私!」
「そんな事言われてもねぇ〜」
 京香は笑って真面目に取り合わない。
「京香、お願い。この間、私に会ってから今日まで京香自身どう過ごしてきたか真剣に思い出して!」
「そ、そんな、真面目に言われたって・・・・いつも通りの毎日よ」
「お願いよ!真剣に!」
「まったく!あなたっていつも勝手ネ。わかったわよ、やるわ、時間が空いた時にね」
「約束よ!京香!」
「わかったって言ってるでしょ〜!あっ、ほら、あの左側の部屋が2人の病室よ」
 ちょうど京香が言った病室から1人の未成年らしき女性の姿が見えた。
 奈津美の鋭い視線は相手が一瞬こちらを見て驚いたように目を大きく見開いたのを見逃さなかった。
 その面立ちに奈津美は見覚えがあった。

「あ、あのコ・・・・・もしかしたら」
 その女性は京香と奈津美を見つけると軽く会釈した。京香も軽く手を挙げた。
「待った甲斐があったわね。どう?お姉ちゃんとお話できたかしら?」
「はい。大したコトないってお姉ちゃん言ってましたけど、なんだか痛々しくてとても辛そうです」
「でも大丈夫!命に別状もないし、10日も経てば退院はできそうだから。しばらくは通院してもらうけどね」
「筒見先生、姉を・・・お姉ちゃんをよろしくお願いします」
 高校生とおぼしきその少女は礼儀正しく深々と頭を下げた。

「あなた・・・・・あなた、陣内瑠璃子じゃないの?」
 少女の両肩をとって自分に向かって正面を向かせた。
「間違いない。あなた陣内瑠璃子ね、悪いけど一緒に署まで来てもらおうかしら?」
「あの・・・・・・・」
 少女はきょとんとした表情で奈津美を見ている。
 先日会った時は制服をだらしなく着崩して、ふてぶてしい口の利き方をしていた。
 今日は地味なプルオーバーにデニムのパンツでいるが間違いなく陣内瑠璃子だった。
「あなたは今回の事件の鍵を握る重要参考人ともなるキーマンなのよ。一体いままで何処にいたっていうの?私が見つけたからには逃がさない。連れて帰るわ」
 逃がしゃしない・・・そんな態度で奈津美は少女の肩を掴む手にギュッと力を込めた。
「い、痛い・・」
 少女は不安げな表情で京香に目で助けを求めた。

「ちょっと、まってよ。奈津美ぃ」
 京香は横暴な奈津美の腕を少女から離した。
「なに?なんだっていうの?」
「その子、那智さんの妹よ。いずみちゃん、この人お姉ちゃんのチームの副長で伊部奈津美」
「ウソ!ウソでしょ?瞳の妹?」
 奈津美は京香の言葉を飲み込めない。

「那智いずみです。姉がいつもお世話になってます」
 少し恐々と上目遣いになりながら、いずみは丁寧に挨拶をした。
「ちょっと待ってよ、あなた、この間も京香の研究室の脇で私とすれ違ったわよね!新宿のラブホテルで保護されたでしょ。あなた、瞳の妹なんかじゃない!陣内瑠璃子でしょ!」
 いずみの両肩を掴んで揺さぶるように奈津美は詰め寄る。

「い、痛い!つ、筒見先生!」
 ひきつった表情で助けを求めるいずみに、京香がすぐさま割って入った。
「ちょっと!奈津美!いい加減にしなさいよ。なんでいずみさんが陣内瑠璃子なの?私もPTSDの面接をしたから彼女のことも知っているけれど全く別人じゃない!」
「京香ぁっ・・・・!」
「奈津美、あなた・・・本当にどうしたの?言っちゃ悪いけど、おかしいのは、あなたの方だわ!」
「京香・・・・・・聞いて!私、わたしね・・・・」
「ちょっと待って!まず私の話を聞いてからにして!もう一度言うわ。この子は那智瞳の妹でいずみさん。昨日お姉さんの事故の連絡を受けて、急遽福岡からご両親のかわりに飛行機で来たの。昨日のANAの最終便、私が羽田まで病院の車で迎えに行ってる。記録も残ってるから疑うのならあとで事務室で確認して」
「そ、そんな・・・」
「だから彼女が東京に来たのは昨夜。ずっとお姉さんのことを心配して病院からは出ていない。これでもあなたは、この子が陣内瑠璃子だと言い張る?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
 奈津美は言葉が出なかった。

「私・・・・私、本当に那智瞳の妹です。信じて下さい。病室のお姉ちゃんに聞いて下さい。福岡に電話してもらってもいいです。私・・・わたし・・・本当に那智いずみです。伊部さんの言ってるヒトじゃありません。信じて下さい」
 目を潤ませて、いずみは言った。涙声だった。
「奈津美、本当にどうしちゃったの?おかしいよ、奈津美」
「・・・・・ごめん、京香。ごめんね、いずみちゃん」
 京香の言葉に奈津美が返す言葉はもう『ごめん』しかなかった。
 その時、奈津美に緊急無線が入った。
「はい、伊部です」
 発信はPD(パドック:署)のチームからだった。


『副長、国井です、国井涼子です』
「聞こえるわ、要件を。手短にね、まだ病院だから」
『了解です。道玄坂署の少年課からの連絡です。陣内瑠璃子の身柄を拘束したそうです』
「なんですって!陣内を保護したぁ?」
『渋谷駅付近のゲームセンターで遊んでいるところを補導したそうです。持っている生徒手帳から陣内であることが判明しました。こちらに照会の資料を求めているんですが、あの・・・紛失したまま見つかっていませんので樹里さんと園美さんが直接確認に行く予定です。照会後に身柄をこちらに移します。チーフも了承済みです』
「わかったわ。こっちも2人の意識が戻ったようだから容体を確認した後、署へ向かうわ。現地で合流すると伝えて。
 他に捜査に出る者がいれば私の車載端末からチェックできるように行動スケジュールをサイト入力しておいてくれればいいわ」
『了解。なお本人確認のため、学校側から高等部の担任と寮母が道玄坂署に向かってます』
「了解」

「どうやら疑いは晴れた様ね」
 京香がほっとして一息つく。
「そのようね。悪かったわ、本当に。2人の容体を確認して、すぐに行くわ」
(どうしても私、この子が陣内瑠璃子に思えて仕方ないけど・・・・・他人の空似なのかしら)
「どうぞ、こちらよ」
 京香は病室の扉を開けた。
「先生、私、そろそろ福岡に帰ります」
「えっ、もう?」
「お姉ちゃん大丈夫なようだし、お父さんとお母さん心配してるから知らせてあげたいし、それに学校あるし、そう何日も東京にはいられません」
「わかったわ。じゃあ、帰りの飛行機の手配と空港までの足、私が調整してあげる」
「すいません。お願いします」

「じゃあ奈津美、悪いけど私いずみちゃんの帰りの手配するから」
「うん。いずみちゃん、ごめんね。わたし、あなたに悪いことしちゃった。嫌われちゃったかな」
「そ、そんな。スワットの隊長や副長なんて、もっとクマみたいに恐くてレスラーみたいな女性を想像してたので・・・・その・・・・その・・・あまりにキレイな人なんでびっくりしちゃいました。これからも姉をよろしくお願いします」
「コラ!クマとかレスラーとかはヒドイなぁ〜」
 少し緊張がほぐれて、いずみは堅いながらも奈津美に微笑んでみせた。
「行こう、いずみちゃん」
 京香がいずみを促す。
「はい。失礼します。伊部さん、さようなら。お姉ちゃんをよろしくお願いします」
「うん、気をつけて帰ってね。京香、資料の件またあとで!」
「まだ言ってる・・・・」
 京香は呆れ顔で去っていく。2人の背中を見送って奈津美は病室へ入った。




「どう?2人とも」
 入って来た奈津美の顔を見て2人はびっくりした表情になったがすぐに微笑んでみせた。
 痛々しい姿だったが、ことのほか元気そうな瞳と弘美の2人に奈津美は安心した。
「瞳、今あなたの妹さんに会ったわ」
「あっ・・・いずみです。昨日のうちに実家から来てくれてたみたいで」
「良くできた妹さんね。挨拶もしっかりできるし」
「歳が離れているから親子かとも間違われるんです。失礼しちゃうわ!・・ですよね。私の母が死んで、再婚した父の・・・と義母の子なんで無理もないですけど」
「随分大人びてみえたわ、高校生?大学生かな」
「あは、そんなぁ。副長もおかしなこと言いますね、まだ中学2年生ですよ。褒めてあげたんです。中学生1人が福岡から飛行機で来るなんて」
「えっ・・・・・。瞳、たしかに妹に間違いない?」
「え、ええ。確かにいずみですよ、妹です」
「・・・・・・・・・・」
 奈津美は表情を険しくした。
(ま、まさか・・・)


 事故原因は瞳の脇見運転だったと2人は口をそろえた。
「ナビの操作に気をとられていた私の不注意です。処分ものですね、私。覚悟してます、でもチームには残りたい。まだみんなと仕事したいんです」
 瞳の表情は少し暗くなった。
「いまは傷を治すことに専念しなよ。私からもチーフには処分を考慮するよう言ってあげる。今週ずっと超過勤務だったもの。疲れてたのよ」
 5分ほど話をして奈津美は病院をあとに渋谷へと向かった。




 京香といずみはエレベータに乗り、階下へ降りる途中だった。
「どうしたの?不思議そうな顔して」
 いずみの口の利き方は、先ほどとはうって変わって京香と『タメ口』だった。

「いいえ・・・・・さっき無線で入っていた道玄坂署の・・」
「陣内瑠璃子?」
「えぇ・・・・・・誰なのかと思って」
 京香の言葉使いはどことなくいずみに対して丁寧になっていた。

「知らないわ!向こうが陣内瑠璃子だと言うのなら陣内瑠璃子じゃないの?あのバカだって納得してたでしょ」
「でも・・・・・・・・」
「何か不満?筒見先生、私はいずみよ、那智いずみ。よくやったわ、筒見先生。褒めてあげるわ、言いつけをよく守ったわね」
 並ぶように立っていたいずみは京香の方に向き直ると小悪魔的な含み笑いを浮べた。
 ポケットから取り出した銀色に光る音叉を壁に叩きつけて共鳴音を鳴らした。

 その共鳴音に京香は異常なほど敏感に反応した。
「きゃん!あぁぁぁ〜ん」
「フフフ、どうしたの筒見先生ぇ?あれ、どうしたのブラしてないね。乳首がすごく勃ってるよ」
 鷲づかみに京香の胸を掴む。
「あぁぁぁん・・イヤっ!京香って・・・京香って呼んでくださぁいぃぃぃぃ」
「じゃあ私のことは?」
「お姉さま・・・・瑠璃子お姉さまぁ〜」
 京香はエレベータの中であることも忘れ、いずみに抱き着いた。

「いずみよ。私は那智いずみ・・・・・。もし他の隊員と私が遭遇した時に京ちゃんは私のことを瞳の妹として扱う。ちゃんと守ってくれたわね。でも、あのまま疑われて福岡に電話でもされちゃったらどうしようかと思ったわ。あいつには私のテクがかかりにくいみたいだし」
 いずみは小悪魔的な含み笑いを浮べた。

「・・・・して・・・してくれるんでしょ?瑠璃子おねえさまぁ〜」
「フフフ、なにを?」
「うん、もう!わかってるくせにぃ!お姉さまのいじわる!」
 そう言うと京香はスカートをたくし上げた。
 下着を何も着けていない京香の秘唇はすでにぱっくりと口を開けて潤んで光っている。
「触ってくれるんでしょ、お姉さまぁ。京、もう我慢できないのぉーっ、京香を、ねぇ、京香をかわいがってぇ〜おねえさまぁ」
「それより、私が言ったことちゃんとやった?」
「はい、明日から3日間は休暇に」
「変更だね、たった今からだよ。アイツが来たから・・・・・・・」
 いずみは奈津美のことを思い出していた。
(失敗した。まさかアイツとかち合うなんて・・・・・)
 『那智いずみ』こと陣内瑠璃子は唇をキュッと噛んだ。
「京ちゃん、私を学校まで送ってね」
「はい、お姉さま」
 瑠璃子は手に持った携帯を強く握りしめた。

 『定時連絡さえ入れないおバカさんへ お仕置きの意味をこめてママがあなたの周囲を引っ掻き回してあげるから 覚悟しいや(^^) イヤだったらゴメンの電話をいれなさいね 』

 ママからのメールは瑠璃子が瞳の妹に成りすますため、病室に乗り込んで瞳を堕としている最中に入った。
 ママのメールがなければ瑠璃子はきっと瞳をさらに深度へと堕とす現場を奈津美におさえられていたに違いなかった。
「どうせママが嫌がらせがなくたって、学校にはスパイつぶしに戻るつもりだったし。まだ運はあるんだよね、私に」
 瑠璃子はママの嫌がらせを内容を読みきって、連絡をすることを拒んだ。
 ママのメールを削除すると院内にいるのをお構いナシに瑠璃子は携帯を使う。
「もしもし〜、佳美ちゃん?瑠璃子でーす。お願いあるんだけれど・・・」





【チーム6 チーフ室】


「ない・・・・・・・・ない・・・・どうして?なぜ!」
 祐実は何度も自分の机やロッカー、キャビネットまでありとあらゆるところを探しまわっていた。
 しかしLDは見つからなかった。
「絶対におかしい・・・今朝のミーティング前には私自身が薬の所在を確かめている。でも今ここにあるのは・・・・・疑似薬に使ったビタミン剤と固定剤だけ、そんな馬鹿な!導入剤もたしかに一緒にしておいたはずなのに」

 何度も何度も探し回ってもLDは見当たらなかった。
「なぜ?私・・・疑似薬のビタミン剤と間違えないように分けて置いたっけ?・・・・・そんなこと、してない」
 祐実は八つ当たりにデスクを思いっきり叩いた。
「もう使える薬は、もしもの時にバックに入れておいた分だけってこと?」

 その時、呼んでおいた奈那がやって来た。
「お呼びですか?」
「奈那、あなたがこの部屋に薬を取りに来たときは、もう引き出しに薬はなかったのね」
「はい。念のため他の引き出しも捜してみましたがありませんでした」
「間違いない?」
「間違いありません」

「あなたに聞くわ。あなたにとって私は何?」
「・・・LS6チーフ 明智祐実さん、私の大切な上司です」
「『さん』じゃないわ、『様』と呼びなさい」
「はい。私の大切な上司、明智祐実様」


「そうね、それでいいのよ。あなたの使命は?」
「わたしの使命は・・・・・祐実様の命令に忠実に従うこと」

「私の命令にあなたはどう応えるの」
「はい、祐実様の命令は他の誰の命令より優先です」
 感情のこもらない言葉で奈那は応えた。
 祐実は「フン」っと鼻を鳴らすとデスクの引き出しから拳銃を1丁掴むと無造作に奈那の方へ投げつけた。
「弾は全弾装填してある。悪いけど死んでくれる?今すぐ!私のために」
「・・・・・・・・・・・・・・」
 奈那は一瞬こたえなかったが数秒の後に「はい」と答えて銃をとるとゆっくりと銃口をこめかみにあてた。
 ゆっくりとトリガーに指をかけたかと思うと無表情のまま引き金をひいた。

 カチン!
 空虚な音が部屋に鳴り渡る。
 奈那は引き金をひいたが弾は出てこなかった。
「ふ〜ん、あなたを疑った私も馬鹿だわ。あなたはまだ私の手の中にいるのよね。奈那もういいわ、銃に弾は入ってない。命令を取り消すわ。さて、ということは、LDを盗んだのは私がミーティングに部屋を出てから、あなたが薬を取りに来る間。スタッフルームにいたチームのメンバーと病院に行っている奈津美は対象外・・・・しかも部屋はカードキーがない限り開けられない・・・・・・・」

 祐実は椅子にもたれかかって、じっと一点を凝視する。
 ふっと電気に弾かれたように一瞬にして表情が変わり体を起こした。

「まさか・・・・・・、チーフ室や局長室は下位階級の者には容易に入室できない様にキーエントランスシステムでロックされているけれど、より上位階級者は自分より下位の職階の者の部屋には自分のIDカードをキーにして緊急時入室可能だと聞いたことがある。まさか、紀香や補佐官が私の部屋に・・・・それでもしLDを見つけたのだとしたら・・・・・」
 祐実の顔から血の気が引いていく。

「そうだ。監視ビデオを・・・」
 祐実は急いでモニターの電源を入れる。
 専用個室をあてがわれている上級者の個室には万一の場合を想定して、使用者の退室時から再入室までにオートで部屋の監視モニターが作動するようセットされている。
 在室時には使用者が自らオンにしておかなくては録画されないが、今朝ミーティングの前に薬の所在を確認後、ミーティングのために部屋を出てから奈那が入室して薬を探すまでが見れればいい。

「早回しにすればすぐに分かる。誰であろうとも許さない」
 祐実は語気を荒げた。
 祐実の退室する後姿から部屋を映す4台のカメラが映像をモニターに四分割して映し始めた。
 日付や時刻も間違いなく今日のものだ。
「奈那、薬を掠め取ったバカなネズミの処分は秘密裏にあなたにやってもらう」
「かしこまりました、祐実さま。ご命令の通りに」
「映像は嘘をつかない、例えそれがもしあなた自身であっても処分よ」
 祐実は奈那をも疑いの目から外さないでいる。

 早回しの映像は整然とした人気のないチーフ室を移したまま、時刻だけが経過している。
 とうとう奈那の入室まで映し終えた映像は、奈那が祐実の命令どおり引き出しを開けたところで一時停止させた。
「ど、どうして!どうして薬が消えてるのっ!どうして・・・・」
 祐実が退室時にはおいたであろう引き出しの所定の位置には薬はまったく影も形もなくなっていた。

「・・・・まさか、まだどこかに美香ではない本当の『子猫』がいるっていうのっ」
 祐実は落胆して体を投げ出すように椅子に落す。
 すでに『子猫』を疑うしか見当をつけられずにいた。

 
 


 

 

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