TEST


 

 



伏見 紀香:
 レディースワット局長。チームが組織の広告塔だったキャンギャル時代からの叩き上げ。常にクールで判断力・指導力に優れている。

Lady Swat TEAM No.6

明智 祐実 :【チーフ】
 メンバーとして配属後、短期間に多くの功績を挙げチーム内では年少ながらチーフに抜擢された。上昇志向が強く、自らの階級をあげるためには手段を選ばず、メンバーを駒としてしか見ない非情な面がある。研究所から手に入れた洗脳薬LDを隠し持ち、メンバーの隷属化を企てている。前チーフの伊部奈津美との確執がありチーム内では孤立。

伊部 奈津美:【副 長】
 もとはチーム6のチーフ。過去の事件の失態から降格、現在の地位にある。メンバーからの信頼は厚く、非常時にも冷静な優れた指導力をもつ一方で、情に流されて判断を見誤りやすい。

松永 奈那 :【副長補】
 過去の事件で命を落とした長峰江梨子とともに伊部奈津美とは同期。祐実の洗脳薬によりすでに祐実に絶対服従の生きた人形となっている。

中野 麻衣子:【メンバー】
 チームの中ではもっとも経験が長く、あらゆる技能に精通する。姉御肌で昇進に関心なく現場での活動を好む。

黒川 樹里 :【メンバー】
 犯罪心理セクションの医科学専攻から選出されたひとり。現場から犯人の心理状況をすばやく解析して的確な助言をチーフや副長に進言する。筒見小雪とは学校時代の先輩・後輩の仲。

加納 美香 :【メンバー】
 国際犯罪取調室通訳官から明智に引き抜かれる。中堅総合商社加納グループ一族の娘で複数の国の言語に明るい。おっとりとした性格であるが自意識が強く、自他共に認めるほど容姿端麗。

筒見 京香 :【警察病院 メディカルサイエンスセンター医師・カウンセラー】
 奈津美との親交が深く、彼女の体調を常に心配している。

陣内瑠璃子:【学生】
 自分勝手で気分屋、素性不明の女子校生。




********** 2nd−day **********



【お台場 パームタワー 2207号室 ベットルーム】


 東の空が明るく輝き出すと、遮光カーテンの隙間からゆっくりと陽の光が射し込んでくる。新しい朝が訪れかけていた。
「んー、な〜んだ、もう朝?早いね、じゃあ帰ろうかな。雪ちゃん、起きて!雪ちゃんは何時に出勤するの?」
 雪乃のベットでのうのうと1人で寝ていた瑠璃子は、全裸の上半身を起こして伸びをしながら、この部屋の主である雪乃に話しかけた。
「私は・・・・・瑠璃子お姉様を10時までにPTSD診断のためメディカルセンターへ送らなくてはなりません。PD(パドック:本署)への出勤時間はセンターからお姉さまを送致完了した連絡後の指令待ちです」
 ベットサイドに置かれたソファから起き上がり、全裸のまま直立不動の雪乃は無表情で答える。
「ふ〜ん、そんなこと言ってたね。PTSDねぇ・・・・あの2人も受けるんだよね」
「あの2人・・・・?」
 雪乃は返答できなかった。
「雪は知らないか。麻衣!麻衣は知ってるの?」
 雪乃に話しかけるよりは剣呑にベット脇の床にいる麻衣子を呼びつけた。
「ん・・・あん・だい・・・・学生の2人も・・ん・・10時頃に同・・・ハッ・・僚の石原がぁああん・・・寮に迎えに行く事になっ・・アフン・・ていたと思います」
 ベットの脇に背をもたせかけ、絨毯の上に全裸のまま両足を大きく開き、おびただしい愛液をしたたらせ口元をだらしなく開いて悶え自慰にふける麻衣子に瑠璃子が問いただした。淡いブルーの絨毯はすでに麻衣子の秘部の部分だけ濡れきって色が濃く変わっていた。際限なく沸き起こる性欲に瑠璃子がやめろというまで思うがまま自慰に耽るように与えた暗示に麻衣子は自ら没入していた。
「そう、じゃあ1度寮に戻ろうかな。少し細工も必要だし。麻衣、寮まで送ってくれる?やめていいよ、オナニー」
「は・・い・・・お姉様」
 麻衣子はふらふらと立ち上がり、車のキーをとるとリビングを出ようとする。
「アレ、麻衣、麻衣子!ダメよ、洋服を来て。私を送ったらあなたは早めに出勤するの」
「はい、お姉さま」
「雪の服を借りてね、同じ服なんて着ていっちゃだめ。帰宅していないのがバレないようにね」
 麻衣子は素直に頷いてソファに置かれた自分の下着を着け始めた。
「フフフ、わたしのような女子校生のガキに取り込まれていいように使われてるのはどんな気分ですか?麻衣子お・ね・え・さ・ま」
 瑠璃子の含み笑いにも、麻衣子はにっこりと微笑み返した。
「まずは不眠不休でオナニーしてたあなたの疲労を消去しなきゃね。麻衣、この音叉の響きを聞くと麻衣は全身から疲労が溶け出して消えてしまうよ」
 家具の角に音叉を叩きつけて共鳴音を鳴らした瑠璃子に、麻衣子は感電したように「はっ」として顔を瑠璃子に向ける。呆けた表情の中に癒されているような気だるげな笑みが浮かぶ。瑠璃子がいたずら気に意味深な含み笑いを浮かべ、CDのPLAYボタンを押した。軽快なアップテンポのリズムがスピーカーから弾けでる。
「麻衣、踊って。麻衣は元気なコよね」
「はいっ、おねえさま」
 着替えも半ばに麻衣子は一心不乱に踊りだした。形のいい乳房が麻衣子のダンスに合わせて揺れる。
「フフフ、ウマイね。クラブで結構踊ってるクチ?いいよ、やめて」
「はい、お姉さま」
「さてと・・・・・最後の仕上げ。『麻衣、昨日のあなたに戻ってごらん』」
 そういって瑠璃子は音叉を叩いた。その瞬間、麻衣子の瞳にだんだんと意志の光が戻ってきた。精気の戻った凛々しい表情の麻衣子がよみがえる。
「おはよう、麻衣」
「あっ!あなた!!」
 瑠璃子の存在を認めた麻衣子は半身に構えてすぐに臨戦態勢の姿勢になった。習慣のたまものだった。
「昨日の夜はとってもよかったわ。麻衣、とても優しくしてくれてうれしかったっ!ウフ、やっぱり経験積んでるヒトはちがうね、私も雪ちゃんもたじたじ、また優しくしてね」
「な、なんですって!あっ・・・・」
 半ば下着姿の自分に気づいて麻衣子ははだけていた胸を隠した。
「何をしたの!あなた、一体わたしに・・・・」
「麻衣、あなたは私のものになったの。大事な私の妹よ」
「なんですって!」
「これからは私のために、心から望んで働いてもらうからね。そうすることが麻衣のシアワセだと感じるようになる」
「馬鹿なこと言わないで誰があんたなんかに!気安く呼ぶのもやめてよ!」
「最後の仕上げ。麻衣、今のあなたに昨日の夜作った『私の妹』としての麻衣を重ねるの、正常な人格に私への従属を融合させる。と言うより置き換えるのかな」
「何のこと?こうなったら、あなたにはこの場で全部吐いてもらおうかしら!私はあなたを許さない!」
 麻衣子は空手の構えの姿勢で瑠璃子ににじり寄った。麻衣子の表情は瑠璃子への敵意に満ち溢れている。瑠璃子はまったく動じていなかった。
「麻衣、すぐに済む、そしてあなたは誰のために尽くさなければならないか、おのずとわかるようになるよ。普段の麻衣を保ちながらね、『生まれ変わるのよ、麻衣ちゃん』」
 目の前にかざした音叉が朝日を浴びてキラッと光った。音叉はベットの端に打ち付けられて澄んだ音があたりに共鳴した。
「なにくだらないこと言ってるの!どうして私があんたなん・・・か・・・の・・・・・い・・も・う・・と・・・・・」
「フフフ。なぁに?あんたなんかの・・・・なに?」
「あ・・・お・・・・・・・」
「フフフ、聞こえないわ」
「お・・・え・・さ・・・・・わ・・・の・・・・」
 一語一語の言葉がたどたどしく口をついて麻衣子からこぼれる。目がピクピクとせわしなく震える。置き場を失った手が麻衣子の頬や胸を這い回る。先ほどまでの敵意に満ちた表情は、いつしか戸惑いと羨望の混ざった複雑な表情へと変わっている。

「フフ、なあに?聞こえないなぁ」
 麻衣子の変化を冷静に観察しながら瑠璃子は不敵に笑っている。次のシーンを想像して黒い微笑を隠し切れない様子だ。
「・・・・・・・お・・ね・・え・・・さま・・・」
 麻衣子の口からかすれる様な声がもれる。
「ン?なぁに、聞こえないわ、全然!」
「おねえさま・・・・・麻衣子のおねえさまぁ・・・・・・・・」
 そう言って麻衣子は瑠璃子のベットに駆け寄ると力いっぱい抱きついて瑠璃子に泣きながら何度もキスをした。
「やっとわかったようね、子猫ちゃん。もうあなたが誰のものか言えるわね」
「はい。はいっ!麻衣子はお姉さまの、瑠璃子お姉さまのものです。私のすべてが瑠璃子お姉さまのためにあります。瑠璃子お姉さまのために私精一杯尽くします」
「これ見て、あなた昨日私にこのスタンガンとナイフを使おうとしたのよ」
「も、申し訳ありません、お姉様、許してください。麻衣子、お姉さまに逆らうなんて、なんてことを・・・・とんでもないこと・・・・」
 麻衣子は激情に駆られて大泣きしている。先ほどよみがえったあの凛々しい表情など完全に消しとんで、まるで部活動の後輩が心から慕う先輩に対するような初々しくさえある態度になっていた。
(フフン、仕上げは上々かな)
 そんな麻衣子を見下して瑠璃子は鼻で笑って表情を冷たくする。
「許せないわ。あなたはどう償おうというのかしら?」
「どうとでもして下さい。お姉さまの気のすむように。麻衣子は、麻衣子は瑠璃子お姉さまを傷つけようとした悪いいもうとですぅぅぅ」
「罰として自分の頬を切りなさい、このナイフでね」
「はい、喜んで」
 麻衣子は涙でくしゃくしゃに濡れた顔のまま、素直な笑顔でうなずいた。
「薄く切ってみなさい、あなたのテクニックならできるでしょ」
「はい。おねえさま」
 そういって麻衣子は何のためらいもなく鼻の脇からすっと横に軽く線を引くようにナイフを引いた。薄い切り口から微量の血がすっと浮いた。
「いいわ、許してあげる。これからは私のために尽くしてくれる?」
「はい。瑠璃子お姉さまのために!」
「なら、あなたに指示をだすわ、できるわね」
「はい!よろこんで」
 麻衣子はすでに別人だった。
「雪乃、麻衣子の頬にバンドエイドを」
 雪乃はふらふらとベットルームからリビングへと出て行った。

 可愛いチェック柄のブレザーの制服を着込んだ瑠璃子は雪乃の鏡でブラッシングをしていた。
「雪はあとで迎えに来てね。私の携帯の番号は雪の携帯に入れといたから、迎えに来たら電話して」
「はい、瑠璃子お姉様」
「それまでゆっくりお休みよ。あなたも昨日楽しんだけど麻衣の監視で寝ていないでしょ。目覚ましをセットしたわ、目が覚めるとあなたは全ての疲労から解放されて体がとても軽くなってる」
 瑠璃子は意味ありげに微笑んで雪乃の鼻先を『ちょん』っと指でさわる。まるでスイッチの切れたおもちゃのようにすぅっと倒れ込むように雪乃はベットの上に倒れこんで瞬く間に寝息をかき始めた。
「麻衣、さっき私の言ったこと覚えてるわね」
「・・・・はい」
「そう、なら証拠の残らないようにしっかりやりなさい。命令に従順なあなたを私はス・キ!よ」
「はい!お姉さま」
 瑠璃子の言葉に麻衣子はうつろな表情のまま嬉しげに微笑んだ。
「さあ、行こう。麻衣」
「はい、お姉さま」
「そうだ、あなたたちLS6のメンバーに関する詳細な情報がデータベースごと欲しい。ディスク化して持ってきてよ」
「お姉さま・・・・LSメンバーに関するデータベースは高度機密として署内での許された者のIDでしか閲覧できません。セキュリティも完全です。ディスク化して持ち出すことなんて・・・・・・・・・・・・・」
「麻衣!口答えするつもり?『おゆきなさい』」
 瑠璃子は不機嫌な表情で麻衣子を睨みつけ、音叉を叩きつけて共鳴させる。
「きゃうふぅーん」
 全身を快感で打ち震わせて麻衣子はその場にへたり込んだ。
「も・・・申し訳ありません、おねえさまぁぁ。でも、でも・・・」
「でも・・なに?」
「医務機関であるメディカルサイエンスセンターなら、LSメンバーの情報も一般の警察職員同様の扱いで保存されています。そこならデータの引き出しはセキュリティーが甘い分可能性があるかと・・・・・・」
「フフフ、そう。わたし、今日そこへ行くのよね。OKぇ〜!麻衣、上出来よ。あなたの知っていることはすべて私に教えるの、わかった?」
「は、はい。おねえさまぁ・・・・」
 麻衣子は自分の知りえる一級の秘密を隠すことなく瑠璃子に教えられたことを、目を細めてまで本心から喜んでいた。





【警視庁メディカルサイエンスセンター】



 AM7:50、筒見京香は出勤直後のメールチェックが日課だった。そのメールの1通を読んですぐさまヒーリング室に足を運んだ。心身的に極度の疲労を和らげる治療の一端としてカプセル式の個別ヒーリング機が導入されたのは2年前のこと。併せて人間ドック並みのチェックを行なえる事でメディカルサイエンスセンターは機構の厚生面でも注目されていた。だが、あくまで本業は併築された警察病院の研究部門だった。京香の希望であり夢でもあった心療内科局への医師としての道はまだ遠いように思えた。ヒーリングコントロール室のドアの開く音で内科宿直の稲垣が振り返った。
「なんだ、筒見君か」
「なんだはないわ、メールありがとう。はい、コーヒー」
「おっ、サンキュー!」
 受け取りざま稲垣は京香の白衣に半分かくれたスカートの上から形のいいヒップを撫でる。無言のまま表情も変えずに稲垣のサンダル履きの生足の上を京香はヒールで踏みつけた。
「イツッ・・タタタ・・・・!」
「これで許してあげるんだから安いもんだわ。彼女、何番のカプセル?」
「何番もなにも、見てご覧よ。こんな朝っぱらから使ってるカプセルなんて1個しかないぜ。夜中に仮眠室から叩き起こされて今朝まで付き合わされてるよ」
 ガラスごしに仕切られたヒーリング室の中に20程のタマゴ型カプセルが並ぶ。人1人が入るほどのカプセルには、嗅覚・視覚・聴覚・触覚に刺激を与えてストレスや外的なショック症状を和らげる様々な工夫が凝らされている。センター自慢の最新鋭の導入機器のひとつだった。
「2番ね」
「あと5分、8時10分には覚醒するよ。まったく伊部にも困ったもんだ、俺は救急外来のスタッフなんだぜ。まあ、内科で救急もないもんだけどな。でもカウンセリングやヒーリングは宿直範疇外だ、知れたら大目玉!」
「昨日、LS6で事件があったようよ。検死が1体まわされてるわ、墜死だったようだけど、日系人の男性」
「おお、死んじまってたから救急のオレは用無しなんだよ、後は病理のヤツラ。筒見君、サイトもチェックしたのなら、伊部の事もわかってるよな」
「えっ、彼女どうかしたの」
「賞罰の更新情報があったから見てみたら、本日付で謹慎になってるよ、アイツ」
「ホントォ〜?」
「まったく、無鉄砲なんだから。どうせ上とケンカしたんだろうよ、あの出世嗜好娘とサ。さあ、俺は引継ぎに事務室へ戻る。悪いけどそのまま帰宅させてもらうよ。誰かさんのおかげで仮眠さえさせてもらえなかったんでね」
「わるかったわね」
「君が謝る事じゃないさ。でも許してやる。見てご覧よ、伊部の心身機能のスキャンニングの結果を画面に出してある。アマチュア内科の俺が見たってボロボロだ。脳波・臓機能・・なんだいこの数値!アルファ波だってどう調整したって好転しやしない。やっこさん、カプセルの中でも起きてるんじゃないかと疑いたくなるほどさ」
「ひどい・・・・・先月よりひどくなってる」
「・・・ってことだな。ここから先は筒見君の仕事だ、伊部を死なせないようにケアしてやってくれよ。ああ見えても結構いい奴なんだ。恋人にはしたくないけどね」
「ありがとう、こんなに細かく検査しといてくれて・・・・助かったわ」
「伊部には内緒だぞ、測値検査はするな、ヒーリングだけさせろって勝手言ってたからな、じゃお先」
「お疲れ、稲垣君ありがとう」
 稲垣は背をむけたまま右手をあげて無言の挨拶をして去っていった。



【メディカルサイエンスセンター ヒーリング室カプセルNo.2】


 周囲に小鳥の囀る声が響く。木のそよぐ音に合わせて風が頬を撫でていく。若葉の匂いが鼻をくすぐる・・・・・すでに慣れきった覚醒モードの1パターンだった。目覚めは悪くなかった。カプセル内に広がった森林の映像はゆっくりとフェードアウトして無機質なカプセルの内部が目に飛び込んで来た。カプセルは足元から、まるで貝が開くように二つに分かれていく。水平だったカプセルは同時にゆっくりと傾斜して奈津美を起こし始めた。
「おはよ、目覚めはどう?」
 知った顔がカプセルの脇にいた、筒見京香だった。
「まあね、最悪では・・・・ないかな。でも最近はめっきり疲れがとれない・・・」
「どう?このまま帰るんならコーヒーでも飲んでいく?私も10時まではフリーだから」
「うん、もらう」
「じゃあ、着替えたら私の研究室においで」
「わかった」
 奈津美は首をゆくりと2〜3度まわした。カプセルから降りて更衣室へ移動する。京香とはもう長い付き合いになる。ただ、カウンセラーと患者の立場で接するようになったのは江梨子の死後からだった。



【メディカルサイエンスセンター 研究室818 】


 2人はすでに1時間以上話しこんでいた。
「もう頑張るのやめたら?あなたは自分に厳しすぎるのよ」
「わかってる、言わないで」
「配置転換願の話、覚えてる?」
「うん、でもダメ。今動く事はできない」
「なぜ?またチーフの話?だったら、なおさら配置転換してもらって人間関係をリセットすれば?あなたの心理的なストレスも良くなるかもしれないのに」
「今私がいなくなったら、仲間は祐実のせいで殺される・・・・・かもしれない」
「なぜそう思うの?」
「・・・・・なんとなく。だけど、だけど日々接しているとよくわかるのよ!いけないの、あのコはなにかが間違っている、いいえ狂ってると言ってもいい。尋常じゃないわ」
「それだけじゃ理由にならない、いつもと一緒。もっと自分でよく考えて、分析して、原因をつきとめないといけないわ」
「・・・・・・・・・・・・・・京香」
「ん?なに」
「あなた、本当に私のことカウンセリングしてくれてるの?」
「ん〜、カウンセリング半分、友達思い半分かな。友達のあなたを相手にカウセリングなんて大それたこと・・・・それよりも友達として私はあなたの話を聞いてるつもりよ。だから、とおり一遍のような答えやアドバイスはしないわ」
「そう・・・・・・」
 奈津美はふっと力のないため息をついた。
「カウンセラーとして判断させてもらえば、あなたの状態はすでに危険度が高いと言わざるをえない。何かに脅え、なにかに敵対し、なにかに追いつめられて、気持ちが安らいでいるときがほとんどないに等しいわ。病的とまでは言わないけれど、謹慎なら謹慎でいいじゃない。プラスに考えてしばらく休養すべきよ。少しは自分のことだけ考える時間をお持ちなさい」
「・・・・なんだ。もう知ってるんだ、処分のこと。じゃあ、祐実のヤツ、本当にいとも簡単に私を切ったわけだ」
 京香の話には応えずに奈津美は処分のことを口にした。
「納得してないね、その顔。この強情っぱり!」
「いいわよ、強情っぱりでも!」
「やれやれ。本当はもっとあなたが平静でいられるようになったら話すつもりだったけど・・・・・・・・・・・・」
 彼女は机から書類袋を持ち出した。袋をひっくり返すと数枚のレポートとカセットテープが出て来た。
「なに?」
「私は、あなたが明智祐実に異常なまでに敵対心をもつのは、江梨子の死を事故として拭い切れない心のトラウマにしてしまったことが原因だと考えた」
「・・・ひどい!京香は私のいうことを信じてくれてる思ったのに」
「そう、信じてた。というよりは信じたかった、友達としてね。仕事の上の関係だけだったらあなたの言葉は被害妄想、一方的な明智への言いがかりとして診断したと思う。言わなかったけど明智チーフからは何度もあなたの身体データの提出を受けて拒んで来たわ」
「アイツ・・・・・よっぽど私を追い出したいのね」
「聞いて!『信じたい』は、私が調べていくにつれ『信じなければならない』になった」
「どういうこと?」
「それが、この2点の資料・・・・・・。いいこと、たとえこれを手にしたからといって早計に行動するのはおよしなさいね。それから、これはあなただから話すのであって、他の第3者に話をするのは法廷以外では決してしないと約束して。事前に察知されて手を廻されたら潰されるのはあなたよ、そして私も、他の協力者も。だから情報の提供元も今は内緒にさせてもらうわ」
 京香の表情は真剣だった。
「フフン、ってことは、それだけのシロモノが手に入って、京香も信じざるをえない・・ってとこ?」
「うん・・・・そういうことになるわね。できる?約束」
「うん・・・確約はできないけど努力する」
 奈津美の眼光が鋭くなる。
「だめよ、約束してくれないと・・・・」
「わかった、わかったから、約束するわよ!だから早く!」
 奈津美は面倒くさそうに言い放った。
「いまひとつ心配だけど、いいわ、信じる」
「説明してもらおうじゃない!」
 京香はカセットをデッキに突っ込んだ。
「資料は江梨子隊員の事件当時の緊急処置において、輸血準備のためにサンプル採取された血液を後日詳細検査した結果報告書のコピー。そこに見慣れない成分が微量検出された。そして事件当日の現場通信のボイスレコーダーのダビングがこのテープ・・・・」
「ボイスレコーダー?それは査問委員会で嫌というほど聞かされたわ」
「編集不十分のものをネ・・・・・・」
「不十分?」
 京香はPLAYボタンを押した。


【メディカルサイエンスセンター 正面玄関】


 インプレッサが勢いよく正面入口にタイヤを鳴らして急停止した。
「ふぅ〜爽快!雪ちゃんの運転すっごく気持ちいい!で、私はここの筒見とかいう先生のところに行ってPTなんとかの診断をしてもらえばいいんだ?」
「そうです。連絡はついているので8階のカウンセリングセンターの受付へ連れて行くようにと今朝、指令がありました」
「筒見先生っていい男?イケメン?流行のサイコドクターってやつかなぁ?」
「いいえ、女性です。私が先生のところまでお姉様をお連れします」
「女ぁ?な〜んだ、つまんないの!」
 その時、ナビに内蔵されたハンズフリーホンが鳴る。
「雪、出なよ」
「はい・・・・・・・、はい麻木です」
「こちら本部、国井。雪乃、いま病院についたようね」
「はい。これから陣内さんを筒見先生に引き渡すところです」
「そう、よかった。そっちは大丈夫だったのね」
「えっ?なんのことですか?」
「話しはあと、彼女を引き渡したら、あなたはPD(パドック:本署)にすぐ戻ってきて」
「はい。でも診療を終えた彼女を連れてそちらに来いと・・・・・」
「指令変更よ。今すぐ帰還。陣内さんは他の・・所轄かセンターの担当に言って搬送させる。だからあなたはすぐ戻ってきて!」
「はい、了解しました」
 助手席で瑠璃子が含み笑いを浮べていた。
「ふふ、緊急事態ってとこ?幕は上がった、世にも奇妙な事件第2幕の始まりね」
「えっ?」
「雪ちゃん、いいわ。私1人で行く。8階の筒見先生ね」
 瑠璃子は軽やかにドアノブに手をかける。
「あの・・・・でも引き合わせるまで私が付き添って・・・・・・・あん」
 瑠璃子は服の上から雪乃の胸を掴んだ。
「フフフ、感じる?」
「はぁぁぁっぁぁ〜・・・・・感じ・・ま・・きゃっ!きゃふん!」
 ミニスカートの中に入れた瑠璃子の手が妖しく動く。雪乃の手が瑠璃子の手を握る。瑠璃子の手が雪乃の手で止められた恰好だった。
「なんだ・・・やめてほしいの?」
「ちがう・・・ちがうの・・・・・もっと・・・・じかに・・じかに触って・・・」
 雪乃の手は瑠璃子の手を払おうとしたのではなく、もっと奥へ導こうとしていた。すでに昨日から今日のあいだに雪乃は瑠璃子によって性的な欲求にストレートな反応を示すまでに変わってしまっていた。
「Hな雪乃・・・・でも今はここまで。あなたは指示通り陣内瑠璃子を病院に送り届けたの。任務は終った、戻んなよ」
 瑠璃子は助手席を降りた。
「はい・・・・お姉様」
「戻ったら、そっちの動向を携帯で知らせて、メールでもいいわ。瑠璃子のためにね」
「はい、お姉さま。お姉さまのために私が得た情報はすべてお姉さまにお伝えします」
 インプレッサはゆっくりと走り出した。


【メディカルサイエンスセンター 研究室818 】


 デスクに置かれたスピーカーから物々しい銃弾の行き交う音声が弾けとび、奈津美と京香の表情を険しくさせる。
「伊部より総員へ!人命優先が至上命令、犯人グループの抵抗には極力致命傷にならない部位を狙って応戦し戦意を削ぐこと。無抵抗にした後に拘束しなさい!それが事件解決への突破口になると信じなさい。組織的な壊滅は犯人を生きたまま拘束して情報を引き出しネットワークを壊滅すること。忘れちゃだめだからね!」
 緊迫感がヒシヒシと伝わってくる。スピーカーから流れる自分の声から、あの事件を思い出して奈津美はさらに表情を堅くした。
「ふん、馬鹿じゃないの?相変わらず甘っちょろい女ね」
 人を小ばかにしたその声は紛れもなく祐実の声、しかも査問委員会では聞かされなかった言葉だった。京香はいったんPAUSEボタンを押した。
「あの当時チーフだったあなたは江梨子と副長の明智を組ませた。2人の間だけの会話は査問会上は『切迫した状況下で取り交わされなかった』という明智の証言が採用されたし、ローカルネット上のボイスレコーダーにも記録はなかったとされた・・・・・・・・・・・・・・・・・・・でも、実はあったのよ」
 京香はボタンを押して一時停止を解除した。
「江梨子聞こえる?あなた私が合図したら突入するのよ」
「はい、祐実様」
「私は後から入る。あなたは私のために盾となり、アイツらを撃ち殺しなさい」
「はい、撃ち殺します」
「躊躇しちゃだめよ、頭か心臓を狙って確実に1ヒットで殺しなさい。中にいるものは私以外全て敵だからね」
「はい、すべて敵です」
「私以外の命令は無視すること。私の言う事だけが絶対よ!私に従いなさい」
「はい、祐実様の命令は絶対です。祐実様の指示に従います」
「あなたは痛みを感じない、恐怖もない、私のために働く事があなたのヨロコビ」
「ヨロコビです」
「次の銃声が鳴り止んだら行くのよ!・・・・・・・・・・・・GO!」
 テープから音声が消えた。STOPを押して京香はテープを止める。奈津美は表情を固くして微動だにしなかった。
「通常・・・・・事件の全容とオペレーションが査問対象になる場合、このボイスレコーダーのやりとりは全無と呼ばれる無線装着者全員への会話と局部的な隊員間の2者・3者間のローカルネットと呼ぶ一部間のやりとりをすべて時系列に並べて編集構成された会話テープが証拠対象となる。でも、この会話は査問委員会で流されたテープには故意に入れられていない。なぜか?この会話は指揮系統を無視した1隊員が作為的に別隊員を従わせて作戦指揮をとったことを如実に物語っているから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・なぜ」
「しかも江梨子の血液から検出されたのは被暗示性の高い麻薬的成分!」
「ウソ!」
 奈津美は京香の言葉に唖然とする。
「ウソじゃない。恐らく過去に開発された試薬の一つがあると聞いた事があるもの。科捜研がらみのものだわ、覚えてる?美夜子の事件」
 京香に言われて奈津美ははっとした。同期の鷹野が隊を追われ、LSの不祥事と罵られた事件で問題になった薬物の記憶がよみがえる。
「・・・た、たとえば出血でその暗示性が薄れる事は?」
「十分考えられる、可能性があるわ・・・・・・・」
 奈津美の脳裏に救急車での会話が思い出される。聞き取れなかった江梨子の声が今はっきりと聞こえたような気がした。あのとき、恐らく江梨子は祐実の呪縛から解放されて傷んだと奈津美は確信した。あの救急車内の状況が脳裏を駆け巡る。

「いや、いや、死にたくない」
「バカ!江梨子のバカ!なんで・・・どうしてあんな無茶なことしたの?」
「私、どうして撃たれたの?」
「えっ何?言って、何なの?」
「私なぜ現場にいるの?」
 恐らく江梨子はそう言いたかったのだ。自我をとり戻した江梨子はきっと祐実の手に落ちた時からあの時までの記憶がきっと欠落していたのだ。
「よくやったわ、江梨子先輩。先輩の手柄よ。だからもう黙ってなさい」
 気管内挿入をするという救急隊員の声を無視して祐実はまるで江梨子の口を塞ぐかのように酸素マスクを江梨子の口に押し当てていた。

「江梨子は救急車の中でやっと祐実の呪縛から解き放たれたんだ・・・・・あの時、祐実のヤツそれが発覚するのを恐れて江梨子に無理矢理吸入器を押しつけて・・・・・」
 奈津美の独り言がさらに高回転で事件を再検証していく。奈津美の全身が怒りで震えるようだった。京香は険しくなる奈津美の表情が予想以上に彼女の神経を高ぶらせすぎたと半ば後悔した。
「いい?あなたはまだ動いてはだめだからね!」
 京香は奈津美に釘をさす。
「ここまで証拠が揃っていて何言ってるの?」
「だから大事なんでしょ、ギリギリまで明智に察知されないようにしないと!」
「・・・・・・・・察知?」
「下手にあなたに動かれたら、大事な証拠を奪い取られる可能性だってあるのよ」
「たしかに・・・・・」
「これが事実ならLSどころか警察機構内部を大きく揺るがす大事件だわ」
「わかった。100歩・1000歩・10000歩譲って、ここはあなたの言うことをきく。そのかわり必ず、必ずやってくれるわね」
「えぇ、約束する。だからあなたも無茶せずに、今は力を温存するのよ」
「ありがとう、来てよかった」
 奈津美は部屋をあとにする。扉のノブに手をかけた。奈津美の心のおくから怒りのエネルギーが湧き上がる。


【メディカルサイエンスセンター 8階廊下】


「ふぅーん」
 聞き耳を立てていた瑠璃子は人差し指で鼻の頭を掻いた。
「ちょっと、あなた何盗み聞きしてるの?」
 ドアを閉めて踵を返した瞬間、廊下の壁に寄りかかる女子校生と奈津美は目があった。
「人聞き悪いなぁ〜、私これから筒見先生の診察を受けるの!話し声がするんでわざわざ待ってたんだから」
「あなた、もしかしたら昨日の事件の・・」
「被害者ね、被害者!・・・の陣内瑠璃子でーす」
 おどけた表情で瑠璃子はピョンっと飛んで気をつけをした。
「いちいち騒がない!1人?誰かが一緒に来てるんじゃないの?」
「雪ちゃんが来てたけど、急用で呼ばれてさっさと帰っちゃった」
「雪ちゃん?雪乃のこと?」
「そう、その人。お姉さんも確か昨日現場にいたよね」
「悪い?」
 奈津美は祐実の件で機嫌が悪いまま、瑠璃子に対しても剣呑にあたった。
「えっ?別に悪いなんて言ってないじゃない。名前なんていうの?」
「なんであなたに名乗らなきゃいけないの?」
「いいでしょ、教えてくれても!私も名乗ったし」
「知らなくてもいいんじゃない?さっさと部屋に入ったら?京香はもういるわよ」
「お姉さん、いちいちつっかかるね、アノ日?ねぇ、言葉遊びしようか?」
「なによ、いきなり!私、あなたみたいにヒマじゃないの」
「今から私の言う言葉はあなたにとって本当になる。そしてあなたが言う言葉もあなたにとって本当になる」
「なに言ってるの?」
 瑠璃子はポケットから音叉を取り出して右手で壁を叩く。キーンという共鳴音が廊下に響く。ゆっくりと奈津美に歩み寄った。一瞬、奈津美は異様な雰囲気に襲われる。一瞬視界が狭まってまるで2人だけの異空間に閉じ込められたような錯覚を覚えた。
「ちょっと、なんのつもり?」
「今から私の言う言葉はあなたにとって本当になる。そしてあなたが言う言葉もあなたにとって本当になる。いい、よく聞いて・・・・・・」
 ゆっくりと近づいてくる陣内瑠璃子の表情はどこか異様で奈津美は背筋に冷たいものを感じた。
「ちょ、ちょっといい加減にしてよ。あなたの言う事になんか付き合ってられない!勝手にやってて、私は帰るわ」
 不敵に微笑んで近づく瑠璃子の肩を掴んでいなすようにしてよけた瞬間、今までの眩暈のような違和感からあっという間に周囲がもとのセンターの廊下に戻った。驚いていたのは瑠璃子の方だった、あっけにとられたように音叉をもった手が気落ちしたようにぶらんと下に落ちた。
「うわっ!そう来た?『あなたの言うことなんかに付き合ってられない』って言われたらもうこっちも打つ手がないよ、ゲームオーバー!お姉さんの勝ち・・・・はじめてだぁ、そんな切り返し!」
「あっそ!よかったわね、じゃあサヨナラ!!!」
 奈津美はさっと身を翻してそそくさとエレベータホールへと歩き去ってしまった。
「なんて扱いづらいヤツ・・・・。利用価値あると思ったのにな、でもチャンスはあるはず」
 頭をポリポリ掻きながら深追いせず奈津美の背中を見送る。廊下の話し声に気づいて京香が顔をだした。
「あら・・・・・あなたは今日カウンセリングを受ける予定の・・・」
「陣内で〜す。筒見先生ですか?」
「そうよ、よろしくね。話はきいてるわ」
「先生キレイ!わたし『瑠璃ちゃん』!」
「まぁ、陣内瑠璃子ちゃんね(このコ、すこし幼児返りしてるかも・・・)」
「先生、瑠璃・・ゆっくり先生とお話したいな」
「えぇ、恐いけど事件のこと、ゆっくり思い出しましょうね」
「うん!瑠璃うれしい!先生いくつ?」
 瑠璃子が京香の腕に抱きついて寄りかかるように体重を預けてくる。京香は押されるように部屋へと瑠璃子を招き入れた。
「えっ?えぇ・・・歳なんか聞いてどうするの?ウフフ、27よ」
「うわっ、すごいね。それで犯罪カウンセリングの主任主治医だなんて!エリート!」
「どうして知ってるの?」
「ここに来るのにそこの受付で聞いたー!」
 京香は瑠璃子を部屋の中央にあるソファに座らせた。



【異変:チーム6 スタッフルーム】


「ちょっと、どういうこと!ふざけるのもいい加減にしてよ!」
 雪乃がPD(パドック:本署)に戻った時、祐実のヒステリックな声が響いた。怒りの対象は前に立たされた石原に向けられていた。
「で、ですから説明した通り、2人の協力が得られませんでした」
「どうして!」
「言いにくいのですが2人とも、事実を否定しています」
「売春をしていないということ?」
「そうなんですが・・・・・・・それよりも・・・・・・」
「それより・・・・・なに?はっきり言いなさいよ!男でしょ、あんた!」
「新宿にいたこと、警察の突入により身柄を確保されたこと、取り調べを受けたこと、私の顔さえ覚えていない、いやちがう、本人達の言い分からすれば知らないというんです」
「何ですって?全否定じゃない、それじゃ!」
 周囲がざわつく。皆がそれぞれにお互いの顔を見合わせた。
「それどころか、昨日まで軽井沢に旅行へ行っていたと」
「ウソでしょ、寮母はどうしたの?昨日身元確認で連絡とったのあなたでしょ!」
「寮母も深夜に警察からの電話も受けていないし、2人が旅行から帰って夕食を寮の食堂で済ませたとまで証言するありさまで ・・・・・・」
「間違いなく昨日の2人なんでしょうね」
「はい、名前も確認し、出て来た2人は間違いなく昨日の2人でした」
「でも本人達は覚えがないと・・・・・?」
「はい、その通りです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「寮母もグルとか?もしなんなら電話の通話記録をもとに再度聞き込みに行きますか」
 樹里が不機嫌にイラつく祐実の間に入って石原に言った。
「かもしれない、でもあの2人の怒りようったら名誉毀損で訴えかねないほどの凄まじかったよ。あれはマジで怒ってた。しかも、昨日の軽井沢からの帰るまでをしっかりと話しするし、軽井沢の大学の保養所も電話確認して確かに昨日まで居たっていうんだ」
「まさか大学の隠蔽工作?それともなりすました別人がいるってこと?」
 樹里は怪訝そうな表情になる。それは石原も同じだった。
「わかりません。でも、すいません・・・・・・・・任意同行は拒否されました」
「なんなのよ、一体?昨日の調書や取り調べの同意書にサインした直筆のサイン、身分照会に撮った写真、学生証の写し全部見せてやんなさいよ!昨日の・・しかも今からだってほんの数時間前までここの取調室に居たって事を見せつけてやんなさい。ぐうのねもでない証拠をみせて無理矢理にでも連れてらっしゃい!」
「それが・・・・・・・・」
 涼子の顔が曇る。
「どうしたの?」
「ないんです。昨日の調書一切合切すべて消失して・・・すいません!」
 涼子が頭を下げたまま顔を上げない。
「なんですって!ふざけないで!誰が最後にしまったの?まとめてどこかに置いてあるんじゃないの?よく探した?」
「チーフが来る前に全員で探しました。思い当たるところすべて・・・・・」
「麻衣子、言うのは簡単よ。もう一度よく探しなさい。昨日の最後は誰?今朝の一番は?」
「昨日のラストは私です」
 奈那が一歩進み出た。
「今朝は私です」
 麻衣子が表情を変えずに手を上げた。
「・・・・・・・・・・2人とも、あとでチーフ室へ。責任をとってもらうわ!」
 祐実は憎しみを込めた目で2人を睨みつけた。その時、デスクの電話が鳴った。
「チーフ!」
 涼子が受話器を祐実に向けた。
「なによ!今出てるヒマはないわ!あとにして!」
「いえ、あの・・・統括部局長から、伏見局長から、すぐ来るようにと・・」
「チッ・・・・・・・・なんてタイミングの悪い!」


【異変】


 京香の聞きたいことに瑠璃子は話を常にはぐらかせていた。カウンセリングのラボに行くことを拒み、京香の研究室から出ようとしなかった。京香のデスク脇に置かれたフォトスタンドを手にとってはしゃいでいる。
「これ先生のカレシ?先生と同じ歳?年上?カッコいいー!これスワット(特殊急襲部隊)の制服でしょ?」
「あっ・・あなた!だめよ、勝手にヒトの机の上をいじらないで。写真みないでくださいな!」
「いいじゃん、カタイこといいっこなし。先生、このヒトにぞっこんなの?それともこのヒトが先生にベタぼれ?ビビビってきたの?」
「大人をからかうもんじゃないわ、もう」
「からかってなんかないよ。先生、きっといい恋してるんだろうなぁ〜って思ってさ」
「あなただってそんなに可愛いならカレシの1人や2人いるでしょ?なのにヒトの詮索するなんていけないコ」
 京香はフォトスタンドを瑠璃子の手から取り戻すと諭すようにツンっと瑠璃子の額を小突いた。
「私は女子校だから男の子と知り合う機会なんてチョー低いのにできるわけないじゃん」
「何言ってんの!新宿で遊んでてラブホテルにまで入ってたひとが言う台詞じゃないわね。でもあなたにだってきっと『運命のヒト』現れるかもよ」
 京香は優しく微笑みながら少しづつ事件に触れるように話題を切り出していく。
「ふ〜ん、先生にはそのヒトが『運命のヒト』なんだぁ〜」
 ちょっとはにかんで京香はこくりとうなづいた。事実、ツヨシとの交際はすでに2年半になる。京香の方が彼にがゾッコンだった。瀕死の状態でセンターに運ばれてきたツヨシの回復後の心理面ケアを任されたのが縁だった。彼のフォトスタンドを机に戻した瞬間、電気にはじかれたようにある思いが京香に湧いた。
 (そういえばツヨシは最初の頃にいつも言ってた。『自分は特別なセクトにいるから全てのことをキミに伝えることはできない。隊の存在、その外見、任務その全てが超1級の極秘事項だから』と)
 京香は慌てて振り向いて瑠璃子にまくし立てるように問いただし始める。
「ちょ、ちょっと待って!スワットの制服ってコト、なんであなたが知ってるの?スワットの存在はそれ自体超1級の機密事項なのに」
「いいじゃん、カタイこといいっこなし。LSなんかおおっぴらじゃん」
「LSは発足自体がPR活動が発端のマスコットチームだったからよ、ねえ!なんで?スワットのこと・・・・・・」
「まあ、いいから、いいから。ねぇ、先生。もっともっと燃え上がるような恋、してみたくない?『運命のヒト』がぶっとんじゃうような・・ウフフ」
 ソファから立ち上がった瑠璃子は京香のデスクの上に腰掛けていた。
「ねぇ、瑠璃子ちゃん。私の仕事は、あなたが事件で心にどれほどのキズを負ったのかを診察して報告することなの。そして、あなたの心のケアをしてあげたいと思ってる。話をこれ以上はぐらかさないで。ラボへ移りましょう、そこの方がきっと落ち着くわ。あなた、気が散ってるのか、さっきから私のことばかり聞いてるわ」
「そうだよ、だっていきなりそんな話、瑠璃困っちゃうもん、面白くない」
「本当にそう思ってる?それとも事件のこと思い出すのイヤかな、苦痛かな?」
 京香はペースを瑠璃子にかき回されながらも、落ち着いて話を核心へと導くように努めた。
「ねぇ、言葉遊びしよ?」
「えっ?言葉遊び?」
 瑠璃子の言葉に京香はまたペースを乱される。
「よく連想ゲームから話の本質を探っていく方法があるでしょ?それやろ〜よ」
(このコ、今まで相手してきたクランケとは何か違う・・・多動なだけ?)京香は驚いた。
「今から瑠璃の言う言葉は京香先生にとって本当になる。そして京香先生が言う言葉も先生にとって本当になる」
「どういうこと?」
「京香先生、カウンセリングはまず「相手の話を聞く」ことが大事なんだよね」
「えっ、・・・えぇ、そ、そうね」
「だから、先生はよく聞いて、しばらく瑠璃のペースに合わせてくれなきゃ。じゃないと瑠璃、先生をキライになっちゃうよ。これはゲーム、ゲームなんだから」
「えっ・・そ、そうなの?・・・おもしろそうね、興味深いわ。言って、聞いてあげる」
「京香先生、「聞いてあげる」じゃないよ。「聞かせて」って言うの」
「えっ?えぇ、わかったわ。瑠璃子ちゃんの話、聞かせて」
「『お願い』は?ちゃんと瑠璃にお願いしないと瑠璃も先生に協力しなくなっちゃうんだから!」
「・・・お願い。(やれやれペース狂っちゃう・・・・)これでいい?」
 京香は瑠璃子に乱されるカウンセリングのペースに、とうとう呆れた表情を浮かばせた。
「フフフ、いいよ。きっと気に入る。とてもおもしろいんだから・・・・・」
 瑠璃子はソファには座らず、京香のデスクチェアを引っ張ってきて、京香と向かい座った。瑠璃子は京香の横に直角になるように座った。
「京香先生はこれから瑠璃がいいというまで席を立っちゃだめだよ。京香先生は瑠璃のカウンセリングをするんだから責任感の強い京香先生は瑠璃がいいというまで席を立たない。約束してね。まずこれが瑠璃との約束パート1」
「いいわよ。約束するわ、瑠璃子ちゃん」
「瑠璃の言うことにイヤって言っちゃだめよ」
「えっ、そうなの?なにを聞かれるのかなぁ?」
「だめ、先生は質問しちゃだめ!質問するのは瑠璃がするの!だから先生は答える人!わかった?イヤって言っちゃダメ!先生はイヤとは言えない、約束パート2」
「うーん、わかったわ。イヤって言わない(しばらくこのコのペースに合わせるか。距離感を縮めて機嫌をとってあげないと離れていくタイプのようね、高校生にしてこの子供っぽさは赤ちゃんがえりの症状かもしれない)」


「わたし、瑠璃ちゃん。京香先生にもかわいいお名前つけてあげる」
「あら、うれしいわ。なんてつけてくれるの?(このコ、やっぱり喋り方に稚拙なところがある。本人は気づかないかもしれないけれど、赤ちゃんがえりの傾向かもしれない)」
 京香は瑠璃子のお遊びにあわせながらも、冷静に瑠璃子を観察していた。
「 ブッブー、先生は質問できません!先生は質問できません!瑠璃がいいって言うまでもう質問できなくなりました。先生はもう質問できません、約束パート3」
「あっとイケナイ。ごめん、ごめん、でも私から瑠璃ちゃんに聞きたいこともいろいろあるのよ。だから先生にも質問・・・・・・・・・・・・・・・」
「 ブッブー、先生は瑠璃のことで注文はできません!先生は瑠璃に命令できません!瑠璃のいうことを先生は必ずききますが、先生は瑠璃に命令はできません、約束パート4」
「え〜っ、ひどいわ、それじゃ先生お仕事できないもの。じゃあ、この遊びに付き合ってあげることはできないわ。ね、瑠璃ちゃんお願いだから、先生にも(瑠璃ちゃんのこと教えて)・・・・・・・・・!!!!!!!!」
 一瞬、耳を疑った。『瑠璃ちゃんのこと教えて』のフレーズは全く声が出ずに口をパクパクするだけだった。
「センセ、ありがと。もう瑠璃との約束守ってくれてるんだね。約束パート4、先生は瑠璃に命令できません!今、きっと、先生は瑠璃になにかしてもらおうと思ったんでショ。えへへ、ダメだよ。約束に違反したら遊びにならないじゃない?だから声が消えちゃったんだ。
「ま、まさか・・・・・・・!」
 再び、声はでた。
「いいよ、約束を守っていれば先生は声でるよ」
「ちょ、ちょっと!あなた、瑠璃子ちゃん!(あなた私に何をしたの?)・・・」
「は〜い、また口パク・・・・・・・・フフフ慣れたかな、この遊び」
「わ、私、一体・・?」
「言ったでしょ?『今から瑠璃の言う言葉は京香先生にとって本当になる。そして京香先生が言う言葉も先生にとって本当になる』って」
「そ、そんな、そんなことって・・・・・・・」
「先生は瑠璃の言った約束を守ると言った。先生の言う言葉、本当になったでしょ」
「まさか、そんなことって・・・・」
 京香の顔色が変わる。
「遊びだよ、遊び!焦んなくていいから、瑠璃にちゃんとあわせてよ!京ちゃん」
「・・・・・・・・・・・・・」

「瑠璃ね、瑠璃ね、先生のこと、すっごく好き。だから京香先生も瑠璃のこと好きになって。好きになってくれる?なるよね!ねぇ、瑠璃子がスキだって言ってぇ、ウフフ」
 瑠璃子の凄みに京香が圧倒された。
(瑠璃の言うことは京香先生にとって本当になる)京香の脳裏に瑠璃の声が響く。
「は、はい、私は・・瑠璃子ちゃんのことが好きよ」
 そう言った瞬間、京香は胸の奥がキュンとなるような感覚を覚えた。
(あれ・・・・・なんだろう?今の・・・・・か・ん・か・く)
 考えている間もなく瑠璃子は京香の手を握って質問をまくしたてる。
「京香先生、瑠璃のこと好き?大好き?いっぱい、いっぱい好き?ねぇスキって言ってよぉ!言ってくれると瑠璃も嬉しいし、先生もすっごく幸せな気分で胸ときめいちゃうよ、胸キュンっって!」
「え、えぇ、好きよ(キュン!)大好き(キュン・キュン)」
(な、なに、ちょっと、何?錯覚じゃない、なんなのこの感覚?ま、まさか・・・、なんで私この子の言うとおりのことを言ってしまうのっ!?)
 京香は先ほどの瑠璃子の言葉を思い出して凍りついた。
(「言ったでしょ?『今から瑠璃の言う言葉は京香先生にとって本当になる。そして京香先生が言う言葉も先生にとって本当になる』って」・・・・・まさか・・そんな・・・)

 瑠璃子に握られた京香の手の上を指で、瑠璃子はゆっくりと一定のテンポで叩いていく。
「いっぱい、いっぱい好きだよね」
「え・・・・・・・・・」
「答えなきゃだめ!京ちゃん、京香先生はこれから『京ちゃん』ね。京ちゃんは瑠璃のこといっぱい、いっぱい好きになる。すっごく好きになるよね、ね、はい言って」
「ちょ、ちょっと・・・(待って)・・・」
 胸の鼓動が周囲にまで聞こえてきそうなくらい響いていた。
(私・・・・動揺してる・・・なぜ?・・・・)
「だめ!答えるの!『京ちゃんは瑠璃のこと大好き!』ほら、もうお口から言葉がこぼれるよ。京ちゃんは瑠璃のこと大好きなんだから、ホラ!」
「き・・・・きよ・・・京ちゃんは・・・・・」
 まるで自分の中にもう一人の自分がいて勝手に動き出した、そんな奇妙な感覚を京香は焦りをもって感じていた。
「そう、いいわよ。京ちゃんは・・どうしたのかな?ウフフフ、さあ言ってみて『瑠璃のことが大好き』」
「・・・瑠璃・・ちゃんのことが・・・・大好き(あん・・!)」
 そう言った瞬間、京香はえもいわれぬ切ない気持ちに襲われて自分の胸を抱いた。胸の奥が張り裂けそうな切ない感情に襲われ、瑠璃子の顔から目がそらせずにいた。
「は〜い、よく言えました、ホラいった途端胸のつかえがとれてすごく気分が良くなったでしょ。もう一度言ってみて、そうすると京ちゃんはますます瑠璃子のことが好きになって、ますます気分が高ぶってくるよ。ウフフフ、まるでセックスでのぼりつめるように」
 そういって瑠璃子はイタズラっ子のような含み笑いを浮かべた。
「京・・京ちゃんは瑠璃ちゃんのことが・・・大好き(ふ、ふ〜ん)」
 言うたびに京香の顔がにやけた。それも自分でコントロールできないもうひとりの自分が勝手に京香の表情をだらしなく緩ませているような感覚だった。
「もう1回言ってよ」
(やめて・・・・・やめて・・お願い・・・助けて・・・・いや・・いや・・)
「うふっ、いいよぉ〜その表情、心の奥はパニック寸前。ウフフ、でもね京ちゃんは瑠璃ちゃんのこと好きなんだよ、大好きなんだからね」
 すでに心が表情に表れない、それが自分でもわかる。
(なぜ?どうして?わたし・・こわいのに・・なんで笑ってるの?いやーっ!言っちゃダメ!ダメダメ!京香!京香ーっ!ダメよ、自分を失ってしまう!口に出して言ったら本当に私このコを好きになってしまう・・・・いやよ!こわい!いや!助けて!)
「もう1回」
「京ちゃんは瑠璃ちゃんのことが大好き」
 京香は自分のことを京ちゃんと呼ぶことに抵抗を感じなくなってきた。
「もう1回!でっかーい声で!」
「京ーちゃんはーっ!瑠璃ちゃんのーっ!ことがーっ!大スキーっ!」
(なに!なんなのぉーっ!このコ、このコがかわいい!好きっ!抱きしめたい、このコの声も、仕草も、笑顔なんか向けられたら・・・・・あぁぁぁっぁたまらないぃぃ、切ない、どうして・・・どうして!)
「ほら、大きな声で言ったら、すかっとしたでしょ。京ちゃん、気持ちいい?」
「うんっ!京ちゃん気持ちいい!」
(ち、ちがう、ちがうわ、私、どうかしてる!心のどこかが酔ってる、暴走してる・・)
「京ちゃん、どうしたの?とても心ぼそい顔してるよ、フフフ」

(危険・危険・危険!恐い恐い恐い自分が恐い・・・・自分が自分でなくなるような・・・いけない、いけない、このままではイケナイ!だめ、逃げないと・・・・このコから逃げないと!)
 京香は足を突っ張って立ち上がろうとした。足に力は入るものの腰は全く椅子から上がらない。
「ダメだよ、京ちゃんは瑠璃が言うまでは席を立たないんでショ!」
(な・・・なんてこと、このコに私・・・・まさか・・・)
「もう一度言って!瑠璃のことどう思う?」
「・・き・・は・・・る・・・の・・」
「だめ!聞こえない!大きな声でいうのよ!言ったでしょ!瑠璃の言う言葉は京ちゃんにとって本当になる。そして京ちゃんがが言う言葉も京ちゃんにとって本当になるって」
「京ちゃんは!瑠璃ちゃんのことがスキー!」
「そう、京ちゃんは瑠璃ちゃんのことが大好きだよねーっ!」
「うん!」
(ち・・・が・・・う・・・・・ち・・・が・・う・・・わ・・・た・・し・・は・・)
「京ちゃんは瑠璃の大事な友達よ、京ちゃんは瑠璃の笑顔を見てるとうれしくなる。うれしくなって京ちゃんももっともっと笑顔になる。そうだよね」
「うん!京ちゃんは瑠璃ちゃんのことすき〜、大好き〜」
 瑠璃子の言葉に京香はすぐに反応した。
「今ね、京ちゃんの気持ちの中で、ずっとずっと奥で戸惑ってる京ちゃんがいるの」
「・・・・・戸惑ってるの・・・?」
「でもね、これから瑠璃が京ちゃんのお胸をツンっと押すと京ちゃんの悩みや戸惑いはパァーっっと消え失せちゃうんだから!このお胸のスイッチ押すと京ちゃんは瑠璃にとって言うことを聞くとってもいい子になるのよ、ソラ!つん!つんつん!」
(いやぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!!!!!!)
 京香の心の奥底の闇になにか大切なものが沈んでいくのが今の京香には、もうわからなくなっていた。
「フン、カウンセラー?呆れ返るわ、こんな簡単な子供だまし堕ちて自分を失くすなんて・・・・・。あんたのカウンセリングなんて受けたって何の役にも立たなかったかもね」
 うつむき加減の京香の顔を人差し指で顎を引き上げる。京香は無邪気にニコニコと微笑んでいた。
「あんた、馬鹿ァ?私ちゃんと逃げ道を用意しておいたのよ。『あなたのいう言葉も本当になる』んだから、ちょっと考えればさっきのオンナのようにすぐ私の手から這い出せたものを・・・・、あなたの思慮のなさがいけないんだよ。そういう思慮のない人は遠慮なくいただくわ。カウンセラーとして役立たずでも、私にかかれば十分役立つおもちゃになるわん!」
 瑠璃子はゆっくりと京香の耳元に口をよせた。
「京ちゃん!京ちゃんはね、瑠璃姉ちゃんがこうやって指で京ちゃんのお手てを叩いていくとどんどんどんどん瑠璃姉ちゃんのことが好きになっていきますよ〜、とても気持ちいいですぅ〜、気持ちがどんどんどんどん子供になっちゃうよ〜」
「あん、あん、ああん・・・・・えちゃん・・・おねぇちゃん・・・・・瑠璃お姉ちゃん」
 でれでれと締まりのない顔が屈託のない子どものそれに変わっていく。
「よく言えましたねぇ、そう、わたし瑠璃お姉ちゃん、あなたの大事な大事なお姉ちゃんよ。京ちゃんはコドモだからなんでも瑠璃お姉ちゃんの言うことを聞かないとだめなのよ〜」
「・・・・・・は〜ぃい、京、京、瑠璃お姉ちゃんがいっちばん大事なおねぇちゃ〜ん・・・・」
 無邪気な子どものような屈託のない笑顔とあどけない表情で京香は瑠璃子にすがりついた。
「そう、京ちゃんは瑠璃お姉ちゃんの魔法のおかげでとっても楽しい気分。でも、オトナに戻った京ちゃんも、もう私の言うことは必ず聞くの決して逆らわない。それは瑠璃子が京ちゃんを気持ちよくさせてくれるただ1人の大事なお姉ちゃんだからだよ、いい?」
「はぁぁ〜い。京、気持ちいいのだ〜いいすきぃ!お姉ちゃんのことも大大大だいだいだいすきーっ!」
「オトナだった、さっきまでの京ちゃんを覚えているわね」
「はぁぁ〜い」
「見てみて!京ちゃん、ほぉら!京ちゃんはオトナのれっきとしたレディよ。立って、立ってみて、立って自分をよく見てごらんなさい」
 先ほどまで足にいくら力を入れてみても立ち上がれなかったのに、京香はすっくと簡単に立ちあがった。
「すらっとしてて、背も高くって!顔もかわいいし、ほらお胸もボインだよぉ!触ってみなよ!」
「うん・・・・」
 京香は言われるままに胸をもみ始めた。およそ官能からは程遠い稚拙な動作だった。
「さぁ、きょうちゃん!京ちゃんの体はもうオトナなのよ。京ちゃんはオトナのオンナ、なりたかったなりたかった憧れのレディ!思う存分触ってごらんなさい、オトナの女の人は胸を揉まれると感じるのよ。さあ、京ちゃん、思い出しなさい、胸を揉むと感・じ・る。自分でカラダを初めていじった、感じた歳まで京ちゃんはゆっくりと戻ってくるわ。京ちゃん、いくつ?」
「はっ・・・・はうっ・・・・・・んん・・・・・じゅ・・・・・14・・」
「フフフ、カラダが初めて感じる快感に敏感に反応している、悦んでる、京ちゃんのカラダがとっても、とっても悦んでるよ」
「うんんんん・・・・・あふん・・・・ふぅ〜ん・・・・」
「もっと触りたい、直に触りたい。感じてる、どんどん、どんどん急激に昇りつめてるよ。感じなさい、もっともっと。そうするとうれしくてうれしくて仕方なくなって、あなたの右手はもう一つの感じるところへ移ってゆく・・・・・」
 熱い吐息がこぼれ始める、全身がまるで別々の生き物のように艶めかしく動いていく。ゆっくりと内股に、そして擦り合わされた両腿のあいだに滑り込むようにゆっくりと右手が動いていく。それを見定めて瑠璃子は口を開いた。
「京ちゃん、あなた、今いくつ?あなたが自分でカラダをさわったのいくつ?」
「京香・・・・・17・・・」
「・・・・・もう、京香は物足りなくなって来たよ。足が開く、直接触りたくって仕方ない」
 瑠璃子はしばらく京香を眺めていた。足は大きく開かれ、スカートの裾が開脚に合わせて持ち上がっていく。濡れた下着があらわになってシミができている。その上を京香の右手が強く強くうごめいている。
「・・・・京ちゃん、ここはベット、17の頃のあなたの部屋よ。誰もいないあなたの部屋。我慢できないくらいあなたは感じているわ。もう1分も我慢できない、横になりなさい、服を脱ぐのよ。好きなだけ触りなさい、自分で自分を慰めてあげるの。少しもイケナイコとではないわ」
「うん・・・・・・・」
 言われるがままに京香は机に上をベットと思い込み、瑠璃子の目の前で横になるとするすると服を脱ぎ始めた。
「声を出していいゎ、声を出すの。いいえ、声が自然と出てしまう、周りは一切気にならない。あなただけの世界であなたはとってもリラックスできる」
「あん・・・・・ああん・・・・・いいいい・・・・あふん・・・あんんんん・・・」
 京香の右手はすでにヌルヌルに湿っている。腰はゆっくりとグラインドしていた。
「あなたは思っている、大好きなヒトのことを思って、我慢できずに自分に触れた。あのヒトのことを思うと切なくて恋しくていてもたってもいられない。こらえきれずにあなたはカラダに触れたの。それがとても気持ちいいわ、気持ちよくて気持ちよくてシカタナイ」
「・・あん・・・ふん・・・いい・・いい・・・・・きもちいい・・・・・」
「あなたはそのヒトの名を口にする切なくてあのヒトのことを思うと口に出てしまう」
「あふん・・・・あ〜んんん・・・あん・・・ナオく〜ん・・・ナオ〜・・・」
「フフフ、その頃付き合ってたのナオ君っていうんだぁ。じゃ、それ頂きね!京の初めてのヒトの地位を瑠璃がいっただっきま〜す。京、よくききなさい。違うのよ、あなたが恋焦がれていた相手はちがうの」
「あん・・・・あふん・・えっ・・・なんで・・・ああああああん・・・・・」
「そのヒトの名は、『瑠璃子』、「瑠璃子お姉様」よ。はっきり口に出して言える。大事な大事なヒト、あなたの命、あなたのすべて、ほら目を開けて目の前にいる。瑠璃子のことを、瑠璃子のことだけを思って自分を慰めなさい。ほら誰?あなたの欲しいヒトは誰?」
「あん・・・・あ〜ん、あんんんん、おねぇさまぁ・・・・瑠璃子おねえさまあああああ」
「ゆっくりと戻ってくる、でも熱いカラダはそのまま。18歳、19歳、20歳、ゆっくりと戻ってくる。でもあなたの熱く濡れきったオンナはまだ我慢できないくらいくすぶっている。自分で自分をどうしようもないくらい、ほら思い出しなさい、あなたが最近イッたのは?時間がゆっくりとゆっくりと、でも確実に戻ってる。ほら、あのヒトはココ、目の前にいるわ」
 京香の涙目になるほど潤んだ目の前に先ほどのスワット服のカレシの写真盾を置いた。
「さあ、いまもうあなたはあのヒトと一緒になる寸前、うれしくってうれしくってたまらない、いつもあなたは全身で悦ぶの、今日は特にとっても感じやすくなってるのが自分でもわかる。今日は今までで考えたこともないくらいイッてしまいそう!あなたは早くしたくて仕方がない、早く入って来て欲しいよね、さあ、呼びなさい、はやくとせがみなさい。名前をよんでせがむの『早く』って!」
「ツヨシ、ツヨシィ、ねぇツヨシ、はやく、はやくぅぅぅ」
 京香の目は濡れそぼって両手を広げ迎え入れるように瑠璃子に向けられている。
「フフフ、お願いしなきゃ。『い・れ・て!』」
「ふぅ〜ん、イジワルぅぅぅぅ、いれて、ツヨシぃ〜・・・・早くいれてよぉぉぉ」
「むふふ、最後の仕上げといきますか。差し替えなくっちゃね。京香、ツヨシではないわ、ツヨシって誰、あなたはツヨシなんて男、知らないのよ・・いいえ憎悪するようになる、憎い!憎い!ホラ、ツン!」
 両手を差し伸べたまま全裸で京香は表情を曇らせた。迎え入れるべき相手の名がでない。誰を迎え入れようとしていたのか・・・目が宙をさまよい思考がぐらつく。
「さて、と・・・・はい、京ちゃん、あなたは自分がオンナであることをを知った時から瑠璃子にゾッコンだったのよ。あなたの大事なヒトは過去も未来も唯一ひとり、このわ・た・し。あなたの好意は、どんなものであれすべてこの瑠璃に対するものよ!あなたの相手はこの私、この瑠璃子があなたの、す・べ・てっ!それっツンっと」
 呆けた表情の京香の額を指で軽くツンっと瑠璃子は弾いた。京香の記憶が一瞬にして書き換えられていく。
「あっ・・・ああっ、あああああああああお姉様ぁぁ、瑠璃子お姉様ぁぁ!イカせて・・・・いつもにようにイカせて・・・!」
 ぎゅうっと瑠璃子を抱きしめる京香は半ば半狂乱に叫んだ。
「ふふ、置き換え完了!いつものようにってどういうカンジぃ?」
「あん、イジワルしないで、京香を感じさせてぇ〜」
「京ちゃん、京香、あなたいくつ?」
「・・・・・・・2・・・7・・・・」
「フフフ、おかえり、京ちゃん」
「・・・・はやく・・・はやくっぅぅぅ」
「一瞬でイク、イクと同時にもうお前は私のことしか考えられない。京香はそのカラダも精神もすべて瑠璃子のもの。お前はもう私の奴隷だ。私の指がお前を貫いた時、お前は今までにない快感に果て、目覚めた時に始めて目にするこの私を隷属すべき主として迎え入れろ。すべては陣内瑠璃子のためにお前は存在する」
 まるで別人のような高圧的な重い口調で瑠璃子は囁いた。
「あぁぁ、あん・・・ああああん、お願・・い・・イれて・・・イかせて・・」
「フフフ、このゲームあなたの負けね。さぁ、おゆき!」
 瑠璃子は右手の指をなぞりながら中心へ一気に入れると、指を動かし這わせ引き抜き刺してあらゆる動きを目まぐるしく動かし続けた。
「いやぁーっっっ、あーーーーーーーーーっいっ・・・・・くぅぅうぅぅぅぅ、イッ・・ク〜イク・イク・イク〜、ああああああああああああああああああああーっ」
 全身を痙攣させてしばらくの間のたうつようにもがいた京香はやがて汗と愛液で全身ぐっしょり濡らせて机の上に果てた。ピクン・ピクン・ピクン・ピクン・・・・腰が別の生き物のように、まるで電気ショックでも受けているように痙攣が止まない。
「さぁ、京ちゃん、あなたは今現在の筒見京香に戻ったよ。目の前にあなたの小さかった頃から、そして今も、そしてこれからも、あなたにとって大事な大事なヒトがいる。京ちゃん、いまあなたはようやくそれを思い出した。あなた、いくつ?」
「27」
 目を閉じたまま、こやかな笑顔になってはっきりとした声で京香は言った。
「さあ、起きなさい」
 ゆっくりと顔が上向く。濡れた机の上に京香は全裸の上半身を起こした。
「おはよう、京ちゃん」
「おはよ・・・・・ご・・ざいます」
「わたしは誰?」
「・・・瑠璃子・・・・瑠璃子おねぇさま・・・わたしの・ご主人さ・ま・・・」
 そういって京香は床におりてまるで猫のように瑠璃子の足の甲に頬擦りした。
『どんなもんだい』そんな得意げな表情で瑠璃子は指で鼻の下を擦った。
「遊びはこれでおわりっと」
「・・・・・・・・」
「京、あなたにはこれから働いてもらうわ」
「はい・・・瑠璃子お姉様、よろこんで」
「昨日の事件の関係で知っていることを全部教えて」
「昨日の事件では、墜死した犯人の検死と錯乱状態で運び込まれた所轄警官男女2名の収容。それも併設の病院が行ないました」
「ふーん、あの2人となりにいるんだ・・・・・どこ?」
「病棟Aの6階個室です」
「京の知ってること全部教えてもらうわ。LS6の全員の個人データ、あなたなら手に入るでしょ」
「はい、すぐに」
「それから、PTなんとかの診断は問題なしで報告してよ」
「はい」
 京香は立ち上がると間に合わせに白衣だけを羽織ってヒールを履いた。ほとんど全裸のアンマッチな格好のまま端末機の画面を展開し始めた。
「京、これなーんだ?」
 京香にスワットのカレシの写真の入ったスタンドを持たせる。京香は黙って受け取ると、それを見た瞬間むっとして思い切り床に叩き付けその顔の部分をヒールで思い切り踏み潰した。ガラスがピシっと割れる。
「スキもキライも表裏一体ってことだよね、私なんかに操られて愛を忘れるくらいじゃ京の愛なんてのも、くだらないドラマみたいなもんだったってことかな・・・・・。ま、私の力に勝てるヤツなんてそうそういるとは思えないけど・・・・・・カウンセラーだか心理学者だか知らないけれど所詮は私の敵じゃないね、意気込んで来たけどヤワ!期待外れもいいとこだわ。もっと闘いがいのある相手かと思ってた」





【新たな線】



 統括本部局長、レディースワットの各チームの統括責任者のポストである。レディースワットが組織内の純然たる捜査チームとして認知されて8年目を迎えた昨年4月、その管理職ポストはキャリア・ノンキャリアを問わず、LS経験者から抜擢された。伏見紀香(ふしみのりか)は、LS発足当初からチーム1のチーフとして実績を上げたノンキャリアの叩き上げだった。31歳、凶悪犯との格闘で瀕死の重傷を負いながら解決した事件を機に組織は彼女を第1線から退けてシンボリックでかつ経験豊富な局長のポストを用意したのだった。LSの特徴はこの局長から隊員までが狭い年齢層の中にいる女性ばかりの組織となっていた。未だにあのユニフォームで現場に飛び出したいという気持ちが強かった。この重くのしかかる制服に不似合いさを感じながらも、今以上にLSを警察機構の中枢として認めさせていきたいという気持ちから新たな責務を感じていた。局長室のガラス越し、眼下に広がる新都心を見下ろして思索にふけっていた。
「チーム6、明智祐実です」
 インターフォンから祐実の声が入る。
「入りなさい」
「失礼します」
 祐実は堅い表情で紀香の近くに歩み寄った。
「お座りなさい」
「いえ、すぐ仕事に戻りますから、要点だけを簡潔におっしゃって下さい」
「相変わらずね」
「話を」
「私は座らせてもらうわ。だからあなたも座りなさい」
「・・・・・・・・・・」
「こんなことまで命令しなきゃ、あなたは動かないの」
「・・・・・・・・・」
 目をそらせ、すねた表情を隠そうともせず、ドサっとソファに身を任せた。
「昨夜の事件、ご苦労様でした。一般市民に怪我もなく・・・・」
「やめてよ。グスタボは取り逃がした上に墜死、事件の真相は未だもって解明されないまま組織の糸口が途絶えてしまった。報告書のメールが行ってるはずです!局長はそれを責めたいんでしょ」
「勝手にすねてなさい。本題に入らせてもらうわ、今回の事件で情報漏洩の疑いが・・・」
「なんですって?」
「それから死体は別人だと判明したわ。カルロス宮城、ブラジル国籍の自称貿易商。それが墜死した男の正体。グスタボは同時刻に吉祥寺で目撃されてる」
「吉祥寺?」
 紀香はテーブルの上に1枚のディスクを置いた。
「昨夜、吉祥寺で風営店の一斉取り締まりがあった。あるビデオ販売店が摘発されたんだけど、グスタボの息のかかった店だったらしい」
「アハ、ビデオ店、グスタボが?売春だけかと思ったら・・・・・金になるならなんでもするのね。そこでこのDVDが押収されたってわけ?何が映っているのかしら・・・・」
「グスタボは度々来ては裏盤と呼ばれる無修正アダルトソフトの原盤を置いていき、コピーさせては店で売らせていたそうよ。2ヶ月足らずで純利500万にもなったとか」
「まぁ、スゴイ。所轄はそれを黙って野放しにしていたわけ?」
「所轄はグスタボをただの運び屋と認識していたそうよ。事件後の照会と摘発した店の主人から間違いなくグスタボと判明したわ」
「これだからノンキャリは・・・・・・」
「やめてよね、その馬鹿にした言い方。LSのほぼ全員が、そして私もノンキャリアよ」
「そうでした、現場経験の長さだけを鼻にかけた程度の低い玄人さんたちね」
「勝手に言ってなさい」
「わたし、いずれ今のあなたのポストを奪ってみせる。頭のカタイ現場主義の人間にいいように使われるなんて私の性にあわない」
「まあ、それは、それは。威勢のいいお嬢さんだこと!」
「いずれ追い落とすわ。それまでは・・・・・・おとなしくあなたの指示聞いてあげる」
「おとなしく?それは語弊があるわね。話を戻してもいいかしら、未来の局長さま?」
「イヤな言い方・・・・」
 祐実は舌打ちをした。
「店の主人がこう言ってたわ。『今日、新宿でオレを捕縛するためにスワットチームがホームに張り込んでいる。オレの可愛い子猫が危険を察知して教えてくれたよ』」
「ホームはわかる、あの張り込んでいた売春の舞台に使っていたホテルよね。『子猫』が情報の仕入先ってことね」
「子猫が誰をさすか・・・まだ予測の域を越えてはいない。でも、押収した店主のパソコンからこんなものを見つけたわ。所轄からメールのコピー提出させた、これよ」
 紀香はA4版の封筒をテーブルに置いた。祐実は無言のまま封筒に手を入れた。
「・・・・・メールのコピー?」
「驚かないようにね。上から順にお読みなさい」
 プリントされた紙を手に取ると億劫そうに声を出して読み始めた。
「『会員の皆様へ、用意は着々と整っております 夜会まで今しばらくお待ち下さい。次回にエントリーされるナンバーズ7人の内の一部をカタログとして大事な皆様に少しだけお報せいたします。今回も高騰が予測されます お気に召しましたら十分な資金のご用意を!』・・・なにコレ?」
「次のページは添付ファイルを印刷したもの」
「添付ファイル?」
 ページをめくるとそこには『No.23 MISATO』とタイトルが打たれた女性のプロフィールとまるでアイドルのようにナース姿でポーズをつけた写真とヌード写真集のように全裸の写真があった。
『No.23 MISATO 帝都医大付属病院第2内科看護士(25)身長168 B88・・・・』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 ページをめくる、『No.24YOSHIMI』の写真はスチュワーデス姿の写真とヌード。プロフィールはホンモノの国際線スチュワーデスであることが記載されている。フライトスケジュールにあわせれば海外でのサービス可能とまで書かれている。最終ページへとめくって祐実は凍りついた。
『No.25 MIKA 警視庁 東京新都心方面レディースワット隊員(通訳)』
「ウソ!ウソよ、こんなことって・・・・・・・」
「制服は間違いなく本物、そして中身も間違いなく本物よね。念のため精巧なグラフィックアイコラのような修正画像かどうか調べさせたけど、そのDVDを見たらもう疑う余地はないわ」
「じゃあ、このディスクって・・・・」
「DVDはインディーズと呼ばれる超レアもの、マニア向けといったところかしら。コスプレって言うの?原盤もしくはそれに最も近い第1世代のコピーと判定されたわ」
「コスプレ?ハッ、男の卑しい趣味だわね」
 祐実は吐き捨てるように言った。
「映像に細工は一切なく、映っているのもほぼ本人に間違いない」
「まさか、彼女が・・・・・」
「グスタボの言った『子猫』が加納美香かどうか、あなた自身が調べるのよ」
 紀香の口調は厳しかった。


【メディカルサイエンスセンター 研究室818 】


「はい・・・・・はい・・・・・・わかりました。とりあえず、残り2名の面談は今日のところは中止ですね。はい・・・・えぇ、改めて予約を・・・・はい・先ほど終りました。現在のところ彼女についてはPTSDを疑う顕著な症状は見受けられませんでした。はい・・・帰すのですね。わかりました」
 京香は気だるげな面持ちで受話器を置いた。
「だぁれ?」
 瑠璃子は京香の事務机の端末に目を凝らしていた。京香に指示してディスク化した医療用人事ネットのLS6の個人データに釘付けだった。京香はまるで恋人に甘えるように瑠璃子の背中からゆっくりと腕を回すと愛しげに瑠璃子のうなじに頬擦りをした。
「LS6からです。瑠璃子お姉様以外の2名については今日こちらに来れなくなったということで、面談は中止して欲しいとのことでした。よかった、瑠璃子お姉さまとの2人っきりの時間がもてて・・・。お姉さま、京香を可愛がって」
「中止ってどうして?」
「2人の協力が得られなかった・・・とだけ・・」
「ウフフフ、そうだろうね。だって、本人達に事件に関わった記憶のかけらもないんだから協力もなにも、いきなり言ったら怒り出したろうさ。アハハ、見たかったなぁ、まあ細工したのは私なんだけど」
「今日はセンターでの面談が終了したら、瑠璃子お姉様を学校へ帰すように指示されました。どのようにいたしましょうか?」
「あれ?このあと引き続き取り調べされる予定だったんだけど・・・」
「予定は変更だそうです」
「ふ〜ん・・・・・おおかた昨日の捜査資料でも失くして大騒ぎしてんじゃないのぉ・・クククク。な〜んか、目に見えるようだね、ごった返してるのがサ。捜査資料は人目を盗んで抜いておくように指示したのさ、早速行動に移したんだ・・・エライな、麻衣」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「京、言いつけた仕事なんかつまらなそうだね。こっちへおいで」
 瑠璃子が椅子を回転させて京香の方に向き直る。

「はいっ」
 満面の笑みを浮かべて京香はいそいそと瑠璃子にしな垂れかかる。
「ホラ、またカラダが燃えるように熱くなっていてもたってもいられない」
「あっ・・・・・はぅっ・・・・・・・」
「カラダが敏感に敏感に反応する。感じたい、感じたくて仕方がない」
「あああぁぁぁぁ」
「シタイ・シタイ・シタイ・・・・・・もう頭の中はSEXのことだけ」
「あんんんんん、お・ね・・・えさまぁ〜・・・瑠璃子おねえさまぁあっぁあ。わたしの『運命のヒト』ですわ、瑠璃子お姉さま。京香を女にしていただいたのも磨いてくださるのもみんなお姉さまなんですもの」
「フフフ、それだけ聞ければ十分よ。でも京香、どうして年下の私を京香はお姉さまって言うの?」
 自分が暗示で刷り込んだ瑠璃子が姉であり主人であることを、瑠璃子は意地悪く問いただした。
「歳なんて関係ありません!わたしが心からお慕いしてるからお姉さまと呼ばせていただいてるんです」
 京香は真面目な顔で訴えている。すでにもとの京香ではありえなかった。
「京、これから勤務時間が終るまで今日一日瑠璃のことを思ってずーっとオナニーし続けてね。帰宅したらこれから毎日あなたは寝る前に私のことが切なく思い出されてカラダをいじらずにはいられなくなる。京はイクたびに瑠璃にココロからの忠誠を誓ってね」
 そう言うと瑠璃子はしがみつく京香を振り払った。
「あんんんんん、お・ね・・・えさまぁ〜・・・瑠璃子おねえさまぁあっぁあ」
 ねだるように京香は瑠璃子の足にしがみついた。
「私、これで帰るから。私が出たら部屋の鍵をかけなさい。見つかったらイヤでしょ。じゃあね、このMOもらっていくわ。それとこの面白い内部告発の資料のこと、人事データをコピーしたこと、内部告発の調査をしていたこと全部忘れなよ、じゃねー!」
 切なげに喘ぐ京香を尻目に瑠璃子は部屋をあとにする。


【LS統括部 局長室】


「あん、あん、あん、いい・・・いい・・・」
 部屋に響く女性の喘ぎ声は、もし声が他に漏れていたらきっと誰もが希有に感じただろう。女性の悩ましげな喘ぎ声は再生されたDVDのディスクを再生したものだった。
「あなた、苦手?この手の映像」
「いいえ、職務ですから」
 そう言いながら祐実は青ざめた顔で親指の爪を噛んでいた。
「ハッ・・・ハァゥ〜・・・・もっと・・・もっとチョウダイ・・美香をかわいがって!」
 袖を通した腕に引っかかって脱ぎ散らした服がだらしなく背中に垂れていた。画面の中の美香は締まりのない表情でバイブを握り締めて自慰行為にふけっていた。
「背景は見事にスクリーンで覆われていて手がかりらしきものが掴めない」
 紀香は冷静に言った。
「あん・・イク・・・イク・・・・・・いっちゃあ〜うううっぅうっぅ!」
 画面の中に映る加納美香は絶頂に達したらしく最後の高い喘ぎをもらして顔を画面へと向けた。ほぼ全裸にはだけ凹凸の激しい見事なカラダにひっかかった制服は間違いなくLSの徽章がついた本物、そして女性は間違いなく加納美香だった。
「なんで・・・どうして彼女が・・・・・・」
 裏切られた・・・・そんな気持ちが祐実の中に渦巻いていた。
「このテープが表にでているとしたら・・・・・彼女どころか、あなたも私も問責対象じゃない?あなたなんか2度目よ!」
 紀香の心ない言葉にキッと祐実が紀香を睨む。
「自分で決着させるならそれもよし、もし今の事件にかかりきりならこっちの件は私が直接乗り出すわ」
「いいえ、わたしがやります!」
 祐実は間髪いれずに応えた。
「そう、なら、それなりの覚悟をもってやってちょうだい。もしかしたら点は線へと繋がるかもよ、張り込み情報リークが彼女からなのかは重要なポイントね」
「くっ・・・・・」
 祐実は唇を噛んだ。

「ねぇ、私、全然まだ満足してないわ、さぁ、入れてよ、コ・コ・に」
 美香は画面の中で大きく足を開いて指で濡れきった秘所をパクリと開いてみせた。映像はボカシを入れることもなく美香の秘所を顕わにした映像が露骨なアップになった。祐実の顔は先ほどから青ざめ、悪寒からか腕を組むように胸元にクロスさせて体を萎縮させてた。
「フフン、さぁ、来て・・・・私をマンゾクさ・せ・て・・・・・・ウフフ」
 今までに見たこともない淫らな表情で画面の美香が迫った。
「私が元気にシテアゲル!」
 そういって男根に見立てたうごめく半透明のバイブレーターを深々と口に含んいく美香。映像はすべて美香だけの1人芝居のように映像を見る者にあたかも語り掛けるように進んでいく。チロチロと舌の先を使ってバイブの先端を舐めていた美香が一気に全体を口に含んだ時、「うっ」と嗚咽を隠して祐実はいきなり口元を押さえて室外へと駆け出した。
(やっぱり、彼女はトラウマを克服しきってない・・・・・・)
 紀香は不安げに祐実の出ていった扉を見つめていた。


「絶対、許さないからね・・・」
トイレで吐瀉し尽くして息も荒い祐実の表情は憎悪に溢れていた。



【窮屈】



 メディカルサイエンスセンターと病棟は3階のガラス張りの連絡通路でつながっていた。眼下に国道が横切っている。制服姿の瑠璃子は鼻歌に『大きな古時計』を歌いながら病棟へと進む。携帯電話の着メロがけたたましく響いた。
「うーん!もう!人が気分よく歌ってたのにーっ!」
 瑠璃子が携帯を耳にあてた。
「えぇーっ、なにそれ?バージンを1人よこせぇ?いるわきゃないじゃん!イマドキ、バージンなんて!生まれたての赤ん坊でも連れてこいっての?今病院だから、いいよ、連れてっても!それとも私がいこうか?バージンであることは私自身がしょうめいできるけどぉ〜?ウフフ」
 ところかまわず大声で瑠璃子は怒鳴った。
「・・・・・・えっ?あぁ、なに、バージンって未登録者のことバージンっていうの?な〜んだ、ちゃんと言ってよ、まだよくわかってないんだからさぁ!キッツイ注文だすなぁと思ってキレかけちゃったよぉ。それで?どこに行かせればいいの?何・じ・・・・・に・・ん?」
 いきなり肩を叩かれて瑠璃子は振り向いた。まだ若い、少し茶髪のナースが半ば怒った表情で立っていた。
「ちょっと!あなた、お見舞いにきたの?ダメじゃない、病院なんだから。わかってるでしょ!病院内は携帯電話禁止だって・・・・・・さあ!切りなさい」
「ちょっと待ってられる?邪魔が入った、あしらうから・・・・・」
 瑠璃子は看護士に会話を邪魔されて不快感を露にする。
「・・じゃ、邪魔ですって?いいから携帯を切りなさい!」
 うろたえたのは看護士の方だった。怒った瑠璃子はあからさまに不機嫌な顔つきになって耳から携帯を離した。

「今から私の言う言葉は看護士さんにとって本当になる。そしてあなたが言う言葉もあなたにとって本当になる」
「な、なんなの?」
 いつ出したのか左手にもった音叉がキーンと響いた。音叉の珠の部分を看護士の眉間にシュっとすばやく突けた。ビクッと彼女の体が震え、視界一面に瑠璃子の目が迫った。
「周りを見てよ、ここは病院じゃないよ。あなたの家だよ、あなたの部屋よ」
「えっ・・・・・・・・ど、どうして、わたし今まで仕事じゃ・・・・・」
「仕事を終えて帰宅したの。私の姿はあなたには見えない。1人だけの部屋よ。私はあなたのココロの声。疲れたわね、あなたはシャワーを浴びたくなった。ほらもうここは浴室、あなたはシャワーを浴びたくて仕方がない。さぁ、浴びよう。疲れた体にシャワーの水流はトテモ気持ちいい」
 瑠璃子はいたずら好きな子供のような表情で空いた左手で彼女の胸や脇腹、腰骨から太腿、そして最後には彼女の股間へと這わせていった。看護士の表情はやにわに切なげな物欲しそうな表情へ変わっていく。
「感じちゃうよ、ちょっとHな気分になっちゃう。大丈夫だよ、ここはあなたの家、あなたしかいないんだから、ほらチョット触ってみようよ。シャワーの水流が敏感なところを優しく感じさせてくれる。ほら我慢できないよ。さぁ、早く浴びようよ、シャワーを」
「・・・・・シャワー・・・・シャワー・・・早く浴びようっと・・・・・」
「ほらシャワーの握りが大好きなあのヒトのモノに見えてくる。興奮して息が上がってくるよ、どこへもって行きたい?」
「はぁはぁはぁ・・・・・はぁ・・あぁん・・あん・・・陽子の・・・おま・・・・」
シャワーヘッドを握っているらしい左手が彼女の股間へと動いていく。もう自分の世界に堕としこまれて周囲のことなど気にもかけなくなっている。
「うわーもうヌレヌレだね、内腿から白衣に湿ってきてるよ」
「もう・・・ヌレヌレなの。あ〜んん、内腿湿ってるの・・・」
「入れて欲しい?」
「いれて・・ハァハァ・いれて・ハァハァ・・・・陽子に・・・はやくぅ」
「ダーメ、陽子がシャワーで1回行かなきゃ、大好きなあのヒトに入れてもらえないよ。あのヒトも陽子の淫らにイクとこ見たがってる、見せてくれる」
「見せたら・・・見せたら・・・シテくれるのぉ?」
 部屋には1人と言われて置きながら、看護士の陽子はすでに快楽を求め自分から恋人を描き始めていた。
「そう言ってるよ。ほら、すぐにやらなきゃ。服。邪魔だね」
「ウン、陽子、やるよ。シャワーしながら・・・1人でH・・」
 そういうと彼女は手にしていたファイルを投げ捨てると、急いで白衣を剥ぎながらペタンと廊下に大また開きで腰をついた。一番奥の階段からヒトの声が聞こえる。瑠璃子は慌てて最後の暗示を耳元に囁いた。
「シャワーを終えて蛇口を閉めたら自然と目が醒める。私に会ったこと、私の顔もそれと同時に忘れる。わかった?」
「あん・・・はぁぁぁぁあ・・・・あん・・・・」
 すでに瑠璃子の声に返事もせず、首だけで何度もうなずいて見せた。
「フン!しばらく気分よく浴びてなさい。瑠璃を叱ったバツよ、恥をかくといい」
 そう言って瑠璃子は携帯に出て再び歩き始めた。

「ゴメン、いいわよ、話の続き。えっ?軽率な行動?聞こえてたの?冗談!こんなの普段からみんなやってるっショ・・・・・・・わかったわよ。やめる、やめます」
 後ろを振り返ると看護士はすでにナースキャップだけの全裸で、あるはずもないシャワーヘッドをもって楽しげにシャワーを浴びていた。シャワーヘッドを持ってるはずの右手と彼女のあいた左手が、彼女の股間へと移る。気にする様子もない瑠璃子は徐々に離れつつ携帯を続けていた。
「何度も言わないでヨ、うるさいなぁ!やめるって言ってるでしょ!・・・ったくぅ!」
 看護士の痴態に、通りがかって目にとめた入院患者や同僚達が遠巻きに見守るだけで誰もどうしていいかわからずにいた。騒ぎを聞きつけてヤジウマが増えている。
「まったく・・・・・こんなことまでいちいち言われちゃ、窮屈でしょうがないよ。強制終了、せっかくムカついた気分スカッとさせたのにストレスたまるなぁ!」
 瑠璃子は音叉を壁に打ちつけた。音叉の響きが廊下に薄く遠く共鳴する。
「キ・・・・・キャーっ!」
 間髪入れずあの看護士の悲鳴が廊下内に響き渡り、彼女は脱ぎ捨てた服をかき集めてアルマジロのように丸くなった。周囲にできた人だかりは彼女の行動にどうしていいのか誰もが右往左往していた。

「・・・・・解いたよ。はいはい・・・・・・・わかったよ。わーかったーって言ってるでしょー!はいはい気をつけます、注意しますーっ!いい?これで!あー気分ワル!仕返しだよ、好みなんか聞いてあげないからね!テキトーなヤツ行かせることにした。その辺の年増の熟練看護士送りつけてやる!あーっ?わかーってるぅーっ!バージン(未登録者)だよ、バージン(未登録者)!それは守るよ!うん・・・うん・・分かったよ若いヤツにするからって・・クイーンズスクエアのスタバね。うん・・道具は・・・音叉だよ」
 瑠璃子は携帯を切った。エレベータに乗り込む。
「ふう、飼われるって、やっぱり窮屈だなぁ・・・・・・・」
 瑠璃子には看護士のストリップ騒動などすでに眼中にない様子だった。



【渦中】



「連れて行きなさい、徹底的に調べるの」
 祐実の指令は冷たく言い放たれた。
「ま、待って下さい。チーフ、チーフ!知りません、私、そんなことしてない!絶対私じゃない。間違いよ、きっと何かの間違いです。調べて下さい、もっとよく!」
 髪を振り乱してまで懇願する美香にも祐実は容赦なかった。
「当然、調べるわ。あなた自身も徹底的にね、樹里!美香を取り調べ室へ」
「チーフっ!」
 美香は泣きながら祐実に駆け寄った。
「美香、あなたにも右腿のつけねにホクロが3つ並んでる?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
 美香の顔からさらに血の気が引いた。
「間違いないんじゃない?このDVDのオンナはあなただわ。悲しいわ、裏切られて・・」
「そ、そんな・・・・わたし、わたし」
 美香は今にも泣きそうな表情で叫んだ。

 表情を変えず冷ややかな目で美香を一瞥するとあとは無視して席についた。
「連れて行きなさい」
「してない!私、絶対そんなことしてない!そんな女じゃない!信じて!信じて下さい!みんな!お願い!私・・・・わたしじゃない!・・・間違いです・・」
 部屋から連れ出されて美香の声は小さくかき消されていった。部屋に残った全員が重くのしかかるような雰囲気に口をきけないでいた。
「誰か、その映像をとめて」
 祐実の指示に涼子がプレイヤーのSTOPボタンを押した。
「涼子、美香の周辺を調べて。麻衣子は美香の着任から現在までの行動を洗って欲しい」
「はい」
 2人はうなづいた。
「私が席を外していた間に何かわかったことは?」
「グスタボの検死結果が・・・・・・」
 奈那が言った。
「局長から聞いたわ、替え玉だったなんて・・・・・」
「売春客と相手をしたグスタボ配下の女性達からは今までの捜査上でわかっている以上のものは出てきませんでした」
「・・・・・・そうよね」
 最初から期待してないわといいたげな祐実の表情だった。
「あと、昨日の所轄の捜査員の事情聴取が終りました」
「所轄?あぁ、あの潜入させた2人ね。どう?落ち着いたの」
「えぇ、仲間の署員が病院で聴取したそうです。落ち着いて聴取に応じてたそうです」
「あっそう、で・・・なにかわかったことは?」
「それが・・・・・・・・・・ホテルに潜入直後からの記憶が・・・・・・・・・」
「アハ、これまた2人もないっての?いい加減にしてよ!もう、その答えにはウンザリだわ!売春を覚えていない女子学生2人、SEXに夢中になった所轄の男女捜査員2人、裏ビデオのモデルをして情報漏洩までした美香まで!一体何なのよ!ふざけるのもいい加減にしてほしいわ、まったく!」
 祐実は机を叩いた。
「それと・・・・・・」
「なに?まだ何かあるワケ!」
「ホテル内で発見された女子校生、PTSDの傾向は恐らくないとのことです」
「そう・・・・・・ちょっと待って!彼女はなんのためらいもなくPTSDの検診を受けたわけ?雪乃、彼女はあなたが迎えに行っても昨日の記憶がないなんて言ってないのよね」
「・・・・・・・はい」
「彼女を!陣内瑠璃子をここへ。彼女こそ貴重な存在だわ、昨日の事件を覚えている彼女を最優先で事情聴取!まだセンターにいるの?」
「いえ・・・・こちらが騒然としていたもので予定を変更して検診の結果が出たら今日は解放しろと先程チーフが・・・・・・・・」
 連絡を担当した涼子が困惑気味に言った。
「私が?涼子、勝手なこと言わないで。すぐに呼び戻しなさい」
「はっ・・・はい!」
 涼子は慌てて受話器をとった。


【起動】


 西野聡子は1人部屋の病室のベットから外の景色を眺めていた。
『憑きものが落ちたようだ、まずは良かった』と医者は言った。明日までは経過観察のため入院継続し、以後は定期的に検診をするということだった。
「わたし・・・・・・・なにをしてたんだろう」
 午前中に来た同僚は、かなり自分に気遣いをしていた。事情を聞きたい、思い出せる範囲でいいからと同僚婦警はやさしく言ったが潜入捜査で何が起きたのか、聡子の記憶が欠落している部分を話そうとはしなかった。医師まで付き添っての事情聴取を受けている自分が不思議でならなかった。何度もその会話を思い出してみる。
「焦らずゆっくり思い出して」
「わたし、海老原さんと恋人同士を装ってホテルに入って、それから・・・・」
「それから?」
「それから部屋へ・・・・たしか312号室」
「その時、連絡を入れてるわね」
「はい、エレベータを降りて、部屋に行くまでに携帯電話で部屋番号を知らせました」
「部屋へはどちらが先に?」
 同僚の婦警がメモを取りながら優しく言った。聡子はゆっくりとまるで映画のシーンを思い出すように状況を言葉で描写していく。
「入ったのは海老原さんが。ただトイレに行きたいと言ったのでベットルームへは私が」
「そう、あなたが先にベットルームへ行ったのね。それから?」
「それから・・・・・・・・・・」
「どうしたの?なにかあった?」
「それから、私・・・・・」
 聡子の言葉が止まった。
「私・・・・・・気づいたら、ここに。ここに寝かされていま・・した。えっ、どうしたんだろう、わたし、思い出せない。す、すいません、わからない。わたし、その後どうしたのか、私・・・・わからない、わからない・・・・・わからない」
 頭を押さえて聡子は首を振った。
「いいわ、焦らないで。大丈夫、あなたは今こうして無事にいるんだから。心配しないで」
 婦警は聡子に無理強いはぜずに医師と顔を合わせるとお互い残念そうに首を振った。

 今日だけで何度このシーンを回想しただろう。聡子は再び我に返って部屋の鏡に目を向けた。入院している自分に何の外傷もない、その自分がなぜ昨日の記憶が欠落しているのか不思議でならなかった。
「そうだ、海老原さんも、きっと入院している・・・・・彼に会えば何か思い出せる手がかりを導き出せるかもしれない」
 パジャマ姿のまま起き上がるとベットから足を下ろしスリッパに足を通した。その時、ノックもなくドアが開いた。
「あの・・・・・・・・どなた?」
 制服姿の後ろ姿に聡子は話しかけた。扉を閉めて鍵をかけ、振り返ったのは明らかに自分より年下の女子校生だった。
「あら、瑠璃子のこと忘れた?」
「瑠璃子さん?ごめんなさい、人違いじゃないかしら。ここの病室は私しか・・・・・・」
「聡子よね」
「えっ、ええ。どうして私の名前を知ってるの?」
「だって聡子は私の大事な『妹』だもの」
「いもうと・・・・?」
「あなたにお仕事よ、フフフ」
 瑠璃子はポケットから音叉を取り出して聡子の前にかざした。キーンっと音が聡子を包む。一瞬にして視界は霧に包まれ聡子の意識は遠のいていった。


 LS6本部−受話器を持つ涼子の手が力んだ。
「はい、はい、わかりました。このままで待っていただけますか?すいません」
「どうしたの?」
 涼子の周囲には既に部屋にいた全員が駆け寄っていた。
「陣内瑠璃子の診察後の足取りが掴めていません。昼過ぎにセンターを出た後、学校にも寮にもまだ戻っていないようです」
「きっと、どこかで遊び呆けてるんだわ」
 涼子が吐き捨てるように言った。
「涼子、早計な判断はダメよ。拉致された可能性だってある」
 祐実の『拉致』の言葉に周囲に緊張が走る。
「それと・・・・・・・入院していた西野聡子も病室から失踪しています」
 その瞬間、祐実は顔色を変えて指示をまくし立てた。
「涼子、所轄には周囲に検問配備、捜索の対応をとるように伝えなさい」
「了解!」
「全員、A号配備で待機。もし拉致された場合、最悪のケースも考えられるから!」
 周囲に緊張感がみなぎる。


【バイヤー】


 スカイガーデンホテルの大ホールから3人の人影が出て来た。新規に立ち上げたみなとみらい地区のグループビル起工の挨拶を終えて社長の加賀源内は地下の駐車場へ降りるためエレベータに向かっていた。
「お疲れさまでした」
 息子である秘書室長の譲が声をかけ源内をエレベータ内へと導く。
「予定は?変更ある?」
 脇で影のように張りつくもう1人の秘書、海野栄子が電子手帳で予定を読み上げた。
「いいえ、明日の北米進出会議まで変更ありません。先ほど入ったいくつかの案件も社長の指示通り緊急性のないものと判断しましたので常務にお任せしてあります」
「ほほ、さすがだねぇ〜海野君、キミはしっかり者だ。・・・・と言うことは」
 源内の顔がほころんだ。
「はい、明日の午後3時まで社長には久しぶりのお休みをおとりいただけます」
「ん〜、よかった、よかった。しばらく働きずくめだったからぁ〜」
「社長、先程お話いただいた、これから私に依頼したいという仕事の内容をまだ伺っておりませんが・・・・・・・・・」
「そう、そう!海野君には、ほんと〜に申し訳ないねぇ。私が休みをとるってのに用事をいいつけて。でもキミを私は買ってるんだよ、この馬鹿息子の譲以上にねぇ」
「ひどいなぁ、父さん。父さんは栄子君を自分の娘みたいに可愛がるからなぁ、実の息子としては、かなり妬けるね」
「コラ!嬢、いつまで言ったら直るんだ!父さんはやめろ、社長と言え社長と!」
「しっ、失礼しました、社長」
 3人はエレベーターを出て地下駐車場へと歩き出した。すでに運転手の大戸が待っていた。
「社長、おかえりなさいませ」
「おっ、大戸!悪いが今日はこのまま帰ってくれ。私は加賀室長の車で帰る。海野君は私の用を聞いてもらうので一緒に乗って道々降ろすことにしよう」
「かしこまりました。明日の支度はいかがいたしましょうか?」
「明日は明日だよ、後ほど海野君から連絡させる。休みを堪能させてくれ」
「承知しました。ではお気をつけて」
 深々と会釈する大戸の前をすり抜けて3人は譲のBMWへと乗り込んだ。自然な成り行きから栄子も譲の車に乗り込むこととなった。栄子は助手席のドアを開ける。

「あぁ〜!いい、いい、海野君は後ろの席だ、私の隣へ。室長が見とれて事故を起こしてもイカン。
 第一、用事を説明するのに助手席に座られてはこんな老いぼれだ、声も届かんし、よく聞き取れない」
 源内に促されて栄子は源内の隣に座った。車はゆっくりと夕闇の横浜市街へと滑り出していく。
「とう・・・いや社長、ランドマークタワーでいいんですね」
「はっはっは、譲、もう父さんでいいぞ。仕事はオワリだ!海野君、内緒でお願いした例の・・・・」
「はい、インターコンチネンタルホテルのスペシャルスイートを『西野』様のお名前で予約してありますが・・・・・」
「西野ぉ?父さん、誰それ?西野って?」
「私だよ、わ・た・し。これからゆっくり羽のばして休養だ!譲、頼んでおいたモノは?」
「買ってあるよ、白のバラ一輪と音叉・・・・これだよ。何に使うんだい?」
「ムフフフフフフフー、今日の大事なアイテムなのだ。デートだよ、デート」
「デートォ?まさか・・・まさか、栄子君!キミ、父さんと2人で・・・そんな・・」
「えっ!そ、そんな。わたし・・・・」
 栄子はびっくりして目を大きく見開いて体を固くした。
「コラ!譲!私がそんなゲスなことすると思うか!」
「いやぁ、父さんならやりかねないと思ってさ・・・・・」
「社長、あの・・・私に用事っていうのは・・・」
 苦笑しながらも多少不安げに栄子は源内に言った。
「ちょっと、もうちょっと待ってナ。おい、譲。お前、新車が欲しいと言ってたろ?」
 源内が『新車』といって、譲は下卑た含み笑いを浮かべる。源内が『新車』というのにはいつも別な意味があった。
「新車?あ〜ぁ、新車ねぇ、欲しいよ。欲しいに決まってるじゃないか」
「私の中古でよければやろうか?そろそろ乗り換えようかと思ってな、ちと飽きた」
「社長、この間お買いになったジャガー、もう飽きられたんですか?」
 栄子がびっくりして声を上げた。源内の指図でディーラーでの手続きからすべて栄子が手配した、納車されてまだ2ヶ月と経っていないモスグリーンのジャガーだ。
「いや、あれは気に入ってるよ。そうだ!海野君、ちょっとこれをごらん」
 源内はポケットからキーホルダーについた金色のキーを出した。
「あっ・・・・・・・・・・・・」
 そう言ったまま栄子は鍵を凝視したまま動かなくなった。気を失っているわけではない、じっとキーに見入ったまま周囲が気にならなくなっているようだった。異変に気づいて譲が運転席から声をかける。
「栄子君、栄子君!聞こえないのか?おい、オヤジ!栄子君に何をした?」
「別にぃ〜、何もしとらんよ。彼女はただキーを見ているだけだ」
「おい、ちょっと様子が変だろうよ!」
「海野君の胸は大きいねえ〜、いつ触っても柔らかくてマシュマロみたいだのぉ」
 スーツの中に手を突っ込んで源内はシャツの上から絞るように栄子の乳房を揉みあげた。栄子は表情一つ変えずにキーに見入っている。
「か、彼女何も気づいてないのか?」
「譲、栄子君のパンツは何色か見たいだろ?よっこいしょ、ほら大股びらきぃ〜。ほっほっほ、今日は真っ赤なメッシュかい。薄めでなかなかよろしい!透けて見えるお毛毛が色っぽいのぉ!おい、譲!振り向くな、危ないんだからミラーで見ろ、ミラーで。運転気をつけろよ」
「おっ、オヤジ・・・・彼女、どうなっってるんだ」
「海野君はこのキーを見ていると周囲のことも、自分に起きていることにも何にも感心がなくなってしまうんだよ。こうやって我々が話している内容すら聞こえてないはずだ」
「す、スゲェ・・・」
「運転に集中しろよ。事故られては困る。今、こうやって鍵を隠す。すると・・・・・」
 源内が鍵を掌に隠した瞬間、栄子はハッと我に返り、さりげなく気づかれぬように開ききった両足の膝頭を合わせた。目に意思の光が戻っている。
「社長、だめですよ。飽きっぽい性格を直されますよう奥様にもお小言を頂いているではありませんか。この間、あれだけ買い上げにご執着だった渋谷のマンションを1年も経たないうちに売り払われて叱られたばかりです」
 栄子は何事もなかったように話を続けていた。源内に胸を揉まれたことも、パンティが見えるほど股を割かれたこともまったく覚えていない様子だった。
「室長も社長に無駄遣いを止めるよう言って下さい」
 栄子は譲にも父親を諌めるように言った。栄子は秘書として申し分のない女性だった。そのさっぱりとした性格が源内の妻にも気に入られ、源内の日頃のプライベートまで妻の代わりでもあるかのうに、逐一、源内の遊びに釘をさしていた。それが最近はことさら妻の意思が強く働き源内は栄子を少しいぶかしく思っていた。
「あっ、ああ、そ、そうだな」
 譲はさきほどの栄子の下半身の下着姿が目に焼きついて気もそぞろだった。譲も好色で社内では女子社員から敬遠され気味だった。ただ社長の子息ということからセクハラで訴えられることもなかったがその行為はエスカレートしていた。
「ほっほっほ、譲よ、言葉にならんようだな。さてさて、海野君、明日の予定を頭に入れておきたい。動向もあわせて話してくれないか」
「承知しました。まず、台湾からの到着が遅れていた資材の件で・・・・・」
 栄子は電子手帳を取り出して淡々と説明を始めた。交差点の信号待ちで譲はバックミラーごしに栄子を凝視する。源内は栄子の視界にゆっくりと金の鍵を近づけていく。
「・・の件で午前中に台湾・・支・・・社・・・・・・の・・・・・・・・・・・・・」
 目の前に鍵が見えた時、栄子の目は鍵に釘付けになり再び無言のまま動かなくなった。
「鍵が右に動くとォ、この娘も右を向く。上に動かすとォー上を見ぃーる。下に動かすとぉ下をむぅーく。本人はもう周りのことが一切気にならず、こうやって鍵を見ているだけ」
 そう言いながら、源内は鍵と一緒に栄子の近くに顔を近づけると彼女の口元を卑らしく舐めまわし、シャツから手を突っ込んで胸を揉みしだいた。それでも栄子はされるがままに視線だけは鍵に見入っていた。
「オヤジ!その鍵オレにくれ!オレもやってみたい、他のオンナにも効くのか?」
「ははははは、馬鹿な。これは海野君だけのアイテムさ。もう一ついいモノ見せてやろうか」
 源内は鍵をポケットに入れた。視界から鍵が消えた途端、スイッチの入ったオモチャのように栄子は動きだした。
「・・・・支社の楊支社長が今夜の最終便で来日しています。明日朝一番で渉外部と今後の搬入予定を検討するため、社長不在ですが常務の代決で事態を収拾します」
 少しスーツが乱れ、右頬に源内の舐めた唾液が残っているのにも気づいていなかった。栄子は、さりげなくスーツを直し、頬の濡れを手で拭った。『なんだろう、この頬の濡れ?』そんな表情をちらっと見せたが社長への報告を優先する。
「それからドイツのネオバスフィー社との共同開発の件ですが」
「ちょっと、海野君。これを見てくれないか?」
「は?」
 源内はナットのような分厚い銀の指輪を栄子に見せた。指輪には『M』の文字が刻印されている。また何か起きるのか、譲は興味深々といったふうに2人のやりとりを見守った。
「指輪ですか?」
「そう、指輪。どうだい、私に似合うかね?似合うだろう、自分で選んだんだ。君してみるか?」
 右手の人差し指に嵌めて栄子に見せびらかす。源内は無邪気な子供のように笑った。
「い、いえ・・・・・」
「どう思う?正直に答えろ」
 源内は急に命令口調になる。
「その、私個人の意見としては指輪のデザインが無骨で」
 栄子は苦笑しながら源内の指輪を評したが、鍵の時のような異様な反応はなかった。
「そう、最近の若い子は言うことがストレートだねぇ。私は気に入っているのだが」
「すいません。あくまで私の個人的な意見ですから気を悪くなさいませんように」
 栄子は慌てて頭を下げた。
「まあ、いいさ。ところで海野君、君にお願いする仕事と言うのは、最近チョット私も元気がないので君に慰めてもらいたいんだよ」
「慰める?社長、私に何をしろと言うんです?」
 栄子は源内の顔を覗き込むようにその真意を図りかねていた。
「フェラチオ!君の口とその大きな胸を存分に使って私のものを元気にしておくれ。今すぐココでだ、笑顔でね」
「はい、社長」
 彼女は微笑んで、そう言うやいなや、上着を脱ぎ、ブラも外し、胸を顕わにする。源内に倒れ込むように彼の股間へ手を伸ばしてチャックを解放するとそのイチモツを舐め始めた。
「おいおいおいおいおい、何してんだよ。栄子君!」
 驚いたのは譲の方だった。
「ひゃちょう・・・・きもひ・・よひでふかはぁ?」
 栄子は源内の股間に顔をうずめ、大きく怒張しだした源内のイチモツを優しく、淫らに、愛しげに舐めまわし、くわえ込んでいる。
「うーん、いいぞ。いつもながら、なかなか、うまいもんだ」
「おい!オヤジ、今度は一体・・・・・・」
「海野君、譲が変に思っとるようだ」
「室長、私は社長の秘書として職務をこなしてるんです」
「職務って言ったって・・・・栄子君、君がそこまでする必要あるのか?」
「室長、室長こそおかしいですよ。私、社長にフェラチオをして差し上げてるだけです。普通にしていることをどうして不思議そうに見ているんです?」
 なんでそれが見咎められることなのかと不思議そうに栄子は言った。両方の乳房でしきりに源内のイチモツを撫で上げている。源内は御満悦といった表情で栄子の下半身に手を這わせていた。
「あん、社長、恥ずかしいですぅ」
「エイコもヌレヌレだなぁ、感じてるのか?」
「はい、私も・・・・・・感じてしまって・・・・」
「ちょっと待て!ウソだろ、オレがちょっとケツ触ったり、スカートの間に視線を投げようとするものなら顔真っ赤にして怒り狂う君がどうして社長の前でそんな卑らしい格好を曝け出していて平気なんだよ。オレにだって見られてるんだぜ」
「室長、お静かに。社長のお楽しみの邪魔ですわ」
「おっ・・・・おおお、海野君、おおおお、い、いくぞ、でるぞおぉぉぉぉ」
「ひゃちょう・・・・・よろひいでふか」
「おお、全部飲め、遠慮はいらんよ」
「はひ、よろこんへ」
 そう言うと口に溜まった源内のものを一気に喉を鳴らして飲み込んだ。
「あん、オイシっ!」
 口の周りに飛び散ったものまで淫らな舌使いで舐めとっていく。
「し、信じられない・・・・・・栄子君が・・・・・」
 海野栄子に少なからず好意を持っていた譲は全身から力が抜ける思いだった。怪訝そうな顔で栄子はブラをつけ洋服を着ていく。
「君、オレに胸やマ○○を見られてるんだぜ」
 わざとあてつけがましく、皮肉を込めて譲は言った。
「変ですか?普段なら室長になんか絶対お見せしませんけど室長の車ですから仕方ありません」
「おい、変に決まってるだろ。普段の君からは信じられない」
「私はご主人様にご奉仕差し上げているんです。あなたに見られたからって関係ないんです。物言わぬ木々や犬猫に見られたって恥ずかしいなんて思うことあります?室長」
「なんだよ、俺は木石以下か?」
 譲は半泣きになりながら言った。栄子は上着を着て髪を正した。
「オヤジ・・・・・・」
「海野君、君は私が話を振らない限り私と譲の会話にはまったく関心をもたない、いいね」
「はい。関心をもちません」
 そういうと栄子は何事もないように黙って前を向きシートにもたれている。
「譲、この指輪はな、彼女に平常時の性格を保たせつつ、どんな命令にも従わせる力をもつアイテムなのだ。この指輪を見せられた時から解除の呪文を唱えるか一度寝るまで効果は続くが、我に返る時は彼女の平常心が受け入れがたい行動のみを彼女自身のココロが削除修正して記憶が再構築される。どうだ、なんでもありだぞ、羨ましいだろ。彼女は指輪の持ち主には絶対服従する、しかもそれが当然と思い込んでな。なんの抵抗もない」
「マ、マジかよ」
「海野君、譲は君の体を欲しがっている。だから再三、君にセクハラの限りを尽くしていたんだな。今まで色々嫌なことをされたろう。私に何度か相談していたろ、構わんから思うまま言いなさい」
「はい、はっきり申し上げて室長は秘書室の何人もの子達を弄んでいます。だから、私を含め室長のことを誰ひとりよく思っていません。セクハラで訴えようと実は準備しています」
「おっ、おいおい待ってくれよ」
 譲は内心青ざめていた。まさか、社長子息の自分を社員が訴えるはずはないと思うからこそ、今までいいように社内で女子社員をからかっていた。
「大キライ!あんたなんか。私たちに訴えられて生き恥を晒せばいいんだわ」
「まあまあ、落ち着きなさい海野君。そうだ、大嫌いな譲に君のオナニーを見せてやってくれんかね。今までの憎しみを込めて思いっきり淫らにな。憎いと思えば思うほど過激になってくるはずだぞ」
「わかりました。お言いつけに従います」
 栄子は譲を睨みつけながら、なんの疑いもなく今着たばかりの服の前をはだけ、スカートを上げてストッキングとパンティを一気に下げると胸と股間に手を伸ばして甘く切ない声をあげ始めた。
「あん・・・・・・・あふん・・・・・ふん・・・ふぅ〜ん」
「ま・・・栄子君、君恥ずかしくないか?オレの前でマスかいて・・・・・」
「あうん・・・あん・・室長に言われたくないわ!あん、あひん・・・いい・・あぁいい」
「オヤジ、すげぇな。本人まったく自分のしていることに疑問をもってないもんな」
「だろう、この指輪のおかげだよ。そしてこの指輪をこうやってエイコの額に押しつける。これが最後のアイテムというかワザ」
「どうなるんだ?」
「すべてを忘れてただの奴隷になる!『聖隷エイコ、主人ゲンナイに従え!』」
 そう言われた瞬間、栄子の全身に電気が走ったようにピクっと震えた。
「・・・・・・はい、ゲンナイさま。エイコはあなた様のご命令に従うシモベです」
「聖隷としての証を立てろ!我に従え!」
「はい、仰せのままに」
 栄子はさっき源内にしたことを忘れたかのように再びフェラチオを始めた。
「エイコはくれてやるよ、お前にな。中古だが、まだ十分使える」
「多分そうだろうと思ってたよ。オヤジが秘書にしたオンナは大抵喰ってるもんな」
 譲は半ばほっとしながらまた下卑た笑いを起こした。
「やめようと思ってもやめられん私の趣味だ。実はIT部門に、これまたいいオンナを見つけた。ひと目で気に入ったよ。飼うことに決めた、近々逆オークションにかけて改造してもらうつもりだ。出来上がり次第、エイコと交換人事だな」
「なぁ、俺にも教えてくれよ。そのオークションでオンナも買ってみたいし、みそめたオンナを洗脳してくれるなんて男にとって夢のような話じゃないか。目の当たりにするたびにオヤジが羨ましくてよ」
「だろう、オンナ達は買われた主人以外には一切セックスをしないように強い暗示を施される。いつだって自分のためだけに備えるオンナになる。私はオークションでオンナを買うよりも自分の見つけたオンナを自分好みに改造させる『ブリーダー』を選ぶ逆オークションの方を好んでやっとるよ」
「オヤジ、いくら出せばいいんだ?どこでやってるんだよ!」
「だめだ、こればっかりは私の一存では教えられん」
「チェッ、じゃあどうすればいいんだよ」
「必要な人間とされれば組織の方からお前にもお呼びが来る。それまでは自分を磨け、私のお古は品落ちしないうちに廻してやるよ、うっ」
 エイコは再び顔を上げ淫らに舌を這わせて源内の体液を飲み干していく。
「ふ〜ぅ、2発目を抜いてもらってもまだこの通り!この年になっても元気なのは仲間内でも自慢のタネだが、いい加減に弱くなってもらわんと金が続かん。まあ、オンナが抱けなくなったら私の人生も終わりと思っているがね、ククク」
「うーっ、オヤジ!いいよ、中古でいいから・・・・栄子をくれ!」
「いいだろう、お前も俺のために働けよ。裏切らなければアメはいくらでもくれてやる」
「わかった、わかった。誓う、誓うよ」
「エイコ!」
「はい、ご主人様」
「今日、お前はこの男のために尽くせ。心をこめてな」
「はい、わたしはゲンナイさまのお言い付けにしたがって、室長のために心をこめて尽くします」
「オヤジ、もうすぐ着くぞ」
 目の前に迫るクイーンズスクエアのビルを見て譲が言った。
「わかった。エイコ、今日はこのオトコがお前のご主人さま、譲さまだ」
「はい。譲さま、エイコを可愛がってください」
「ひひひひひ、そうこなくっちゃな。俺は今日お前をメチャメチャにしてやるぜ」
「お言いつけに従います、譲さま」
「エイコ、いつものとおりに、この男にも聖隷としての挨拶をするんだ、すぐにだ」
「はい、ご主人様。エイコはよろこんでご挨拶します」
 エイコは後部座席で身を捩りながら着込んだスーツやランジェリーを脱ぎ始めた。
「ウォっ!このオンナ、普段はしゃれっ気のない堅いだけのオンナかと思ったら、なんて派手な下着つけてやがんだ。そそるぜ!堅いオンナかと思ったら地は淫乱なのかもな」
「ハハハ、これは私の趣味だ。奴隷として仕込んだオンナは化粧やファッション、趣味や嗜好、そのすべてを飼い主であるバイヤーが決定する。エイコには普段は真面目で忠誠心高い秘書でありながら、ことランジェリーに関しては深く興味を抱き、オトコを悩ましてやまないようなものを身につけたくて仕方がないような貪欲な購買心を植え付けた。勿論、彼女の気づかぬうちに下着の費用はフォローしてやっとるよ。素の彼女自身も自分の密かな趣味とそう思い込んどるハズだ。派手な下着が自分の趣味だと」
「すげぇ〜、すげぇよ。そこまでできんのかよ」
「譲さま、エイコが挨拶いたします。お見苦しくなければ楽しんでくださいませ」
 そういうとエイコは身を乗り出して半裸のまま助手席に移ると譲の下半身に顔を寄せた。
「あん・・・・あああん・・・譲様、私のご主人様・・エイコを可愛がって!」
「フフフ、まあこういうことだ。譲、今夜は楽しめ。そのかわりエイコは身なりを整えて今日中には解放しろよ、寝かせれば翌日には元に戻る。明日の私の業務に差し支えるほど使い込むなよ、ほら指輪だ」
「あ、あぁ。OK、OK。はっ!オヤジ!まさか・・・その音叉とバラは!」
「ホホホ、やっと気づいたか?今日の試乗車のアイテムになるキーだ。まだ誰も乗っていない新車だぞ。会員権を更新して心づけに金を多めに出したら、組織から心ばかりの感謝で試乗させてくれるとよ、ははははあっはははは。じゃあな!おい、事故るなよ」
 源内は高らかな笑いを残して車を降りた。
「さてと、タワーのスターバックスコーヒーだったな」
 バラを折って花の部分をスーツの胸ポケに挿してセンターストリートへ歩み出した。



【スタアーバツクスコーヒー】



「あれ・・・・・・・・・私、なにしてたんだろう」
 聡子はまるで急に別世界へ引き入れられたような感覚だった。不思議そうにあたりを見渡す。自分が今なぜここにいるのか理解などできようもなかった。どこか街中のコーヒーショップのようで、目の前のテーブルにコーヒーが置かれている。彼女のお気に入りのコーヒーだった。2人席に窓側を向いて座っていた。
「私・・・・・・たしか病院にいて・・・・・・どうして、ここは一体・・・・」
 左手首の腕時計に目を移す。午後5時30分を少し過ぎていた。
「えっ、これ私のじゃない。なっ・・・なんなのこの服!」
 高そうなカルチェの時計もタイトでスレンディなフェンディの服も、まるで自分の趣味とはかけ離れた、どこかエロティックで着る気も起きないシロモノだった。胸元は谷間が容易に見えるほど恥ずかしいくらい開いている。膝上に置かれたカルチェのセカンドバックさえも自分の持ち物とは思えなかった。窓に映った自分にも驚いた、メークがされ髪も整えらえたばかり、普段の自分とは遠く、まったくの別人とも思えるイデタチだった。
「こ、これが・・・・・・わたし?一体、いつのまに・・・・」
 聡子の表情が凍りついた。
「と、とにかく出なきゃ。す、すぐに病院にもど・・」
 聡子は愕然とした。まるで強力な接着剤にでもつけられたかのように足も腰も床とシートにぴったりと張りついて動かなかった。
「ど、どうして・・・」
 隣に座る大学生風の男に助けを求めようと顔を向けた。
(あの、すみません)
 愕然とした、声が出ない。さっきまで独り言が言えた自分なのに、人に話しかけようとすると口が動くだけで声が出せないでいる。
「な、なんてこと・・・・・」
 独り言は再び声になる。聡子はまるで異世界に自分ひとりだけ置かれたような恐怖に全身を震わせた。

 自動扉が開き源内が店内へ足を踏み入れた。
「さてと、この広い店内からどうやって試乗車を探せと言うんだ・・・・・接触方法ぐらいしっかりと指示してこんとは『セルコン』らしくない」
 源内はあたりをキョロキョロしながら、まずはコーヒーでもと注文のためカウンターへと向かった。
「いらっしゃいませ、何になさいますか?」
 笑顔の店員に促されメニューを眺める。
「そうだなぁ、いつもは秘書に頼んでいるからなぁ。ここは注文の仕方がなかなか面倒だと聞いたが・・・・・・」
 源内はおどけて独り言を呟いていたその時、コーナーの端から小走りに女性店員が割り込んで来た。
「ゴメン、イツ子変わって」
「えっ、どうしたの?」
 源内の接客をしていたイツ子をさしおくようにして、無理やりもう1人の女子店員が源内の接客をしようと割り込んだ。
「いいから、変わって。私がこの方のお相手をして差し上げなくてはならないの」
「どういうこと?」
「どいてよ、早く!あなたには関係ないわ!」
「変な朋子・・・・・」
 不満そうな表情でイツ子はその場を離れ、別のコーナーへ立ち、接客を始めた。朋子と呼ばれた女性店員は透き通るような屈託のない笑顔で源内に微笑んだ。
「お見苦しいところお見せし申し訳ありませんでした、ご主人様」
 そう言いながら朋子と呼ばれた店員はシャツの中に隠れたネックレスを引き出して首元に見えるように下げ直した。ネックレスにかけられたハート型の銀のプレートに44の刻印が黒く刻まれている。
「ほう・・・・・、君はメンバーズか」
「はい。No.44です、ご主人様」
 そう言って朋子は再び屈託のない笑顔を振りまいた。
「フフフ、この白いバラは君を呼び出すためのキーだったのだな。凝った趣向だ」
「お会いできましたこと光栄に思います」
「君は今日私が来ることを知らされていたのかな?」
「はい、ご主人様をご案内するようにと仰せつかってます」
「ならば、私が今日ここに来た理由もわかっているね?」
「はい、ご主人様。試乗車のキーをお持ちになっていらっしゃいますか?」
「試乗車のキー?これかな・・・・」
 源内は音叉を取り出した。彼女はカウンターを離れて源内の脇まで来た。

(落ち着かなきゃ・・・・・)
 震える手で恐るおそるコーヒーへと手を伸ばす。コーヒーはまだ熱かった。カップに伸ばした右手に派手なブレスレッドが光る。それが余計に彼女の動揺を誘ってカップを取り落としそうになる。
「落ち着いて、聡子、落ち着くの。もう一度ゆっくり思い出すの!」
 1人で呟く聡子に隣に座るカップルが怪訝そうに視線を寄せた。
「そうだ、電話!携帯くらい入っているかも・・・・・・・あった!」
 バックを開いて見つけた見慣れない新品の携帯電話に狂喜する。
(署へ・・・・・署へ電話すればナントカなる!)
 すがるような思いで震える指先が署の番号を打ち込もうと構えて動きが止まった。
(えっ・・・・・・署の番号・・・思い出せない・・・・な、なぜ!?)
 愕然とした聡子の全身はさっきにも増して震えが激しくなった。

 朋子は丁寧に源内への説明をしていた。
「ご主人様、その音叉を打ち鳴らしてください」
「打ち鳴らす?それで良いのかね」
「はい」
 源内は近くの椅子の背もたれに向かって軽く音叉を叩き上げた。キーンという共鳴音は喧騒に紛れて周囲には一切気にされることはなかった。
「あっ・・・・・・・・・」
 聡子は手に持っていた携帯をバックにしまうと、いままでうろたえていたのがウソのように震えが止まり、まるで夢遊病者のようにゆっくりと立ち上がった。あれほど動かなかった足が自然とシートを立って歩き始めた。
「呼んでる・・・・・・・・・行かなきゃ・・・・・わたし・・・」
 席をさがす者、談笑を楽しむ者、席を立ち店外へと去るもの、店内は何も変化はない。
「無理だ、正義の味方を呼び出す笛でもあるまいし、こんな小さな音叉でなんか・・・・」
 源内がそう言いかけた時、窓辺で立ち上がっていた1人の女が引き寄せられるようにゆっくりと近づいてくる。立ち止まっている者や横切る者に気をまわすことなく、ぶつかりながら一直線に歩いている、聡子だった。源内は一目で聡子が試乗車であることに気づいた。
「フン、やるじゃないか。すべて私の好みに合わせてあるんだな。おそらくはあの服の下も、性向も・・・・フフフフ。いいよ、いいよ、ナイスな趣向だ」
 軽く胸の高さまで手を挙げると指を小さく振って『おいでおいで』をする源内に、潤みきった聡子の目がウインクされてキスをするような仕草まで見せた。すでに聡子であって聡子ではない。聡子は源内の脇に立った。
「お気に入っていただけましたでしょうか」
 No44の朋子が笑顔で言った。
「まあな、お楽しみはこれからだよ。試乗だろ?」
「ごゆるりとお楽しみ下さい。これからも組織運営にご寄付、ご協力を」
「わかってる」
「ご主人様、試乗車への『キーワード』も届いていますでしょうか?その言葉を・・・」
 No44の朋子がすべてを言い終わらぬうちに源内の口から言葉が出る。
「ふふ、キーワード?『Hになあれ』か」
「ご、ご主人様、それはお2人になられた後でと申し添えておくよう言いつかっておりました」
 朋子が絶句した刹那、目の前に来た聡子は、源内の首に腕を廻して体を押しつけるように抱き着くと自ら進んで源内に唇を重ねた。一瞬にして周囲が静まり注目を浴びた。淫乱化してしまった聡子にもはや常人としての羞恥心など微塵もなく掻き消えていた。
「イレテ、はやく・・・はやく入れて・・・欲しい、すごく欲しいの」
 周囲で耳に入った客達が目を剥いて驚いた。
「なにぶん、オークション前の粗削りな状態です。言葉使い等の不作法お許し下さいませ」
 朋子が2人の脇で深々と謝る。
「なに、その飼い慣らされてないのが好きさ。さぁ、行こうか」
「ご主人様、そのバラの花、私にいただけますか?」
「ああキミにやるよ。いずれ君もコールしてみよう、まあまあの線だからな。それまでオンナを磨けよ、素材はいいんだ。そうすればもう少し高めのナンバーに上げてもらえるぞ。客が一杯つく」
「ご忠告ありがとうございます」
「では失礼するよ」
 2人はゆっくりと店外へ出ていった。朋子は見送りながら源内からもらったバラの花を口の中へ入れるとむしゃむしゃと食べ始めた。
「朋子!朋子!どうしたって言うの?何があったの?誰?あの人たち!ご主人様って?」
「朋子さん、何を食べてるんだキミは!一体どうしたんだ!」
 イツ子や他の店員達が朋子の周囲に集まって奇行の中の1人となった朋子に問いただした。
(『No.44、お前はバラの花びらを口に飲み込んだ瞬間に今あった全てを忘れる。ショウの幕は閉じられる』)
 朋子の喉がゴクンっと鳴って花びらが1枚胃の中へと送り込まれた時、朋子は一言呟いた。
「あれ?みんな・・・なにしてるの?私・・・・・何してたんだっけ?」
 怪訝そうに見守る周囲の仲間達の表情を見ても朋子はあっけらかんとして何も覚えていないようだった。その後、イツ子がいくら問いただしても朋子はこの時の記憶を思い出すことはなかった。



【聖オスロー女学院 大学寮】


「いい加減にしてください。何度言えばわかってもらえるんですか!」
 由貴子は語気を荒げた。
「夜分失礼し申し訳ありません。でも今回は違うんです、高等部の陣内瑠璃子さんの行方が分からなくなっていて・・・・何かご存知でないかと」
 レディースワットの隊員、不破美穂は祐実の指示でカレッジ寮に足を運んでいた。
「どうして私達が見も知らぬ高等部の学生の行方を知っていなくてはならないんですか?どうせ昼間に話の出た事件に関係してるコなんでしょ!だから聞きに来た・・・・違って?」
 由貴子は再度聞き直した。身に覚えのない売春という侮辱的な職務質問に由貴子は今日1日気持ちが落ち着くことがなかった。佳美は精神的ショックから体調を崩してしまっていた。今も壁によりかかり言葉も出ずにつらい表情で美穂を見つめている。いい迷惑のなにものでもないと由貴子は憤った。寮母の宮城悦美も由貴子の声を聞きつけて部屋から玄関先に出て来た。
「朝から何度もお話し申し上げているとおり、お話することはもう何もありません。これ以上しつこく生徒を詰問するのであれば、学院長にお願いして弁護士さんに間に入っていただきます。稲田さん、あなた気分がすぐれないならお部屋にお戻りなさい」
 佳美は律義にも美穂に一礼して玄関ホールに背を向けて去っていった。
 悦美もほとほと困り果てた。今日だけでもう5回もLSからの訪問を受けている。しかも根も葉もない学院生の売春という話に怒りを通り越して呆れ果てていた。大倉由貴子も稲田佳美もアリバイは自分が確認できているし決して間違いはありえなかった。警察からの一方的な言いがかり、悦美はそう決めつけた。美穂もチーフである祐実の厳命で気まずいながらの再度の訪問だった。
「はぁ、話だけでも聞いていただけないでしょうか。もう一度、写真だけでも」
「今日私たちは一切外出していません!だから見る必要なんかないわ!」
 美穂が差し出そうとする写真に由貴子は顔をそむけた。ふぅ〜っと美穂はため息を吐いた。
「ここでは他の寮生のこともありますから、談話室へお願いします。大倉さん、同じ学院の後輩が行方不明なのよ。それ以外のことは気にかけなくていいからお話だけお聞きなさい。あなたもそれでよろしいわね?それで帰っていただけるわね」
「は、はぁ・・・・・」
 美穂は靴を脱いで2人の後ろから寮の廊下を歩き出した。

 佳美は具合が悪そうに沈んだ表情で玄関ホールを去るとエレベータに乗る。ガチャガチャと何度も『5』のボタンを押して勢いよく『CLOSE』のボタンを押した。
「あん、早く、はやくぅ〜!ノロマなエレベータねぇ」
 昇り始めたエレベータの中で思うように進まない階表示に焦れた。待ちきれない様子で扉が開くとパタパタとスリッパを音立てながら自室へと小走りに向かう。すでにホールで見せていた暗い表情はなく嬉嬉とした笑顔さえ漏れていた。5階の角部屋、非常口脇が佳美の部屋だった。部屋では1人の少女がパソコンに目をやりながら独り言をぶつくさと呟いていた。
「もう、なによぉ〜何人いるのこのチーム!何日かかるの?イヤになる!飽きる!」
 画面に出たLSのファイルデータを見て愕然としたのは瑠璃子だった。
「ただいまーっ!お姉さまぁ〜!」
 部屋にいた少女の首に背後からしがみついて頬擦りをする。
「こらっ!クリックできないじゃない!だめだって、いや!」
「あん、おねぇさまぁ〜、私の瑠璃子おねぇさまぁ〜」
「ダーメ!今はダメなの!さぁ、佳美、誰が来ていたの?画面見て指差して」
 瑠璃子は京香からコピーしたLSのスタッフファイルを佳美のパソコンで開いてチーム6全員のプロファイルインデックスを画面に表示していた。画面には全員の顔が映し出されている。
「えぇっと・・・この人、この人が来てます」
 瑠璃子にべったりと張り付いたまま佳美は美穂を指差した。
「ふ〜ん、不破美穂かぁ・・・・雪ちゃんのメールだと沢村弘美がペアで来てるんだよね」
 瑠璃子は携帯電話の画面に目を移して雪乃から送られたメールを確認する。
「いるのは1人だけでしたよ」
「外で待機してるのね。ホラ、窓の外に見えるあの車。フフ・・・佳美、戻りなよ、このコの相手をして時間を稼いで」
「え〜っ、わたし瑠璃子お姉様と一緒にいるぅ〜。お姉さまに可愛がってもらうの」
 駄々をこねた佳美に刺すような目つきになって手にした音叉をコンっっと叩く。キーンと共鳴音が響いた。
「あぁっ・・・」
 佳美の表情が消えてゆき無表情な人形のように動かなくなった。
「逆らうなんて許さないよ」
「・・・・・はい、お姉様。お姉さまのおっしゃるとおりに」
「いいこと、何でもいいから時間を稼ぎなさい。携帯に私が合図を入れるまでよ」
「はい、お姉様の言うことに従います」
「さあ、携帯をもって。お行きなさい」
「はい・・・・・」
 佳美は部屋に来た時とは別人のようにフラフラと部屋を出ていった。
「さて、遊びにいきますか。ここで2人確保しておかないと。まったくなにがテストだよ」
 瑠璃子は立ち上がって非常階段へと歩いていった。


 寮の玄関から少し離れた敷地内に車を止めて、沢村弘美はイヤホンで美穂と由貴子、寮母の悦美の会話に耳を凝らしていた。美穂の制服に装備された小型無線はONにしてあった。緊急時にすぐに駆けつけられるようLPの実戦体制の1パターンだ。
「ふぅ、人ってこうも嘘をつきとおせて怒れるモンかなぁ〜?」
 昼間に2度、由貴子と佳美に会った弘美は2人がどうしても嘘をついているようには思えなかった。由貴子の取り調べにも同席している美穂には由貴子は素直な学生に見えていた。
「昨日、署で聴取した時は素直に応じてたのに・・・・・えっ」
 車に向かって走ってくる人影に弘美は目を凝らした。人影はすぐに弘美の脇まで来て車の窓ガラスを叩いた。パワーウインドウを降ろすとそこに洋服の乱れた泣き顔の少女がいた。
「助けて!助けてください・・・・」
「あなた、もしかしたら陣内瑠璃子ちゃんでしょ?」
「恐い・・・お姉さんお願い、車に乗せて・・・・早く!」
「早く、後ろに乗りなさい」
 慌ててロックを解除して瑠璃子を導き入れた。
「陣内瑠璃子ちゃんよね?何処にいたの?一体なにがあったの?」
 弘美は運転席から体を半身にして後部座席の瑠璃子に問い掛けた。
「シスターに・・・・寮母のシスター宮城に拉致されてました」
「何ですって?」
 泣きながら瑠璃子は弘美に訴えた。ミラー越しに見る制服がところどころ乱れている。暴行は認められないものの、彼女の拉致の話は信用に足りると弘美は判断した。
「シスターが指示に従わない私をあの2人の部屋に軟禁したんです」
「理由はなんなの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「泣いてちゃわからないわ、さぁ言って。大丈夫、ここにいれば大丈夫よ、安心して」
「・・・・・・シスターは私に男の人と寝ろって」
「えっ?」
「あの2人の大学生はシスターに言われて男の人と寝てお金もらってるんです。売春してるんです、グルなんです。私、このあいだ興味本位で着いていったら・・・・・」
「そうしたら?」
「お前はもう私たちの秘密を知った。知ったからには仲間として協力しないとタダじゃおかないって、昼間、センターから帰って来た私を無理矢理こっちの寮に連れてきて逃げないように裸にされたんです」
「そういうことだったのね・・・・・・段々つながって来たわ」
「わたし、今、美穂さんがあの3人と話してる隙を見つけて逃げ出したんです。昨日現場で見たのと同じ覆面パトカーがいたから、私・・・・・・」
「ほらほら、泣かないで。大丈夫よ、よく頑張ったわね。今の話、あとで詳しく話してくれるわね?」
 弘美の声に瑠璃子は涙声でうなづいた。
「今、美穂を呼び戻すわ。とりあえず、あなたも見つかったことだし、ここからは急いで離れないとね。あなたの話を聞いてからでもあのシスターは押さえられる」
 弘美は正面に向き直って寮の玄関へと目を移す。美穂が出てくる様子もなく、イヤホンからの声はまだ話が続いているのが伺えた。携帯電話を胸のポケットから取り出して美穂の携帯ナンバーを検索する。その時、ふっと湧き出すように弘美の脳裏に疑問が生まれた。
「瑠璃子さん、そう言えばあなたどうして美穂の名前を知ってるの?昨日の現場でも、取り調べでもあなた美穂と会っていないもの。それに・・・・昨日の取り調べでどうして今のこと証言・・・・・・・あうっ」
 急に座席の後ろから腕を廻し込んで首を締めつけられ、弘美は呻き声を上げた。体を左右によじりながら必死に首を取られた瑠璃子の腕を引き剥がそうとするが思うように力が入らない。
「うっ・・・・い・・や・・・・・やめ・・・・」
 自分の座る運転席に邪魔されて瑠璃子の体を掴むことさえ出来なかった。意識が徐々に薄れていく。
(だ、ダメ!このままじゃ・・・わた・・・し・・)
 警戒心の無さを後悔する間もなく弘美の体から力が抜けていく。弘美が失神するまで時間はいくらもかからなかった。
「ふぅ、自分じゃ上出来の作り話と思ったけど、洞察力スゴイね、沢村弘美さん。でも、ちょっと遅かったね。なぜ美穂の名前を知っていたのかですって?チーム全員の経歴ファイルを頭に叩き込んだから知ってたんだよ。それと、あなたが柔剣道、空手、合気道のエキスパートでチーム内トップの凄腕だってこともね」
 瑠璃子は手を伸ばしてリクライニングのレバーを引いた。気絶した弘美がシートごと後部座席の方へ横たわってくる。
「事件保護の際に人を乗せるのは後部座席。1人で待機していれば私との関係は必ず前後席になる。期待通りのマニュアル行動で助かっちゃった。これも麻衣から聞いた入れ知恵のおかげかな。じゃなかったら弘美さんには恐くて1人じゃ近づけなかったモノ・・・・・・・でも、もう恐くない。だって弘美さんは瑠璃子のものになるんだもの。京香のファイリングに面白い所見書いてあったよ、弘美さん男の子より女の子に好かれるんだって?なら弘美さん自身も女の子にしか興味ないのかな?フフフ・・」
 自分でわざと乱した服のポケットから音叉を取り出した。軽く叩くと共鳴音が狭い車内に広がる。音叉の珠の部分を弘美のコメカミにゆっくりとあてる。
「ん・・・んん・・・・」
 弘美の顔が微細な振動波に反応する。瑠璃子は不敵な笑みを浮かべて耳元に口を寄せる。
「今から瑠璃の言う言葉は弘美にとって本当になる。そして弘美が口にする言葉も弘美にとって本当になる。気を失ってるあなたに声を出す力なんてないけどね。あなたは私の言葉を復唱するたびに自分で自分に暗示をかけていくのよ」
 妖しげな笑みを浮かべ瑠璃子が弘美にキスをする。
「弘美、あなたのココロを解放してあげる・・・・ウフフ。弘美、あなたは最高のオンナになるの。強いオンナに、乱暴なオンナに、オトコのように猛々しい精神をもったオンナに、他のオンナに性欲を抑えられないくらいに発情するオンナに。変わるのよ、あなたは根っからのレズになる。ウフ、ウフフフ!あなたも、それを、小さい頃から、望んでいたんだわ」




【チーム6 スタッフルーム】


「精神分析・・・・・・・・?」
 祐実は突拍子もない樹里の言葉に苦笑した。
「あなた、何考えてるの?声紋分析の結果まで出して、これだけの証拠がある美香に対して心神耗弱状態だったとでも言いたいわけ?」
 祐実は感情的にまくし立てた。
 樹里は冷静だった、さらに言葉をつなげる。
「このDVDに記録されているのは間違いなく加納美香本人です。でも本人に『撮影された』、もしくは『協力した』記憶がない・・・」
「嘘をついているとは思わないワケ?今さら精神分析なんてどういうつもり?」
 祐実は取り合わない。
「本人の意識下の範疇外で、この映像が記録されたのではないかと考えました」
「意識下の範疇外?」
 ミーティングルームには、西野聡子と陣内瑠璃子の捜索にでた者も数人戻り、待機していた小雪と雪乃、全員が2人の話に耳を傾ける。
「ホテルで売春していたことを覚えていない女子大生2人、潜入捜査で記憶を無くしSEXに夢中になった捜査員2名・・・・・・・そして、自分の記憶のない猥褻画像を自らすすんで撮られている美香、全部が全部本人達に間違いないのにその意識は一切ない。もしかしたら薬物かなにかでマインドコントロールでも受けたのではないかと・・・・・」
「マインドコントロール?」
 周囲がざわめいた。祐実も内心はドキッとしていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 祐実はしばらく考え込んでいた。
(たしかに・・・たしかに薬物を使えば可能だと思う。今、もし私が奈那に全裸になれといえば奈那は間違いなく全裸になるだろう。奈那はLDの効果ですでに自我を排除した私の操り人形になっている。ただし1人格である。でも、樹里の言う彼女たちは自我を持ち、それ以外にも別の自我をもつ2人格、それとも強力な麻薬でその場限りの酩酊状態や爽状態にされて行動に及んだのか・・・それが薬物で可能だろうか。誰か自分のほかにも同じようなクスリを使っているヤツがいるのか・・・・・・・・・)
「・・・・・・可能性としてありえるかもしれない」
 長い熟考の末、祐実は樹里の考えを認めた。祐実の言葉から賛同が得られたと樹里は話を続けた。
「メディカルサイエンスセンターに問い合わせたら、アミタールを用意できると言ってます。実は美香本人にも説得を試みて了承は得てあります。彼女自身も協力すると・・・」
 樹里が答えた。
「アミタール。イソアミルエチルバルビダール酸ソーダ・・・・睡眠薬に使用されるクスリです。適量であれば人体に悪影響はないと思います。ただ無意識下までの記憶の引き出しまでできるかどうかは疑問ですが、十分催眠面接になら有効かと・・・・・」
 医科学専攻の筒見小雪が答えた。雪乃と同じ新人でラボの筒見京香の実妹だった。
 小雪をはじめ、樹里と園美は医科学の犯罪心理セクションの出身だ。
「問題ないわね。筒見、明日センターから薬剤を受け取りにいきなさい。戻り次第、加納美香の精神分析に入る。樹里、園美、小雪をサポートして」
「はい」
 樹里と園美が答えた。
「まだ帰還していないのは誰?」
「不破・沢村と国井・松永ペアの2組です」
 祐実は時計に目を移す、すでに午後9時を過ぎていた。
「2組の行き先は?」
「不破・沢村が例の学生2人の寮へ、国井・松永は病院を捜査した後、女子校生の寮へ回っています。病院では何の手がかりもなかった旨、報告入ってます」
「そう・・・・・・・所轄の検問は?」
 祐実は園美に向き直る。
「こちらも動きはナシです」
 園美の返事は芳しくなかった。
「最悪の展開ね。いいわ、今日は解散しましょう。あなた達も疲労困憊でしょう。私が当直担当と一緒に残るわ。今日は誰?」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「どうしたの?何故みんな黙ってるの?」
「今日の当直は・・・副長だったんです」
 バツが悪そうに小雪が答えた。祐実の顔が不機嫌に曇る。
「そう、ならいいわ。さっき私の言いつけを守らなかった涼子を代行にする。ペナルティとしてね。筒見、そう伝えて」
 小雪は頷いてパソコンにメールを打ち始めた。




【聖オスロー女学院 大学寮ホワイトローズ】


「ったく!とりとめもない世間話なら引き止めないで欲しいわ!何の手がかりにもならないじゃない。こっちだって好き好んでガキの行方捜査なんてしたくないんだから!」
 玄関を出て美穂はふて腐れた。寮からキャンパスへと抜ける私道に止めた車まで歩く。運転席に弘美が待っていた。両手を軽く挙げ美穂はお手上げのポーズを弘美に見せた。
「ダメ、全然ダメ」
 美穂は助手席に乗り込むと、どっかとシートに体を預けた。
「収穫なんて呼べるものまったくナシ!帰ろうよ、疲れちゃった」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 はっと美穂は初めて弘美の異変に気がついた。弘美はボーッと前を見たまま我を忘れている。
「ちょ、ちょっと、弘美、弘美!どうしたの?ねぇ弘美ったら!」
「えっ・・・・・・・あ、あぁ美穂おかえり」
「いやだ、弘美一体なにボサッとしてるのよ。どうかしたかと思っちゃった」
「えっ?そんな、一瞬でしょ?ついボーッとしてただけ」
「ウソ!寝てたんじゃない?一瞬どころか、しばらく動きやしない。いくら緊迫した現場じゃなくて立ち回りができないからって退屈に居眠りもないもんだわ」
「そんな。わたし、どうしたんだろう?」
「どうしたもこうしたもないわ、聞きたいのはこっち!ちゃんとイヤホンで会話きいてたでしょうね〜?」
「えっ、えぇ・・・も、もちろん聞いてたわ」
 弘美の表情に余裕がない。
(ど、どうしたんだろう・・・・わたし。美穂が戻って来たの覚えてない)
「とにかく、もう帰りましょうよ。もうこんな学校居たくもないわ!」
「そ、そうね」
 弘美はエンジンをかけた。小気味良くエンジン音が唸る。
「どうだった?写真見て反応はなかった?」
「弘美、本当に大丈夫?無線傍受で聞いててくれたの?あの2人と寮母のシスターにも聞いたけど陣内瑠璃子に関する手がかりはナシ!いっっっっっさいナーシ!」

(ジ・ン・ナ・イ・ル・リ・コ)

 その時、美穂の目にはピクンっと一瞬弘美の体全体が何かに反応したように震えた気がした。微妙に弘美の顔が苦痛に歪んだように見えた。
「どうかした?弘美?」
「ん?ん〜ん、なにも・・・・・・・・」
 弘美はそう言いながら真面目な表情で美穂を正視している。その時、美穂の携帯が鳴った。液晶に表示された番号は見覚えのない未登録の番号だった。固い表情で自分を見ている弘美に半ば躊躇しながらも美穂は携帯電話に出てみた。
「もしもし・・・・・・・・」
「もしもしぃぃぃ〜、ミッポリ〜ン?」
「誰あなた?」
 ふざけた台詞に美穂は冷たく言い放った。
「さて、誰でしょう?当ててごらん」
 声の主はさらにクスクスと笑っている。
「からかわないで。私今とても機嫌が悪いの!イタズラなら切るわ!」
「いいよォ〜それでも、私は何にも気にしないけどね」
「あっそ!じゃあね!」
「でも探してたのはミッポリンのほうでしょ?なにか思い出したら電話してくれって佳美と由貴子に言ったじゃない。だから電話してあげたのに・・・つれないね」
 はっと美穂は直感が働いた。
「あなた・・・、あなた陣内さんね?」
 その声に弘美もハンドルから手を離し、美穂を見守る。
「え〜?『じんない』なんて人、そこら中にいっぱいいるよ」
「ふざけないで!陣内瑠璃子ね?あなた陣内瑠璃子さんでしょ」
 美穂は何かを聞きだそうと必死だった。

(ジ・ン・ナ・イ・ル・リ・コ、ジ・ン・ナ・イ・ル・リ・コ)

 その言葉を聞いた瞬間、弘美はまるで平衡感覚がなくなったような妙な浮遊感に襲われていた。なにか自分の内に秘めたものがゆっくりとゆっくりと頭を持ち上げてくる。言葉に表わせない妙な感覚が全身を駆け巡っていた。ゾクゾクと身震いが起きて何かしなくてはいけないという気持ちが胸のうちを締めていた。
(なんなんだろう・・・・・わたし・・・・なにか・・・変)
 隣で携帯に受け答えする美穂から目が離せない。美穂のことが気になって気になって仕方がなくて、じっと美穂のことを見つめている。彼女の仕草、うつりゆく表情に心を奪われていくような気になっていた。
(わたし・・・・・・・・・)
 体の感覚が美穂を見つめているとどんどん研ぎ澄まされて、自分で気づかないうちに右手が股間や胸の敏感な部分に這っていた。まるで自分の手ではないような、自分の体についた他人の手が自分の最も感じる部分を熟知していて、ゆっくりとそして確実に弘美の性感を刺激していく。気になってチラチラと視線を投げる美穂のことが切なくて抱きしめたくて自分のモノにしたい征服欲がムラムラとドス黒いエネルギーとなって込み上げて来た。

『ヒロミ ハ ホシイ オンナノコ ガ ホシイ。ヒロミ ハ ダイスキ セックス ガ ダイスキ』

まるで自分の中にもう1人の人間がいて、弘美の心を見透かして弘美の頭の中に妖しく囁きかけてくるようだった。逆らえない甘美な誘いが弘美の精神を蝕んでいく、逆らえない、いや逆らう必要なんてない、どうして逆らうの?ジンジンと疼いて濡れそぼる弘美のヴァギナを弘美は目の前にいる美穂のそれとキスするように優しく擦り合わせて悦びを分かち合いたい衝動に駆られていた。

『オカセ! オカセ! メノマエノ オンナ ヲ オカセ! オソエ ソイツ ハ オマエノモノ オマエノモノ ニ スルンダ ハヤク ハヤク ハヤク』

体がゆっくりと美穂の方へしなだれかかる。左手がゆっくりと美穂に近づく。

(ダメ!いけない!違う!違う!わたし、そんなの望んでない!)

不安げな表情で心の底から襲いかかるどす黒い欲望に弘美は抗った。抵抗は非常に弱い蜘蛛の糸のような理性の最後の一筋の光だった。美穂の太腿に伸ばしかけた腕をやっとの思いで引き戻した。必死の抵抗だった。
「あなた無事なの?なにか事件に巻き込まれたのではないのね」
 美穂の声はひときわ大きくなった。
「さってねぇ〜」
「どこにいるの?会いたいのよ、あなたに。会って無事であることを確認したいの」
「えーっ、面倒くさいなぁ。ウフフ・・・」
 どこか瑠璃子は楽しんでいるふうにも思える。
「今から行くから!何処?」
 美穂は周囲の声の反響がないことや雰囲気から外であると察した。
「私が誰だかわかったら教えてあげる」
「な、何言ってるの!陣内さんでしょ。陣内瑠璃子さんよね!」
 その瞬間だった。美穂の前に覆い被さるように運転席から弘美が抱きついて来た。持っていた携帯を取り落とす。
「ちょ、ちょっと・・・弘美・・・・なんなの。いやっ、離れて、なにしてんの!」
「美穂、美穂、好きよ、いいコトしよっ!」
「いやっ、なんなのよ。やめて!やめてったら!弘美、やめて!」
 抵抗する美穂を組み伏せるように弘美が押さえつけた。
「あん、わたし、もう我慢できないんだよ。やらせろよ、美穂、おまえはオレのもんだ」
「い・・・・や、いやだ・・・・・」
 弘美が唇を重ねてくる。片手で美穂の動きを制しながらもう片方の手が美穂の体に這い回った。
「どうしたっ・・ていうのよ。お願いだから、弘美・・・やめて」
「イヤだね!オレは、美穂を自分のものにするんだ。お前の全部オレのモンだ」
「いやーっ!だれか、だれか助けて。助けてーっ!」
 その時、ドアが開いた。
「彼女を、このコを私から離して!」
「だめだよ、そんなつれないこと言っちゃあ」
 顔を覗かせていたのはクスクスと笑う瑠璃子だった。
「あ、あなた・・・・・」
「せっかく弘美が好きだって言ってるんだから、ミッポリンも応えてあげなきゃ・・・」
「ま、まさか。ここにいたなんて」
「なに言ってんの?私は今来たばかり」
「あっ・・・あなた、最初からあの寮にいたのね」
「さってねぇ〜。由貴子、佳美、悦美、このコ達を寮に運んで。弘美、不破美穂を車外へ出して寮へ運びましょう。みんなでゆっくり楽しみましょう」
 瑠璃子の背後にいた寮母までも含めた3人が車の中へ手を差し込んでくる。無表情な表情のまま美穂の腕を掴んで、ずるずると車外へ引きずり出していった。
「いやっ・・・・いやーっ!」
 剥がれかけ制服のはだけた美穂が車外へ引きづり出されるまでいくらも時間はかからなかった。路上に倒れ込んで身を丸めて脅えている美穂を見下ろす瑠璃子の横に、欲情して卑らしく体をくねらせる変わり果てた同僚の弘美の姿があった。
「来ないでっ!」
 思い余って美穂は銃を出した。振り切るように銃を振り回して3人から離れた。しかし誰もたじろがない。
「いいの?ミッポリン、そんな物騒なものまで出して」
 意味深な笑みを浮べて瑠璃子がにじり寄る。
「そんな馬鹿にした名で呼ばないで!来ないで!来ないでったら!来たら撃つわよ!」
 美穂はすでにパニックに近い状態だった。及び腰でジリジリと後退する。
「弘美、弘美!逃げるの、逃げるのよ。コイツら皆グルよ、そうに決まってる」
「美穂・・・・だめだよ、わがまま言うなよ。オレのモノになれよ」
 弘美の目はきつく釣りあがって欲望に飢えた男のような言葉を吐いた。
「ひろみぃ〜!どうしちゃったのぉーっ!しっかりしてよぉぉぉっ!」
 ジリジリと近づいてくる5人に背を向けられず、後ずさりして逃げるしかない美穂の味方は1丁の銃しかない。
「撃つわ!それ以上近づかないで!」
「危ないでしょ、捨てなよ」
 瑠璃子は銃を向けられても余裕の表情で美穂との感覚をゆっくりと狭めている。
「陣内、あなた一体何者なの?なにを企んでいるの?」
「ヒトを化け物みたいに言わないでヨ」
 瑠璃子はポケットから手を引きぬいた。その手には音叉が握られている。車の角に軽く叩きつけると音叉は無機質な共鳴音を奏で始めた。
「聞こえる?この音があなたを夢の世界にいざなってくれる。あなたはこの音を聞くとまるでサカリのついたネコのように淫らな一匹のメスになる」
 そう言いながら1歩瑠璃子が前に踏み込んだ。
「来ないで!」
 ヒステリックに美穂が叫ぶ。
「今から私の言葉はあなたにとって本当になる。そしてあなたが言う言葉もあなたにとって本当になる」
「なんなの、あなた!私をどうするつもり!」
 ゆっくりと瑠璃子が美穂に近づく。
「それ以上近づかないで!撃つわよ!」

 瑠璃子は笑っている。笑いながら言葉を続ける。
「そう・・・・でも、重くない?そんな拳銃なんか持って」
「・・・・・・・・・・!」
 美穂は銃を構えたまま必死に事態の打開を考えていた。
「重いよ、重いでしょ、もう持っていられないくらい。重みに耐えられなくて痺れてくる」
「そ、そんな・・・・そんなこと・・・・うぅっ」
 銃口を瑠璃子に向けて対峙する美穂の目が瑠璃子をキッと睨みすえていた。まるで吸い込まれていきそうな瑠璃子の奥の深い漆黒の瞳から目が離せなくなっていた。拳銃をもつ震え始めた右手に左手を添える。それでも銃口はすでに真正面の瑠璃子の胸すら狙うことが出来ないほど傾いていき、とうとう取り落とすように銃を地に落した。
「手の痺れは全身をまわって、足に伝わるともう美穂は立っていられずに膝が地につく」
 しばらくして美穂の全身が小刻みに震え出し、やがて両足は膝からがくりと崩れるように地についた。
「や・・・・いや・・・やめて、もうやめて」
 恐怖に顔を歪ませて目を潤ませた瞳から涙がこぼれた。戦意などもうゼロに等しかった。
「なにをやめるの?わたし、まだ、何もしてないよ」
 薄笑いを浮べて瑠璃子は崩れ落ちた美穂の目の前まで来て勝ち誇ったように見下ろした。
「・・・・・・・・・恐いわ。あなたは一体・・・・・・」
 目の前に取り出したキラッと光る音叉が打ち鳴らされる。共鳴音が美穂の聴覚を刺激した。
「眠りなさい、眠るのよ」
「・・・・・・・・・・い・・・や・・・」
 まるで地団駄を踏むように全身をバタバタとばたつかせる。
「全身の力は一瞬で抜ける、そして睡魔があなたの意思を奪う」
 美穂の額を瑠璃子が指で軽く突いた瞬間、美穂はその場に倒れ伏した。瑠璃子は剥がれた美穂の制服に手を入れるとゆっくりとそして刺激のある愛撫を始めた。その間も耳元で囁くことをやめなかった。
「美穂、生まれ変わるのよ。美穂、『Hになあれ』」
 美穂はまったく動かなかった。

「フフ、フフフフ、弘美生まれ変わった気分はどう?」
 車の中で堕とした弘美はすでに従順な瑠璃子のペットになっていた。
「最高です。瑠璃子様、今までの自分がウソのよう」
「さあ、このコを運んで」
 無表情で立ったままの弘美達に顎で連れて行くように指図する。4人は抱え上げるように美穂を寮へと運び入れた。






【聖オスロー女学院 高等寮】


 高等部はすでに大学側からの連絡を受け、事件の関連が学生2名の当事者から否認された旨より令状無き生徒への任意の接触には応じかねると態度を硬化させた。陣内瑠璃子の所在の有無は確認が出来ずじまいとなってしまった。携帯のメールを見て涼子は車のバンパーを重いきり蹴り上げた。
「やめなさい、キズつくじゃない」
 奈那が無表情で言った。
「どうせキズだらけの車なんだから、1つ2つキズが増えたって構わないと思います!」
 怒り収まらずといった態度で涼子は怒鳴った。
「まったく勝手・勝手・勝手!ジコチューもいいトコ、あれがチーフのすることですか?」
 松永奈那と国井涼子は西野聡子の失踪の追跡調査で都内を飛び回っていた。出動してから終始、涼子は不機嫌だった、祐実のせいで。
「帰りましょう、今日のあなたじゃ運転が不安だから私が運転代わるわ」
 奈那がキーを受け取る。
「わたし、たしかにチーフからの指示を受けてたんです!だから陣内瑠璃子を診察後に『PD(パドック:本署)へ移送』から学校または寮へ帰すようにと筒見先生に伝えたんです。わたしの勝手な判断じゃありません。たしかにチーフの指示だったんです!」
 ハンドルを握る奈那の横で涼子は昼間と同じ愚痴をこぼした。奈那は表情を変えず黙ったまま前を見ていた。
「それを・・・それをチーフは私の勝手な判断と決めつけて!」
「チーフも悪気があって言ったんじゃないわ。きっと事件でカリカリしてー」
「やめて下さい!奈那先輩どうして今日はそんなにチーフのことかばうんです?奈那先輩なら私の気持ちわかってくれると思って話しているのに・・・・・」
「・・・・・そう、ごめんね」
「しかも、それをペナルティーに今日の夜勤シフトに入れだなんて・・・今、メールあったんです。ひどいじゃないですか!ありもしなかったミスをペナルティーにだなんて、祐実のヤツ!」
「気に入らないみたいね」
「当然ですよ!どうしたんですか、先輩!いつもなら祐実のこと一緒に非難してくれるのに・・・・。なんで今日はそんなに・・・・・・もうっ!しらけちゃう!」
「あなた、チーフがキライ?」
「今さら何言ってるんですか!わかってるはずです、私は伊部チーフのためだったらどんな無茶な作戦や承服しかねる命令にだって従ってきました。それは、伊部チーフの指示が冷静に考えれば納得のいく内容だったし、反問すれば、した者の意見もきちんと聞いてくれました」
「今のチーフはちがうと?」
「違います!絶対違います。奈那先輩だって何度も煮え湯を飲まされて来たじゃないですか!閃きや自己中心的な状況判断が祐実には多すぎるって。言い方悪いですけど、彼女はまだガキなんです。コドモなんです!」
「反抗する気?」
「反抗はしません。でも積極的にチーフのやり方に賛同してついていこうとも思いません。これ以上無茶な命令を続けるつもりなら局長に直接訴えることだって・・・」
「そう・・・・・・残念ね」
 奈那の目が光る。
「えっ・・・・・・・・・」
 勢いにまかせて、まくしたてた涼子の口が止まった。
「どうしたの、涼子?」
「い、いえ・・・・・いま一瞬、奈那先輩の雰囲気が祐実と重なって見えて」
「・・・・・・ふ〜ん」



【PD(パドック:本署) チーム6 スタッフルーム】


「筒見、まだしばらくは居る?」
「え、えぇ。明日の臨床の準備をしておこうかと思ってますので」
「少し席を外す。不破と沢村から間もなく帰還する旨の連絡を先ほど受けたから、戻ってきたら報告は明日でいいと伝えて。2人も疲れているようだから帰らせて」
「はい、わかりました」
 祐実は言い終えるとチーフ室に移った。1人になった祐実はロックのかかった机のキーを解錠した。
「奈那、エライわ。いいつけに忠実ね」
 妖しげに微笑んで祐実は独り言を呟いた。奈那は祐実の指示通り、涼子の言動を密かに祐実へと伝えていた。祐実は引き出しの奥から洗脳薬LDを1組取り出した。
「涼子、あなたも私の従順な人形になるのよ、もう私への不満は解消されるわ」
 祐実は妖しく微笑む。

「ちょっと、どこ行くんですか?何するんです、ジムプールになんか」
 涼子は奈那と帰還後、スタッフルームではなく別棟である訓練棟のプールに引っ張られた。奈那が無理に涼子の手をとって連れて来たのだった。
「あなたに折入って話があるのよ。だから人のいないところで話したい」
 奈那は無表情で涼子を人気の無いプールサイドへ立たせた。薄暗いプールサイドに外から差し込む夜景の光が水面を輝かせている。
「話って・・・・・車の中だって・・・」
 涼子がそう切り出した瞬間、奈那は銃を引きぬいて銃口を涼子の鼻先に向けた。
「ひっ!!!!!!」
 反射的に回避行動で横へ跳んだが、そこを奈那に蹴り飛ばされてプールへと落ちた。
(なぜ?なんで?どうして?)
 プールの中を息の続く限りさ迷いながら銃を引きぬいた。
(反対側のプールサイドへ!)
 とうとう息が続かなくなって水面へと上昇する時、奈那がいたであろう方角に銃を向けつつ一気に上昇した。
「はっ・・・・いない!」
 あたりを見渡して最後に真後ろへ向きかけた時、頭上に2人の人影を認めた。一瞬では顔すら判断が難しい。
「・・・・・・!」
 羽交い締めにされるように組みつかれると下半身が水面にある分身動きがとれずに不利な態勢のまま更に首を締め上げられる。
「い・・・・・・・い・・や・・・・」
 指先がトリガーから弱々しく抜けていく。締め上げる奈那の背後から祐実は涼子の銃を取り上げた。何とか態勢を立て直そうと力んでいた涼子の足から力が抜けていくのが見て取れる。
「落ちました」
 奈那が締め上げた腕を緩める。
「引き上げて、管理室へ。人目につかぬよう注意して運んで」
「はい」
「意識がない方が楽でいいわ。導入剤と固定剤を同時に摂取させられるから」
 その時、プールの照明が一斉に点灯した。

「なにをしているの?」
 ジムとプールは更衣室シャワールームを通じてつながっている。ジムトレーニングとスイムを併行して出来るように配慮した設計だった。入って来たのは水着姿の奈津美だった。
「『なにをしているの?』はこっちのセリフだわ。あなたは謹慎処分されているのよ」
 祐実は平静を装ったが声が上ずっているのは隠せなかった。
「涼子に何をした!」
「関係ないわ!伊部、あなた謹慎中なのよ!帰りなさい!」
 落ち着いているつもりでも動揺が隠せない。涼子を襲う現場を見られた焦りが祐実の表情に現れる。奈那は奈津美を視界に認めるとその無表情の中でピクっと眉を動かし反応した。

(私に歯向かう者はチームメートであってもあなたの敵よ!)
 
 脳裏に深く刻まれた祐実の声が響く。

(伊部奈津美は汚い手を使って私をチームから追い出そうとしている。憎みなさい、奈那、私は奈津美が憎い。だからあなたも奈津美を憎むの。憎め!伊部奈津美を!)

 脳裏に深く刻まれた祐実の声が響く。
「憎い・・・・・憎い・・・・・伊部奈津美が憎い・・・・・」
 周囲に聞こえないほど小さな声が奈那の口からうわ言のように漏れ始めた。

「奈那、あなたがついていながら何やってるのよ!涼子、涼子!しっかりして!涼子!」
 プールサイドに横たわる涼子を奈津美が助け起こした。
「何でもないわ、気を失っているだけ。『PE』をやったのよ。ダメネ、不合格だわ」
 吐き捨てるように祐実が言った。

 緊急実践(PE:plactice emergency)と呼ばれる訓練は、チームの緊張感と実戦力を常に高いレベルに維持するために行なわれる抜打ちの実践訓練のことで主に規定勤務時間の中で署内で隊員同士が敵味方に分かれ行われているものだ。
「祐実、あなたウソもうまいのね。この時間にこんな場所で、しかも小人数でPEをするなんて聞いたことがない。しかも涼子は銃まで抜いてる。あなたは何かを企んでここに涼子と奈那を連れて来たのね」
 皮肉混じりの奈津美の言葉だった。
「馬鹿らしい・・・・PE(緊急実践)だって言ってるでしょ。これが私のやり方なの。口出ししないで!それより、あなた私の処分をなんだと思ってるの?懲戒にでもされたいのね、お望みならすぐにでもしてあげる。LSからも追放してあげようか?」
「自宅謹慎処分でない限り、チームスタッフは関係する訓練施設と医療施設の利用は許されるのよ。馬鹿はあなただわ、祐実。あなたが下した処分はただの謹慎よ」
「くっ・・・・・・!」
 祐実は唇を噛んだ。悔しさがにじみ出ている。
「彼女は・・・涼子は私が引き取る。あなたには渡さない、いいわね」
「勝手すれば!」
 祐実は言い放った。
「奈那!手伝って!」
 そう奈津美が言った瞬間だった。その言葉は奈津美にも祐実にも聞こえた。
「憎い・・・・・憎い・・・・・伊部奈津美が憎い・・・・・」
「な、奈那!!!!!!」
 ためらいもなく奈津美に向けられた奈那の銃口は祐実の制止の言葉が出る余裕すらなく火を噴いた。銃声は広いプール一面に響き渡った。

 
 


 

 

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