ファンタジーシティー


 

 

マイ・ディア・シスター (scene14-16)


−14−


「かんぱーい」
 マヤの大声に、ほかの3人の声はほとんどかき消された。
 両手で握ったホットミルクのカップに、3人のワイングラスは弾き飛ばされそうになる。
 仲良し同士のお食事会らしい光景だ。食卓を囲み、乾杯を交わす者たちが、惜しげもなくその肌をさらしていなければ。
 円卓の正面に座るのが、絶対服従の精神を植え付けられた女剣士、ノエル。アレクの言葉に真っ先に従い、鎧もアンダーシャツも脱ぎ捨てた。胸を覆うさらしも緩められ、隙間から乳房がわずかにのぞいている。剣を机に立て掛け、どんな命令にも即座に従えるよう、こちらを一心に見つめているのが心地よい。
 右隣は、健気で可憐なアレクの“恋人”、巫女のマヤちゃん。胸を見せてと頼んだら、甘えた声で「脱がせてください」とせがんで来た。白い装束を肌蹴て内着を取り去ると、なでやかな肩と小ぶりな胸が露出する。今は椅子をぎりぎりまでこっち側に寄せて、アレクがすべすべの太ももに手をのばす度に、嬉しそうに抗議してくる。
 左側には、催眠術で思考や感覚を弄くられ、アレクのためだけの存在に作り変えられつつあるシスターのセアラ。部下や後輩が嬉々として肌をさらす様子に混乱して声を荒げていた彼女も、ノエルが耳元で暗示の台詞を囁くと、理知的な緑の瞳がぼおっと霞み、言われるままにその身をさらけ出していった。切り開かれた修道服の布地からは豊かな胸がつんと突き出て、紺色の生地が乳房を下から支えるような形になっている。
「どうしました? そんなにきょろきょろして、はしたないわ」
 言いながら、セアラが長い金髪をかき上げる。
(フィクス君に見つめられると、身体が熱くなってしまうわ……)
 自分の格好に違和感は持てなくなっているけれど、羞恥心自体が消えてしまったわけではない。アレクの視線を浴びて、セアラは理由の分からない興奮に身を染めている。
「いや、高そうな店だな、と思って」
 潤んだ瞳や色づいた唇から視線をそらして、アレクはそうごまかす。
 まんざら嘘でもなかった。天窓とたくさんの燭台に照らされた、アレクの自室より広い個室。壁に掛けられた高そうな絵、円卓を覆う真っ白なテーブルクロス、つややかな白磁や銀の食器、セアラの奢りとはいえ、値段について考えると気後れしてしまう。
「肉だって、ほら、こんなに柔らかいし」
 アレクはラム肉のステーキを丸かじりにする。
「ラム肉なのだから当然でしょう」
 セアラがそう言うけれど、アレクが普段食べる羊肉といえば、廉価な高齢の羊毛種だ。肉は当然固くて筋っぽい。ステーキになどできたものではないので、細切れにして、溢れるほどのたれに漬け込んで焼く…というか煮込むのが定番である。
「はむはむ」
 フォークをぶっ刺したステーキを噛み千切ると、肉汁がテーブルクロスに散る。なにしろアレクは貧乏人なもので、ナイフとフォークで肉を切り分けるなどというエレガントな風習には縁がない。
「ウェイターに言って切らせればよかったのに」
「もう遅いだろ。食いさしだし」
 部屋の入り口には、すでにマヤが人払いのお札を貼っている。
「仕方ないわね」
 セアラが席を立って歩いてくる。
 アレクの後ろから、かがみこんで両手が回されると、垂れた金髪が頬に触れた。柔らかな胸が肩のあたりに押しつけられ、シャツの布地一枚を通して固くしこった乳首の感触が伝わる。
「いい、フィクス君。まず、右手にナイフ、左手にフォークを持って」
 普段そんなことを言われたら好きに食わせろと振り払うところだが、耳元で囁かれる声があまりに優しいので、抵抗する気もなくなってしまう。
「グーで握らない。それじゃ細かい作業はできないでしょう」
 ノエルがやってみせるのを盗み見て、ナイフとフォークを指先でつまむようにすると、その上からセアラの手がかぶせられる。
「繊維の向きに垂直に刃を入れるの」
 ナイフを握った手に、柔らかい繊維を断ち切る感触が伝わってくる。
「先にナイフだけ入れてしまいましょう」
 セアラに言われるままに、ラム肉を一口サイズに切り分けていく。
 刃が引っかかると、セアラはこまめにアドバイスをくれる。
「押し潰すのではなくきちんと刃を立てて切るようにして。あまり力をかけると肉汁が染み出してしまうわ」
 全て切り終えると、セアラはフォークを右手に持たせようとする。
 けれど、アレクは手を開かない。
「フィクス君?」
「食べさせてよ」
「冗談がすぎますわ。子供ではあるまいし」
「さっきまでさんざんガキ扱いしたじゃんか」
 手を取ってナイフの使い方教室なんて。根っからの世話焼きなのだとアレクは思う。
「マヤに誤解されても知りませんよ」
「いいないいなあ、アレクさんいいなあ」
 マヤがフォークで皿をカチカチ鳴らす。
 皿いっぱいのアスパラガスにがっついていたせいで、口の周りはマヨネーズがべったりだ。
「お客さまが望むようにお持て成しするのは、人を招待するときの義務じゃないですか」
 パチンパチンと指を鳴らすと、セアラが力ない声で同意する。
「うん、そうね……」
 言いながら、小さく切ったステーキに、ソースを絡めていく。
(フィクス君のお持て成しですもの。……意識するから、いけないのよ……)
「どうぞ」
 口の中にステーキの一切れが差し入れられる。
 奥歯で噛み潰すと、ソースと肉汁の味が広がる。
「おいしいよ。ありがとう」
「どういたしまして」
 セアラは口元に手を当ててたおやかに微笑む。
(フィクス君って意外とかわいいのね)
 無意識にテレパスを送るよう暗示をかけたのはこっちだが、こういうメッセージを送られると非常に恥ずかしい。
「次はわたしの番ですっ」
 食べさせて、食べさせて。瞳が期待に輝いている。
「あなたの料理、ナイフで切るようなものないじゃない」
「んーと、この野菜スープ(ミネストローネ)でいいです」
 ずずいっと差し出されるスプーン。
「もう、しようのない子ね」
 言いながら、セアラがスプーンをマヤの口に運ぶ。
 半裸の姿でじゃれ合う美女と美少女の姿にアレクの相好が緩む。
「じゃあ、俺からは、ヴェルネの切ってくれたステーキをあげよう」
「わーい。はぐはぐはぐ」
 今まで無理して背伸びしてきた反動なのか、ここ数日のマヤの振る舞いはやたら子供っぽい。
「もう一口。わんもあぷりーず」
 席に戻ろうとするセアラの手を引く。
「本当に手のかかる子たちでしょう?」
 セアラは黙々とパスタとサラダを食べ続けていたノエルにぼやいてみせる。
「仲がよいのですね。家族のようです」
 淡々と、穏やかな口調で、ノエルはそう応じた。
「家族ですか。お姉さんと妹と、その……彼氏…ですよね?」
 マヤちゃん、彼氏は家族じゃないぞ。
 それに、どうにもアレクには別の組み合わせがあるように思えてならない。
「おとーさん、おかーさん、甘えんぼの一人娘」
 その言葉に、セアラとマヤがそれぞれ別の理由で顔を赤らめる。
(フィクス君が旦那さまで…マヤみたいなかわいい娘……)
 セアラはすっかりショートトリップ。
「ノエルさん、ひどい。頷きましたねっ」
 マヤは席を立ってノエルに詰め寄り、スプーンいっぱいのオムライスで懐柔されていた。
「食べますか?」
「いただきます」
 二口、三口とマヤの口元にスプーンを運ぶノエル。餌付けだ、餌付け。



「あ……」
 肌蹴た布地が邪魔になってか、マヤは手を滑らせた。
 フォークから抜け落ちたアスパラガスが、マヤの身体の上で弾む。
 慎ましやかな乳房に、ねっとりとした自家製マヨネーズが線を残す。
「動かないで」
 アレクは椅子から下りてアスパラガスを拾うと、マヤの身体についたマヨネーズをぺろりと舐める。
「あはっ、ん……、アレクさぁん……」
 マヤは甘えた声をあげ、肌蹴た白衣をさらに緩める。
「二人とも、なにをしているの?」
「え? 女の子の身体をきれいにしてあげるのは紳士の嗜みだろ」
「あ…、はい、アレクさんの言うとおりです」
「そんな話、聞いたこと無いわ」
 声をあげるセアラに、マヤはくちびるを尖らせ、邪魔しないでというような視線を送る。
 セアラが助けを求めるようにノエルを見ると、誰もが認める常識人の部下はさも当たり前というように言葉を返した。
「フィクスさんの仰ることに間違いはありません」
「そんなこと……あるわけ……」
 言い返そうとして、セアラは口ごもる。
 困惑するセアラの様子を見て満足したアレクは、再びマヤの胸の中に顔をうずめる。
 人肌のぬくもりが頬から伝わる。
「はゅ……ん……、好きです……もっと舐めてください……」
 求めに応じて、胸のところを舌で強くこする。
 まだかたさの残る乳房は弾むような感触で、つつく舌先を押し返してくる。
 ちゅっちゅっちゅっとあちこちを何度もついばむ。
「こっちも…ひだりもしてくださぁい……」
 甘えた声でせがむマヤの言うとおり、左の乳を両手で包み込んで盛り上げる。幼く見えるとはいえ、マヤの身体は、男を迎え入れ子供を育てられるようにはなっている。まだ成長途中な胸も、無理にでも集めてみればちょっとした量の脂肪が集まる。あたたかなおっぱい。乳は出ないと思うけど、赤く色づいた乳首に唇を寄せる。
「ん…ん……くぅっ……吸っちゃやぁ……舐めてぇ……」
 アレクはマヤに頼まれるとイヤとは言えないのだ。
 乳首をやわく唇で挟んだまま、舌先で何度も何度も先端を舐める。
「あ…ん…ん…んんっ……ふゆぅ……」
 マヤの身体からはすっかり力が抜けて、椅子に浅く腰掛けたまままま両腕をぶらりとぶら下げている。
 赤く充血して右側よりも心持ち大きくみえる乳首を解放すると、今度は胸のあたり全体を、大きく舌を動かしてべろぺろと舐めていく。
「あははぁ……アレクさぁん……きもちいいですぅ……」
 放心して背もたれに寄りかかっているマヤ。
 頬はピンク色に染まって、口は半開きになっている。
「だらしないなあ、マヤちゃん、よだれが垂れてるよ」
「えー?」
 快感にとろけきったアレクの恋人は、童女のように首をかしげる。
「舐めてあげる」
 口の端からあごへと流れ出した唾液を唇で吸い取る。
 そのまま唇を舌で撫でると、マヤは短い舌をのばして、アレクの舌にこすりつけてきた。
「れぅ…りゅ……んん……れる…れ…れぇ……」
 喉を鳴らしながら、アレクの舌に懸命に舌を絡みつけようとするマヤ。
 唇同士をくっつければいくらでもディープなキスができるのだけど、あえて空中で舌と舌を絡ませあう。
「ん……ゅ……ありゅ…りゅ…ありぇくしゃぁん…………」
 少女本来の幼さを強調するような甘えた仕草や声とは裏腹に、その口付けは熱っぽくて淫靡だ。
「…ぅ…りゅ…ちゅ……ん……れる…る…るぅ……」
 舌を絡め合うアレクとマヤの姿に、セアラは完全に魅入られている。
(認められるわけないわ……こんなに…ふしだらなこと……
 マヤったら…なんてみだらな…幸せそうな顔をして……
 もしも……わたくしが……あんなことをされたら……)

「あっ」
「ヴェルネ、どうした?」
「……え…あ…少しぼーっとしてしまって……」
 セアラは両腕で自分の身体を抱え込むようにしていた。
 寄せて上げられた胸元に、赤ワインが広がっている。
 ノエルがまだ少し中身の残ったワイングラスを受け取ってテーブルに置く。
「身体を汚してしまったようですね」
 落ち着いた表情の中で、視線だけがやさしく、敬愛する主と上司に訪れた機会を祝福している。
「あはっ、次はセアラさんの番ですか」
 マヤは無邪気に笑ってアレクの背を押す。
(わざとやったわけじゃありませんわ。ただ、見とれてしまっただけ……)
 セアラがちらちらとこちらを伺う。
「どうしたい?」
 焦らすように声をかけると、セアラは上目遣いでにらみつけてきた。
(ひどいわ、フィクス君)
「フィクス君さえよろしければ、舐めて…ください……」
 胸の谷間は赤ワインをなみなみと湛えていた。
 口をつけると、甘酸っぱい味が口の中に広がる。
 舌でぴちゃぴちゃと音を立てながらワインを舐める。この異常な状況下でマナーをあれこれ言われるはずもなく、セアラを恥ずかしがらせるように、わざと下品にすすっていく。
(ん…やだ……恥ずかしい……)
「美味しいな」
「え……、あなただって同じものを飲んでいたでしょう」
(私の胸から飲んでいるから? フィクス君が喜んでくれるなら……うれしいわ……)
 胸に溜まったワインを飲んでしまうと、絹のような白さとなめらかさを持った乳房のあちこちに、紅い雫が浮いたような状態になる。
 その雫を、一滴一滴舌先で舐め取っていく。
 ――ぺろぺろ…ぺろぺろ
(ああ…フィクス君が…わたくしの胸を舐めている……)
 たっぷりと脂肪を包んだなめらかな肌は、舌の圧力だけでも形を変えていく。
 支えるように両手を当てると、セアラの身体がびくんと震えた。
 セアラの体温が上がって、鼓動が高鳴るのが分かる。植えつけられた恋心と、敏感にされた感覚が、セアラを興奮させていた。
 量感のある乳房を押し開いて、その内側に残るワインを舐める。
 暖かく柔らかな胸肉。至福の感覚だ。芳醇な葡萄の香りに頭がくらくらする。
 左右から胸を揉んで頬に押しつける。
(フィクス君に触られると、感じ…感じ…感じてっ)
「はううんっ」
 セアラが甲高く喉を鳴らす。
(ずっと、昂ってしまう……、自分でしたり、レジェナにされた時よりも……
 暖かくて、優しくて、フィクス君に触って、舐めてもらうと、胸が、熱くなるの……)
「ふふふっ、セアラさん、感じてるんですね……」
「やあ…、マヤ…言わないで……」
(こんなはしたない様を晒してしまうなんて………
 神に仕える身だというのに……わたくしの身体は……こんなに卑猥でいやらしかったのね……
 いままで身を律していられたのは、ただ、本当の快楽を知らなかっただけ……)
「ね、セアラさん、感じてるんでしょ?」
「隊長の乳首……、赤く…勃起しています」
「え…うそ…恥ずかしい……」
(高潔ぶったわたくしの、みだらであさましい本性を知ったら、フィクス君もマヤもきっと軽蔑するわ……)
 貴族だから、シスターだから、隊長だからと、プライドの高いセアラは、ずっと気を張ってきた。
 それも性感によがり狂うところを見られてしまっては台無しだ。
「ふふふっ、セアラさん、気持ちいいですよねー」
「フィクスさんに大切にしていただいて感じるのは……女として当然のことです。
 私など、見ているだけでこのように濡れてしまっています」
 ノエルは自分の手を股間に差し入れる。くちゅりと音がし、淫蜜をを掬い取った指をさらしてみせる。
「わたしもアレクさんにさわってもらって、エッチなとこがぐしょぐしょですよ……」
「あなたたち、なにを言っているの。フィクス君だっているのに」
「わたしはアレクさんのこと大好きですからー」
「尊敬するフィクスさんには、私の全てを知っていただきたいと思っています」
「嬉しいよ、マヤちゃん、ノエル」
 二人が差し出した、愛液まみれの指を交互に舐める。
 マヤはあどけなく喜色を浮かべてその指をくわえ、ノエルはわずかに目を細めてそれに倣った。
「セアラさんはどうなんですか?」
「それは……フィクス君のことは信頼しているけれど……」
 まだ戸惑っているセアラの乳首に強く吸い付く。
「ひああっ」
 悲鳴のような声があがる。
 そのまま赤く実った果実を唇でついばむ。
(やっ…はっ…すごい…すごいわ……)
「隊長……綺麗です……」
(わたくし…感じてしまってもいいの? みだらなわたくしを、みんな受け入れてくれるの?)
「ん……んんっ! わたくしも…わたくしも感じてますっ
 フィクス君に裸を見られて、触られて、舐められて感じているんですっ」
「かわいいよ、ヴェルネ」
 ワインの露が残っているところを探して何度もキスをする。
「んっ、あ…あ…んっ…んんっ……」
(わたくしが…かわいいですって……)
 柔らかな胸を両手で揉む。
 セアラは抵抗もせず、背中を椅子の背もたれに押しつけたまま身をよじる。
「教えて、セアラさん。セアラさんの身体、どうなってます?」
「え…あ…熱いのっ。フィクス君に触ってもらうと、なんだか、身体の奥がきゅんってなるのっ」
「エッチなところはどうですか?」
「……濡れて…いるわ……。ヴァギナの奥が…なんだか…うずくの……」
(恥ずかしい……フィクス君や、マヤに、こんなこと言ってしまうなんて――)
「ヴェルネは淫乱なんだね」
 アレクが言うと、セアラの身体が強ばった。
(いや……淫乱…だなんて……、いつもの…意地悪……でしょう?
 フィクス君に軽蔑されたら、わたくし、もう生きていけない……)
「ひどいわっ、フィクス君」
 叫ぶ声が震えている。
「誰彼かまわずこんな姿を見せたりするものですかっ。
 フィクス君がしてくださるからっ!! 触ってもらいたいのはフィクス君だけですわっ」
 瞳の端に涙の粒が浮いている。
「ごめんね、淫乱なんて言っちゃって。そこまで言ってくれると男冥利に尽きるよ」
「よかった……」
(わたくし…やっぱりフィクス君のことを愛してる……
 神様、申し訳ありません、わたくしはもはや心よりお仕えることができません……
 ごめんなさい、マヤ、貴方の信頼を裏切ってしまいそう……)
 わずか数日で、セアラがここまで変わるとは思っていなかった。
「アレクさん、ひどいこと言っちゃダメです。わたしたち、仲間じゃないですか。
 ね、セアラさん、わたしたちになら、恥ずかしいとこ見せたっていいんですよ」
(仲間……ああ……フィクス君たちはわたくしの仲間……
 ありのままのわたくしを……見せてしまっていいのね……)
「ヴェルネのかわいいとこ、もっと見たいな」
「だって。セアラさん、いっぱい感じてくださいね。
 ほら、セアラさんのおっぱいは、普段の何倍も敏感になりますよー」
 マヤは耳元でささやいて指を鳴らす。
「ふああっ」
 セアラが嬌声をあげて身じろぎする。
 顔をうずめていたおっぱいがぷるんと震えた。
「あ、ああっ、感じて、感じてしまいますっ」
(いきなり乳房がすごく過敏になって、フィクス君の、頬が、鼻が、舌が、唇が、指が、手のひらが、全部感じられるわ。
 触ってもらってるとこだけじゃなくて全身が熱く火照って……すごく幸せ……
 頭の奥がじーんと痺れて、フィクス君のことしか考えられなくなってしまうの……)
「あ…あ…ああっ、フィクス君、フィクスくぅん、いいっ、いいわっ」
(フィクス君にはしたない姿を知られて、死んでしまうほど恥ずかしいのに――
 胸の奥がきゅんってなって……すごく嬉しいの……)
「フィクス君……して……してください……わたくし…フィクス君にに触られるとおかしくなってしまいますのっ!
 どうぞわたくしを辱めてくださいまし……。そして…わたくしのすべてを見てください……」
「うん、見てるよ。ほら、ヴェルネのおっぱい柔らかいね」
 乳房を左右から挟んで寄せて、両方の乳首を舌先で代わる代わる舐める。
(ああっ、胸が、乳首が、気持ちいい、気持ちいいわっ、ああっ、いいよぉ……)
「んんっ、んっ、んんっ、んんんんっ!!」
 セアラは声も出せないまま喉奥を鳴らして痙攣している。
(くる……ああっ身体の奥から何かがこみ上げて……フィクス君……わたくし、わたくしっ)
「んあっ、あっ、ああああああああっ」
 セアラの身体が跳ねて、腰が椅子から浮いた。
「はあ…はあ…はあ……、……気を…やって……しまいましたわ……」
 大きく息をついていたセアラは、アレクに顔を覗き込まれていることに気がつくと、不安げに眉をひそめた。
 額の汗を拭って、乱れた髪を指先で優しく梳いてやる。
「ほら、ヴェルネ、きれいになったよ」
「はい、フィクス君、ありがとうございます」
 セアラは胸元に唾液の跡を残したまま、うっとりとアレクに微笑みかける。



 丸テーブルに四人掛けならば、円周を四等分するように並ぶのが常識だろうが、マヤもセアラも、アレクの両脇にピタリと椅子を寄せていた。
「えへへー、アレクさーん」
 すりすりと肩をこすりつけてくるマヤ。
「……フィクス君」
 アレクの手を両手で握って、ポッと頬を染めているセアラ。
 対面に座るノエルは、一見すると平然としているようでいて、その視線の内には熱烈な敬慕の想いが篭っている。
「そろそろデザートにいたしませんか」
「え…あ……そうね……」
 セアラが机の上のベルに手を伸ばすが、マヤがひったくるように奪い取る。
――カランカランカラーンッ
 商店街の福引ではないのだから、そんなに大仰に鳴らさなくても。
「やりたかったの?」
「はい」
 照れ笑いを浮かべるマヤの頭をぐしゃぐしゃと撫でてやる。髪の毛が乱れるが知ったこっちゃない。
「うー、アレクさんのいじわるー」
「もう、呼び鈴は普通に振るだけでいいのよ。ちゃんと聞こえるから」
 チリンと優雅に鈴を鳴らすセアラ。
 音色といい、仕草といい、マヤの時とはずいぶんと違ってみえる。

 人払いの札の貼られた扉が開いた。たいていの結界がそうであるように、人払いは内側から招き入れれば効力を失う。入ってきたのは2人のウェイトレス。一流レストランだけあって、どちらも清潔感のあるブロンドの美人だ。瞳はどこか焦点が合っていない風で、肌をさらけ出している女性たちにも一切反応を示さない。
 食器を運び出して、もう1度入ってくる時には、大きなケーキとティーポッドを持っていた。
 大きな丸いショートケーキを4人で切って食べたいというのはマヤの希望だ。彼女にとって、仲良しのパーティとはそういうものらしい。
 招待主として、最年長者として、セアラがケーキを切り分ける。
 真っ先に、1/4より少しだけ大きく切られたケーキが回ってくる。
「なあ、食べさせてくれないか」
「はい。どうぞ召し上がれ」
 はじめのステーキの時に、『客をもてなすのは主人の義務』などという暗示をかけてあるけれど、嬉しそうにフォークを差し出す姿はそれだけとは思えない。
「あーん」
 差し出されるケーキを一口一口飲み込んでいく。
 お行儀よく左手を添えて、こぼれたスポンジのくずを受け止めているのがお嬢様らしい。
(こうしていると……まるで恋人みたい……)
 半裸の修道女はここぞとばかりに肩をすりつけてくる。そのくせ、こっちから触れると、きゃっとかわいらしく驚きの声をあげるのだから面白い。
「口移しで、食べさせてくれるかな」
「マヤには、してもらったことありますの?」
「いや、ないね」
(いいのかしら、マヤともしたことのないこと……)
 マヤの方を見ると、なにやらノエルとじゃれあっている。
 どうぞどうぞ。いえ、私は結構です。なんだってー、わたしのケーキが食べられないだとー。
 マヤちゃん、キミはどこの酔っ払いだ。みんな同じケーキを食べようと言ったのは誰の要望だったか思い出したまえ。
「ふふっ、フィクス君のたっての願いというのでしたら、聞かないわけにはいきませんわ」
 苺を挟んだ唇がゆっくりと近づいてくる。
 唇が軽く触れ、口の中に瑞々しい苺が飛び込んでくる。
 なにもつけずとも、歯を立てると甘い果汁が口の中に広がる。
(フィクス君と…口付け……してしまったわ……
 ちょっと唇が触れただけなのに……とても幸せ……)
 うっとりと夢見心地に浸っているセアラの胸をさわさわとさする。
「ひあうっ」
「ヴェルネのおっぱい、大きいだけじゃなくて、柔らかくてさわり心地もいいね」
「恥ずかしいわ……ん…ふぅ……」
(みだらなことをされて、いやらしいこと言われるの、フィクス君だとちっともいやじゃないの。
 自分の胸嫌いだったけれど、フィクス君が興奮してくれるとわたくしも嬉しくなっちゃう。大きな胸でよかったって思えるわ)
「まだケーキはいっぱい残ってるよ。フォークは使わないでやってみてくれる?」
「はい」
 セアラは従順に言いつけを守り、机に顔を近づけ、ケーキを歯と唇でちぎり取る。
「少し噛んでみて」
「ん…む……ふむ…………」
(いけない……またフィクス君とキスすると思うと……唾液があふれ出してしまうの……)
 柔らかくほぐされた苺味のスポンジが、口の中に放り込まれる。
 ケーキを送り出そうとする舌に、こちらの舌を絡める。
「ぐちゅ…ぐじゅ…じゅりゅ………」
 水分というか、汁気というか、どろどろとしたものの交じり合った口接。
 唾液交じりの生暖かい液体をごくんと飲み込む。

 マヤとノエルが、二人してケーキをつつきながら話し始めるのが聞こえてきた。
「そういえば、セアラさんって貴族さまなんですよねー」
「はい。隊長は侯爵家の令嬢で、辺境伯領の数少ない継承権者の一人です。詳しい話は聞いていますか?」
「いいえ。でも、セアラさんのこともっと知りたいです」
(わたくしの家のこと!? なにもこんな時に話さなくたって――)

「あなたたち、なんの話をしていますの?」
 唇を離して声を荒げるセアラの乳首に、強く爪を立てる。
「くううっ!」
「ヴェルネ」
(あ……、フィクス君が怒ってるわ……)
「ごめんなさい。おもてなしに、集中いたしますわ」
 再びセアラはケーキをアレクの口に運び始める。

「辺境伯領を代々治めていたヴェルナー家は、古代帝国期から連なる名門貴族です」
 セアラに軽く視線を走らせ、ノエルは語り始めた。
「私たちが幼い頃に起きた宗教戦争で、辺境伯家本家の男子は一人残らず失われました。戦争で荒廃した辺境伯領は、隊長の父君――辺境伯家本家の生き残りである母君の旦那様に引き継がれました。父君は侯爵家の嫡男で、これにより帝国有数の大領主となりました」
「それじゃあ、セアラさんと結婚すれば、帝国で何番目かの領主さまになれるんですか?」
 もしもそうだとすれば、彼女はこんなところでアレクのおもちゃにされてはいないだろう。
「隊長の母君は早くして亡くなられ、侯爵と後妻との間に男子が生まれたので、領地の大部分は、その人が継ぐことになると思います。ただ、辺境伯領に関しては――」
「あ。血が繋がってない」
 辺境伯家の血筋なのはセアラだけ。セアラの異母弟にあたる侯爵家令息は、辺境伯家の血を継いでいない。だから、辺境伯家の家臣団は、セアラが子を為して、辺境伯の血統と家名を残すことを熱望している。
「辺境伯領出身の私は、隊長がこの街で旦那様を見つけることを願っていました」
「だからアレクさんにきつく当たったんですね。セアラさんにつく悪い虫だから」
「申し訳ありません……」
「わっ、泣きそうな顔しないでくださいよー」

 そんな会話を、アレクはセアラに唇で奉仕させながら聞いていた。
 もう何度目か、唾液の跡を残して、唇が離れる。
 毎回毎回、セアラは几帳面に、布巾でアレクの口元を拭ってくれる。
「侯爵家のお姫様が、こんな風に御奉仕をしてくれるなんてねー」
「フィクス君はわたくしの親友で、大切なお客様ですもの。精一杯、おもてなしするのは当然でしょう」
(地位や財産の目当てに近づいてくる人たちと違って、フィクス君はわたくしのことを、同じ魔術師ギルドの仲間として見てくれるの。だから、フィクス君にお姫様扱いされるのは悲しいわ)
 アレクにとってのセアラは、口うるさい友人で、マヤちゃんの“お姉さん”だった。
 加えて、今は手に入れたい“いい女”。
 ケーキの最後の一口が、アレクの口の中に送り込まれた。
(ほんの少しでも……わたくしがとってしまうわけにはいきませんわ……。全部…きちんと……フィクス君に差し上げないと……)
 溶けたスポンジやクリームの残る唾液を、セアラが舌を介してアレクに差し出す。
 少しずつスポンジを飲み込みながら、セアラの口腔内に残るクリームを、一欠けらも残らないように舐め取っていく。

「ぷはぁ……」
 唇を外して、二人は大きく息をつく。
「もう…これでおしまいかしら……?」
 セアラは少し残念そうだ。
「次は、紅茶を飲ませてくれるかな」
「やっぱり、口移しで?」
「うん」
「ええ、わかりましたわ」
 セアラが紅茶を口に含むと、アレクはいま思いついたかのように付け加える。
「あ、俺、熱いの苦手だから、いいって言うまで口の中で冷ましててね」
(ん……? 時間もたってますし、飲めないような熱さではありませんけど……はうぅっ)
 セアラの乳房を周りからゆっくりと揉みさする。
(あっ………、胸が……触られて……むずむずする……ん……)
 下から手のひらで持ち上げて弾ませる。
(ん……んんっ……。フィクス君の意地悪……。早く…受け取ってくださいな……)
 視界いっぱいに、眉根を寄せたセアラの美貌が広がる。
 なにも言わないまま、胸を揉み続けると、セアラはぷるぷると小さく震える。
(や…ダメ……噴いちゃう……フィクス君にかけてしまうわ………)
「もういいよ」
 声をかけると、食いつくように、セアラが唇を押し付けてくる。
「んんっ、ちゅっ…む……ふ……」
 紅茶の大半は、二人の唇の間からこぼれてしまう。
 口の中に入ったわずかな液体は、生暖かく、なんともいえない香気を持っていた。

「あ……、フィクス君……お召し物が……」
「いいよ、別に安物だし。それより、ヴェルネの身体の方がパン屑で」
「身体が汚れたら、フィクス君が舐めて清めてくださるんでしょう?
 でも、まだわたくしのケーキが残っていますから、食べた後がよろしいかしら。
 もしよろしければ、フィクス君が召し上がります?」
「そんなことはキミが心配しなくてもいいよ」
「え?」
「夢見るシスター」
 キーワードを受けて、セアラの瞳が虚ろに霞む。



−15−


「ふふふっ。セアラさん、かわいくなりましたね。
 今なら、ちょっと背中を押してあげるだけで、心も身体もぜーんぶアレクさんのものにしてあげられますよ」
 マヤはそう言って、セアラを完璧に洗脳するように誘ってくる。
 最初は反対していたくせに、尊敬するお姉さんを意のままにする背徳に、すっかりのめり込んでしまったらしい。
「いましばらく、セアラ・ヴェルネを御主人様の傀儡として玩び楽しまれるのならば、レジェナ・バルカより、お役に立つかもしれない道具を預かっております」
 セアラが自我を失っている以上、ノエルは自警団員としての偽装を行う必要はない。
 アレクの下僕としてきびきびと振る舞い、小袋からあれこれと机の上に放り出す様は、自分のあるべき姿を見出したことを示すように、さっきまでよりも活き活きとして見える。
「牛革の鞠、鞭、首輪。付け耳が3つと、これは…尻尾ですか?」
 マヤが犬の尻尾を模したものを手に取る。
 革と、本物の動物の毛を使って作った尻尾に、丸い小石が連なったものがくっついている。
「お尻の穴に入れるんだ」
 アレクの言葉に、マヤがかーっと顔を赤らめる。
「さ、マヤちゃん、ノエル、頼んだよ」

「セアラさん、こっち来てください」
「はい……」
 ふらふらと、セアラはマヤの方に歩いていく。
「この付け耳を見てください。犬の耳です。これをつけると、セアラさんはたちまち犬になってしまいます」
「犬に……なります……」
「とても賢くて、アレクさんに忠実なペットになってかわいがってもらえるんです。嬉しいでしょう」
「賢くて……忠実……嬉しい……」
「じゃ、つけてあげますね」
 マヤは犬耳カチューシャをセアラの頭につける。
 止め具の部分は、セアラの長い金髪に隠れ、白く長めの耳がそのまま頭から生えているみたいだ。
 セアラはクッションの敷かれた床にぺたんと両手をつく。
「ね、セアラさん……ううん、セアラ、ご挨拶は」
「わん」
 セアラは小さく声をあげる。

「くすっ、犬が服を着てるなんておかしいですよね。ノエルさん、脱がせてあげてください」
「はい、マヤ様」
 セアラの修道服を、ノエルが丁寧に脱がせていく。
「右の前足をあげなさい」
「わん」
 犬耳をつけたセアラは、本来部下であるはずのノエルの指示に従順に従う。
 紺色もシルクの下着も取り払われ、裸体のまま地面を這う。
「尻尾、つけてあげないといけませんね」
「はい」
 セアラの尻のすぼまりがビーズのついた尻尾の飾りを飲み込めないのを確かめると、ノエルは躊躇なく指を挿し入れてほぐし始める。
「くふーん」
 肛門への異物感に、眉をひそめ、切なげに鳴くセアラ。
 マヤはホンモノの動物にするように、首元を抱いて撫でてなだめる。
「おとなしくして、ね」
「んっ…ん…ん……」
 ノエルがさらに舌を使いだすと、セアラの顔に明らかな不快感が浮かぶ。
 元からの性格のせいか、利口な飼い犬だという暗示が効いているからか、身をよじらせるだけで逃げ出しはしないでいるけれど、このままじゃ尻尾をつけてからもいろいろと面倒だろう。
「そうだ」
 名案を思いついたマヤは、パチンと指を鳴らした。
 ぼうっと表情の霞むセアラの耳元に、ゆっくりと暗示の台詞を吹き込む。
「いいですかー。これからセアラさん……セアラのお尻は性感帯になります。触られたり舐められたりすると、エッチなとこと同じように、すごくすごーく感じちゃうんです」
 その言葉を聴くと、セアラが熱っぽい息を吐いた。
「はあ……わふっ…ふーん……ん……きゅーん……」
 舌を垂れ下げ、雌犬そのものの鳴き声をあげる。ノエルが肛門を舐めたり指を入れたりするたびに身体をくねらせているのは変わらないけど、その意味するところはまったく正反対。
「ふふふっ、どうですか? アレクさん」
 自慢げに顔を上げるマヤ。
「よくやってくれたね」
「えへへー」
 自分の思いつきを褒められ、無邪気に笑うマヤ。その発想が、テレパスで脳内にすべり込まされたものだなどとは思ってもみないのだろう。

「そろそろいいんじゃないですか」
「はい、試してみましょう」
 唾液とそれ以外の液体で顔をぬらしたノエルは、アナルビーズを一粒ずつセアラの体内に送り込んでいく。
「ん…ん…ん…んふぅ……」
 部下に尻の穴まで嬲られ、異物の挿入すらも快感と受け止めて鳴くセアラ。
「入りました」
 ノエルが軽く尻を撫でると、それだけでセアラの肩がびくんと震える。
 何の毛だか糸だかで作られたのかわからない尻尾飾りがふるふると震えた。
「首輪は、アレクさんがつけた方がいいですよね」
 口に首輪をくわえさせられたセアラは、毛の長い絨毯の上を四つ足で這って来る。
 碧の瞳に、犬そのものの純朴な盲信を宿らせ、椅子に座るアレクを見上げる。犬耳と尻尾だけをつけた全裸のまま、部下に尻の穴まで嬲られ、意識の底まで犬そのものとなって嬌声をあげる公爵令嬢。貴族という連中に思うところのあるアレクは、昏い愉悦を感じる。
 床にまで広がる長い金髪をかきわけ、白い首に革の首輪を巻きつける。
「俺はおまえのご主人様だ。わかるな」
「わん」
 セアラは小さく吠えると、差し出した手に上品に頬ずりをした。もちろんその肌はしっとりとしてすべすべ。誰からも賞賛や羨望を受ける美貌は、精神が犬と化してもその均整の取れた美しさを衰えさせることはない。
「ほら、食べてごらん」
 ケーキを床に下ろしてやると、端から前歯でかじり取るようにして食べ始める。
 けれど、アレクがみたいのはそういう光景ではない。
 後頭部を軽く押し込むと、セアラの頭がケーキに突っ込む。
「あー」
 マヤが批難がましい視線を送ってくるけど、今のアレクはそんなものは意に介さない。
「おなか減ってるだろ。急いで食えよ」
 忠犬と化したセアラは、顔にクリームをつけたまま、ショートケーキにむしゃぶりつく。
 礼儀作法にうるさい潔癖なお嬢様が、一介の見習い魔術師の言葉に従い、這い蹲って、尻尾を生やした尻を高く上げ、獣そのものの仕草でケーキを貪っている。
 なめらかな背中を撫でてやると、大きな白桃のような尻が左右に振られた。
 ケーキをあらかた食べ終えたセアラは、舌を長く伸ばして皿を嘗め回す。
「今、術を解いたら、セアラはどんな顔するかな」
 アレクの言葉に、マヤが目を見開いて息を呑む。
「だ、だ、だ、ダメですよ、そんなのっ!」
 しどけなく開かれた常衣の中に手を突っ込むと、薄い胸越しのマヤの鼓動は明らかに激しくなっていた。
「ドキドキしてるね」
「驚かせるようなこと言うからです」
「それだけ? セアラをもてあそんで興奮してない?」
「もてあそぶだなんて……ひゃんっ」
 マヤの乳首を軽く弾いてから、セアラを手招きして呼び寄せる。
 ケーキの皿はスポンジのクズ一つ残さずピカピカになっていた。
 顔と髪についたクリームを、おしぼりで全部拭ってやる。
 綺麗好きのセアラは、「くーん」と甘えた声をあげる。


 食事の後は運動だろう。
 本当はリードを引いて外に出たいのだけど、警戒態勢下で陰行や幻術というのは無理がある。
 お散歩を諦め、革のボールを部屋の隅に放り投げる。
「とっといで」
「わうっ」
 尻を高く上げて四つ足で駆けていくセアラ。
 ぷくりと膨らんだ恥部が、背後からわずかに見えている。
 ボールの縫い目のところをくわえて戻ってきたセアラは、誇らしげにこっちを見上げる。
「よしよし、いい子だ」
「くぅーん」
 首筋から背中のあたりを撫でると、尻尾と尻がふるふると振られた。
「膝とか、痛くないか?」
 裸のセアラの尻から脚にかけてに手をのばす。
 セアラは床に膝をついて這い回っていたけれど、毛が長く柔らかな絨毯のおかげで問題はなさそうだ。

 放り投げては取ってきたセアラを褒めるという繰り返し。
 セアラは部屋の隅でも机の下でもためらうことなく駆けていき、アレクから褒められて心底嬉しそうに尻尾を振り続ける。
 忠犬セアラ。たとえ表面上の犬としての記憶が消えても、セアラの脳内に刻み込まれたアレクの命令に褒められる喜びまでは消えない。
「いいか、セアラ、これからも俺の言うことをきくんだぞ」
「わんっ!!」
 当然のこととしてセアラが応える。

 すぐそばで、所在なさげにしているマヤに声をかけてやる。
「……どうしたん? マヤちゃん、退屈してる?」
「いえ、そんなことはないですよ」
 ジパングの民は本音と建前で生きているのだそうだ。マヤの発言と口調は、完全に分裂していた。
 ふりふりとボールを振ってみせながら質問する。
 セアラの首がその動きを追って左右する。
「やってみたい?」
「あー、いえー、わたしは、そんなー」
 物欲しそうな顔をしながらも拒絶するマヤ。素直に言わないのなら、希望にそってあげるわけにはいかないな。
「興味あるだろ。だって、マヤちゃん、犬なんだから」
「ちが…そっちじゃ……」
 おでこを抑えて魔力を送り込むと、マヤの瞳がぼーっとかすんだ。
「わたしは人間。人間……だったはず……。わたし…人間…だよね……?
 あれ? にんげん? にんげんは…アレクさん……アレクさん大好き……
 だって、わたし…アレクさんのペットだもん……。そうだ、わたし、犬だ。
 わたしもセアラ…みたいに……アレクさんにかわいがってもらうの……」

「わふぅん」
 マヤは小さく吠えると、アレクの差し出した手をぺろぺろと舐め出した。
「ノエル」
 アレクが一声かけると、ノエルがマヤから服を剥ぎ取り、犬耳と尻尾をつけさせる。
 セアラが耳も尾も白色で長いのに対して、マヤのものは茶色くて短い。尻で感じるような暗示は入れてないから、四足で一歩一歩あゆむたびに、アナルビーズの異物感に顔をしかめる。
「くぅぅぅんっ」
 切ない声をあげるマヤに、好きな女の子をいじめてやりたいという嗜虐心がむずむずする。
 尻を撫でると、マヤの身体に震えが走った。
「はうぅっ」

「おまえはどうしようか――」
「御主人様が望まれるのなら、人間を辞め犬となることなど造作もありません」
「やってみろよ」
 ノエルは自ら全裸になり、犬耳をつけ、尻尾の飾りを肛門に突っ込む。
「わん」
 小さく一声吠えると、差し出した手に手――いや、前脚を乗せてきた。
「なあ、ノエル。俺がそんなお上品な犬を期待してるわけじゃないのはわかってるよな」
 声色を低くして言ったアレクの真意は伝わったらしい。
「はうっ」
 ノエルは仰向けになって手足を投げ出し、降参のポーズを取る。
「そうだ、それでいいんだ。わかってるじゃないか」
 体重をかけないようにしながら、靴底でノエルの腹部をいじってやると、ノエルはだらしなく舌を出しながら、犬そのものの仕草で荒く息を吐く。
 マヤとセアラが、自分にもかまってくれと、裸体をすり寄せたり、ズボンに歯を立てる。
 そんなに遊んで欲しいなら、誰がそれに値するか、3人で競争をしてもらおう。

 アレクは革のボールを放り投げる。
「はううっ」
 喉の奥から甲高い音を鳴らしながら、マヤがジャンプして空中でボールを受け止める。
 反則のような気がするが、着地の衝撃でまた肛門の異物感をこらえているマヤがかわいそうなので、頭をなでなでしてあげる。甘えてくる顔つきが、普段とさほど変わってみえないのはいかがなものだろう。それだけいつも子犬みたいに振る舞っていたということか。

 二投目、フェイントを使ってみると、犬っころのマヤは机や椅子の並んでるところへ突っ込んでいく。
「きゃう、きゃうん」
 鼻の頭を赤くして丸くなるマヤをなだめているうちに、ノエルがボールをくわえて戻ってくる。
 軽く頭にぽんぽんと手を乗せてやるだけで、ノエルの全身がうっすらと歓喜に赤く染まる。表情や声色が変わらないわりに、気配というか空気というか、そういうものがノエルの感情を敏感に反映するのがわかってきた。なによりノエルのわかりやすいところは、対象のことを一途に見つめる目だ。

 三投目。一斉に駆け出した三匹の中で、ノエルが明らかに一歩先んじた。ほかの二匹が四つ脚で走っているという感じなのに、ノエルだけは、後ろ足で地面を蹴って、頭を低くして、野生の動物のように“跳んで”いる。暗示を使わずとも容易く人間としての尊厳を捨て去り、ほかの誰より獣そのものの姿を見せるノエルは、奴隷としては最高の女だ。ついつい撫でてやる時間が長くなる。

 四投目以降、一度マヤが先んじたほかは、ずっとノエルの連勝だった。競争になってから一度も勝っていないセアラがだんだん焦りを見せる。基礎体力からして全然違うし、最初に一匹で駆けずり回らされて消耗してもいる。少し有利になるような位置に投げてやっても、姿勢を低くしてもぐりこんでくるノエルがするっとさらっていってしまう。
 悲痛に顔をゆがめるセアラの瞳に、軽い狂気のようなものが混じる。
 そして、これまでのようにノエルが口でボールをくわえた瞬間、彼女は全体重をかけて飛び掛った。
 ノエルは頭部から上半身を押しつぶされ、くわえたボールも離してしまう。
 突然の衝突にマヤが呆然としている間に、セアラはノエルに目もくれず、ボールをくわえて戻ってくる。
「くぅぅぅぅんっ」
 甘えた声を出すセアラ。
 アレクはその頬に手を当て、弱く、だが意志はきっぱりと伝わるようにはたいた。
「きゃんっ」
 目を見開き、頭を低く地面にすりつけるセアラ。
「仲間を傷つけてでも俺に褒められたいのか。おまえは、お姉さんだろう」
 構ってもらえなくて寂しかったのはわかる。
 でも、セアラは、そんなことをしてはいけないのだ。
「おまえがノエルやマヤのことは大切に思ってるのはちゃんと知ってるよ。でも、時々忘れちゃうこともあるよな」
「はぅーーっ」
「だから、二度と忘れないようにお仕置きしてやる。いいな」
 レジェナから渡されたという荷物に入っていた鞭を手に取る。
 軽くて堅めの乗馬鞭だ。初めて使う鞭は加減がわからないので、ふとももに軽く当ててみる。振り下ろすなどという派手な形容は使えない。早く、でも重さを乗せずに、先端を皮膚に触れさせるだけだ。
 ぴしゃんという鋭い音がして、白い肌にうっすらと赤く跡がついた。
 子馬の調教に使うものなのだろう。短くて、軽くて、振る側の動きが素直に伝わるいい鞭だった。
「きゃんっ」
 セアラは頭を伏せたまま、絨毯に爪を立てて堪える。
「うーーーーーーーーーーーーーっ」
 抗議のうなり声をあげるマヤを片手で制して黙らせる。
 これもセアラのための――彼女が望んだコミュニケーションだからだ。
――ぴしん、ぴしん、ぴしん。
 ふともも、尻、背中。手首だけで打ち据えていくと、そこが赤い線で彩られる。
 音は大きく、痛みはシャープに、打撃で肉まで傷つけてしまわぬように。
 目尻に涙を溜めながら、それでも逃げようとしないセアラが愛しくてたまらない。
 鞭を通して力加減をしながらの打撃に飽き足らなくなったアレクは、セアラの腹の下に膝を差し入れ、高く挙げられたセアラの尻を撫で回す。
 打たれた臀部は、赤く、熱く、そして敏感になっていた。
「はふぅ、はぁ、はぁ……」
 セアラは熱っぽく息をつく。
「次は尻を叩くからな。舌を噛むなよ」
 アレクの言葉を受け、セアラのお尻の割れ目が、緊張にきゅっとすぼまる。
 肛門から生えた犬の尻尾が、小刻みにふるふると震えている。
「うー」
 低く抑えられた切なげな鳴き声に、入っている感情はなんだろう。
 少なくとも、完全な拒絶ではないらしい。

――パンッ!!

「くふぅんっ」

 初めて受けるスパンキングに、セアラは甘ったるい鳴き声をあげた。

――パンッ、パンッ、パンッ!

 両の尻肉を交互に打ち据えていく。
 セアラは絨毯の毛をつかんだまま、驚くほど過敏に反応する。
 いやいやをするように、いやむしろ快感を堪えるように、頭が振られて長い金髪が左右に揺れる。
 一撃のたびに肩が上下し、柔らかな胸が揺れ、そして白桃のようだった尻が赤く色づいていく。
「くぅぅぅぅぅんっ」
 セアラがひときわ甲高い鳴き声をあげ、その身体が痙攣する。
「大丈夫か」
 肩をさすろうとしたアレクは、自分の手が、なにかの液体で濡れていることに気づく。
 愛液だ。
 セアラの身体からは力が抜け、ぐったりとアレクの膝の上に横たわっている。割れ目は前もうしろもぱっくりと開き、「下の口」という卑猥な形容が正しいとでもいうように、呼吸にも似た開閉を続けている。秘部から垂れ流された汁は、アレクのズボンや絨毯にまで広がっている。
 上半身はといえば、乳輪から乳首までが肥大化して勃起していて、整った顔立ちはいまは陶酔の色に染まり、半開きになった口からは涎さえ垂れている。

 イッちゃったのか? 初めてのSMプレイで。
 セアラの身体を床に転がすと、赤くなったおしりをマヤが舌で癒すように舐め出した。
「はふうぅぅ」
 虚ろな瞳をしたまま、快感に身をよじり、鳴くセアラ。

「御主人様、セアラには、尻が性感帯になるよう術をかけております」
 そばに伏せていたノエルが、一言そう囁いた。
 ……そういえば、マヤにそんなことを言わせたような気がする。
「ああそっか。でも、おまえは犬だろう? いつ発言を許した」
「申し訳ありません」
 ノエルは伏せたまま応える。
 奴隷としての神妙な顔つき、でも、今のアレクには、その瞳に宿る“期待”の色が感じ取れるようになっていた。
 膝の上をたたくと、ノエルはその上に身体を投げ出して小さく吠える。
「わん」
 背骨の脇のくぼみに沿って、すーっと指を走らせると、それだけでノエルは尻尾を揺らし快感にむせいだ。


−16−


 昼食後は、セアラと二人きりだった。
 レジェナの指示の下、街の各所で警備に当たる隊員の様子を見てまわる。
 連れているアレクの姿に、セアラの部下たちはみな怪訝そうな顔をする。
「信用できる誰かがついて監視していないといけないんですって。ひどいでしょう」
 そんなふうに説明すると、女子隊員の人たちは一応納得してくれる。
 セアラを完全に攻略したら、もちろん彼女たちについても「手を打つ」つもりだ。
 その合間合間に、セアラは捜査状況を説明してくれる。
 自警団員としてあるまじき行為をしているという自覚は彼女にはない。アレクのことを、頼りになる味方だと信じきっているからだ。

(いいかしら…いいわよね…少し…くらい……)
 セアラが、アレクの手に、細い指をからみつけてきた。
 いつかも手を繋いでみたことはあったような気がするが、ここは往来で、今日はセアラからだ。
(ああ……わたくし……フィクス君と手を繋いでしまってますわ……)
 セアラの意識は完全に繋いだ手に集中している。
 やがて、意を決したように、アレクの身体を引き寄せて腕を組もうとする。
 だが、アレクが自分の表情をニヤニヤしながら眺めていることに気づき、慌てて身を引く。
「あ……こ、これは!」
 集まる周囲の視線に肩をすくめ、小声でおどおどと言い訳を始める。
「あの、だって、監視ということになってますもの。だから、こうやって、逃げられないように――
 で、でも、わたくしが貴方のことを信用して無いというわけではありませんのよ。わかってくださいます?
 わたくしは無理を言って貴方を連れ回しているのが心苦しくて――
 誤解しないでくださいましね。貴方と一緒にいられるのは、とても嬉しいのですから」
 泣き出しそうな気配すらあるセアラの背中を撫でてやる。
「あ……ごめんなさい……」
(フィクス君って本当に優しい人……。いつも大切にしてもらってるマヤが羨ましいわ……)
 考えてみれば、恋愛感情を植えつけられてからのセアラには、どこかマヤに似たところがある。
 真面目で、一途で、これまで恋愛なんてずっと避けてきた聖職者の初々しい反応。
「マヤのことを考えているでしょう」
「わかる?」
「ええ。すぐにわかりますわ」
(だって。マヤのことを考えているときのフィクス君って、本当に幸せそうなんですもの)
 端正な横顔を憂いに翳らせる美女。
 そんな顔をするなよ。すぐにでも、仲間に入れてやるから。
 アレクは背中を撫で続ける。

「こんなところで、なにをしているんだ」
 声をかけてきたのは、青色の髪をした小柄な女性だった。青みがかった合金製の鎧に、腰から下げた剣と複合弓(コンポジット・ボウ)。細身のしなやかな肢体に、理知的な鋭い光を放つ、切れ長の瞳。
「あ。フィクス君、こちらは自警団の第七小隊長のリーザ・シュヴァイツァー。わたくしの同僚ですわ」
「『弓の騎士』か」
 剣も弓も使いこなすリーザに与えられた異称だ。ただの二つ名ではなく、彼女は帝国騎士として公式の叙勲を受け、騎士名簿にも名を連ねている。
「キミはアレクサンドル・フィクス君だな。被疑者のリストで経歴などは知っている。人間性については、あんな資料ではわからんが」
「フィクス君は、わたくしが、この街で誰よりも信用しているいちばんの親友よ。
 優しいだけでなくて、わたくしが、誤りをおかしたときは、厳しく叱ってくれますの」
「被疑者の人間性をどうこうするのは我々の仕事ではないよ。どんな善人でも罪を犯せば捕まえるし、悪人だからといって明確な理由もなしに拘束することは許されない、そうだろう?」
 アレクをかばうように立つセアラを、リーザは正論で嗜める。身長はセアラの方が少し高いのだけど、年上らしい経験の重みが立ち振る舞いにあらわれている。
 知性ならば、本来、セアラはこの街の誰に対しても劣るところではないのだが――
「おまえがこんなに公私混同をしているところなど見たことがないぞ」
「だって。皆がフィクス君を疑うんですもの」
 恋する乙女モードのセアラは、マヤに負けず劣らずぽわぽわしていて、知的にはとても見えない。
「そんなに責めないであげてください。俺を疑ったこと、過剰に責任感じてるみたいなんです」
「だからといって、何もずっと監視役を引き受けなくてもよいだろう。彼をどこかに置いて、一度、隊をきちんと掌握した方がよいと思うぞ」
「でも、フィクス君が――」
「監視役が、あなたみたいなカッコいいお姉さんだったら、大歓迎ですよ」
「悪いが私は自分より弱い者を男として見るつもりはない。もう少し強くなるんだな、少年」
 帝国騎士より強くなるって、どんだけ遠い“もう少し”なのだろう。
 実際、アレクは、剣技だけなら彼女を上回るレジェナを、イシュタの助けで従えているわけだけど。
「フィクス君は魔術師ですもの、なにかきっかけがあれば、リーザより強くなるかもしれませんよ」
「魔術は無しだ」
 憮然とした表情でリーザは呟く。

――!!

「ちょっと待って」
 脳のどこか奥で響く、耳鳴りのような“音”に、アレクは感覚をそばだたせる。
「テレパス。緊急連絡。応援要請、市街中央――」
 アレクの言葉に、リーザの顔つきが鋭くなる。
 いろいろと脳内をいじくられたせいか、通信魔術の感知に失敗したセアラは、アレクにすがるような目を向けている。
 接続は、すぐに途切れた。けれど、細かい場所などを聞くまでもなかった。
 街の中心部で、轟音とともに黒煙が立ち上ったから。

 
 
< 続く >


 

 

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