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マイ・ディア・シスター (scene7-9)


−7−


 30分ほどして、マヤはセアラの手を引いて戻ってきた。
 力無い足取りでマヤの後をついてくるその姿は、普段の颯爽とした姿とはぜんぜん違う。
「ここに立っていてください」
 指定された位置で、セアラはおとなしく立ち止まる。
「お待たせしました」
 マヤはアレクのそばに駆け寄った。
 アレクはその前髪をかき分け、赤くなったおでこをさますように息を吹きかける。
「おつかれさま。ヴェルネにやられたのかな?」
「いえ。わたしが勝手にぶつけちゃったんです……」
「そっか。マヤちゃん、手足とかガチガチだったからなあ」
 セアラを前にしたマヤは、明らかに緊張していた。声は上ずっていたし、そもそも話の展開がむちゃくちゃだった。疲労しているであろうセアラに疲れが取れるからと言って催眠術をかける――という構想はいいとして、あれほど一直線に「セアラさんには休憩が必要です」と迫られれば、かわいい後輩の言葉でも反発したくもなるだろう。
「ご心配おかけしました」
 マヤはちょこんと頭を下げる。
「セアラさんは…わたしと戦うことに躊躇いがあったみたいです。
 わたしのことを倒す機会はきっと何度もあったはずなのに、結局、わたしの稚拙な技術で、催眠術にかかっちゃいました。
 そんなふうに大事に思ってくれているセアラさんを、わたしは、心も身体もアレクさんに捧げ尽くすように作り変えてしまおうとしているんです」
 顔を伏せたままのマヤの口調に危ういものを感じて、アレクは強く肩を抱いた。
「平気ですよ。アレクさんがついていてくれるなら。
 でも、セアラさんが一緒にいてくれたら、わたし、もっと嬉しいです」
 妖精のようにひらりと舞って、マヤは手の中からすり抜けた。
「セアラさんはいま、催眠術にかかっています。周りでなにが起きても、ほとんど理解することはできません。
 こうしていると、なんだかお人形さんみたいでしょう? すっごく綺麗なお人形さん……」
 マヤはうっとりとセアラの姿を見上げる。
 紺の修道服をベールまでしっかり着込んだ姿で、セアラは静かにたたずんでいる。
 整った顔には一切の感情がなく、いつもきりっと引き締まっている口元は、今はわずかに開いている。
 翠の瞳はなにも映さず、アレクのずっと後ろ、どこか遠くを見ている。
「こうした方が、きれいかもしれませんね」
 マヤがベールを緩めると、輝くような金の髪が中からこぼれた。
「少し下を向かせてみて。無表情のまま正面を向いてると違和感がある」
 アレクの言葉を受けて、マヤは今度は顔に手を当てて顎を引かせる。
 セアラはなんの反応も示さず、ただされるがままになっている。
「こうですか?」
「ああ。本当に人形みたいだ…」
――ごくん。
 アレクはつばを飲み込んだ。
 聡明で真面目で誰からも信望の厚いセアラが、年下のマヤに着せ替え人形のようにもてあそばれている。
 無表情のまま俯くセアラは儚げで、なにをされても抵抗しない――できないという事実が、さらにその可憐さを強調した。
「なんでもできますよ。どうしたいですか?」
「そうだな、スカートの中を見せてもらおうか」
 人形といえば、なぜだかそれが必須のような気がする。
「アレクさんのエッチ」
 言いながらも、マヤもまんざらでもない様子だった。
「わたしたちにスカートをめくって見せてください」
「うん……」
 セアラは虚ろな声で答えてこくんと頷くと、膝を曲げずに腰をクッと折ってロングスカートの裾を握る。
 そして上体を起こしながら、するするとスカートを捲り上げていく。
 身長5フィート半(167cm)、わりに長身のセアラがやると、まるで器械体操のようにさまになる仕草だ。
「身体柔らかいですねー」
 マヤが呟く。
「注目するところはそこじゃないだろ」
 本来の目標、スカートの中のマヤの腰や脚には、ワンピース状の肌着――シュミーズがまとわりついている。貞淑なセアラらしく裾の長いシュミーズは、二枚目のスカートのようだ。
「困りました」
 マヤは少し小首を傾げたあとで、紺のスカートをセアラの口元に運ぶ。
「くわえててください。それから、両手で内着をめくって」
「うん……む……」
 さっきと同じように身体を二つに折って、ゆっくりとシュミーズを持ち上げていく。
 白綿のストッキングを纏ったすらりと長い脚線が、下からだんだんとあらわになる。
 すね、ふくらはぎ、ひざ、もも……
 膝上3インチほどのところでストッキングは途切れ、パンティとの間の2〜3インチの間だけ、セアラの脚線が直に見えるようになる。もちろん無駄な毛など生えてなく、白い肌はたとえようもなくなめらかだ。
 ももとももの間の下腹部を覆うのは、レースのついたシルクのパンティ。
 ストッキングをずり落ちないように留めている白いガーターは、その内側に姿を隠す。
「絹の下着、いいなあ」
 マヤがシルクの生地に指先で触れる。
「すべすべです。高いんでしょうね、セアラさんお金持ちですし」
 だんだん指の動きは大胆になり、さわさわと、指の腹で下着を撫でる。
「ん…くぅん……」
 スカートを口にくわえたまま、セアラはこもったようなあえぎ声を漏らす。
 興奮したアレクは、セアラの内股に手を伸ばす。
 指先が触れると、セアラの筋肉が堅く張りつめた。
 身体が全体が強張り、シュミーズを握った手が小刻みに震える。眉はひそめられ、虚ろな眼には怯えの感情が宿っている。
「あ…、男の人に触られるのが怖いんですね。でも平気ですよ、アレクさんは優しくしてくれますから」
 マヤは魅了(チャーム)の魔法が籠められた魂晶石(ソウルクリスタル)をセアラの前にかざした。
 彼女の決めた使い方に合わせて、魔石には魔術師ギルドの工作室で銀のチェーンを繋いである。もしかしたら、アレクたちが工作室にもぐりこんでいる間、セアラも同じ建物の実験室で発光性エーテルを合成していたのかもしれない。
「この石をよーく見てください。魔力と、湧き上がってくる感情を全部受け入れて」
 催眠状態に堕ちているセアラは、一切の抵抗を解いて、チャームの魔力を受け入れてしまう。
「アレクさんのこと、好きになってきたでしょう?
 ほら、セアラさんはアレクさんのことが大好き。だから、姿を見るのも、声も聴くのも、触ったり触られたりするのも、においを嗅いだり舐めたりするのだって、全部が好きになります。身体のなにかがアレクさんのことを感じ取るだけで、セアラさんはとっても幸せになれる。アレクさんに触られると気持ちいい、とっても幸せ」
「うん……」
 セアラはゆっくりと深く頷いた。
「じゃあ、このペンダントをつけてあげましょう。わたしとアレクさんからのプレゼントです。
 いつ貰ったのかは、忘れてしまって思い出すことはできません。けど、とても大切なものだということだけは、ずっとずーっと覚えています。寝るときも、お風呂に入るときも、絶対に外しちゃダメですよ。教会の人に外せとか言われないように、普段はちゃんと隠しておいてくださいね」
 言いながら、マヤはセアラの背中に手を回して、ネックレスの留め金をとめた。
 魂晶石が、首からかけた十字架と触れてカチンと音を立てる。
「どうぞ」
 マヤがセアラを一歩押し出した。
「セアラ」
 敢えて名を呼ぶと、翠の瞳がぼんやりとアレクの顔を映す。
 次第にその目が細められる。頬が緩み、かすかに赤らんでくる。
 口にスカートの裾をくわえ、シュミーズを両手で開き、白い下着を見せつけながら、はにかむような表情を浮かべるセアラ。
 美貌と知性が先行する同窓(クラスメイト)の無防備な姿に、アレクの征服欲が刺激される。
「触ってもいいかな」
「うん……」
 承諾を受け、軽くウェーブのかかった長髪を指先で梳く。
 セアラはうっすらと微笑んだまま、なんの反応も見せない。
 白磁のようと称された、白く美しい頬に触れてみる。
 指で撫でても引っかかることのない滑らかな肌。マヤのぷにぷにの頬とは正反対の、研ぎ澄まされたような薄い頬の肉。しかし、頬や顎のラインは鋭角ではなく、きちんと女性的な柔らかな曲線を描いている。
 骨格自体がきれいなんだ。根拠もなくアレクは思った。
 首筋に手をすべらせると、そこはかすかに汗でしめっていた。指先から、暖かな体温が伝わってくる。動脈に手を当てると、小さく心臓の鼓動が感じ取れた。いま、こうして触れている人形のような女が、生きた人間であるということをあらためて実感する。
 手を首筋から、胸のあたりに移す。着やせするタイプなのか、乳房は想像していたよりもずっと豊かだ。生地の厚い修道服の上からでも、その弾力を感じることができる。ゆっくりと揉みしだくと、マッサージでも受けているかのような弛緩しきった反応が返ってくる。
「気持ちいいか」
 答えの分かりきっている質問に、セアラは口に布をくわえたまま、ゆっくりと気だるい調子で答える。
「…うん……ひもひ…いいわ……」
 アレクは左手で胸を揉み続けながら、右手を腰へと運ぶ。セアラの腰は、コルセットを巻いているわけでもないのにきゅっとくびれている。
 手を下に動かすと、スマートな腰から丸みを帯びた尻へと、感触が急に変化する。さわさわといやらしく修道服越しに尻をさすりながら、その大きさを値踏みする。サイズ自体は、身長からすれば普通だろう。けれど、服を脱がせたら腰や脚が細い分だけ大きく見えるはずだ。
 裏に触ったからには、表に回ろう。
 先ほども触れた内股に手をのばす。
 今度は筋肉は弛緩しきっていて、無意識のうちにかすかに脚を開いてアレクの手を受け入れてくれた。
 膝のあたりから脚の付け根まで指を滑らせる。なんてしなやかで長い脚なのだろう。アレクとセアラの身長はともに5フィート半程度なのだが、股下は2〜3インチもセアラの方が高いのだ。アレクが特別に短足というわけではない…と思う。
 下着の表面は、セアラの肌によく似ていた。マヤの言う通りすべすべで高そう。これまで触ってきたセアラの身体、その白く美しい肌を思えば、繊維の柔らかなシルクで守るのは当然のことに思える。麻の下着で皮膚に傷でもつけたら、それはなにかとても重大な損失だ。
 下着の上から、秘裂を何度もなぞる。
「ん…んん……」
 セアラはスカートの生地を噛んで、堪えるように眉根を寄せている。
 マヤが暗示をかける時に使った単語は、「好き」と「気持ちいい」と「幸せ」だ。もしかしたら、これまでの快感は、ただアレクに触れられ、そのぬくもりを感じるという喜びだったのかもしれない。性器に刺激を与えられてはじめて、性的な快感を感じているのではないか。
 その推測を裏付けるように、胸を触ったときの反応も艶かしいものに変わっている。
「こんなふうにされたのは初めてだろ?」
「……うん………」
 アレクはセアラの耳元で囁く。
「快楽を感じるのは悪いことじゃないよ。人間の身体はそういうふうにできてるんだ」
 それは聖十字教の先達が原罪と決めつけたものだ。
 解放してあげよう。恋心と快楽に溺れることの幸福を、この真面目なシスターの心と身体に刻み付けてやる。そう、マヤちゃんと同じように。
「なあ、マヤちゃんもなんか言ってあげなよ」
 さっきまでマヤの居たところに目を向けると、いつのまにか姿が見えなくなっていた。
 どこに行ったのかと思って探してみると、アレクの背後に隠れて自分の身体を慰めている。白衣の左半身を覆う部分は大きくはだけられ、なだらかな肩や胸が見えてしまっている。くしゃくしゃになった緋袴の中で、突っ込まれた右手が激しく動いている。
「えっ、あっ、そのっ……。ごめんなさい、わたしったら、一人で勝手に気持ちよくなってました。本当にごめんなさいっ」
「始めちゃったものは仕方がないなあ。最後までイッちゃっていいよ」
「は…はいっ、…ありがとうございます」
――くちゅり
 袴の中から、水音がした。
「ん……くぅ……ふぁ…アレクさん…大好き……」
「言ってあげて。気持ちよくなることはいけないことかな?」
「え? 好きな人に触ってもらって、気持ちよくなるのはすばらしいことです。セアラさんが羨ましいです。わたし…セアラさんがアレクさんにいっぱい身体を触ってもらってるのを見たら…身体がうずいて我慢できなくってっ……はああっ」
 自分のいやらしい姿を見せ、淫らな感情を正直に言葉にすることで、また昂ぶってきてしまったらしい。最後の声は、乳首を自ら指でつまんだ時のものだ。
「セアラさん。アレクさんの手で、いっぱい感じてください。エッチな姿を、わたしにしっかり見せてください」
 催眠術をかけられているセアラは、マヤの言葉には逆らえないはずだ。
 それが、セアラを堕とすための台詞なのか、単なるマヤの欲望なのかは、はっきりと判別はできないが。
「だってさ。十分に楽しもうな」
「ん…んふぅ…ぁ………んんっ!!」
 セアラが大きく身体をよじった。
 アレクが布地の中に手を入れたからだ。
 そこは既に、汗と愛液で湿っていた。柔らかな陰毛が指に絡みつく。
 陰毛を指でかき分けるようにして秘裂に触れる。
 筋を何度もなぞりながら、だんだんと人差し指をうずめていく。
「ん…ぁん…んんっ……むっ……」
 セアラは紺の布地を噛み締めて、異物の侵入してくる感触と、それ以上の快楽に耐えている。
――じゅぶ…じゅぶ…
 虫が這うようなスピードで、ゆっくりと奥に進んでいく。
 ひときわ強い抵抗に当たった。処女膜、隙間から指ぐらいは入るだろうか。
 人差し指がほんのちょっと入っただけで、その喉から甲高い声が漏れた。
「…ひ…くぅ……ん…んん……んんっ…」
 破らないように細心の注意を払いながら、膣口のあたりに何度も指を出し入れする。
 セアラの真っ白な喉や首は、興奮に赤らんで、汗に濡れている。
 舐めると、海水を直(じか)に舐めたように辛かった。
 ふと思いついて、セアラの金髪をかき分けてみる。
 普段は金髪に隠れて見えない、なだらかなラインを描くうなじに、十秒ほど強く吸い付く。
 1秒、2秒、3秒、4秒、5秒、6秒、7秒、8秒、9秒、10秒。
――ちゅぱっ
 唇を離す時に、栓が抜けるような音がした。
 首筋の内出血したところが赤い楕円形のマークになっている。
 “予約済”の刻印を打ち終え、アレクはセアラの耳元で宣告する。
「キミは俺のものになるんだ」
「ん……んん……」
 意味が分かっているのかいないのか、アレクの声を聴くこと自体を幸せと結び付けられてしまっているセアラは、陶酔した様子で喉を鳴らす。
 もっと気持ちよくしてあげようと、クリトリスを親指で刺激する。
 剥けかかった皮を剥いて、親指の腹で優しくこする。
「くうんっ……ふぅ…んんっ…ん……」
 セアラは今までよりもさらに高い声をあげてよがる。
 いったん、人差し指を引き抜く。
 そして、今度は処女膜ぎりぎりまで一気に挿し込む。
「ひくうっ」
 膜を破らないように気をつけながら、指先を何度も出し入れする。
 親指は優しく、人差し指は激しく。
「ん…ん…あ…ふんっ…んっ…んんっ…」
 だんだん声の間隔が短くなって、呼吸が浅くなってきた。
「イッてもいいよ」
 アレクは耳元で囁いて、クリトリスを強くこすった。
「んっ、んんっ、んんんんっ!!」
 セアラのつま先から頭のてっぺんまでが、一張りの弓になったように強くしなる。 
 口にくわえられたスカートの裾が、激しく引っ張られる。
 膣内に挿し込んだ人差し指が、熱い膣壁に両側から強く締め付けられる。
 こみ上げる快感に目をつぶっていたセアラの顔が、だんだんとだらしなく蕩けきったものに変わっていった。
 全身から力が抜けて、ふらふらと立っているだけになる。
 アレクは少し離れて、セアラの姿を眺めた。
 再び距離を置いて見たその肢体はやはり人形のようだった。
 ただし、着せ替え人形というよりは、アレク専用の性欲処理人形(ダッチワイフ)の方が近いかもしれない。
 赤らんだ肌に滴るほどの汗をかき、荒く息をつくのに合わせて上体が揺れる。シルクのパンティはたっぷりと蜜を吸って、女の形を映していた。
「スカート、下ろしていいよ。肌着も」
――ふわっ
 修道服は何事もなかったかのように愛液まみれの下半身を覆い隠した。けれどその裾には、唾液が大きな染みになっている。
「気持ちよかったか?」
「うん……きもちよかった……」
「これから何度も気持ちよくしてあげるよ」
「…おねがいします……」
 そうされることを想像したのだろうか、セアラは小さく身を震わせた。
「ん…あ…ん…」
 背後から聴こえる切なげな声に気がついて、アレクはマヤの方を振り向いた。
「あふ…はん…アレクさぁん……」
 マヤは両手を袴の中にうずめたまま、救いを求めるようにアレクを見上げる。
「まだイッてなかったのか」
「…はい……あ…ふぁ……」
 自分では、思い切りが足りなくて達せられないのかもしれない。
 自慰自体ほとんどしたことがないのだろうし。
 望みどおりにしてあげてもよいのだが――
「セアラ、マヤちゃんをイカせてあげて」
 アレクはセアラに頼んでみた。
「…うん……マヤ…きもちよくしてあげる……」
 セアラはマヤの傍にしゃがむと、左手で胸を揉み、袴の中に右手を入れた。
 その動きはゆっくりだが、とまることなく的確に動き続けている。
「あ…ああっ…」
 姉のように慕っているシスターに愛撫され、小柄な巫女は甘えた声をあげる。
「あふっ…あんっ…セアラさん…いいです……あ…そうです…そのまま…もっと…強くっ……」
 既に何度もぎりぎりまで上りつめていたマヤは、もうすぐにでもイキそうだ。
「イッてもいいのよ」
 自分がされた時と同じように、セアラはマヤの耳元で囁く。
「くううううんっ」
 マヤの身体が絶頂に震える。
 セアラは慈しむように、その姿を見つめていた。



−8−


「3つ数えたら目が覚めますよー。はい、1、2、3っ」
 意識を取り戻したセアラは、ぱちぱちと何度も瞬きをした。
(あれ? わたくしったら…なにをしていたのかしら……)
 アレクの頭の中に、困惑するセアラの思考が流れ込んでくる。
 通信魔術(テレパス)。セアラには思っていることを全てテレパスで発信するよう暗示をかけてある。
(ここは教会…、話を聞こうとマヤとフィクス君を呼び出して……)
 あたりを見渡しながら、セアラは状況を“思い出す”。
「よく来てくれたわね、マヤ。それにフィクス君も」
「おはようございます、セアラさん」
「うぃ」
 アレクは無造作に片手を上げた。
「なんです? そのいい加減な挨拶は。朝がそんなに辛いのかしら? 不摂生をしていると、魔力が落ちてしまいますよ」
 普段となにも変わらない調子で、セアラはアレクをたしなめる。
 煙たがられることもあるセアラの説教癖だが、聞き流し方を知っているアレクはそれほど嫌いでもない。
「いや、眠くはないんだけどね。おはよう」
「おはようございます、二人とも」
 日は中天にかかる頃だが、アレクたちが教会に入ってからの時間が「なかったこと」になっているセアラは、まだ朝だと思い込んでいる。
「さっそくだけど、マヤ、話をしてもいいかしら」
「なんの話でしたっけ?」
「フィクス君から聞いてないの?
 昨晩、結界があなたに反応したでしょう、そのことについてよ」
「違いますよ」
 マヤの声が、一段低く、“黒く”なる。
「セアラさんは、アレクさんを取り調べるために、わたしたちを呼び出したんですよ」
「なにを言っているの?」
「アレクさんのことを疑ってる。いつか、アレクさんが犯人だと確信した時があったでしょう。これから指を鳴らすと、その時の気持ちを思い出す。はい」
――パチン
「あ……、マヤの言う通りだったわね」
 セアラがアレクの方を向く。
 身長はほぼ一緒だから、視線が同じ高さで交差する。
 さっきまでの親しげな表情は消え、柳眉が逆立ち、緑の瞳が燃えていた。
「フィクス君、話を聞かせてもらってもよろしいかしら」
 氷のような、妥協の余地が感じられない口調だった。
(悪魔と手を組むなんて許せないわ)
 首から掛けた十字架と魅了の魔石を左手で強く握りしめ、そんな思念を送ってくる。
「この教会で、神父及び自警団員計3人を惨殺した首謀者はあなたでしょう。
 おとなしく罪を認めて、悪魔をわたくしたちに引き渡せば、あなたとの友情に免じて、拷問や火炙りにさせないことは保障してさしあげるわ」
 容赦のない物言いは、セアラがマヤの支配下にあるという事実を忘れさせるほどだ。
「ちょ…ちょっと待て。いきなり死刑確定かよ」
 どもったのは演技ではない。
「己が欲望を満たすために神の摂理にまで背く者は、世界の敵です。死刑以外の判決はあり得ません」
「"All or nothing"か、まあわかりやすくていいけどさあ」
 体勢を立て直してアレクは問う。
「俺を犯人だと言う根拠はなんなわけ?」
「根拠……」
(そう……なにかフィクス君を疑うに足る事実があったはず。
 いいえ、ただの疑いではなくて、彼を犯人だと断定するだけの証拠が)
 視線がアレクの頭頂から爪先までを通り過ぎていく。
 忘れさせられたとはいえ二度目だからだろう、セアラはすぐに靴底の血に気がついた。
「あなたの靴についた血痕が動かぬ証拠です。
 地下には足跡がありました。サイズから推定される身長はわたくしと同じくらい。
 死者の首を足蹴にした時のものだというのが、実にあなたらしい話ね」
「ふふんっ」
 アレクは鼻で笑った。
「なにがおかしいの」
 セアラが一歩踏み出す。
「さあ、なにか申し開きがあるなら言ってみなさい」
「もう一度訊くよ。俺が犯人だって決めつける理由は?」
 質問に合わせて、マヤはセアラに囁いた。
「血と足跡のことは思い出せない」
 耳元でパチンと指を鳴らす。
「さっき言った通りです。あなたが許すべからざる異端者だという証拠は……、え? あら?」
 セアラは大きく目を見開く。
(おかしいわ。たしかにさっきわたくしは……)
 視線(アイコンタクト)でマヤをけしかける。
「どうしたんですか?」
「なんでもないわ。少しだけ待って、お願い……」
「お願いならアレクさんにどうぞ。訴えられてるのはアレクさんなんですから」
(フィクス君にこんな隙を見せたら、きっとものすごく責められるわ)
 身構えているセアラに、優しく声をかけてやる。
「少し落ち着いて考えてみろよ」
「ええ」
 反射的に答えてしまってから、セアラは気まずそうに顔を背けた。
(くっ……。少し優しくされたからって、悪魔と結ぶような者と――)
 冷たく目を細めて、視界にかかる髪を払いのける。
「フィクス君、ずいぶんと余裕があるようですね。
 少し混乱してしまっただけで、あなたを捕らえるための証拠はすぐに見つかりますわ」
 余裕を取り繕う裏で、セアラは必死に思考を巡らせていた。
(初めに決めた調査項目にあったのは、遺留品と、結界と、あとなんだったかしら……
 そう、結界……。昨晩、この教会の結界は、マヤに対して反応したわ……)
 どうやらアレクにつながる別の道を見つけ出したらしい。
「お待たせいたしました。わたくしはなにもでまかせであなたを訴えているのではありません」
 説明の段取りを頭の中で確認し、前置きを置いて再び話し始めたところで、マヤが再び暗示をかける。
「わたしを疑うなんて考えられない!!」
 ――パチン
 セアラは開きかけた口をつぐんだ。
(なんてことを考えていたの? マヤを疑うなんて。あの子は天孫教の巫女だもの。悪魔やその契約者に従ったりするはずないわ)
「早く話してください」
(どうしましょう、なにか…なにか言わないと)
 マヤにせかされ、セアラはとっさに理由にならない理由を口走る。
「だって…、見習い魔術師の身でありながら、古代や東洋の異端の魔術の研究にばかり熱心だなんておかしいでしょう。こういう機会があるのを待っていたのではありません?
 それだけでなく、神の教えを否定するような言動を繰り返して、日曜のミサどころか、復活祭(イースター)や聖誕祭(クリスマス)の日にも教会に来ないなんて、悪魔信仰の異端者だと疑われても当然ですわ」
 自分でも頼りない理由だとわかっているのだろう。声がだんだん小さくなっていく。
「何を研究しようが、日曜に何をしてようが勝手だろ」
「そうですよ。それに、復活祭の日も聖誕祭の日も、アレクさんはわたしのこと手伝ってくれてたんですよ」
「くっ……」
 セアラは再びアレクをにらみつけてきた。
 けれど、今度は圧倒されるどころか、拗ねているみたいで優越感すら感じてしまう。
「そんな理由しかないのか? 俺、帰るぜ」
「困ります。取調べにはきちんと応じてもらいます」
(きちんと尋問すればきっとおかしな点が見つかるに違いないわ。あの…忘れてしまった証拠も思い出せるかもしれないし)
「取調べって、あなたは何時頃、何をしていましたかとか言うのだろ?
 そんなことかったりーことしないでも、マヤちゃんは俺のこと信じてくれてるぞ」
「はい。わたしは、アレクさんのこと信じてますよ」
――ぴとっ
 マヤはアレクに身を寄せた。
「わたくしは自警団員です。個人的な信頼関係で人を有罪だ無実だと決めるわけにはいきません」
「巫女の直感です。セアラさんだって、シスターなんだからあるんじゃないですか?」
「あなたは巫女(シャーマン)だから、悪魔やその契約者を気配で感じ取れるかもしれないけれど、わたくしはどちらかというと神官(プリースト)か魔術師(ウィザード)ですもの、直感だけで人を信じるなんてできないわ。それに、感覚で決め付けていいなら、わたくしの勘はフィクス君が犯人だと言っているわ」
「じゃあ、きちんと確かめてみたらどうですか?」
「だからこれから取調べをしようとしてるじゃない」
「いえ、自警団員としての方法じゃなくて、シスターとしての方法で、ですよ」
「まさか、フィクス君に神前宣誓をさせるというの?」
 神前宣誓とは、その名の通り、神の前で宣誓をして嘘だったら天罰を食らうという実に単純な儀式だ。真偽を問うだけとはいえ、神の直接介入を仰ぐのである。偽証の代償は死あるのみ。神の機嫌を損ねれば、神官や同席者とて生命の保証はありえない。そんな危険を伴う儀式でもある。
「違いますよ」
 マヤはふるふると首を振った。
「悪魔と契約したかどうか確かめるなら、わたしたち神に仕える乙女が、キスをするのが一番なんですよ」
「なにを言っているの? そんなの聞いたことないわ」
「信じてください」
 ――パチン
 これ見よがしにマヤが指を鳴らす。
「マヤが…言うなら…そうなのかも…しれないわね……」
 納得いかないという様子ながらもセアラは呟く。
「あのですねー」
 マヤは御機嫌な様子で指を立てた。
「壁の向こうの物音を盗み聞きしようと思ったら、壁に耳を当ててみますよね。それでも駄目だったら、壁の隙間や薄いところを探しますよね」
 機嫌のよさから言って、このたとえはマヤちゃん的に会心の出来らしい。
 セアラも簡単に、意図するところを理解したようだ。
「人間の“魂”を調べるなら、障壁の弱いところに触れるべきだというのね」
 でまかせでも理屈がつけば納得するらしい。
「はい」
 マヤはこの隙を逃さず畳み掛ける。
「まずはわたしがお手本を見せてあげますね。
 お手数ですけど、姿勢を低くしてくれると助かります」
 アレクが促されて椅子に座ると、マヤは首のうしろに腕を回して、顔を近づけてきた。
「ちゅっ……ちゅっちゅっ……」
 見せつけるように、マヤは何度も唇を重ねる。
(…いくら務めだからって…なんてことを……)
 見ているセアラの感想が、そのまま脳内に伝わってくる。
「ふふっ」
 ちらりとマヤが流し目のような視線をセアラにくれる。
 それから、アレクの唇を舐めて誘ってくる。
 誘いに応えて、アレクはマヤの舌に舌を絡める。
――れろれろ
 舌先だけでなく、舌全体が触れ合い、絡み合う。
 顎からどちらのものともわからないよだれを滴らせながら、互いの感触をただ求め合う。
(…マヤが…フィクス君と……卑猥な…口付けを………
 マヤの顔…あんなにいやらしくて…あんなに幸せそうな顔……見たことないわ……)
「んっ…あ………」
 身体ごとしなだれかかるように、マヤは唇を押しつけてきた。
「ちゅっ、ちゅく…ちゅ…ちゅる……」
 柔らかい舌が、口の中に入ってくる。
 歯や、歯の付け根や、舌の裏側を、マヤの舌が優しく撫でていく。
 マヤの背中に腕を回して、小柄な身体をぐっと抱き寄せる。
 唇の触れ合う角度を変えて、こちらからもマヤの口の中を攻めてみる。
「ん…む…あ…あふ……」
 舌同士を絡め合おうとする舌をあえて無視して、歯や歯ぐきを舌先で突く。
「ん…ん…んんっ……」
 マヤの舌は懸命にアレクの舌を求めるが、それに応えず逃げ回る。
「んっ…んんっ…んー………あっ」
 存分に焦らしたところで、マヤの舌の相手をしてやる。
 針先ほどの面積でも多く触れ合おうと、マヤは激しく舌を絡みつけてきた。もちろん少しでも触れ合いたいと思っているのはアレクも同じだ。
 ねっとりとした、濃厚な口付け。
(キスって…こんなに激しいものだったのね……
 それに…もう1分…いえ、2分は過ぎているわ……)
 セアラは興奮してるから時間を短く感じてるだけで、たぶん3分以上はマヤとキスを続けていたはずだ。
 もう、おしまい。次があるんだから。
 マヤの身体を、軽く突き放す。
 名残惜しげな顔をしたマヤと、アレクの唇の間に、粘っこい唾液の橋がかかった。
「えへへー。ご協力、ありがとうございました」
 ぺこんと頭を下げて、嬉しそうにハンカチで唇の周りをぬぐう。
「さあ、セアラさんの番ですよ」
 マヤはセアラをアレクの正面に押し出した。
 そのとき、首からかけられた、チャームの魂晶石に何気なく触れる。一時的に魔力を封じられていた魔石は、再び赤い輝きを取り戻す。
「わ、わたくしも、しないといけないの?」
(あのような卑猥なことを……わたくしが……)
 セアラは左胸に両手を当てた。
(心臓がどきどきしている……、でも…これは…恐怖とは違うのかもしれない……
 フィクス君とキスしているときのマヤ、とても幸せそうだったわ……)
 マヤの様子を思い出しているのか、視線が宙を漂う。
「貞操とか純潔とか、気にしないでもいいと思いますよ。これは神に仕える者の使命ですから」
(………そう、これは仕事よ。やらないわけにはいかないわ。それに……ゆ…友人として…フィクス君への疑いをそのままにしておくわけにいきません)
「……こほん」
 わざとらしく、セアラは小さく咳払いをした。
「これは、あなたへの嫌疑を確かめるために必要な儀式です。
 もちろん、協力してくださりますわね」
「役目を一生懸命果たそうとしてるだけなんだろ。俺は悪く思っちゃいないよ」
「ありがとうございます」
 セアラの細い指があごに触れる。
 相談や議論をすることはあっても、こんな間近で見つめ合うのは初めてだ。緑がかった青い瞳と、うっすらと赤く色づいた唇が、緊張でかすかに震えている。
「目をつむってくださらない?」
(見つめられると…恥ずかしいわ…)
「ああ」
 言われたとおりに目をつぶる。
(きれいな…顔をしているのね……
 きっと…落ち着きがないから損をしているのに違いないわ……
 じっとしていれば…女の子たちが…黙っているはずないのに……)
 褒められるのはこそばゆかった。はたして、どこからが催眠術とチャームによって作られた認識なのだろう。
「はぁ……」
 熱い吐息が顔にかかる。
――ちゅ
 セアラの唇が、一瞬だけ触れて離れた。
(え? なに? 唇に触れた瞬間、頭が痺れたみたいになって……)
 瞳が熱く潤んでいる。
「どうしたんですか?」
 マヤの問いに、セアラはどうにか平静を装って返答する。
「いえ、なんでもないわ」
(ほんの一瞬キスをしただけで、感じてしまったなんて言えるはずない……)
「続けます、目を…つむって……」
 再び、唇が重ねられる。
「ん…あ……、む…ん……んんっ……!!」
 一端離れようとした唇は、再度、強く押しつけられる。
(…いけない……離しちゃ…ダメ………)
 偽りの使命を果たそうと、セアラは腕を背中に回して力を込める。
(胸が…熱い……燃えるみたい……)
 暗示によって与えられた快感と興奮を、セアラはテレパスで伝えてくる。
 アレクは逃れられないようにセアラを抱いて、舌をセアラの口の中に割り込ませた。
 寸分の歪みもない歯列を舐め、開いた隙間に強引に舌先をねじ込む。
(あっ…ああっ…、フィクス君の舌が…わたくしの中に入ってくる……
 こんなの…初めて……。…怖い……けれど…イヤではない…かも……、あっ)
 すぐにセアラの口は開いた。
 アレクは座っていて、セアラは立っているものだから、唾液が口の中に流れ込んでくる。
――ごくん
 喉を鳴らして、甘い唾液を飲み込む。
(…いま…フィクス君…なにを……)
 舌を奥まで突き出して、セアラの口の中をすみずみまで犯す。
(あ…あ…気持ちいい……、頭が…真っ白になっていく………)
「ちゅっ…ん…ちゅ……むちゅ…む…ん……ん……」
 抵抗することもないセアラの舌に、舌のざらざらを押しつける。
「舌と舌を絡ませ合うと、もっと気持ちよくなれますよ」
(…舌を……もっと…気持ちよく……)
 マヤのアドバイスに従って、セアラは自分の舌をすり合わせてくる。
「あん…ん…む…ちゅ…ちゅぷ…ん…ちゅ……」
(…感じる…フィクス君を…すごく……、…あっ…ぁ…ぁあっ…)
 稚拙な舌使いで、セアラは自分の快楽を貪ろうとする。
 アレクは舌でそれ以上の快感を送り込み、セアラの口と脳を蹂躙する。
(あっ……いいっ………気持ちいいの………もっと…して……)
 伝わってくるテレパスは、ただセアラが感じている快楽を垂れ流すだけになっていた。
「ちゅ…ん…ふぅ……ん…んんっ……ちゅっ……」
(あ……いい……いいっ……いいの!! …キス…好き……ん…フィクス君……)
 唇を離すと、セアラは荒く息をついた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
 だらしなく開いた口の中で、まだなまめかしく舌が動いている。
 小さな女の子にするように、マヤがセアラの口元をハンカチでぬぐう。
――ごしごしごし
 セアラはぼーっとしたまま、されるに任せている。
 しばらくそうされているうちに、セアラの瞳に正気が戻ってくる。
(あ……わたくしったら……なにを……)
 恥ずかしくて堪えられないというように顔を手で覆い、指の隙間からアレクをにらみつける。
「フィクス君っ、い、いまのはなんなんですっ!」
(舌を入れてくるだなんて……なんて卑猥なことを。
 わたくし…神に仕える身なのに…はしたなく感じてしまいましたわ……)
「キスって言ったら、あのぐらいするもんだろ? ヴェルネも感じてたじゃないか」
(…感じていたわ……我を失うぐらいに。
 けれど、あれは快楽を味わうためにしているためのものではなくて)
「これはあなたが悪魔と契約しているかどうか確かめるための儀式ですっ!
 それなのに、あなたときたら、なんていやらしいっ!」
「ヴェルネみたいな美人とキスできる機会はそうそうないからね。
 マヤちゃんはとてもかわいい女の子だけど、美人や美女という感じじゃないし」
「ほ、褒めても許しませんわ」
(フィクス君に美人って言われただけで、胸が、高鳴る……。そんな追従、もう飽き飽きしていたはずなのに)
「きれいなだけじゃなくて、ちょっと緊張してるところがいじらしくて最高だったな」
(……当たり前よ…初めてだったのですから……)
「舌を入れたら、最初は驚いてたけど、すぐにしっかり応えてくれて」
(あ…あれは……フィクス君の舌が気持ちよすぎて…わたくし…正気じゃなかっただけよ……)
「そっ、その無礼な口をつぐみなさい。
 儀式だから…し…仕方なく…口付けを交わしただけで、わたくしには、あなたの快楽に付き合う義理はありません」
(本当は、ファーストキスですもの、もっと…優しくして欲しかったわ。
 吟遊詩人(トルバドール)の詩に出てくるような……静かでロマンチックな口付けがしたかったのよ……)
 理知的に見えるセアラの、夢見がちな一面を、アレクはよりいっそうかわいいと思った。
「はははっ」
 マヤと顔を見合わせて二人で笑う。
 セアラは靴底を床に叩きつける。
「なんです? 笑い事ではありませんっ」
――とんとん
 マヤがセアラの肩を叩く。
「それで、アレクさんの無実は確認できましたか?」
 これは無茶な質問だ。もともとこんなやり方で、アレクが悪魔と契約したかなど、わかるはずがないのだから。
「わからなかったわ。だって、フィクス君が舌なんて入れてくるんですもの」
「アレクさんのせいにしないでください。
 互いに分かり合うのに、舌を使って少しでも触れ合おうとするのは当然のことじゃないですか」
「そ、そうなの?」
(そういえば…キスのとき…マヤは舌を絡めろって言ってたわ……)
 落ち着きなく、マヤとアレクを交互に見渡す。
「そういうことになるんじゃないかな。俺はマヤちゃんの時と同じようにしただけだよ」
(フィクス君は、きちんと、わたくしに協力してくれていたの?
 それなのに、わたくしは、淫らに我を忘れて快楽を貪って、八つ当たりまでしてしまうなんて……)
「ごめんなさいっ」
 セアラは深々と頭を下げた。
「お願いです。もう一度だけ、わたくしに機会をください」
(今度は、欲情に溺れたりしないで、フィクス君の無実を確かめるから――)
 もう一度アレクに近づこうとするセアラの前に、マヤが立ち塞がった。
「ダメですよ」
「どうしてっ」
「この方法は、一度しかできないからです」
 もう十分キスは楽しんだ。一度やれば十分だ。
「そ…そんな……。ごめんなさい、マヤ、フィクス君……」
(一度しかない機会を無駄にしてしまうなんて、シスター失格よ)
 責任感の強いセアラは、自分の「失敗」に黙り込んでしまう。
「諦めろって言っているんじゃないんですよ。
 セアラさんのペースでできて、もっとアレクさんの全てを感じられる方法を、提案しようと思うんです」
「そんなものがあるの?」
 セアラは身を乗り出す。
(なにかしら? 唇を重ねるより、フィクス君を強く感じられる方法って)
「男の人には、その人の内側――精神状態とかをよく表して、口の中より敏感ところがありますよね」
 マヤはもったいつけるように言う。
(…男の人の…敏感なところって……もしかして…ペニス?)
「わかりましたか。アレクさんのおちんちんを、舌で舐めて、口でくわえて、いっぱい気持ちよくなってもらって、白くてどろどろした精液を出してもらうんです。
 精液をいただいたら、アレクさんが悪魔の力を得ているかどうか、すぐにわかるはずですよ」
(……なんてこというのよ…そんなこと…できるわけないわ……
 ……ペニスに触れて……射精までさせて……それを…口で…確かめるだなんて……)
「やめますか? ただし、それでアレクさんのことあやしいとか言ったら、セアラさんのこと、軽蔑しますけど」
「う……」
 セアラは口ごもった。
(仕方ないわ。わたくしが口付けの時にちゃんと集中していられなかったから、こんなことになったんですもの。不愉快な思いをしなくてはならないとしても、誰が悪いのでもないわ、わたくしのせい。それに…フィクス君なら……、いいえ、なんでもないわっ、いまのは気の迷いよ)
「…やるわ……、マヤ、やり方を教えてちょうだい」
「はい。じゃあ、今回も、まずわたしがお手本をお見せしましょう」

 マヤが脚を開いたアレクの前にしゃがみ込んだ。
 セアラは立ったまま、二人の様子が――特にアレクの股間がよく見える位置に移動する。
「失礼します」
 マヤがアレクのズボンの紐を解いた。
 アレクが腰を浮かせている間に、ズボンとパンツを一緒に、足の方にずらす。
 露出した性器に、セアラが息を呑んだ。
(これがフィクス君のペニス……)
「恥ずかしい真似させてしまってごめんなさい。
 お詫びに、気持ちよくなるように、精一杯ご奉仕させてもらいますね」
 美術品を扱うような手つきで、マヤは性器に触れた。
 指でそっと支えて、先端に口付ける。
「ちゅっ」
 恥じらいに顔を赤らめながら、何度も何度も唇をこすりつける。
「ちゅっ……ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ」
(どうして……マヤはそんなに幸せそうなの? フィクス君の性器に触れるのが、嬉しいのかしら。彼のことを愛しているから?)
「おちんちんの先端は、男の人の身体中で、いちばん敏感なところなんですよ。だから、やさしくしてあげてください」
 マヤは亀頭を舌の裏の柔らかいところで嘗め回す。
「先っぽだけじゃなくて、いろんなところを舐めてあげると、男の人は喜んでくれるみたいです。って言っても、アレクさん以外にしてあげたことはありませんし、する気もないんですけど」
 言ってから、マヤは舌を性器の胴の部分に絡み付ける。
 できるだけ広い範囲を刺激しようと、上へ、下へと顔を動かす。
――ぺろっ、ぺろぺろっ
 かわいらしいマヤの口から、短い舌が出たり入ったりする。
「ねえ、訊いていいかしら?」
 セアラがアレクを見下ろしていた。
「マヤに…してもらうの…気持ちいい?」
「ああ。すごく気持ちいいよ」
「えへへー」
 褒められたマヤは無邪気に笑う。
「そう、フィクス君、感じてるのね」
 セアラの舌がゆっくりと唇を舐めた。
(わたくしがしても…感じさせられるのかしら。
 そのためにも…マヤのすることをきちんと見ないと)
 マヤは“お手本”を続けていた。
「根元の方は、敏感な先端と違って、少し乱暴にした方が気持ちいいみたいです」
 言いながら、指先で皮を強くしごいていく。
 皮がめくれてあらたに露出した部分に、恥垢を舐め取るように舌を這わせるのは、明らかにイシュタから受け継いだ知識や技術のうちだろう。
「ん…ちゅっ、んん……」
「あ……」
 マヤの熱心な奉仕に、アレクの口から声が漏れた。
 セアラはそれを聞き取って胸を高鳴らせる。
(フィクス君の声…どきどきしてしまうわ。マヤ…フィクス君を悦ばせるの…上手なのね。
 二人何度もそういうことを試したのかしら。だって、二人は付き合ってるんですもの……)
 本来のセアラならば、唾棄すべきものとしか考えられない関係だろう。
 けれど今のセアラにはこうとしか思えなくなっていた。
(羨ましい……)
――はむ
 マヤは大きく口を開けて、男性器をくわえた。
 それからゆっくりと、両の唇を肉棒にこすりつけながら、頭を上下に動かす。
「口でくわえる時は、絶対に歯を立てないように気をつけてください」
「ええ、そうするわ」
 セアラは熱に浮かされたような声で答えた。
(フィクス君の感じている顔を見て、快感をこらえる声を聴くと、わたくしの中の“女”の部分が切なくなるの。
 わたくしも、フィクス君を感じさせてみたい。わたくしの口と舌でフィクス君に感じてほしいって)
「だいたいは…わかりました。もう…替わっても構わないわ」
 マヤは肉棒から口を離した。
「わたしはいつまで続けててもいいんですけど……。そうだ、一緒にやりませんか?」
 マヤが端に寄ってセアラのための空間を空ける。
「一緒にって……」
「二人でした方が、アレクさんも気持ちいいはずですし、そうしたら早く精液を出してもらえるじゃないですか。
 わたしはおちんちんの根元の方を舐めるから、セアラさんは先っぽの方をお願いします」
 マヤはそう言って、血管の浮き出した陰嚢の裏側を一舐めした。
(……先端の方が、感じるのよね……。精液が出るのも、先端だし……)
「わかったわ」
 セアラが顔を肉棒に近づける。
(とても…ヘンな臭いがするわ……。これがフィクス君の臭いかしら……)
 目を閉じて、鼻から生臭い空気を吸い込む。
(普通なら…嫌な臭いのはずなのに…、なんでかしら、ぜんぜん汚いなんて思わないの……)
――ぺろっ
 セアラの舌が、おずおずとアレクのものに触れた。
(…塩の味がする……)
――ちゅっ
 唇が触れ、舌が肉棒の先端のへこみを撫でる。
(なに…これ…とても美味しいわ……)
 セアラは滲み出してきた先走りの液を舐め取ろうとする。
 唇が吸い付いたり、舌が性器を弾いたりするたびに、セアラの唾液とアレクの汁で水音が立つ。
――ちゅくっ、ちゅっ、ちゅぱっ
(なんていやらしい音、わたくしの口が、こんな音を立てているなんて、信じられないわ)
「そのまま続けてくれないか」
「はい……ん…む…ちゅ……ん……」
 セアラは音を立ててアレクのものにしゃぶりつく。
 顔を横に倒して、横笛を吹くみたいに肉棒に唇を沿わせてみたり、カリのところを舌でこすったりしてくれる。
「ちゅ…ちゅく……ん…ちゅぷ…んん……」
 行為自体はぎこちないけれど、セアラが、何度もアレクを言い負かしている真面目で潔癖な友人が、すすんで肉棒に奉仕しているという状況が、アレクにとってなによりの快楽だった。
 暖かい口が、優しくアレクのものを包む。
 棒状のシャーベットを舐めるように、口をすぼめて、肉棒に吸い付く。
「う……」
 急な刺激に、息が漏れそうになるのをこらえる。
「ふふふっ、声を出してもいいんですよ」
 マヤが言った。
 そんな情けない。
 そうは思ったけれど、“アレクのもの”であるマヤ相手に、見栄を張る必要などない。セアラも、じきにそうなるのだし。
(そうよ、フィクス君。あなたの声、聞かせてほしいわ)
――ちゅうっ
 セアラが先端に強く吸い付く。
「ん……う…あ……」
(フィクス君の声、女の子みたい……)
 ただ唾液と一緒にアレクの汁を吸い上げるだけでなく、肉棒に舌を柔らかく絡み付けてくる。
 さすが優等生。こんなことでも学習が早い。きちんとアレクの反応を見分けて、次の行為に反映してくる。
「気持ちいいよ、すごく気持ちいい」
(ああ……フィクス君が喜んでくれるとわたくしも嬉しいわ。もっと、してあげたくなってしまう……)
「ふふっ。ん…ちゅ…んん……ちゅぱっ」
「わたしのことも、忘れないでくださいね」
 マヤが睾丸の片方を唇ではさんで舐める。
 はるかジパングからやってきた巫女と、貴族の娘でもあるシスターが、競い合うようにアレクのものに奉仕している。
 視界に映るのは、セアラの金髪、マヤの黒髪、蒼のシスター服と、白衣に緋袴、それとみだらに緩んだ二人の表情。
――ちゅぷっ、ちゅっちゅっ
 セアラは肉棒の先端にむしゃぶりつき、音を立てて先走りの液を啜る。
――ぺろぺろ、ぺろぺろぺろ
 マヤは陰嚢を舌の表面で柔く撫でたり、睾丸を舌先で転がしたりする。
 凛とした清麗なセアラも、無垢で純真なマヤも、今はすっかりアレクの虜だ。
(あ…また大きくなったわ……
 忌わしい肉欲と穢れの象徴だというのに、どうして、どうしてこんなに、愛しいのでしょう)
 セアラは赤黒い性器に頬を擦り付ける。
(もっと感じてもらいたい……
 今だけでもフィクス君を独り占めしてしまいたい……
 わたくし…きっと、フィクス君のことを愛しているんだわ……)

「セアラ」
「はい」
 名前を呼ぶと、セアラが顔を上げる。
「胸で、してくれないか」
「え?」
「乳房の間に、これを挟んで、上下に強くしごくんだ。マヤちゃんじゃあ、ちょっとできないからね」
「あ……」
(わたくしの胸が役に立つなら嬉しいけれど……、マヤの前でそんなこと言わないでください……)
 セアラは遠慮がちにマヤの表情を伺う。
「どうぞ。今日のわたしはおまけですから」
 人差し指の爪を噛んで、少し拗ねたような口調でマヤが言う。
「わかりました。フィクス君が感じてくれるなら……」
 言ってから、マヤに言い訳するように付け加える。
「……精液を出してもらわないと、あなたの無実が確かめられませんもの」
 セアラはワンピースになった修道服を脱ごうとする。
「ちょっと待ってください。こっちの方が、早いんじゃないですか」
 マヤが手早くセアラの紺の修道服から白い付け襟を外すと、セアラが戸惑っているうちに、どこに隠し持っていたのかよくわからない裁縫袋から取り出したU字型の和鋏で、修道服の前後に切り込みを入れてしまう。
「なんてことするのっ」
 さすがにこれにはセアラも怒って、マヤをきつくにらみつける。
「早く脱ぎましょうよ。アレクさん待ってますよ」
 セアラは二人の唾液に塗れて隅々までてらてらと光っている肉棒に視線を向けた。
(……仕方ないわ。フィクス君を…そんな恥ずかしい格好のまま…待たせるわけにはいかないもの)
「後で覚えてなさい」
「はい」
 神妙にうなずいて見せたその後で マヤはほんの一瞬だけ悪戯っぽく笑みを浮かべる。
 後で覚えていられなくなるのはセアラの方なのだろう。
 セアラは広げられた穴から、片方ずつ肩を抜く。
(ちょっと……きついわね……)
 胸がつかえているようだった。肩が通ったのだから大きさ的には平気なはずだが、胸には関節がついているわけではない。
 白いシュミーズまで除けて、右の乳房から、両手で持ち上げて通そうとする。
「ん……」
――ぷるんっ
 豊満な胸の肉が、弾むようにこぼれ出てきた。
 左の胸も、すぐに服から解放される。
「見ないでください」
 そう言われても、今のセアラの姿から目を背けられるのは、余程の紳士だけだろう。
 緩くかぶったベールの下からのぞく乱れた金髪、羞恥に歪む知的で端正な美貌、紺のシスター服を上半身だけ脱いで、露出した女らしいボディライン。胸元には質素な十字架の首飾り(ロザリオ)と妖しい光を放つ魂晶石のペンダントが並んでいる。その対比は、いまのセアラの姿そのものだ。画家の描く女神よりも神々しく、娼婦の媚態よりも扇情的な艶姿。
 服の上から触った時に感じた通り、スマートな身体つきに反して、セアラの胸はかなり大きい。
 胸周りは35か6インチ(89〜91cm)程度だろうか。表面はマシュマロのように白くてきめが細かく、柔らかそうだ。
 てのひらで圧力をかけると、乳房はやわく反発しながらつぶれていく。
 その中央に、堅く尖った乳首。
 乳首にてのひらをこすりつけるようにしながら、乳房をゆっくりとこね回す。
「あ…だ…だめよ……、やめなさいっ…フィクス君…。あっ…こんなこと…いけないわ……はあんっ」
 今までやってきたキスやフェラチオと違って、胸を触られるのは、マヤの言葉によって正当化された行為ではない。
 だからセアラは抵抗するが、これは口先だけのポーズだ。
 本気で触られるのがイヤなら、彼女の対応はもっと厳しい。
 セアラに対する痴漢行為。かつて、アレクも出来心でやってしまったことがあるのだ。
 偶然を装って、ほんの撫でる程度だったのだが、全てお見通しだという冷たい視線を向けられ、居たたまれなくなって謝ってしまった。
 素直に謝ったのがよかったのか、アレクの場合は「次は内密には済ませません」という怖いお言葉ひとつと、一月ほどのひどく冷たいあしらいだけで許してもらえたのだが。
 公衆の前で面罵されたり、電撃を浴びせられてのた打ち回ったり、大恥をかいた奴はアレクが知っているだけでも五指に余る。
 そんな潔癖なセアラが、今はアレクに胸を触られて、嬌声をあげてよがっている。
「あふっ…、…手を…離してください……、はんっ」
(触られた…触ってもらったところから……身体じゅうがとろけてしまうみたい)
 セアラの手は、引き剥がすよりは引き止めるように、アレクの手首を握っている。
(…もっと…してもらいたい……でも…ダメよ……だって……)
「バカなことはおよしなさい。マヤが見ているわ」
 たしかに、マヤは食い入るように二人の様子を見ている。
「いいなあ、セアラさんの胸、とても大きくて羨ましい」
――ぷにぷに
 マヤがセアラの胸をつつく。
「なにを言ってるの? はん…ん…おかしいでしょうっ……、あんっ」
「これだけ大きかったら、アレクさんにいろんなことしてあげられるでしょうね」
「マヤちゃんの小さい胸も好きだけど、こういう大きい胸もいいよなあ」
 二人はセアラの胸を両側から攻め立てる。
「え? あ?」
 セアラは混乱してしまって抵抗もできない。
「あのさ、セアラ」
 アレクはスカートの中に手を入れた。
「はんっ…やめ……あ…ああ……」
「下着、もうぐしょぐしょになってるぜ」
(うそ……、触られてもいないのに、こんなに濡れてしまったの?)
 覚えていないだけで、既に一度イカされているのだが。
 セアラの動揺を楽しみながら、人差し指と中指で、秘裂を撫でて蜜をかき出す。
「ほら、中からどんどんあふれ出てくる」
「あっ…あっ……あんっ……」
(きもちいい……、声がどんどん洩れちゃう……
 わたくしも、フィクス君をこんなふうに感じさせてあげたい……)
「見てみろよ。美味しそうだろ?」
 愛液まみれの指を顔の前に突きつける。
 唇を割って、口の中に差し入れても、セアラはいやがるどころか、前歯で軽く噛んで、舌を沿わせてきた。
「ちゅっ…くちゅ…ちゅ……」
(そう、こうやって、ペニスを舐めて……わたくしが……あっ
 ………こんなこと…しているわけにはいかないわ………)
 セアラが力の入らない手で、アレクの肩をつかんだ。
「離してください」
 ゆっくりと、胸から押し退けされる。
「マヤもよ」
 まだセアラの胸をもてあそんでいるマヤの手を払う。
 快感に緩みきった顔を精一杯引き締め、澄ました表情を作ってセアラが口を開く。
 火照った頬と、潤んだ瞳が、その効果をほとんど打ち消していたけれど。
「また、快感に我を失ってしまうところでしたわ。でも、今回は、フィクス君が、淫らなことばかりするからいけないのよ」
(できれば…いつまででもしてもらいたかったけれど……)
「胸で、するんでしょう。どうすればよろしいのか教えてください」
(わたくしが、して差し上げるのですもの)
 口調とは裏腹の優しい手つきで、アレクのものをそっと撫でた。

「まず、そのロザリオとペンダントを背中に回して」
「はい」
「そしたら、俺のものを、胸の間に挟むんだ」
「こ……こうかしら?」
(フィクス君のペニス、冷たくなってしまってるわ……
 かわいそう……、わたくしの胸で、暖めてあげられるかしら)
「もっとしっかり挟んで」
「はい」
 セアラは自分の胸をつかんで中央に寄せる。
 肉棒が左右から強く挟まれ、押さえつけられる。
「そしたら、上下に動かしてしごくんだ」
「はい……んっ…んっ」
「腰やひざも使ってみて」
「これで…いいかしら?」
「うん、いいよ。そのまま続けて」
「ふふっ」
 セアラは誇らしげに笑って、より熱心に身体を動かす。
 柔らかい胸が、肉棒だけでなく、下腹にもこすりつけられる。
(あんっ…、乳首が、乳首がこすれて気持ちいい……。それに、陰毛が…むずむずする……ん……)
 身体をくねらせながら、セアラが上体を揺さぶる。そのストロークごとに、白く美しい胸の肉の間から、赤く醜い男性器が顔をのぞかせる。
――ぺろぺろ
 先走りの汁を舐め取るように舌先で亀頭をこねたあとで、セアラは不安げに見上げてきた。
(勝手なことして、不快に思わないかしら)
 いい傾向だ。もうセアラは、アレクの幸福と快楽を何よりも願う“アレクのもの”への一歩を踏み出している。
「もっと舐めてよ」
「はい」
 セアラは胸を揉み潰すような手つきで肉棒を挟み込み、嬉々として舌や唇で肉棒を舐めまわした。
――ふにふにふに
――ちゅぱっ、ちゅくちゅく、ぺろぺろっ
(いつまで…こうしていられるのでしょう。
 フィクス君の無実が確かめられたら、やめにしなければならないのね)
 セアラが切なく吐息を漏らす。
 いつまでもしていたいのはアレクも同じだった。
 朝、マヤとノエル相手に何度も出しているから、かなりの時間堪えているが、でなければもう出してしまっていただろう。
 それでも、さすがに射精感がこみ上げてくる。
(ペニスが震えているわ。もうすぐ、ここから精液が出てくるのね……)
――ちゅっ、ちゅっ
 名残惜しそうに、ペニスの先端に濃密なキスをする。
「出すぞ、ちゃんと飲めよ」
「んんっ!!」
 セアラは先端をくわえていたけれど、精液を吐きながら暴れまわる性器は、すぐに口から飛び出してしまった。
 強精剤を飲んでいたせいか、予想外に多い精液が、セアラの上半身に降りかかる。
(口の中も、顔も、髪も、胸も、フィクス君の精液でべとべと……
 でも、とてもいい匂い、とても美味しいわ……)
 セアラの口の中で、くちゃくちゃという音がした。
 狂わされた味覚で咀嚼するように味わってから、セアラは口の中の精液を飲み下す。
――ごくん
 その様子を、満足げに眺めてマヤが問う。
「どうです? アレクさんのこと、どう思いました?
 邪悪な感じがするとか、理由が分からないのに気分が悪くなるとか、ありましたか?」
「いいえ、なかったわ」
(それどころか、とても幸せな気分だったわ。男の人の精液なんて、本当は汚いもののはずなのに。
 マヤが、精液を出してもらえばたちどころに彼の潔白が分かるって言っていたのは、こういうことだったのね)
 セアラは自分の顔や髪についた精液を手ですくい取って舐めている。
(本当に美味しいわ、フィクス君の精液、癖になりそう……)
 彼女を聖女のように思って慕っている自警団や神学校の少年少女たちが、この姿を見て、この心の声(テレパス)を聞いたら、なんて言うだろうか。
 一通り精液を食べてしまうと、顔や身体をハンカチでぬぐった後で、アレクの座っている前で膝をつく。
「あなたに謝らなければなりませんわね。
 確かな故もなく不当に疑いをかけ、恥ずかしい真似を強いてしまったのですもの。
 許して…くださいます?」
 セアラは縋るような視線を送ってくる。
「許さないって、言ったらどうする?」
 アレクは気まぐれに訊ねてみた。
「え?」
 セアラが目を見開く。
(意地悪を言っているだけだってわかっているのに、許してくれないかもしれないと思うと、胸が苦しくなるわ……)
「フィクス君が許してくださるよう、努力いたしますわ」
 許してもらうためならなんでもするというような、思い詰めた声だった。
「ひとつだけ、約束してくれるか」
 アレクはセアラのあごに手を当て、顔を上げさせた。
「はい。なんでしょう」
「二度と俺のことを疑わないって」
(それだけでいいの? 優しいのね……)
 セアラは顔を綻ばせ、両手でしっかりとアレクの手を握った。
「誓いますわ。もう二度とあなたを疑ったりいたしません」
「一瞬でもだよ」
 からかいの台詞にも、真剣に答えてくれる。
「難しいですけれど、そう、努めます」
 彼女は、誠実過ぎるほど誠実な人間だ。ひとたび誓ったからには、どんな不利な証拠を見つけても、それをアレクと結びつけはしないだろう。
「許してあげるよ」
「ありがとうございます」
 セアラは一歩下がると、まるで皇帝か教皇を前にしたように深々と頭を下げた。
 そして、顔を上げる途中で、露出したままの性器に、視線が釘付けになる。
「ねえ、セアラさん」
 マヤがセアラの耳元で何事かを吹き込んだ。
(あ……、フィクス君のペニスの周り、精液がいっぱい……
 きれいにしてあげるのは、ハンカチでもできるけれど……、そんなの、もったいないわ)
 おどおどと視線をさまよわせながら、恥ずかしそうに言い出すセアラ。
「よろしければ、あなたのペニスを、きれいにしてさしあげようと思うのですけど……」
「舐めていいよ」
 そっけなく言うと、その顔が耳まで真っ赤に染まる。
(いやだ……見透かされてる……、そんなに物欲しそうな顔していたのかしら……)
「……はい」
 消え入りそうなほど小さな声で、セアラは男が女にフェラチオを許すという屈辱的な倒錯を受け入れた。
――はむっ
 射精のあとの萎えた肉棒が、暖かい口に包まれ、舌を絡めつけられる。
――ちゅぷっ、ちゅるっ……ごくん
 モノにまとわりついた精液を舐め取って、喉を鳴らして嚥下する。
(苦くて…粘り気があって…フィクス君の味……。あ、また大きくなってきたわ)
 再び張りを取り戻した性器の先端に口をつけ、尿道の中の精液を強く吸い出す。
(まだ…出てくる……、いっぱい……)
「いいよ、セアラ、しゃぶるの上手だね」
(ああ、フィクス君も感じてくれているわ……。嬉しい……。
 彼の精液を味わうのも、彼に奉仕するのも、この上のない快楽よ……)
 もう、精液を拭い取るという役目は終わっているのに、セアラは陶然とフェラチオを続ける。
 ……頃合だろう。
 アレクの視線に、マヤは頷く。
「ふふっ、そろそろ終わりにしましょう。『夢見るシスター』」
 マヤの趣味らしいメルヘンなキーワードで、セアラの目から光が消えた。



−9−


 小さなテーブルを挟んで、アレクとセアラは向き合っていた。
 セアラは羽ペンを握り、霞みのかかったような目をテーブルに向けている。
 修道服の切り込みは、またいつでも胸を露出させられるようボタン留めにされ、上から付け襟で隠されている。初めからそういうデザインだったと思い込ませてあるのは言うまでもない。
「俺にとっていちばん不利になる証拠は、地下牢の足跡だな」
「はい」
「報告書に書かなかったら、怪しまれると思うか?」
「足跡は複数の人間が確認しています。おそらく追及されるでしょう」
 アレクの質問に、セアラは無感情な声で答えていく。
「サイズや形状をごまかすことはできるか?」
「はい、可能です」
「調査の結果、足跡は革の靴じゃなくて木靴だった、いいな」
「はい。靴跡は木靴のものでした。そのように報告します」
 セアラのペンが麻の繊維を漉いた紙片の上を滑る。
 少し急いだだけで汚くなってしまうアレクの雑な筆記体と違って、そのまま教材に使えるようなきれいなイタリックだ。
「それから、早いうちに証拠は消してしまうように取り計らえ。理由は教会の復旧のためとか瘴気が溜まるからとか、説得力がありそうならなんでも構わない」
「はい。早急に証拠は抹消します」
 これで足跡の件は解決だ。
 セアラが相手だと進行が早い。たとえ意志や感情を消していても、マヤではこうはいかないだろう。
「それから、マヤちゃんに結界が反応した件について考えなければならないな」
 アレクが矢継ぎ早に投げかける質問に、セアラは即座に返答しメモを取り続けた。

「おつかれさま」
 その言葉で、セアラは催眠状態から目を覚ます。
(あ…、フィクス君……?)
 向かい合って座るアレクの姿を見て、セアラがパチパチと瞬きをする。
 たしか…フィクス君と…差し向かいで…捜査の話を……)
 セアラは机の上の麻紙に視線を落とした。メモには“これまで調べたこと”と“これからしなければならないこと”が、しっかりとリストアップされている。
(わたくしとフィクス君は、二人でこのリストを作っていた……)
 間違いではないが細部を欠いた記憶が、セアラの脳内に浮かび上がる。
「おかげさまで、捜査の目処が立ちましたわ」
(たしかな理由もなく疑いをかけられたというのに、わたくしの仕事を助けてくださるなんて……フィクス君って、とても優しくて紳士的な方なのですね)
 アレクを見つめる視線には、純然たる信頼と、敬意のようなものさえ含まれていた。
「ヴェルネは大事な友人だからね」
 アレクが言うと、セアラは残念そうな、安堵したような、微妙な表情を浮かべる。
(友人……そうよね……
 わたくしはシスターで、フィクス君はマヤの恋人ですもの……
 お友達同士……それ以上に進めるわけないじゃない……)
 吹っ切れたように、セアラはアレクに語りかける。
「あなたは大きな貸しを作ったと思ってくれて構いませんわ。もしも、わたくしがお役に立てることがありましたら、どうぞ遠慮なく言ってください。わたくしの力の及ぶ限り、お助けいたします」
 これからセアラであれこれするのに、この言質は役に立つかもしれない。
「どんなことしてもらおうかなあ、楽しみだなあ」
「つまらないことを頼んで、後で後悔しても知りませんよ」
 陽気な言葉の裏でアレクがなにを考えているかなど知るはずもなく、セアラはいつもの軽口だと思って応じる。
「これ以上いると邪魔になるだろ。そろそろ帰るよ」
「邪魔だなんてことはありませんけど、無理に引き止めても、ここではお礼のひとつもできませんね。
 わかりました。裏口までご案内します。正面から出ると、なにかと目立ちますから」
 セアラは立ち上がって扉を開く。
「どうぞ」
 ドアを支えて部屋を出るよう恭しく促す。セアラにはそういうお嬢様然とした仕草がよく似合う。
「ありがと」
 廊下に出たら、アレクは前を行くセアラの右手を握ってみる。
 しなやかな手は、しっとりと汗ばんでいた。
「え?」
 普通なら払いのけられるところだろうが、セアラは弱く握り返してくる。
(おかしなことではないわ。廊下は暗いもの)
 セアラは必死に自分にそう言い聞かせている。
 元が牢獄だという教会の通路は狭く入り組んでいた。
 前を行くセアラの後ろ姿を見ながらついていく。
 流れる金髪、細身の身体、形のいい尻。
 その尻に、触れたいと思った。
 抵抗するかもしれないが、快楽によがり狂わせることも、記憶を消すこともたやすい。
 嬉々として肉棒をしゃぶっていたセアラの姿がフラッシュバックする。
 手をのばしかけた瞬間、不意に、セアラが振り返った。
 顔を上げると、目が合った。
 いつもの、射抜くような視線に見透かされたわけではない。逆だ。瞳の中には、信頼と好意しか感じ取れなかった。
「ここは段差になっています。気をつけてください」
 拡張か修繕の都合だろうか、床面に出来ていた1フィートほどの不自然なズレをセアラが示す。
「あ、ああ」
 アレクがしっかり段差を越えたのを確認して、セアラは再び無防備に歩き出す。
 もう襲う気にはなれなかった。
 尻を撫で回そうとしていたアレクの手と、転ばないようにと段差を指差してくれたセアラの手。片方の手は繋いだままなのに。
「着きました」
 セアラは手を離すと、両手で重たい金属の扉を押し開ける。
「その角を曲がれば、すぐに広場に出ます」
「ありがと」
「わたくしこそ、今日は本当にありがとうございました。それに、ごめんなさい」
 彼女はアレクに濡れ衣を着せたと信じ込まされているのだ。
「ヴェルネ、また明日な」
「はい。また明日、お会いしましょう」
 アレクが道を折れて姿が見えなくなるまで、セアラはずっと見送っていた。


 
 


 

 

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