ファンタジーシティー


 

 

ロングプロローグ




−1−


 いまでない時、ここでない場所、いわゆるひとつのファンタジー世界。
 村というには大きいが、自由都市の認定を受けるには至らない人口5000人ほどの宿場町。
 その5000人のうちのひとり、アレクサンドル・フィクスは、教会の鐘の音で目を醒ました。

――カーンカーンカーンカーン

 木槌で鐘を打ちつける甲高い音の連呼。あらわすものは、時報でも、訃報でもなく、警報。
 火事か? モンスターか?
 アレクサンドル――親しい者からはアレクと呼ばれるその青年は、くたびれた革のコートを羽織ると、銀貨の袋と呪文のアンチョコをポケットに入れて部屋を出る。
 これで最悪、下宿に戻れなくても生活していける。アレクはまだ未熟ではあるが魔術師で、通信魔術(テレパス)が使えるから、商家なり船会社なり、雇用先はいくらでもあるのだ。
 廊下に出ても人気はない。下宿は既に空になっている。
 玄関を出ると、怒号や足音が耳を撃つ。
 アレクの暮らしている安下宿の玄関は路地裏にあるのだが、鍬や包丁を持った男女の集団が「悪魔を殺せ」などと叫びながら通りを走っていくのが見える。
 火事ではなさそうだ。モンスターの大挙襲来にしては静かすぎる。まさか革命ということもないだろうし――
 ギモンに思いながら通りに出ると、都合よく知り合いが走ってくる。

「シスター・マヤ、おはようございます、本日もご機嫌麗しゅう――ってわけでもないようだな。キミの神様はシスターに早朝ランニングを課しているのかい」
 シスター・マヤこと、アヤノコージ・マヤは、宿場法の関係ではるかジパングから招聘されてきた天孫教のシスター(巫女さん)だ。
 身長はおよそ5フィート(150cm)と小さく、東洋的(オリエンタル)な童顔のせいで、少女という形容がよく似合う。
 ユカタ・スーツに似た白い衣に、薄手のシルクのローブ(千早)を羽織り、緋色のスカート(袴)を同色のベルト(帯)で止めている。肩口で切り揃えられた黒髪と、澄んだ大きな黒い瞳が、白と赤のシスター服(巫女装束)に映えて、神職の者らしい清浄感と、親しみやすい暖かさを両立させている。
 想像はつくのではないかと思われるが、アレクがいまもっとも興味を持っている異性である。軽口を叩くのも親愛の情の表現だ。
「はあっはあっ、アレクさん、こんにちは」
 マヤは大きく肩で息をしながら、懸命に笑顔を作る。
「大変そうだね」
「はい。でも、この町で天孫教の巫女は私だけですから。大変だなんて言っていられません」
 マヤは帯に差した弓と矢筒をぽんぽんと叩く。
「それは?」
「あ、これですか。破魔矢といいまして、私が清めた矢です。敵がどんな強力な悪魔であっても、八百万の神々の御加護を受けたこの破魔矢でなら打ち砕くことができるはずです」
「ん、悪魔?」
「はい。悪魔です。アレクさん、知らないんですか? そういえば、早朝ランニングとか言ってましたね。太陽を見てください。今はもう昼間ですよ。ずっと寝ていたんですか?」
 マヤは陽の光をいっぱいに浴びるように胸を反らせて、にこにこと笑った。
「寝てた。もしかして、俺、遅刻かな」
「この時刻だと、もう欠勤扱いかもしれませんよ」
「げっ、まずいなぁ」
「くすくすっ、脅かしちゃってごめんなさい。
 アレクさん、たしかクロープ商会の雇われ魔法使いでしたね。今日はきっと休業ですよ。
 今朝、聖十字教の教会の人達が、悪魔教徒の黒ミサを摘発したんです。ところが、召還された悪魔を逃がしてしまいまして、悪魔が新しい契約者を見つける前に退治しようと、市中の6教団は連名で、全信徒に悪魔退治への参加を呼びかけています」
 なるほど、「悪魔を殺せ」とは文字通りの意味だったのか。
 アレクは理解した。しかし、納得はできなかった。
 異邦人だからか、魔術師だからか、彼は宗教的には醒めていて、悪魔一匹で町の機能を停止させてしまうような宗教的狂熱に、付き合いたいとは思わない。
「それ、パス。店はお休みなんだろ。俺は下宿で寝る。夜勤明けで寝不足なんだ」
「うぅ、聖職者の前でそんなこと言わないでください」
 この町における天孫教の責任者――マヤは少し俯いて上目遣いでアレクを見る。
「悪かった」
「いえ。本当は、一般の信者さんたちを駆り出したりするべきじゃないんです。悪魔と戦うのは、わたしたちの仕事なんですから」
「そう思ってるだけでも立派だよ。ごめん、ちょっと偉そうだったかな」
「ありがとう…ございます……」
「早く、捕まえられるといいな」
「はいっ。頑張ります」
 マヤはぺこりと頭を下げると、通りを南門の方に向かって走っていった。



−2−


「行ったか?」
 足元から、いきなりそんな声がした。
「え?」
「巫女の娘はもう行ったか、と聞いている。周りには誰もいないか?」
 女の子の声だ。もちろん、鈴の鳴るようなマヤの声ではない。
 もっと低くて、生意気そうな声だ。
 どこだ?
 周囲を見渡しても誰もいない。
「誰もいねえよ。どこからか不気味な声がするだけだ」
「失礼な」
 足元で、アレクの影の中から、コールタールで作った人形のような真っ黒な人型が這い上がってくる。
「わっ」
 アレクは飛びのこうとするが、身体がほとんど動かない。
「影を縛っている。しばらく大人しくしていろ」
 人型は立ち上がったが、高さが4フィート(120cm)ほどしかない。
 魔術でも使ったのか、ふわりと浮かび上がって、アレクの胸倉をつかみ呪文を唱える。
「転送?」
「よくわかったな」
 人型が笑った――ような気がする。
 視界が一瞬、七色に染まり、見慣れた、見慣れすぎた下宿の風景が目に入る。
「貴様の部屋だ。ここでならゆっくり話もできよう」
 人型は再び笑う。今度は確かに笑っているのがわかる。
 次第に影を映し出した黒色は薄れて、目や、口や、服の紋様が見えてきている。
 女の子だ。
 勝気そうな真紅の瞳がアレクを刺す。
 赤褐色の髪は金属質の髪飾りでまとめられ、しっぽのように太腿あたりまでぶら下がっている。しっぽの先端をまとめている空色のリボンがアクセントだ。
 さらに、漆黒のドラキュラマントの緋色の裏地。
 違った色彩を見せる三色の赤が、アレクの視覚に対して強烈に訴えかけてくる。
 マントの下には、黒銀色の鎧。いかなる技術によるものか、金色の糸でアレクの知らない古代文字が“縫い込まれて”いる。胸元にはリボンと同じ空色の宝石が組み込まれていて、内側から湧き出してくるような淡い光を放っている。
 身長は前にもいった通り4フィート(120cm)弱、外見年齢は10歳というところだろう。
 しかし――
 人ならざる者の年齢を、人の基準では計れまい。
「まずは影を貸してもらったことに礼を言おう。感謝する。危ないところだった」
 彼女は、アレクの手に大きな金貨を一枚押しつけた。
「取っておけ。恩には恩が悪魔の流儀だ」
「ありがたい話だが、キミを匿う気はない。今から通信魔術(テレパス)でマヤちゃん呼び戻すんで、逃げ出すなら今のうちだぞ」
 言いながら、アレクはそそくさと金貨をコートのポケットにしまう。見習い魔術師は貧乏なのだ。
「いい度胸をしているじゃないか。殺されるとは思わないのか?」
「キミは未契約の悪魔だ。
 この世界に正当に存在しているものでないから、高位聖職者と戦えるほどの力はない。
 だから、キミは俺と契約を結びたいと思っているはずだし、俺が実際にテレパスを使うまでは俺を殺さないだろう。
 けど、俺が通信魔術を使ったら、キミは逆上して俺を殺すかもしれないし、キミもたぶん捕まってしまう。
 だから、さっさと逃げてくれって言ってるわけだ。
 そうすれば心置きなくマヤちゃんを呼べる」
「なるほど、目は開いているようだ。
 余はイシュティア。親しい者にはイシュタと呼ばせている。
 余と契約を結ばないか。貴様のような者となら、坊主どものことがなくても、喜んで契約するぞ」
「残念ながら、興味ない。
 魔力も富も権力も、あまり幸せには結びつきそうにないもので」
「ふん、意外と小市民なのだな。
 貴様の幸せとは――、そうか、今はあのマヤとかいう娘を手に入れることか。
 そして貴様は、それが悪魔の力など使わずとも叶うと思っている」
「……勝手に人の心を読むなよ」
「うつけもの。心を読むのは悪魔の商売だ。
 それはさておいて、あの娘は貴様のものにできるような相手なのか?」
 真紅の瞳が意味ありげにアレクをじっと見上げる。
「どういうことだ?」
「確かに、あの娘は貴様に好意を持っている。それはまず間違いなかろう。
 しかし、それ以上に、あの娘の心の中心には『神』がいるように思える。
 たとえば、巫女の使命に反してまで、貴様と性的交渉を持つことを望むと思うか?」
「………………」
 言葉に詰まった時点で、既にアレクは半ば以上負けている。
「あの娘を支配したいと思わないか?
 神に仕える巫女ではなく、貴様に仕える女にしてしまいたいとは思わないか?
 さあ、答えろ、アレクサンドル・フィクス」
 その欲望は、ずっと前から、アレクの胸のうちに巣食っている。
「俺は――」

――ドンドンドンドンドン

 口を開こうとした瞬間、下宿の扉が叩かれた。
「マヤです。アレクさん、いらっしゃいますか?」
 びくっ。
 擬態語がそのまま耳に聞こえそうなほど露骨に首をすくめ、イシュタはアレクの影に飛びこもうとする。
 しかし、小さな窓からの光だけでは十分な影ができなかったらしく、イシュタは床に顔面を打ちつける。

――かちゃり

 扉がゆっくりと開かれる。
「鍵っ!」
 イシュタの悲鳴にも近い叫び声。
 開けっぱなしで出て行って、転送で入ってきたのだから、閉まっているわけがない。
 足元に転がる悪魔の娘は、床にダイブした時にマントがめくれて、とがった尻尾が丸見えになっている。
「あのぉ、もうお休みですかぁ」
 扉の影から顔をのぞかせたマヤはのんびりとした口調でそんなことを言っていたが、イシュタを見た途端に一気に駆け寄ってくる。
「悪魔めっ、アレクさんから離れなさいっ」
 マヤはアレクの腕を引いてイシュタから引き離す。
 そのまま、アレクをかばうようにアレクとイシュタの中間に立ち、巫女装束の懐の中から、紙で作った人形らしきものをばら撒く。
 おそらく結界を張ったのだろう。アレクは東洋魔術には疎いから確かなことは言えないが。
「マヤちゃん、どうしてここに?」
「私専属のテレパス係に雇われてもらえないかなと思いまして。
 連絡手段なしに駆け回ってもただの役立たずだと言われちゃったんです。
 でも、これで名誉挽回汚名返上ですね。
 さあ、アレクさん。教会に連絡、お願いします」
「マヤちゃんは?」
「決まってるじゃないですか」
 マヤは祓詞を唱えながら破魔弓を引き絞る。
 イシュタは、外見年齢相応の子どものように怯えている。
 さっきの慌て方といい、こっちが素なのじゃないかと、アレクは思う。
 距離2メートル弱、外すはずの無い至近距離からの矢は、イシュタの顔面、左目をちょうど撃ち抜く。
「くうううっ」
 イシュタが大きく仰け反る。
 悪魔であるということを知っていても、その姿は痛々しい。
 マヤが再び弓矢を構える。
 祓詞を――アレクの知らない異国の言語を唱えながら凶器を操るマヤが、まるで別人みたいに思えた。
 左目から矢の軸を突き出させたイシュタも、それを当然のように射殺そうとするマヤも、アレクには見ていられなかった。
「マヤちゃんっ」
 アレクはマヤの腕をつかむ。
 マヤはアレクを振り払い、二の矢を放つ。
 矢はイシュタの喉に突き刺さり、傷口から青紫色の血がどくどくと流れ出す。
 説教でもするように人差し指など立てて、「いいですか、相手は悪魔なんですよ」、そんなシーンを想定――いや、期待していたアレクは、ほんの一瞬、単なる障害物でも見るような視線を向けられて“わかって”しまった。
 どんなに頑張っても、アヤノコージ・マヤは、“アレクのもの”にはならないだろう。
「アレクサンドル――」
 イシュタの残った右目が懇願するような色を帯びた。
 マヤを手に入れ、イシュタを救う、回天の一撃は確かにある。
 コートのポケットの中の呪文帳には、悪魔との契約の呪文も書いてあるのだ。
......悪魔イシュティア、汝、我と約定を交わすや?
O.K. my partner
 左目と喉を射抜かれたイシュタが、それでも親指を立てて見せる。
 これは契約に必要なものではないが、契約時に悪魔がよくやるカッコつけのサインだ。
然らば、我等、運命を共にする盟友たらん。魂朽ち果てる時が来るまで
魂朽ち果てる時が来るまで
 そして、契約は成立した。
 この世界に存在する正当性を手に入れたイシュタは、その本来の力を発揮して、身体を貫く矢を青い炎で焼燼する。
 結界の方はいまだ効いているようだが、これも遠からず脱出できるはずだ。
 マヤの第三射は、イシュタの魔力で軌道を捻じ曲げられて壁に刺さる。
「くっ」
 マヤはありったけの紙人形でイシュタを結界に縛り付け、アレクの方に向き直る。
 契約相手をどうにかして、再び悪魔を非力な状態に戻すつもりなのだ。
「アレクさん、どうして悪魔に組するんですか?」
 かれこれ1年ほどの付き合いの間で、マヤが本気で怒っているのを見るのは初めてだった。純粋で剥き出しの敵意が全身から放射されている。
「キミを神から奪い取るため」
 マヤは一瞬ハッとしたように目を見開く。
 それから、じっと真摯な目でアレクを見つめる。
「責任は、取ります」
 マヤは矢筒から新しい矢を取り出し、弦を引く。
 アレクは呟く。
「やっぱり、キミは神を選んだか」
 アレクの耳にも弓の軋む音が聞こえるほどの至近距離。
 弓矢の射程からすればゼロ距離射撃に等しいその破魔矢は、しかしアレクの差し出した左手を刺し貫いて止まっていた。
 アレクは手にした呪文書を、再び、開く。
夜魔よ、堕ちたる神の御使いよ
 呪文書を捨て、左手から矢を引き抜き、それを仮想の弓に番える。
 既にマヤは次の矢を構えていた。
汝が旧き力を以って、彼の娘の心を我がものとなせ
 ひゅうっと風切りの音を立て、血塗れの矢はマヤの心臓に狙い違わず突き刺さる。
「あっ……」
 出血は、ない。矢についていたアレクの血だけが、マヤの巫女服に小さな染みを作る。
 抜こうとしたマヤの手の中で、その矢は溶けるように消えて無くなる。
「マヤちゃん」
 アレクはマヤの手を取る。
 それだけで、マヤの顔が真っ赤になる。
「キミはもう俺を傷つけられない。俺の勝ちだね」
 マヤの手の甲に、芝居めかしてアレクはキスをする。



−3−


「わたしに、なにをしたんですか?」
 怯えるような、期待するような、潤んだ瞳でマヤはアレクを見る。
「なにをされたかは、だいたいわかってるはずだよ」
 今のマヤは、胸のうちから湧いてくるアレクへの恋愛感情を持て余しているはずだ。
 さっき、マヤの心臓に撃ち込んだ矢には、アレクが召喚した夜魔(コボルト)が“乗せて”あった。コボルトは色恋沙汰が好きな気のいい奴等で、今もマヤの精神にこつこつとアレクへの好意を植え付けている。
 もっと強力な、淫魔(インプ)あたりを憑けてやることもできたのだが、アレクはマヤに関しては性欲で縛るようなやり方は取る気はない。あとで他の女に試して見よう、と内心思っているにしても。
「こんな紛い物の気持ちになんて、絶対に負けません」
「それだけで落ちるなんて思っちゃいないさ」
 アレクは、通信魔術(テレパス)でコボルトにメッセージを送る。
「紛い物でもいい…… わたしはアレクさんが好き……」
 マヤが夢見るような口調でメッセージの内容を口にする。
「あっ、いや、わたし、どうして?」
 もちろん、マヤに憑いているコボルトの仕業だ。
「相手の精神の内側に侵入経路を確保する、バックドアというテクニックだな。精神障壁の強そうな巫女には適したやり方だ」
 マヤの結界を抜け出してきたイシュタが言う。破魔矢で貫かれた左目はまだ再生してなくて、どこからか見つけてきたのか海賊じみた黒い眼帯(アイパッチ)をしている。
「そんな名前がついてるの。ただ、俺はマヤちゃんにはこれしかないなと思っただけだよ」
「ずいぶんと悪知恵の回る心強いパートナーだ」
「お褒めにあずかり光栄であります」
 アレクはわざとらしく敬礼などする。
「ひどいですっ、人の心をもてあそんでっ」
「武器突きつけ合って手に入れた戦利品だからね、ちょっとぐらい、遊ばせてもらうよ。
 ずっと、こうしたいと思ってた。マヤちゃんのことが好きだったんだ。
 神に仕えるマヤちゃんを、俺だけのものにしてしまいたかった」
 嘘偽りのない本心だ。
 呪文書のコボルトの召還呪文の頁には、片手で開けるほどの開き癖がついている。
「やぁ、ひどいこと言われてるのに、なんだか嬉しい」
 マヤはなにかに耐えるように巫女装束の裾を握る。
 にらみつけるような視線をアレクに向けるが、それがだんだん熱っぽく緩んでくる。
 コボルト経由で第二の指示。
「アレクさんに…… 抱きしめてほしい……」
 ふらふらとマヤがアレクの胸の中に倒れ込んでくる。
 アレクの身長は5フィート半(167cm)とあまり大きな方ではないが、小柄なマヤは腕の中にちょうどよく納まった。
 肩は細くて柔らかくて、顔に触れる髪の毛は、とても甘い匂いがする。
「はっ、あっ、離してっ、離してくださいっ」
「マヤちゃん。俺のこと、嫌いかい?」
 マヤの目が怯えるように大きく見開かれる。
「違いますっ、好きです、大好きです。今もとっても嬉しいんです。
 でも、だからイヤなんですっ、わたしがわたしじゃなくなっちゃうっ」
 マヤはアレクの腕の中でじたばたと暴れる。
 アレクが力いっぱい抱きしめると、マヤの抵抗がだんだん弱くなって、アレクの胸に顔をうずめて泣きじゃくり始めた。
「やだぁ、わたし、巫女なのに。悪魔と手を結んだアレクさんのこと、許しちゃいけないはずなのにぃ」
 かわいい。
 男なら誰でも――いや、女でもか――、子供の頃、わざとひどいことをして好きな子を泣かせた経験があるだろうが、そんな懐かしい充足感。
「ごめんねマヤちゃん、すぐラクにするよ」
「い、いやっ、怖い、怖いですっ、やめてくださいっ。ううっ……」
 アレクの指示に従い、コボルトがマヤの洗脳を始める。
 3度目だからか、内容が人格自体に踏みこむものだからか、抵抗は強い。
「いや…… わたしは……… わたしは…… ああっ」
 アレクからコボルトに魔力を注ぎ込んでやる。それで、均衡は崩れた。

 マヤの身体が大きく痙攣して、一気に力が抜ける。
 目を開いたまま眠っているかのような無感情な表情。黒い瞳に意志はなく、ただガラス玉のようにアレクの顔を映している。
「わたしは…… アレクさんのことを…… 心の底から…… 愛しています……
 心も……身体も…… すべてを…… ゆだねます……
 アレクさんの言うことなら…… どんなことでも従います……
 アレクさんの望むことなら…… どんなことでもします……
 アレクさんに喜んでもらえることが…… わたしのなによりの幸せです……」

――パンッ

 手を叩くと、マヤの目に光が戻ってくる。
 アレクの顔を見た途端、マヤの表情がぱあっと華やぐ。
 背中を優しく撫でると、アレクの胸に頬をすりつけてくる。
 まるで、小動物みたいだ。
「アレクさん、大好きです」
 マヤが甘ったるい声で言う。
「ありがとう。俺もだよ」
「えへへ……」
 取り繕うようなところのない、子供っぽい笑い声。
「なんか、幼くなったなあ」
「そうですか? きっと今まで、無理をしてたんですよ」
 完全に気を許した相手への無垢な笑顔。
 この笑顔を曇らせるのは忍びないなあ。
 けど、コボルトがマヤに取り憑いていられる時間はせいぜい1〜2刻のオーダーだ。
 今のまま、コボルトを精霊界に送り返してしまったら、マヤは神への忠誠とアレクへの気持ちの板ばさみで苦しむことになるはずだ。
「マヤちゃん、キミに見てもらうものがある」
 アレクは低くおさえた声で言って、自分の左手――破魔矢が貫通した跡のある左手を差し出した。アレクは回復呪文が使えないので、幻覚の魔術で痛覚だけ切ってある。
「ああ、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ、すぐに手当てをっ」
 マヤはアレクの手を取り、回復の祝詞を唱え始める。
 しかし、治癒速度が遅い。予想通りだ。
「信仰心は薄れてきて、巫女としての能力が下がってるんだね」
「わたし、アレクさんのお役に立ちたいのに」
「いいんだよ、俺が欲しいのはキミの心と身体だ。聖職者としての力じゃない。
 それとも、また神に従って俺を殺そうとするかい?」
「イヤですっ、そんなのは絶対にイヤですっ」
「なら、神に従う巫女なんてやめちゃえ。神の教えなんて燃えないゴミと一緒にポイだ」
「あの、巫女をやめたら――」
 さすがに、マヤは不安そうな目でアレクを見る。
「巫女をやめたら、キミはただの恋する乙女になるんだ」
 マヤの顔が至福に綻ぶ。
「わたし、恋する乙女になります。命短し、恋せよ乙女、です」
「朱き唇、褪せぬ間に、熱き血潮の、冷えぬ間に、か。
 OK、さっさと行こうじゃないか。ほらっ」
 アレクがいきなり、白衣の上からマヤの胸を触る。
「はんっ、いきなりなにをするんですか?」
「巫女をやめるって言ったら、やっぱ禁忌を犯すしかないだろ」
「字が違いますぅっ。禁忌は侵害するものです。強姦はダメですっ」
「なんで口で言ってる台詞の漢字がわかるんだよ。
 文字を聞き分けられる不思議な耳はこの耳か?」
――ふうっ
 アレクがマヤの耳元で息を吹く。
「はうぅっ。そのぐらい、アレクさんの目を見ればわかりますよぉ」
「そうか、心が通い合ってる証拠だな」
 アレクはマヤの胸を何度も撫でる。
「あんっ、やあっ、アレクさん、いやらしいです」
「男の子だからな。好きな娘の身体にはものすごく興味あるんだ」
「わたしは、女の子ですから、好きな人には、キスしてほしいです」
 マヤが上向いて瞼を閉じる。
 アレクはマヤを強く抱きしめ、唇を重ねる。30秒ほど、マヤがファーストキスの感動を味わうのを大人しく待つ。
 アレクの胸にも喜びが広がってくる。腕の中にいるのは、穢れなき巫女ではなく、自分とのキスを心から喜んでくれる、ちょっと幼いところのある愛しい恋人だ。
 舌を送り込むと、マヤはなんの抵抗もなく受け入れ、口の中を荒らされるに任せる。マヤの舌を舌先で突つき、舌同士を絡ませる。マヤは精一杯応じてくる。
――ぴちゃぴちゃぴちゃ
 水音がたつ。いい匂いがする。甘い味がする。胸や尻はアレクの指に弾力で応える。
 唇を離すと、マヤは口の周りを唾液まみれにしたまま、アレクに熱っぽい視線を向ける。
「ファーストキス……、わたし、うれしいです……」
 マヤの首筋に舌を這わせる。
「ああっ。そこはっ、汗くさくないですか? 今日は朝から走りっぱなしで――」
「いい匂いだよ。ちょっとしょっぱいかな」
 耳たぶを甘噛みして囁く。
「きゃんっ。おいしくなんてありませんよ」
 そんなふうに身体を撫でたり舐めたりしているうちに、マヤは媚びるような視線をアレクに向けてきた。
「なんだか、身体が火照って。服、脱いじゃいますね」
「待った」
 帯に手をかけたマヤを制し、アレクがマヤの帯をつかむ。
「な、なにを……?」
「なにって、いや、漢の浪漫を」
 結び目を解いて、一気に引っ張る。
「わっ、きゃあっ」
 マヤは独楽のようにくるくると回って、壁に衝突して倒れ込む。
「ふえぇー、なんだか目がちかちかします」
「ごめんごめん、でもお約束だろ」
 マヤの視線が「そんなお約束ないです」と言っている。
「おかしいなあ。そうか、『よいではないか、よいではないか』の方が先か」
 そんなことを言うと、マヤはますます困ったような表情になる。
「まあしょうがないか。次やる時は、ちゃんと『あーれー』って言うんだぞ」
「アレクさんが、そういうの、好きなら、できる限りの努力はします……」
 じっとアレクを見上げるマヤの小柄な身体を両手で抱え上げる。
 いわゆるお姫さま抱っこ、アレクはあまり体力がないからいっぱいいっぱいだ。
 ベッドの上に寝かせ、襦袢やら裾除けやらを脱がせる。和服には下着がないなどと言われるが、たぶんこれが下着なんだろう。
 白い裸体が、慎ましやかな胸が、薄い産毛のような陰毛に隠されたピンク色の秘裂があらわになる。
「やぁ、恥ずかしいです」
 マヤは秘所を隠そうとする。
 アレクは止めさせようとして、もっと面白いことを思いついた。
――ちゅっ
 軽く唇を合わせると同時に、コボルトの進入経路(バックドア)からマヤを操る。
「ひぁっ、わ、わたし、あんっ、こんな……」
 マヤが両手で秘所をまさぐり出す。掌を媚肉に押しつけ揉みほぐし、右手の小指を軽く秘裂に挿し込む。
――じゅぷ、ちゅぷちゅぷ
 にじみ出した愛液の卑猥な水音が響き渡る。
「ああっ、ぁっ、やっ、お願い、見ないでください」
「どうして? とっても綺麗だよ」
「あんっ、だって、恥ずかしいっ、もうっ、死んじゃいますっ」
「嫌ならやめればいいのに」
「やめられないのっ、気持ち良くてっ、ああっ、ああああっ」
 親指の腹がクリトリスに触れる。マヤはいっそう大きな嬌声をあげ、身体を強く痙攣させる。しかし、マヤの手は快楽をむさぼり続け、アレクの前に痴態をさらす。
「マヤちゃん、実は結構エッチなんだね」
「あっ、ああっ、違うんですっ。普段は、こんなっ、こんなことっ、しませんっ」
「俺はエッチなマヤちゃんも好きだよ。それに、すごくドキドキする」
 マヤのオナニーを観賞しながら、アレクも自分の服を脱ぐ。男性器はもう臨戦状態だ。
 首筋にキスをし、身体を舐めながら乳房まで舌を動かす。マヤの白い素肌に、アレクの唾液が跡を残す。
「マヤちゃんの胸、小さいけど張りがあってぷるぷるして美味しそうだ」
「かじらないでくださいね」
「こんな風に?」
 充血した乳首を前歯で軽くくわえる。
「はあうっ、やらないでって言ったのにぃ」
「そう言われるとやりたくなるの知ってるだろ」
 言いながら、舌や前歯でマヤの胸を弄ぶ。マヤの小さな胸は跳ね除けるような弾力で応える。
 もちろん手も休んでいるわけではなく、尻やわき腹や背筋などの鈍い性感帯をいたぶっている。
「あぅ、ううっ、あっ、あんっ、はぅっ、はんっ……
 下の、エッチなところなんて、触っちゃダメですよ……」
 拒絶の言葉とは裏腹に、うるんだ瞳がそれを要求している。
「うん、ダメだよな、こんなとこ触っちゃ」
 マヤの手を胸のほうに押しのけ、秘裂を指で撫でる。
 ぬるぬるした愛液が指にまとわりつく。
――くちゃっ、くちゃっ
「はあんっ、ひあぅっ、あぁ、ひああっ」
 幻覚の魔術で痛覚を遮断し快感を増幅させ、処女膜を破らない程度に指を挿し込む。
――じゅぷっ
「ひくぅっ」
 マヤの身体が魚のように跳ね、硬いベッドに打ちつけられる。
「平気か?」
 手を止めて、アレクが訊ねると、マヤは自分の胸を触りながら懇願する。
「やめないでっ。アレクさんの指、きもちいいのっ。わたしが自分でするより、ずっとっ、ずっとっ。もっと、もっと触ってくださいっ。お願いしますっ」
「マヤちゃん?」
 予想以上の反応にアレクが戸惑っていると、マヤは目に涙を浮かべ、切なげな声をあげる。
「お願い、早く…… いぢわる、しないで」
 どうやら刺激が強すぎて、羞恥心の回路が焼き切れたようだ。
 希望通りにマヤの中に指を押し込んで力強くかき回してやる。
「はああっ、ああっ、いいっ、いいですっ、もっとっ、もっとっ」
 蜜のあふれた女性器を舌で舐める。
 甘酸っぱい味と匂いがアレクを誘う。操っているはずなのに、まるで操られているかのようだ。
 舐めとっても舐めとっても、愛液は膣の内側からどんどんあふれてくる。
「はふぅっ、アレクさん、アレクさぁん、はうぅんっ」
 舌を膣穴に出し入れする。その回りを、指先で愛液をすり込むように揉みしだく。
 いまや完全に露出したクリトリスを――
「ああああっ」
 まだ挿入しないうちからイッてしまったらしい。
 マヤは両手で小さな乳房に触りながら、放心しきったような表情で、はふぅはふぅとあえいでいる。
「行くよ」
「はい。どうぞ……」
 マヤが自ら進んで、足をカエルのように大きく開く。
 惜しげもなく開け広げられた桃色の秘裂が、ひくひくとアレクを求めて動く。
 スリットにモノを押しつけただけで、熱さと柔らかさに、痺れるような射精感が走る。
 それをこらえて、まだ幼さの残るマヤの身体の中に踏み込む。
 窮屈に締め付けてくる内壁を、溢れる蜜に助けられながら切り開いていく。
 ぷちぷちと、マヤの身体を引き裂いていくような感触。
「んんっ、くうぅっ、はあんっ」
 痛覚は切っているはずだが、それでも身体の奥を引き裂かれる感触に、マヤは喉の奥からうめき声を絞り出す。
 先端が、子宮口に突き刺さる。
「ふああ、アレクさんのが、わたしの、中に…… ひああっ」
 一旦引いて、再び、突く。
 角度を変えて、深さを変えて、マヤがいちばん気持ちいいところを探し出す。
 動かすごとに、膣壁の襞が絡みついてくる。
「ああっ、ああっ、あっ、あああっ……」
 マヤは何度も強く仰け反る。
 白い喉が艶かしくアレクを誘う。
――ちゅっ
 身体を倒して唇を奪う。2度目のディープキスは、はじめよりいっそう甘い。
 マヤの両腕がアレクの背中に回される。
 ささやかな胸や柔い下腹部をこすりつけるように、マヤが懸命に腰を合わせてくる。
――ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ……
 肉を叩きつける音がリズムを刻む。
 互いに快感を求め合うままに、ビートがだんだん加速していく。
「はあっ、はんっ、アレクさん、いいですか? きもちいいですか? はぁっ」
「いいよ。すごく。熱くてきつくてすぐ出しちゃいそうだ」
「はいっ。出して、出しちゃってください。はっ、わたしも、もうっ、ああっ」
 マヤの膣がアレクの精を搾り出すように蠢く。
 もう、限界だ。
「はんっ、わたし、もうっ、もうダメですっ」
「俺もだ。出すぞっ」
 精液がマヤの体内に噴き出していく。
「ふああっ、熱くて、どろどろしたのが、わたしの、なかに……」
 マヤは霞んだ視界にアレクの顔をとらえてかすかに微笑む。
 巫女の少女は心を奪われ純潔を失い、悪い魔法使いのものになった。
 悪い魔法使いはその笑顔に、ほんの少しだけの逡巡の後に優しく笑い返す。



−4−


「さて」
 悪い魔法使いにはお仕事がある。
 アレクはマヤの体内から自分の分身を引き抜くと、赤い破瓜の血と白い精液と半透明の愛液がとろとろと溢れる膣穴に手を当て、呪文の一節を読み上げる。
 ……精子殺し。
 巫女に妊娠などされたら大問題だ。洗脳のことも悪魔との契約も確実にばれる。それでなくてもマヤはまだ若い。まだまだ『女の子』でいさせてあげたい、いや、いてほしい。
「くくくくくっ」
 からかうような笑い声が、背後から聞こえてきた。
「なかなかやることがせこいじゃないか、アレクサンドル」
「ああ、イシュタ、いたの」
 アレクが全く今気づいたとでも言うように返事をすると、イシュタの余裕ありげな姿勢が一気に崩れる。
 腕を振り上げ脚をどんどんと踏み鳴らして大声をあげる。
 なんだ、やっぱりこっちが地じゃん。
「こら、この不調法者っ。魂朽ち果てるまでの盟友になんたる言い草だ。
 貴様等がこっ恥ずかしい会話をしている間、邪魔しちゃいけないと思って余は必死に笑いをこらえていたんだぞっ」
 アレクはその構図を想像した。なにか、とても申し訳ない気がする。
「済まない」
「うむ、わかればよい。
 それより、この娘を借りるぞ」

――パチン

 イシュタが指を鳴らすと、マヤはすっくと立ち上がる。
 言うまでもなく、彼女はまだ裸だ。身につけているのはアレクが脱がそうとも思わなかった白足袋のみ。股からは精液や破瓜の血を垂れ流している。
 しかし、仮面のような無感情な表情や、ブリキの兵隊のようにまっすぐのばされた手足に、そういったことを気にしている気配は全くない。
 どうやら、イシュタはマヤを自動人形(オートマトン)として扱うつもりらしい。
「あんまヘンなことさせないでくれよ」
「ヘンなことというのは、意識のあるまま幼い子供を絞め殺させたり、路地裏で男どもと乱交させたりすることのことかな」
 どこまで冗談かわからない口調でイシュタは嘯く。
「そんなことまでさせられるのか?」
「貴様ならば。余が命じても、この娘は貴様が不愉快に思うようなことはせぬはずだ。もっとも裏道はいくらでもあるのだが。
 とすると、そうだな、こんなところか」
 イシュタはもう一つ指を鳴らした。
 マヤはイシュタの前で跪くと、淡々とイシュタのブーツの紐を解き、靴下も脱がせて、足の甲にキスをする。
「貴様、何をしているかわかるな」
「はい。私は……悪魔の」
「余の名はイシュティアという」
「はい。失礼いたしました、ありがとうございます、イシュティア様。
 私は、イシュティア様のお御足に口付けをいたしました」
 イシュタの言葉に、マヤは馬鹿丁寧な答え方をする。
 口調は『虚ろ』と言うとやや違う。発声は不必要なぐらいにはっきりしている。むしろ一語で表現するなら『無個性』とでも言うべきだ。
「うむ、よい塩梅だ」
 イシュタは自分の指先にナイフを走らせる。
 指先から流れる血は最初は赤かったが、イシュタが擬装を止めると青みを帯びてくる。
「悪魔の血だ。一滴でも体内に受け入れた者は、神に祝福される資格を完全に失う。
 その代償に、余の魔力と知識を与えよう。たとえば、神を欺き巫女の力を振るう法だ。
 アレクサンドル、よいな」
 アレクは頷く。この確認自体、マヤの主たるアレクの立場を尊重するというイシュタのジェスチャーに過ぎないのだろう。
「飲め」
 マヤはなんのためらいもなく、イシュタの指を口に含む。
――こくっ、こくっ
 白い喉が血を嚥下する。
 自動人形にされたマヤは、これはこれでけっこう淫靡だ。
「口を離せ」
「ありがとうございます、イシュティア様」
 マヤは平板な口調で言う。
「こういうのもなかなか面白いものだろう」
 イシュタはアレクの下半身を見て意地悪く言う。
「マヤ、貴様の主人を悦ばせてやれ」
「はい。イシュティア様」
 言ってマヤはアレクの前に跪き、無感情な目でアレクを見上げる。
「アレク…サンドル様。私にアレクサンドル様のおちんちんを舐めさせてください」
 アレクがなにも言葉を返さないでいると、マヤはもう一度、その台詞を繰り返す。
「アレクサンドル様。私にアレクサンドル様のおちんちんを舐めさせてください」
「………………」
「アレクサンドル様。私にアレクサンドル様のおちんちんを舐めさせてください」
 アレクには、放っておいたらマヤがこのまま永遠にこの台詞をリピートするように思えたが、自動人形のマヤはアレクが思っていたよりは賢かったらしい。
「イシュティア様。申し訳ありません。アレクサンドル様のお許しがいただけませんでした」
 そう報告するマヤの耳元に、イシュタが何事か囁く。
 テレパシーで指示できるのに、雰囲気作りに熱心な奴だ。
 マヤが再びアレクの前に跪く。
「御主人様」
 ……いきなりそう来たか。
「私は御主人様の奴隷です。
 どうか御主人様の逞しいおちんちんに御奉仕することをお許しください。
 この卑しい雌奴隷めの口に御主人様の濃い精液をたっぷりと注ぎ込んでください」
 マヤの口から、彼女のイメージに反する単語がどんどん飛び出してくる。
「あ、ああ。いいぞ」
「はい。ありがとうございます、御主人様」
――じゅく……れろれろれろ……
 マヤは右手でアレクのモノの付け根をつかむと、小さな口で一気に半ばまで咥え込んできた。
 すぐに舌がモノにからみついてくる。ざらざらした表面と滑らかな裏側を使い分けながら亀頭からカリから所構わず高速で撫で回す。
 根元に添えられた右手は軸を絶妙な強さでしごき、余った左手は裏筋や睾丸を軟く刺激する。
 アレクがその感覚にちょっと馴れてきたかと思うと、モノを口から放り出し、焦らすように先端を唇で撫で、突つく。そして我慢できないという一線で、また激しく刺激し始める。
 すごい技巧だ。アレクの識る最も性技に長けた女性――自称500歳の魔女にしてもらった時もこれほどではなかった。たぶん、手加減されていたのだろうけれど。
 イシュタが与えた知識や技術はたいしたものだ。
 ……たしかに、知識や、技術は。
 不意に醒めてしまったアレクは、改めて自分のものをしゃぶっているマヤを見下ろした。
 かすかに鼻息を荒げ顔を赤くしているが、肉体が活動状態にある時の当然の反応に過ぎない。乳輪の拡大のような性行為に伴う生理的反応すら不完全だ。
 そして、アレクの気に入らないのは、無感情にアレクの反応を『観察』している眼。
 だから――アレクもマヤの様子を『観察』してしまう。
 無機物のように扱うとは無機物のように扱われることと同義。根こそぎ意識を刈り取ってしまうのは、“恋人”や“お気に入りの奴隷”相手には合わない。
 アレク流の人形化については、ほかの女でじっくり追い求めることにしよう。

――パンパン

 アレクは手を叩く。
 どうでもいい話だが、アレクは親指を鳴らせない。魔術師としては、ちょっと不便だ。
「ふぇ? ぁ……あ……わたし……」
 意識が戻ってくるに従い、マヤの全身がかーっと赤くなってぷるぷると震え出す。
 イシュタが封鎖していたのは感情系だけだから、記憶は継続している。潔癖な倫理観を残しているマヤにはさぞ恥ずかしいだろう。目尻には涙まで浮かんでいる。
「アレクさん、あのっ」
 マヤががばっと頭を上げる。
「痛あっ、いたっ、マヤちゃん、歯が、歯が当たった」
 アレクが急に大声をあげた。ナニがどう痛かったかは敢えて語るまでもあるまい。
「あっ、ご、ごめんなさい。ほんとうにごめんなさいっ」
 マヤは泣きそうな顔をして何度も頭を下げる。
「マヤちゃん、謝っても痛みは引かないからさ」
「あの、わたし、どうしたらいいのか――」
「舐めてよ」
「えっ?」
「気持ちよくしてくれたら、痛くなくなるから」
「あ……、はいっ、頑張ります」
 マヤが両手を握り締める。
 当然持っているはずのフェラチオへの恐怖感や嫌悪感を押し殺して、マヤは歯が当たったところ――モノの裏側のカリのあたりを、懸命に何度も舐める。
――ぴちゃっ、ぴしゃっ、ちゃっ、くちゅっ、ちゅくっ、ちゅっ、ちゅっ、
 舌先と唇での稚拙な愛撫。イシュタから受け継いだはずの技術もどこかへ置き忘れてしまったようだ。
 上目遣いで不安げにアレクの反応を覗う目つきがなんともいえず犬チック。
 こっちの方が、断然マヤには似合っている。
――ちゅっ、ちゅくっ、ちゅっ、ちゅっ
 マヤの表情がだんだんぽーっとしてくる。
 モノの根元に、白い指がそっと添えられる。
「かわいいなぁ」
 アレクはマヤの黒髪を撫でて呟く。
「ちゅぷ…… はい、うれしいです」
「どうやら、痛みは引いたみたい」
「あの、アレクさん、こんなに元気ですけど、もうやめてしまってもいいんですか?」
「でも、こういうの苦手だろ?」
「はい、苦手です、けど――」
 マヤが俯く。
 はあ、なるほど、そういうことか。
「苦手なことを無理にしてもらわなくてもいいかな、と」
 気遣うフリをしていじめてみる。
「え? いいんですか? ホントにホントにいいんですか?」
「なに? やっぱしたいの?」
 マヤはぶんぶんと首を横に振る。
「じゃあ、しょうがないじゃん」
「わ、わたし、こんな淫らなことがしたいわけじゃないんですよっ。
 ただ、アレクさんに少しでもきもちよくなってほしいだけでっ、だからっ――」
 マヤはいきなりアレクのモノを喉の奥まで飲み込んだ。
「ぐうっ、むっ、ぐっ、むぐっ、むうっ、むぅっ……」
 目をつぶって、激しく一途に頭を振る。
 唇、舌、口腔の内壁、喉、およそ歯以外のあらゆる場所がモノに触れ、ぶつかり、こすれる。
 アレクはこみ上げてくる射精感を堪えようとした。
 しかし、マヤが両手で根元を強く扱き始めるとそんな努力も無為になる。
「ちょっと抑えて……」
 そんな台詞をマヤは聞かない、聞いてない。
 先手必勝奇襲猛襲、力任せな必死のアプローチはアレクに対しての最善手だった。
 なりふり構わぬマヤの姿がアレクを興奮させる。
「むんっ、むぐっ、ぐうっ、むっ、んっ、んっ、むぅっ……」
 こんなに辛そうにして。早く終わらせてあげないと。
 思った瞬間にはもう精液が噴き出していた。
――びゅっ、びくっびくっ
 震えるアレクのモノを抱き止めるようにマヤの口が包む。
 マヤは顔をしかめながらも、口の中に溢れる精液を一生懸命飲み込もうとする。
 それどころか、意識してかしないでか、尿道に残った分まで吸い出して行く。
「ふぁっ、あっ、ううっ、なんだか、すごく、にがい、ですね……
 でも、アレクさんのだったら、好きに、なれそうです」
 健気に微笑むマヤに、アレクは水差しの水をコップに注いで渡してやった。




 
 


 

 

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