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  習作

01: 名前:unknown投稿日:2007/04/07(土) 15:25
小説を投稿する自信が無い人はここで練習できます

02: 名前:みゃふ投稿日:2007/04/20(金) 01:06
とりあえずテスト

test

03: 名前:自慰愛ジョー投稿日:2007/09/12(水) 22:28
彼は花粉症による重度のストレスで精神に異常をきたし、療養のため北海道の病院に入院します。

そこで彼は病院の看護師と恋に落ちたのです。

退院後彼は婚約指輪を買うために、一生懸命働きます。

そしてお金も貯まり、念願の婚約指輪を購入したまさにその時、最愛の人は交通事故で永遠に失われます。

彼女の訃報を知った彼は怒り狂い、事故を起こしたドライバーをとても言葉に出来ないような残忍な方法で殺害してしまいます。

警察に逮捕された彼は精神鑑定の結果、責任能力無しと判断されました。

鉄格子のついた病室で一生をすごす事になった彼の脳に、ある日神の声が響きます。

「殺せ!もっと人間を殺せ!世界を浄化し、神の国の礎と成せ」と。

天啓を受けた彼は感激の涙を流し、壁に向かって平伏しながら何度も何度も床にキスをしました。

(終わり)

04: 名前:自慰愛ジョー投稿日:2007/09/13(木) 21:41
ふざけ過ぎでした、すいません。
僕の好きなシチュエーションは、スーパーパワーで有無も言わさず強引にエロい事をする、みたいな感じのです。
そんな訳で、とりあえずMCシーンを練習してみます。

「恥美さん、あなた普段は性行為に何の関心も無いようにふるまっていますが、本性はチ○ポ大好きな変態女だったんですねぇ」

目黒は能面のように張り付いた笑顔で、ゆっくり恥美に近付いてゆく。

「目黒さん‥‥こ‥これは、その‥‥ち‥違うんです」

恥美は言葉では否定しているが、その狼狽は隠せない。

「嘘はいけませんよ恥美さん、人間本心に従うのが一番幸せなんです、貴女は本当は淫乱でチ○ポ大好き‥‥チ○ポ大好き‥‥チ○ポ大好き‥‥ドォォォォォォォォォォォォン!!!」

目黒の気合いと共に指先から脳に放たれた洗脳波が、恥美の理性を司る部分をマヒさせ、欲望を司る部分を活性化させた。

「あふぅぅぅん‥‥チ○ポ‥チ○ポちょうだい‥‥おチ○ポォォォ」

恥美は即座に目を淫猥に蕩けさせ、目黒に肉棒をせがむ、その表情にはもはや欲望しか浮かんでいない。

「こんな物で良ければいくらでもどうぞ  ホッホッホ」

そう言いながら目黒は黒くて醜悪な一物を取り出す。

「はあぁ‥‥おチ○ポォ‥いただきまぁ〜す、  チュ‥クチュ‥‥レロ」

恥美はエサを与えられた犬のように嬉しそうな顔で、グロテスクな巨魂を何のためらいも無く口にふくんだ

「良かったですねぇ恥美さん、これからは自分の本心のままに幸せに生きてください、オーーホッホッホッホッホッホ」

夢中で自分の物をしゃぶる恥美を見ながら、目黒は高笑いをするのであった。  

05: 名前:自慰愛ジョー投稿日:2007/09/15(土) 23:01
何だか股間が疼くので、今度は女性視点に挑戦です。

私があるカフェテリアでお茶を飲んでいると、向かいの席に座っている男から、とても嫌な視線を感じました。

「何あの男、こっちの事ジロジロ見て、気味が悪いわ」

男のあの視線が何だか纏わりつくようで、私は気分が悪くなりました。

「あれ?何、何なの、凄く疼く、どうしてこんな‥‥」

しばらくして、彼に見られている部位が、疼いて疼いてしかたなくなって来ました。

「彼に見られてる胸が、気持ちいい‥何で‥‥はぁ‥はぁ‥」

彼の視線から送られる快楽が、段々とそして急速に高まっていくのを私は歓喜の思いで受け入れます。

「はぁぁぁ、もうダメ!我慢出来ない!あっ‥‥ああん‥ふぅ‥‥」

私はとうとう我慢出来なくなり、自分の胸を弄ってしまいます。

「ああ‥‥視線が段々下へ‥いいわ‥‥おねがい見て‥私のお○んこ見てぇぇぇぇ〜〜」
「はぁうんぅ‥凄い‥凄いわ!気持ちいいのぉ、‥‥彼とヤッた時もこんなに気持ちいい事無かったのぉぉぉぉぉ」

私は今までに味わった事の無い、最高の快楽に脳が蕩ける思いでした。

「あ゛っ‥い゛っ‥‥イク‥イキそうなのぉ‥‥イクッイクッ‥イ‥‥え?ウソ‥」

もう少しで達する、まさにその時突然快楽が止んでしまいました。

「彼が‥彼が居ない!どこぉ‥こんなのヤダぁぁぁ、私狂っちゃうよぉぉぉ、うぐっえぐっ‥うえ゛え゛ぇぇぇ〜〜」

私は必死に股間を弄りながら、泣き出してしまいました。

「あ‥貴方‥いつからそこに‥‥お、お願いします!何でも言う事聞くから、貴方のタメだったら何でもするから!だから‥だからぁ」

私の下品なおねだりに、彼は応えてくれました。
これが、今私がお仕えしているご主人様との最初の出会いです。

06: 名前:催 投稿日:2008/07/17(木) 21:28
                    「忌み名」
              
                    プロローグ

 皆さん知っていますか?今自分たちが名乗っている名前は本当の名前じゃ
ないことを...そう、真の名を知られるのは死にも等しいんですよ。
 だってその名を呼んだ者にたいして一生従順になってしまうんですからね。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
俺は恵恵(めぐみけい)通称メグ 17歳 これでも♂『おとこ』だ
 俺は昔からこの本名のせいでイジメまでいかないまでも本人が望まない
イジリなど受けてきた、でもそんな日々も今日で終わりだ!
 昨日公園のフリマで怪しい老人から買ったメガネに説明書がついていて
半信半疑ながら実験したのさ。従姉弟が一人俺のチンボの事しか考えられなく
なっちまったが今日からすべての美女は性の捌け口に男とブスとデブは
金品の確保に使ってやるんで気にしないさ。

07: 名前:07投稿日:2009/03/25(水) 18:24
「お待ちして居りました、西條アリカ様」
そう言って目の前のメイド服を着た女性はぺこりと一礼した。
その所作には振る舞いに淀みがなくて、さも当たり前のようにしている。
「・・・・あ、はい」
けれど一般人である私は戸惑うコトで精一杯だった。
ここまでで覚悟を決めてきたつもりなのに、彼女を実際に目の当たりにして、加えてその後ろに聳え立つ馬鹿でかい建造物を目の当たりにして、私の平常心は乱されまくっていた。
私には理解出来ない、なぜ人は不必要なコトをするのだろうか。
そう、それは目の前の人が通るにはあまりにも大きな門のコトであり。それは例え車であってさえ通るにはあまりに無駄の大きな門である。
それはダンプカーが擦れ違えるほどの幅があるだろうと予測出来た。
その門を、雫と名乗ったメイドの後ろについて通った。
なぜだろうか?
それは何に対しての疑問だろう、と混乱した頭で考える。メイドさんの態度?門の巨大さ?それとも、なぜそんな豪邸に私なんていう一市民で小市民が訪問しているのか?

何度も繰り返された三番目の疑問を考える。
けれどやっぱりちゃんとした答えは返ってこない。それでも私はここに来なければならなかった。
門をくぐると視界一面を木々が覆い、まるで森のよう広がっていた。
思わず眩暈を覚えた。
「アリカ様、どうかされましたか?」
すかさず私を気遣うメイドさん。けれど今はそれすらも眩暈を増長する要因にしか成り得なかった。
「お構いなく、石に躓いただけですから。」
心配されるのも煩わしくて、というのはイメージが悪いが心の安寧のために嘘を吐いた。メイドさんははぁ、と弱く納得してまた私の前を歩いていった。

もはや私には私に出来るただもう一つのコトをするしかない。
それは、ことの発端となった今朝の出来事を思い出して、彼らに対する恨み言を心の中で呟くこと。
「父さん、母さん、恨みます・・・」
ついでに口に出して、でもメイドさんには聞こえないように小さな小さな声で。


※後書きのようなもの。
現段階ではさっぱり意味不明な読み物?です。えちぃのは苦手です、そのうち練習してみます。
・・・・つづく?

08: 名前:投稿日:2009/05/03(日) 18:53
「淫フルエンザ」
それは突然に訪れた。あれは暑い夜だった俺はコンビにで買った
酒をもって帰宅している途中だった。普段は明るい道を選ぶのだが
その日に限って近道?の公園を通ってしまった。
っていうタイトルで一つ作品作るかな

09: 名前:のい投稿日:2009/05/04(月) 03:42
よろぴく

10: 名前:催菌投稿日:2009/05/29(金) 18:00
〜淫菌〜プロローグに付きエロ無し
よっしゃー2連休だ今週も秘湯巡り決定
そんなこんなで俺は北海道内のとある山中にいる
 ネットサーフィンで見つけた秘湯がこの町にあるとの事で住人に聞いたところ
そこの雌○○岳の頂上に湧いていると言う事で頂上をめざしている最中なんだ
 はぁはぁ頂上に着いたのは夕刻に差し掛かるところ
あたりを見渡すとむっあれは温泉らしき湯気発見体力は限界だが
温泉に入りに来たんだと湯気にダッシュ
温泉だ!!ん?先客か顎に白い髭を生やしたじいさんが温泉に浸かっている
 (じじいと混浴かどうせなら二十歳前後の若い娘とハメハメしながら入浴してぇ)
「ほぅじじいとは入りたくないか」
(!!!!俺口に出してないよな!)
 「ほっほっほ考えている事を読むなんて朝飯まえじゃ」
「じいさんあんた何者だ?」
「じじいと入浴もできん奴何てしらんな」
(ん〜十中八九仙人か神様だよな心読めるらしいし妖怪サトリも怪しいな)
「誰が妖怪だワシはこの山に住む仙人じゃ馬鹿もん」
「いい湯だ」
「無視するなそして体を洗ってからはいれ」
「堅い事言うなじいさんここまで入浴しに来る奴なんてそんなにいないでしょ」
「面白い奴じゃなお前さんワシが人間じゃないと解ってその口の利き方
数百年ぶりに来た来訪者、よしお前にこれを授けよう」
「何も無いが?じいさんただのボケ老人じゃないのか?」
「誰がボケ老人じゃ物分りが悪い奴じゃお前さんワシが浸かったお湯に
浸かっているな?ワシはインキンなんじゃ」
「ブッ∴」
「慌てるなばか者人間のインキンと一緒にするな淫菌じゃ淫乱の淫
に細菌兵器の菌でイ・ン・キ・ンわかったか」
「・・・ん〜ようするに痒くならないのか」
「ξξやれやれ最初に言っていた温泉でハメハメ可能になるんじゃぞ」
「( ゜∀゜)・∵ブハッ!!マジで神様いや仙人様どうしたらいいんですか」
「調子いい奴だなまったく今お前はワシの菌が姦染したつまりそういうことだ」
「いやわかんないって いえ解りませんよ仙人様」
「今やお前の細胞全てが菌に冒されているよって匂いだけでも軽く発情
お前の汗、唾で雌犬お前の精子で奴隷化完了と言ったところか」
「ただお前さんの菌はお前が犯した雌が他の男とヤッテも染つらないが
温泉やプールやスパなどお前さんと同時に水中に浸かるとジュニアから
菌が伝染してお前以外も淫菌を使えるようになるから気をつけろ」
「ありがとう仙人様σ(・д・)下山するよ」
「お〜いもう夜だぞってきいてないぞまったく」ホッホッホと笑うジジイに
貰った淫菌を試したくて行きは5時間帰りは1時間で下山して素泊まり宿を
探した勿論女子大生や若女将がいる宿に
つづく?

11: 名前:やかん投稿日:2009/11/11(水) 13:13
なんか突然変な道具を思いつきました。既出だったらすいません。
使い方、を外国テレフォンショッピング風に。
(作者に対する嘲)笑いしか狙ってません。
衝動に任せて、眠たい頭のまま二時間くらいで書きました。
あまりに出来がアレなので、ここに貼らせてもらいます。すいません。


―――――

ドゥドゥドゥードゥッドゥードゥドゥッドゥドゥードゥドゥー!

(OP流れる。カメラの前、一人の外人女性が居間のソファに座ってテレビを見ている。金髪にTシャツ、デニムの短パンという格好で、胸がTシャツを押し上げているためにヘソが見えている。そこに、多少頼りなさそうな眼鏡をかけた外人男が手に変な機械を持って現れる)

「ハイ、ジェーン。今日は君とみんなに紹介したい物があるんだ!」

「まあ、何なのマイケル、その手に持っているものは? トゲトゲのヘルメットに赤と青のボタンのついたコントローラが繋がっているように見えるけど」

「よくぞ気がついたねHAHAHA。そして形もはっきり言ってくれて、説明の手間が省けて大助かりだぜ。そう、こいつが今回の商品、その名も『信用できる嘘発見機(Credible Lie Maker)』さ!」

「まあ、なんてこと! じゃあ、それを使ったら私が実はボブと浮気をしてることがバレてしまうのかしら?」

「オイオイ、そいつは初耳だぜマイハニー。まだまだこれからって時にそんなビッグなニュースをブチかまさないでくれよ」

「だって、ボブの方がディックがビッグだったんですもの」

「参っちまうぜマイハニー。頼むからそんなショッキングなニュースを付け加えないでくれよ。思わずこいつを君に叩き付けたくなっちまったじゃないか」

「ごめんなさいダーリン。でも、実は全部嘘なの、許してね。愛してるわ」

「Oh! こいつは一本取られたね。さて、今はまんまと小悪魔ジェーンの嘘に騙されちまったウブな俺ってわけだが、コイツがあればもう大丈夫! 恋人の罪な嘘に怯える必要もないわけさ!」

「まあ、すごいわ!」(ジェーン、若干目を逸らしながら)

「HAHAHA。じゃあ早速使い方を説明しよう! と言っても実に簡単、このヘルメットを相手の頭にかぶせて、自分はこのコントローラを握るだけさ!」

「まあ、なんてシンプルなのマイケル! これならお料理中でも安心ね!」

「若干ズレたコメントありがとう、ジェーン。愛してるぜ」(マイケル、ジェーンの頭にヘルメットをかぶせる)「さあ、これで準備は完了! 後は質問をすればいいだけさ! もし相手が嘘をついているならブザーが鳴るんだぜ! じゃあジェーン、これから俺の質問に全て『ノー』と答えてくれよ」

「わかったわ、愛しいマイケル。『ノー』と言うだけでいいのね?」

「そうさ! おっと、『ノー』が言えないジャ○プなら『イエス』でも構わないぜHAHAHA! では第一問、『ジェーンは浮気などしていない?』」

「ノーよ」

「……」

「……」

「……おかしいな?」

「……あらマイケル、あなたスイッチを入れ忘れているんじゃないの? それじゃあどれだけ私が『ノー』と言っても無駄よ」

「そうか、そいつは盲点だったぜ!」(マイケル、額の汗を拭いながらヘルメットをいじくって)「よし、じゃあもう一回だ! 『ジェーンは浮気などしていない?』」

「ノーよ」

「…………」

「…………」

「…………ドンマイドンマイ、気にしない! たまにはこういう時だってあるさ! マシンがイカレてるみたいだぜ!」

「かわいいマイケル、信じて! 私浮気なんてしてないわ!」

 ブーーッ!

「………………」

「………………」

「………………オーケー、わかった。こいつはマジでイカレてるな」(マイケル、目を血走らせながら)

「嫌だわマイケル、私のことをこんなもので嫌いにならないで頂戴」

「わかってるさマイハニー。そう! こんな場合にも大丈夫なように、こいつにはすごい機能がついているんだ!」

「まあ、それは何なのマイケル?」

「このコントローラについている赤いボタンを押せば、ブザーが鳴るようになってるのさ!」

「すごいわ! でも、それじゃ嘘かどうかわからなくならないかしら?」

「心配ご無用だぜジェーン! そこがこいつの他とは違うところさ! とりあえず見ててくれよ。じゃあ行くぜ、『ジェーンは浮気などしていない?』」

「ノーよ」

 ……(マイケル、ボタンを押す)ブーーッ!

「ほら、ブザーが鳴っただろう?」

「本当ね、マイケル! これで私のことを信じてくれるわね!」

「その通りだよマイハニー。じゃあ第二問だ。『マイケルとボブでは、マイケルの方がペニスが気持ちいい?』」

「ノーね」

 ……(マイケル、叩き付けるようにボタンを押す)ブーーッ!

「Oh、そいつはよかった! 実は俺も少し気にしてるところだったんだぜ!」

「安心して大事なマイケル、あなたのペニスは世界一よ! だってボブとシた時には全然気持ちよくならなかったもの!」

 ブーーッ!

「……………………」

「……………………」

「……あの黒豚が! ちょっとくらい馬並みのブツを持ってるからって調子乗ってんじゃねぇ!」(マイケル、赤く震えながら)

「やだわマイケル、テレビの前での悪口は止めて頂戴。それに、その装置やっぱりどこか変よ」

「Oh、ソーリー、マイハニー。ところでこの青いボタンは何だと思うかい?」

「……起爆スイッチかしら?」

「そーゆー天然な所も大好きだぜジェーン。それにその通りだとしたら、今頃君の頭は吹っ飛んでるぜHAHAHA。実はこいつは、鳴るはずのブザーを鳴らなく出来るんだぜ!」

「すごいわダーリン! もう嘘発見機のレベルを超えてるわ!」

「そうさ、マイハニー。じゃあ、もう一回行くぜ! 今度は『イエス』で答えてくれよ!『マイケルのペニスは世界一気持ちいい?』」

「イエスよ!」

 ブッ(マイケル、素早くボタンを押す)……。

「ほら、鳴らなかっただろう?」

「本当ね、マイケル! すごいわ!」

「だろう? そしてこいつの本当にすごいところは、押したボタン通りに相手の心を変えることができるということなんだぜ!」

「悪いんだけど、よくわからないわマイケル。もっとわかりやすく話して頂戴」

「悪いのは君の頭だと思うけど、そんなところもチャーミングだぜマイハニー! じゃあ、わかりやすいように試してみよう! ジェーン、今から全ての質問に『ノー』と答えてくれよ?」

「わかったわ、マイケル!」

12: 名前:やかん投稿日:2009/11/11(水) 13:18
「『ジェーンは浮気などしていない』」
「ノーよ」
 ブーーッ!
「『マイケルとボブでは、マイケルのペニスの方が気持ちいい?』」
「ノーだわ」
 ブーーッ!
「それじゃあ、『マイケルのペニスは世界一気持ちいい?』」
「ノーね」
 ブーーッ!
「ほら、すごいだろう? 俺は今は全然ボタンを押してないんだ! しかも本当にすごいのは、今の結果はもうジェーンの本心になってるってことさ!」
「その通りよマイケル、今のは全て私の思っていることだわ!」
「だろう? じゃあ次だ、『ジェーンはボブを愛している?』」
「ノーに決まっているじゃない!」
 ブッ(マイケル、鬼の形相で素早くボタンを押す)………。
「ほら、言った通りでしょう?」
「本当かな? じゃあもう一回行くぜ! 『ジェーンはボブを愛している?』」
「もちろんノーよ!」
 ……。
「ほら、これでもうジェーンの中からあのクソ黒豚に対する愛はなくなっちまったってわけさ!」
「違うわマイケル、私が愛しているのは貴方だけよ」
 ブッ(マイケル、反射的にボタンを押す)……。
「ほら、こうやって使うのさ! これでジェーンのハートは俺が独り占めさ! 多少マイハニーのビッチっぷりが明らかになって少々ヘコんでるけどなHAHAHA!」(マイケル、何か吹っ切れたような目をして)「さて、いよいよこのマシンの本領発揮だ!『ジェーンは服を脱ぎたくてたまらない?』」
「ノーに決まってるじゃない! 大体あなたテレビの前で……」
(マイケル、ボタンを押す)ブーーッ!
「……って言おうと思ったけど、やっぱりあなたに嘘はつけないわね。ええ、その通りよ。私ってば今、吹く脱ぎたくてたまらないの!」
(ジェーン、見る間に服を脱いでいく。Tシャツを上にずり上げると、けしからんおっぱいがポロリとこぼれる。デニムとパンティーを一緒にずり下げると、多少濃いめの金色をした陰毛が現れた。ジェーンは服を脱ぎ終わると胸と股間を手で隠す)
「……ねえマイケル、確かに私は自分で服を脱いだわ。でもこの格好は少し恥ずかしすぎるわよ」
(マイケル、ボタンを押す)ブーーッ!
「おいおい、嘘はよしてくれよジェーン。それだったら少しは恥ずかしがればいいじゃないか」
「あら、バレちゃった? 実は全然恥ずかしくなんかないのよね」
「それに、見られた方が気持ちいいんだろ?」
「そんなことはさすがに……」
(マイケル、ボタンを略)ブーーッ!
「……なんで、嘘だってわかっちゃうのかしら? すごいわマイケル、まるで超能力者ね!」
(そう言いながら見る間にジェーンの頬は上気してくる。ピンク色の乳首はぷっくりと充血し、股間からは透明な液体が股を伝って床へと溜まる)
「全てはこのCLMのおかげさ! 俺という男を差し置いてあちこち浮気しまくっていたビッチも、いまじゃテレビの前で素っ裸になる露出狂ってわけだ!」
「酷いわマイケル、そんな言い方しなくてもいいじゃない! それに私は別に露出狂なんかじゃないわよ!」
(マイケ略)ブーーッ!
「確かに嘘だわ! だって私露出狂なんだもの!」
(ジェーン、カメラの前で身体を扇情的にくねらせる)
「Oh! こいつはなんともダイナマイトなボディだぜ!」
「そうでしょ! スタイルには自信があるのよ。ほら、もっと私を見て!」
(ジェーン、がに股になって自分の秘所を指で押し開く)
「ほら、中も見て!」
「ワーオ、まさに『くぱぁ』って擬音が聞こえてきそうな姿だぜ! ただし遊んでるせいか多少黒ずんでいるところがマイナスポイントだけどな!」
「酷いわマイケル、そんなことテレビの前で言わなくたっていいじゃない!」
「なんでだい? 君はマゾだからなじられるのが大好きじゃないか! しかもオンエアとなれば尚更だろう?」
「そんなことないわよ! 私、別にマゾなんかじゃないわよ!」
(略)ブーーッ!
「ああ、嘘、嘘よ! お願いマイケル、もっと私をなじって! いじめて!」
「ああ、いいぜ! ほら、叩きやすいようにケツ出しな!」
(マイケル、ジェーンの尻を思いっきり何度も叩く。パンパンと小気味よい音が響く)
「ああ、ああんっ! 素敵よ、マイケル! もっと叩いて頂戴!」
「全く、テレビの前だってのに、叩かれて気持ちよくなってるのか? 本当にジェーンは変態だな」
「そうよ、私変態なの! テレビの前でお尻叩かれて感じちゃう淫乱なのっ!」
「HAHAHA! こいつは傑作だぜ! じゃあ、そろそろ入れてやるよ! ジェーン、そのままこっちにケツを向けな」
(マイケル、ズボンとパンツを脱ぐ。既に勃起している、何とも微妙なサイズのペニスが現れる。マイケル、それをジェーンの中にいきなり突っ込む)
「うあんっ!」
「おっと、いきなりでびっくりしたか? でも大丈夫、ここはぐちょぐちょに濡れてるぜ! オラオラオラ!」
「ああっ! なんて激しい動きなの! でもそれが気持ちいいわ! お願い、もっと乱暴にして!」
「わかってるぜ! ほら、スピードアップだ!」
(マイケル、腰のシェイクスピードを上げる。結合部分からぐちょぐちょという泡立った音が聞こえてくる)
「ああマイケル、最高よ!」
「そうだろう? 君はもう俺のペニスなしでは居られないのさ!」
「ああ、その通りよマイケル! もっと、もっと突いて頂戴!」
「じゃあ、突いて欲しかったら俺の奴隷になると誓うんだ!」
「ああ、許して! それだけは嫌なの! 私はあなたの上に立っていたいのよ!」
 (略)ブーーッ!
「ああ、嘘をついてごめんなさい! お願い、どうか私をあなたの奴隷にして!」
「まかせとけ! 一生俺の奴隷として飼ってやるよ! ありがたく思いな!」
「ありがとう、マイケル! 愛してるわ!」
「おっと、俺のことは今度からマスターと呼べ! そして敬語も付けろ!」
「わかりましたマスター! こ、これでいいでしょうか! ああ、もっと突いてください!」
「ああ、いい具合だぜジェーン! ほら、じゃあ自分から奴隷宣言をしてみろ!」
「わかりました! 私、ジェーンは、マイケル様に奴隷として飼ってもらうことになりましたっ! 幸せですっ! あん、ああっ! ペニス最高!」
「くっ、本当に幸せそうな顔してやがるぜ! ほら、中に出してやる! ありがたく受け取れっ! ぐおおおっ!」
(マイケル、最後に大きく突いてジェーンの中に射精する)
「あああっ、熱いですっ! マスターの精液で、子宮が火傷しちゃいますっ! ああ、イク、イクぅっ!」
(ジェーン、最後に大きく痙攣してから失神する。マイケルがペニスを抜くと、ヴァギナから白濁液が垂れる)
「ふう、気持ちよかったぜ! テレビの前のみんなも、これ一台さえあれば今の俺と同じことができるのさ!」(下にでた電話番号を指さして)「欲しいと思うナイスガイは、今すぐココにTELだぜ! じゃあな!」
ドゥドゥドゥードゥッドゥードゥドゥッドゥドゥードゥドゥー!
(ED流れて、終わり)

―――――

以上です。
……責められる前に謝るッ!(ォィ)
板汚しちってすいません。
無意味に長くてすいません。
つまんなくてすいません。
アホな内容ですいません。
もうしませんすいません。

13: 名前:祖師鱈葉臥丹投稿日:2010/02/10(水) 06:05
そしたらばがに、と読みます。
好きな小説はドグラマグラです。

メール使うと、パソコンの習慣変えなくちゃいけないので、ここに残します。
煮るなり焼くなり好きにどうぞ。

※この短編は、かなり精神が猟奇的なまでにアレなので、後悔先に立たず。危険を感じたら回れ右〜。イカレが移るマス。
 ついでに言いますが、荒らしではありません。ジャンルは「狂気」、傾向は洗脳と催眠を含んだ誤認って感じ。つまりカオス。

ヱヲブリゾカンパニー所属
「谷ヶ崎山スポーツジム」より、

私、ミシマミサキ。どこにでもいる○校生です。
今日はここのジムに私が入会する日。
家からは少し遠いけれど、常連でもある部活の先輩に連れそってもらいました。
やばっ、私、緊張してドキドキしてる。
「――ふふっ。体が強張っているぞ? マミは、もう○校生だろう? まさか、親抜きで面接をしたことがないわけないよな?」
このかっこいい女の人が、水泳部のエース。キガネナオ先輩。
私を落ちつかせるために、肩に手を置いて優しく微笑んでくれたけど、私は緊張が重なって声が裏返っちゃった。
「だ、だいじょびです……」
もう! これからジムに入るっていうのに、もう心臓がバクンバクンいってるよ……。
よくこんなで知らない人と一緒にスポーツをやろうなんて考えたなぁ……。
「大丈夫だよ、ミサ。キミは部活でもいい成績を残しているから、体の元ができてる。ここのカリキュラムにもきっとすぐなじめるよ」
「は、はい」
あーあ、先輩はいいなぁ……。運動ができるだけじゃなくて、勉強も万能だし、心遣いもまるで王子様みたい。
あの短く刈ってある黒髪も、伸ばしたらもっと素敵になるに違いないよ。
私たちと同じプールで泳いでいるのに、肌も数段きめが細かいし。
基礎体力を付けるための走りこみのときだって、小麦色に焼けた肌がいつもと違って新鮮なくらい。
スタイルもスレンダーなのに、この間着替えの時に凄く着やせしてるんだって思い知らされて……。
――それに比べ、あたしなんか……。
「だからサキは、――ってミシマ? ちゃんと聞いてるか?」

――私がジムに入っても、そんなふうに落ち込んでいるのに気づいているのかいないのか、ナオ先輩はすでにエレベーターに乗っていた。
私も急いでそれに続いて、”受付”と書かれた最上階のボタンを押す。先輩は私が乗ってから、私とは違う階のボタンを押した。
ボタンの不自然さに押してから気づいたのは、”受付”のボタンが一階から三十三階まで続く一番上についていたからだ。
「センパイ、このジムって、どうして上の階に受付があるんですか?」
先輩は、ゆとりのあるエレベーターの中へ視線を漂わせながら説明してくれた。
「ああ、それはね。まず、プールやバスケットボール場などの構造上特殊なフロアを設置する際に、
経費効率が良くなるようにした結果、一番リスクや必要性の少ない受付が最上階にいったらしい」
私は、先輩の視線を追うようにして会話を進める。
「でも、登ったり降りたり、大変じゃないですか?」
「それと、盗難防止などのセキュリティの充実にも、一番遠い受付が一躍買っているらしい。
――例えば、そうだな。エレベーター内に監視カメラのほかに、サーモグラフィーみたいなのを付けて荷物をしらべたり、とかね」
「ふーん」
なんだかよく分からないけれど、たかがスポーツジムに下着ドロ以外でなにか凄いのって出るのかな?
私は適当に相槌を打ったけれど、ナオ先輩の話はまだ続いているようだった。
なんだか、似たようでしかも小難しそうだったので、私もナオ先輩に倣い、適当にそこらへんに視線を漂わせてみた。

「――――んん?」

何だろう。エレベーターに貼ってある広告かな? ――違う。
何ていうんだっけ。液晶でできてて、画面が何秒かで変わる、デ、デデ、デジタル掲、ビバ、ば、バ……ン。
「――あ、あれ?」

ちょっと目にとまった掲示板を見てたら、――みてたら?
?? えーと、なに…が書いてあったんだっけ。もうちょっと凝らしてみてみよう。

ー酢ースすSu、に3の肉、そうだここのでにバイテルキュータシΣの3乗{ジューシィー!!!!!!!}

くろろろろろろろろろろろろろろろkる黒? それともマか? っカ?

岩スタラリfう「そんなももんがんがらtがsf」@あんかー。。。。。 

あみ、もへどるばゅごしじ…石の波状攻防たたき和兄なんて兄ににんごりんばどどどどどどどどどどおおdっどどどどどどどd……。

――――。
なーんだ。ただのスブタスヌプシラッシュの息子のCMか。よく三輪車でド前ブッチャぎってるじゃない。見て損した。
まったく、デジタルな掲示板に乗せてるからって特別面白いものじゃないってことよね。やんなっちゃう。
「どうしたマキ。このエレベーターは防犯のために、縦だけじゃなく横にも奥にも移動していくから、まだ数分かかるが……。トイレならおりようか?」
「ああ、大したことじゃないんです。あれ、見て下さいよ。ドアの上にあるあのデジタル掲示板」
「? あれが、どうかしたか? よくあるスポーツドリンクの宣伝じゃないか」
「ええ、電車でもよく見かけますよね、あのビーヌが改jyuドレヌチョのCM」

ミシマが言った言葉に、私はひどく憤慨を覚えた。
そして、こうも思った。
(――震える大納言横長の真の姿。それはまさに、アパトフの契り)
そうやって、私は鍵盤のごとく優しき羽毛の調べになげうった。そして雷の涙を炸裂装甲に充填させたのであった。
(そう、すべてはタコ上げの手裏剣かく如し――――)

私との他愛のない話の最中、ナオ先輩は何処となくうつろな目になったかと思うと、いきなり服を脱ぎ始めたの!!
さらに、まるでバイブであそこをえぐり続ける売女のようなあさましい動きで腰を回し始めたの!
そう、私にはわかる。これは先輩からの激励の言葉。
これからの私を励ましてくれる、紳士的な先輩のありがたい助言なの!!

「ア゛ラ゛ールーラ゛ラ゛ー♪ 計量ラスカルカセイジン♪ デュルルルルロロゥ!」
先輩はまず、脱いだばかりの水色のショーツをお面みたいにかぶったわ。
「センセイ! お花と! ゴリリリィラと! 雲梯は! やっと国境を越えて、
光と明りのナツメ畑にふぉこらすいっく! 蛇のラードをヒッアウェイ! フゥ♪
ヒッアウェイ! フゥ♪ そぁれーでもーぉ旅は止めてしまえェー♪」

そしてクロッチの部分をビッチャビチャに唾で滴らせながら、身に着けていたTシャツを無理やりパンツみたいに履き始めたわ!
もう、先輩ったら! 袖口がびりびりじゃない! マンコも首元の穴から丸見えだし何て画期的なの!!
「――あぁ・・・OKェェイ・・・。Yeah・・・。何、てっ、たっ、て、歯磨きモ、ナ、コぉぉぉ…。
――では、私のターン! ドロー! 私は『モケユケ式パンダの黒』をコサイン七次元砲で……。
フォオオオオオオオオオオオオオ!!! ビッグべーーーーーーン★」

――ブッシャアア……アア、チョ…ロロ…ジョオオオオオオオオ――……。

先輩は、タンクトップつきのデニムパンツ(まごうこと無き腿丸出し)を頭の上に、
肩ひもを股間に食い込ませて、さらに股にかぶせるようにブラを履いたあたりで、力尽きて倒れたわ・・・。
センパイ、とっても怖かった……。
――でも、先輩は先輩のやり方で激励の言葉を贈ってくれたのよ……!
「ありがとう先輩! 私、ここのジムで頑張ってみるから!」


嗚呼、書いてしまった。そして載せてしまった。
でも反省はしないww
寿命が尽きるまで頑張ればいいだけなので、一般人は楽ですが、
逆に、狂おしいまでの煩悩をこういう場所で発散することの方が、ずっと難しいんですね。
書いてて顔から火が出るかと思いましたwww

ちなみに、これは続きがあります。
一週間して消えてないようでしたら、また載せます。
狂文、失文、失礼しました。

14: 名前:祖師鱈葉臥丹投稿日:2010/02/17(水) 00:45
ふーらーいーんーぐー。

そしたらばがに、と読みます。今晩は。
全く別の短編を書きます。
明日は明日の風が吹きます。きちんとかくので、大丈夫。

文が崩壊しています。常人は踏み入るべからず。

「ジャッカルマン博士の独り言」

たとえば、たとえばここにリンゴがあったとするよ?
そのリンゴはとても赤くて、中身もずっしりと入っているんだ。
そしてなにより、とても瑞々しくて甘い。
まるで、リンゴを説明するためのお手本のような、そんなリンゴだ。

――さて、それはどこまで本当だろうか?

ここに「ある」ものを疑っていたら切りがない、
だから人は適当に思い込んでおくけれど、それって本当にほんとうかな?

――キミは、「モノがここにある」ってどうやって他人に証明できるんだい?

「知らない」ことはそれだけで{恐怖}になる。
{恐怖}を払しょくするために、人はあらゆる手段を尽くす。真面目に働いてみたり、友を作ったり。
そういうのが本来の人生のあり方なんだろう。そうやれば満足に死ねるらしいし。
その安心が「ある」かどうかは分からない。ただ、落ちつくから。ただ、安全だから。
だから、なにもしらなくて、なにも分からなくても構わない。そういう感情が僕らの心の底には揺らめいている。

だったら、だよ?
――だったら{恐怖}を極めた時、人は何処に辿り着くんだろう。
僕がヱヲブリゾカンパニーを設立したのは、それだけの理由だった。
それは、いつの間にか大きな組織となり、そしてそこに住む人々は皆狂気に奔リ続ける。
そう、ここでは正義も大義も秩序も、全ては頭の中だけの楽園。

ああ話を変えようか。僕の住む「次元」の話だけれどさ、世界ってホントあいまいなんだ。
ちょっと自我を崩して深層意識をつなげてやれば、簡単に異次元にも干渉することができる。
そう、目の前の緑のスクリーンに貼ってあるこの文章をさ、呼んでいる君たちにも・・・・・・。
何? メタネタはダサいしやめろ?
わかったわかった、もちろんこれ以上は自重するよ。
僕たちの存在が希薄になることは、この次元でのヱヲブリゾの活動を妨げるからね。

でもそもそも、頑張って逃れられる感情じゃあないから、「狂気」ってのは。

――まあ、何かっていうとさ。僕らヱヲブリゾカンパニーのしているのは洗脳、とか催眠、とか言うのとはやや違うんだって話。
前作でさ、最初にタラバガニが書いてたでしょ? 誤認とか書換とか洗脳、催眠、暗示、ああいったものを混ぜたカオスだって。

大体、催眠術ってファンタジー、って言われるのは、人の常識がチタン合金よりも硬いからなんだよね。
「じゃあ死ね」っていわれて、キミ死ねる? 僕はいやだよ?
ほらね? 無理なんだよそもそもが。
催眠なんていうのは、「人に自分の言うことを理解させる」ことに尽きる。
ここでいう理解ってのは、視界に止まったとかまるっと覚えたとかじゃなくて、人生変えちゃうくらいの影響力のある思い込みだ。
かたくなに閉じた自分の殻を、砕くことなくすり抜けていく「信頼」のことだ。

僕の{恐怖}は、そういったものの隙間を潜るなんてチマチマしたことはやらない。
そもそもの認識自体を「自我を残した状態で」クラッシュして、とびっきりの不安を対象に与える。
そして、助け船を出してやる。
「これ」という名前の、認識分野の開放だ。
そうすることで、対象は全くの未処理の情報の渦を、無秩序に組み立ててゆくんだ。
その後で、私たちに都合のいいことを吹きこんで整えれば、いっぱしのヱヲブリゾカンパニーの社員の出来上がりってわけだ。

何? まったく何を言っているのか分からない?
――分かりにくいなら、こう説明しようか。

園児が絵を描いているところを思い出すといい。
庭を描け、と言われればまず最初にマルを描いて、そこを茶色や黄緑肌色なんかで塗りつぶし始める。
もちろんこの場合の庭とは、自宅の庭ではない。幼稚園の庭だ。
しかし、園児たちが描くのはマルだ。長方形の庭ではない。
それはなぜか?
自分が走ったかけっこのコースしか体が体感していないから、そうとしか表現できないんだ。
雪国の人が、ゴキブリを見て珍しがるのとも少し似ているかもしれないな。
庭に「走るところ」、「お花を植える所」という先入観がある子供。
ゴキブリに「不潔」+「貧乏な家に出る」+「なかなか死なない苛立ち」=「陀蠍」の印象がない雪国の人。
どうしてそんなことが起きるのか。
答えは簡単だ。
「知らない」から、自分で常識を勝手に作って「思い込んでしまう」のだ。
「知らない」ことを知らなくちゃあいけない時、人は勝手に「思い込む」。
知ったかぶり、何ていうレベルじゃなくって、きっと含んで説明しても理解できない障害がここにはあるだろう。
だって、他の何でもない自分の中で自分が生み出したものなのだから、他人の情報の入り込む隙間なんてこれっぽッちもない。

それが、もし「常識」レベルでの無知だったら、どうなると思う?
そしてその「常識」を全くの一から思い出させたら、どんな性格が発露すると思う?

きっと喋るより、見る方が「理解」も早いだろう。
それでは、新しい社員が今できたみたいだから、彼女に自己紹介してもらおうか。

15: 名前:祖師鱈葉臥丹投稿日:2010/02/23(火) 13:05
そしたらばがに、と読みます。こんにちわ。

本編というか続編に手を付けます。

ヱヲブリゾカンパニー所属
「谷ヶ崎山スポーツジム」より、

そもそも私、キガネナオがここのジムに通うようになったのは前期の部長からの推薦によるものが大きい。
「ナオはさ、マーメイドって知ってる? 最も早くて美しいスイマーに与えられる称号らしいんだけど」
「マー、メイド……ですか?」
聞いたことがない。
これでも県の強豪の名前は、ふざけた二つ名から出身中学まで全部抑えてある。
しかし、マーメイドという渾名はここいらでは聞かない名前だった。
そもそも一番早い選手というのはまだしも、一番美しい選手というのはどう考えても偏見あるべき評価だとおもう。
部長は、財布から水色のカードを出して、私に見せた。
「ここの会員にさ、いるらしいんだよそのマーメイドが。見てみたくない? っていうか、入らない?」
私はこの手の勧誘を多く受けたことがある。
もちろん常時泳ぐ所は抑えてあるし、はっきりいって邪魔なだけだ。
しかし、それを部長に進められるとは思ってもみなかった。
「部長は、見たんですか? そのマーメイド」
部長がこのジムの勧誘がしたいだけなのか、それとも善意で私に進めているのかが分からない。
すると部長は、なぜかにっこりと笑って、
「……ええ、凄いわよ。まさか同性に見とれるとは思わなかったけれど」
恍惚、というのだろうか。まるで可愛いものを愛でるかのようで、それでもさらに熱っぽい。

はっきり言ってその笑顔を見ても、私には胸騒ぎしかしなかった。

私は一度、友人を殺したことがある。見殺しだ。
二か月前から薬物にはまっていると聞いていた。
最初は不登校に対する皆のひがみだと思ったが、先生たちからも声が上がった。
だから学級委員の私は、自発的に使命感から説得にいったのだ。
結局、錯乱した彼女に無理やり薬をかがされて、二人して病院に運ばれたのだが。
病院のベッドの中で、これから廃人になるのかと考えると不安で仕方がなかった。
しかし検査が終わった後、医者は危険性の低い薬物だったから大丈夫と言っていた。
警察が血眼になって薬物を取り締まろうとするのは詰まる所、凶悪で無い半端な薬物もこの世には出回っているからだという。
お酒を止められないくらいの依存の場合もあるし、シンナー吸うならインキペンでもことたりるのだという。
それを知った私は、自分が薬物中毒にならなかったという安心から開放的な気持ちに見舞われていた。
それどころか、社会の闇に触れたつもりで、人間的に一回り大きくなったつもりでさえいた。
――――その四ヶ月後、薬物中毒でその友人は死んだ。
そして葬式に出向いてやっと、自分が彼女を守るために説得しに行ったことをおもいだしたのだ。
軽いといっても、薬物は薬物。その売り屋ですぐ隣には、本当に触れてはいけない毒物も十分あるだろう。
そして、彼女はその魔の薬の誘惑に耐えられなかった。
誰も、止めてはくれなかったから。

その後悔も相まってか、私は焦っている。なにを焦っているのか、と考えれば考えるほど深みにはまってゆく。
考えているのはただ一つのことだけだ。
――――これは、何かに魅せられている人間の眼だ!
確信めいた考えだったが、矛盾している。
部長が誘惑されていたとしても、唆されているという確証は何処にもない。
そう、理性では分かっているんだ。
しかし、いつも抑えている感情が今回はいうことを聞かない。
気づけば、「興味があるので紹介してくれませんか」と、口にしていた。
(あの時と同じ、みじめな気持にはなりたくないから……)

しかし今思い返してみれば、この時の私はやはり「人を助けたい」という気持ちで動いてはいなかったのだろう。

電車を使って十数分、その建物は駅前にあった。
駅ビルの中に、押し込まれたような形で施設が入っているのがホームからでも見てとれた。
壁に付いた大きな看板には「谷ヶ崎山スポーツジム」とある。
発展したターミナルによくあるタイプの、割とどこにでもある普通のスポーツジムだ。
ジムそのものは胡散臭くない。問題は、部長がどんな人間にどう魅了されているかだ。

受付もいたって普通だった。真新しい印象を受ける清潔な入口であった。
一般の会員以外は料金を払わなければいけないらしいが、これが結構高い。
仕方なく料金を払って鍵をもらい、脱衣所のロッカーを開ける。

――――あれ?

――何かがおかしい。

そうだ、私はどうしてプールに入ろうとしているのだろう?
そのマーメイドとやらを観察するのも、つじつまを合わせただけで本心では興味などない。
だからといって部長と一緒に泳げば私は自分の不安を解消できるのだろうか? いや、それはない。

考えれば考えるほど、自分の行動が理解できない。
「部、ヴょうっっっ!!?」
振り向こうとした私の眼の奥が真っ白に焼けたかと思うと体が勝手に崩れ落ち、そのまま私は気を失った。

16: 名前:祖師鱈葉臥丹投稿日:2010/02/23(火) 16:27
※ここで謝罪と警告の言葉を、書いておきます。※

上作品中にある事件と薬物についてですが、【全編に渡り全くのフィクション】でもって書かれているので真に受けると大変なことになります。
そんなに都合のいいクスリは、有っても売ってくれませんし、そもそもが無いので口裏合わされて騙されないように注意してください。

もし過去にこういったケースに見舞われた方がいらっしゃったら、一種の作品表現であることを頭に留めて頂きたく存じます。

それと、もしこれらの文に影響されて犯罪行動を起こしたとしても、きちんと自己責任で対処してください。
(――はっきり言いますが、それは「身から出た錆」であり、「ミイラ取りがミイラになった」だけです。)

――――さて、続きですよ。最近壊れてなかったので、輪をかけてひどいです。お覚悟を。

「で、何を話せばいいのですか? オーナー・ジャッカルマン」
「うーん、そうだね。新生マーメイドとしての抱負を述べてから、改めて自己紹介としようか」
「了解しました。オーナー」
「あ、ビデオ回して利用者の方々にも配信するから、そこらへん考慮してねー」

みなさん、はじめまして。
ヱヲブリゾカンパニーの新しい住人にしてダッチワイフ。
会員ナンバー249864、キガネナオです。
ジャンルとしては、性格がクール、性質がエリート、スイマーとしてのタイプは真面目型です。
スタイルは上から84、52、85、乳首は黄色の方に傾いたうす茶色です。
処女なので、まだ好きな体位はありません。得意な手技も同様です。

第5代目マーメイドとしての抱負は、泳ぎに対しては常に自分を試している状態のため、自信はありますが自慢もできません。
よって、私のマーメイドとしての存在意義は泳ぎではありません。
しかし歌って踊れる筋肉アスリートとして、あさましく陳腐な歌をきゃぴきゃぴ奏でて見せようと思います。
――それでは、まずは一曲目。私のデビュー曲、『白桃色の恋はラビユー』です。聞いてください。

(なんかアニソンっぽい、軽快かつ甲高い前奏)
「な・ん・だか、なんだか♪ キュウキュウしちゃうー★」
(責任感と使命感に浸った、大真面目な表情)
「こぉこは不思議、ふっしぎのくによー♪」
(音階が全く違う、バックミュージックの一つ半くらい下の音をとっている)
「ソぉコ行ーく、ウサギちゃん♪ わぁーたしぃーと、いいことしないー?」
(それでも腹筋凄いから、発声だけは良い。つまり歌いこなしててキモい)
「”ええい、離さんか売女!”とウサギちゃんー♪ にーがーさ、なぁーいわっ★ ラリアット♪」
(それにしても、腹筋ばかり映すのやめてくださいカメラさん。上下してて生々しいです)
「ラービラビラビラビリンス★ ララーラ、ラビット・ラリアット♪ ラービリン・ラビーット・ラリアット♡」
(間奏でのコーラスの踊りがガニまたでの腰振り、しかもマイクをスタンドに戻して腕を白鳥に見立てての無体)
「きょーうは、ご苦労様でしたん★ (御主人たま!) こ・よ・い・の、ご飯はラビリンス★」
(ちなみにここまで全て全裸に無表情。怖いのを通り越してもはや笑けてきそう)
「のっこーしーたーり、しーたーら、逆レイプ♪」
(マイクを尻にぶち込んで、一言「むほぉ」)
ちゃーーーーーーーんっ★
(成し遂げた顔。誇りに満ち満ちた表情で、目から滂沱のなみだ)

「……ヤッチャッタナア。――まあ、コアな人にはいい感じだろうかな? まあ、ボクにそっちの気はないけれど」
「ご苦労様です、オーナー」
「ああ、こっちは順調だよ。そっちはどうだい?」
「ええ、秩序のバランスを保たせるのが唯一の課題ですが、こちらの側の組織は完全にまとまりました」
「そうか、じゃあ今度はそっちで遊ぼうかな?」
「心待ちにしております。――ところで」
「――? なんだい?」
「先ほどから見学させていただきましたが、あの社員はどのような恐怖をもっていたのでしょうか」
「研究者として、知りたいのかい?」
「ええ、これから新しい社員を育成するにあたって、もしかするとあのパターンは次のプロジェクトにも活かせそうです」
「……ふぅん、まあいいさ。あの子がすがった恐怖はね――――」

私は、学校で水泳のエースと呼ばれている。
部長よりもカリスマがあり、他校からも注目されるようにもなった。
私はそのことに対して、わずかな不満も持ってはいない。もしあったとしたら罰が当たる。
だけれど、何かが足りない。……何だったか、とてもくだらないことのような、大事なことのような……。
――――いったいこの得体のしれない不安は何だろう。

今日初めて、あの先輩に勝った。
ギリギリだった。正直本当は負けてるんじゃないかとも思っている。
でも、勝つだけじゃあだめだ。ダメなんだ。
私はまだ、スタイルも良くないから今は水泳が上手になればそれでいいけれど、
もっと優雅に、もっと綺麗に泳いでみたい。
どうすればいいのかは、よく分からない。でも、なりたいんだ。
そうだ、二つ名だ。「あの名前」が似合う、そんな選手に私はなりたい。
そうすれば、私だって……。

水泳は良いよね。
普通の運動より体は育ちやすいし、
なによりも、競泳水着がカッコよくてかわいい。
これで、フリルでもつけたらまるで――――。
まるでお姫様みたいだな……。
――――なんて、ね。

あのね、なーちゃんね、「にんにょひめ」になりたいの!
あのね、きれいなね、おさかなさんのあしで、きれいにぴゅーんっておよぎたいの!
いっぱいいっぱいあそんでね、いっぱいいっぱいおさかなさんとおともだちになるんだー。
きれいだなー、「にんにょひめ」……。
え? 「まー、めいど」? なにそれ、みーちゃん?
ママぁ! まーめいどって、なあに?

けってい! なーちゃんは、まーめいどがいい!
にんにょひめより、まーめいどのほうが、かわいいもん!
ぜったい、ぜーったいなるんだもん! およげるようにだって、すぐになれるもんっ!

マーメイド? ああ、そうね。そんなこともあったわね。
でも、あぶくになって消えちゃうんでしょ? そんなのいやよ、私。
――じゃあ、なんで水泳止めないのかって?
そ、それはあ、あれ、あれよ! ダイエットよ! みんなやってるじゃない!
うるさいわね! いいじゃない別に体が大きいからってフリルのついた可愛いワンピース見てたって!
ああそう、そこまで言うなら見せつけてやるわ! 激戦区だろうと知ったことじゃないわよ!
あんたたちの期待通り、「マーメイド」の二つ名もぎ取ってみせるわ!!

先輩に、ふられた。勝った翌日のことだった。
「おれ、ロン毛の女の方が好きだから」なんて、ひどい逃げ台詞を残していった。
……これ、泳ぎやすいんだけど、な。
自分で言ってから気づいたのは、私が水泳だけの女だってこと。
なにが、「マーメイド」。自分の恋もつかめやしない。ただのあぶく。
それどころか好きな男の子の顔に、泥まで塗って。
プールサイドに水泳帽子を叩きつけようとしたその手を、私は振り抜けない。
だって、これが私の人生だから。行き着くところまで来てしまった、たった一つの居場所だから。
本当に悲しくて、人魚姫のように声が出ない。
私は水に浸かってぶよぶよになった指で自分の顔を覆った。

「彼女の恐怖は、『夢』に対する信頼と疑惑。分かりやすくまとめれば、人間らしさを求めるが故の悲しみだね」
「まとまりきってませんが、言いたいことは分かります」
「まあ、それらすべてを含めた上で、彼女はこうやって”歌って踊れるエーススイマー”という解決策を産みだしたんだ」
「その基盤以外は、基本ただの脳味噌のないカカシですけれどね」
「……キミも似たようなものなんだが、まあいいさ。とりあえず、言葉は選びなよ」

「応援ありがとうございまーす! これからも、キガネナオをよろちくびー♪」

「たとえ、どんな結末であろうとも、幸せってのはその場その場で本人だけがかみしめられるんだからね」


はい、とりあえずスポーツジム編は終わりです。
次はファンタジー書こうぜ、ファンタジー。
ほんとうは、ミシマミサキちゃんの方もあったんですが、こっちの設定の方が収集つくので終わらせました。
先輩にあったトラウマてきな流れが、ミシマミサキには無いんですよね。
それでいて、「恐怖」が第二の○トラーっていう。
ええ、はい、書けません。女の子と○トラーは結びつきません。終わり方も適当だし、ならこっちだけでいいやと思いましたww

では、最後まで読んでくださってない人も、ありがとうございます。駄文、狂文失礼しました。

17: 名前:祖師鱈葉臥丹投稿日:2010/03/15(月) 22:30
そしたらばがに、と読みます。こんばんわ。

オリジナルを考えている合間に浮かんだパロディをおいておきます。
名前とか設定をやや弄っているので、多分大事にはならないでしょう。多分。

ジャンルはアイテム、洗脳、やや鬼畜
今回は冒頭ですので、世界観を少し書くだけです。

「ぱちっとモンスタア」

俺は智。
間更 智っていうんだ、よろしく!

突然だけど、俺はもうだめだ。
何がって、この世でしたい事がもうない。
巷で流行してる、野生の生き物をとっ捕まえて戦わせる新技術と新法案。
専門のクラブやショップが建つほど流行しているけれど、もう俺には用のないものになった。
思えば旅を始めてから十年かけて、俺は様々な冒険を繰り広げた。
時には公式の試合で手塩にかけて育てた家畜をきそわせて路銀を稼いで、その技術を広げるため生態系を観察したこともあった。

だがそれらも、もうすることがない。
公式のクラブワッペンは八つすべてそろえてしまったし、生態系も完全把握。
その功績が生じて、二十歳近くなってから自分の家まで建ててしまった。
新しい生命体の探索には、もう大城戸のじじいが派遣委員を大量に雇い始めたから、すべきこともない。
伝説の生物なんていう話もちらほら聞くが、大体が突然変異か眉唾モノの噂ばかり。
そういえば、そういう伝説を追い求めていたカルト宗教の団体を壊滅させたこともあったっけ。
確か名前が、「チーム・ドッグタグ」。
家畜を使った競技全般を牛耳ろうとしている計画を並行して考えて時は、焦ったなあ。

「……はあ、なんて暇なんだ」

溜息を吐きながら、ドライバーを机に上に置く。
今残された数少ない楽しみの一つが、壊れたボールいじりって時点でおれが腐っていることが良く解るだろう。
――俺の人生は、こんな終点のあるものだっただろうか?
――昔はもっとワクワクしてて、色々な事に体当たりしてたはずなのに。
――今となっては、新しいことを生み出せる気がこれっぽッちもしない。

俺は目の前に置いてあるボールを眺めてみた。
こいつは、ただのポンコツボールじゃない。
「ドッグタグ」の本拠地を叩いた後、地下の通路を探索していた時に見つけた試作段階のボールだ。
とりあえず周りの装置は撤去させたが、こいつだけは俺宛に大城戸のじじいが送ってきた。
そのときの文面が、

「する事がないなら、このボールについて何か調べてみなさい」

――だとさ。
俺、いつからあのじじいのパシリなんだろう?

とりあえず一晩かけていじってみたけど、既存のボールとしての機能が全くないことが分かった。
かといって機械として動かないかと言われると、そうでもないのだから困った。
並行して市販のボールを解体してみても、仕組みの違いが分かったとして、そこからが全く理解不能。っていうかムリ。
まるで、ひらめとカレイの違いを一から検討しているみたいな気分だな。
見た目が同じなのに本質が違うなんて言われても、素人にはわからない。

一旦、大城戸に借りた工作キットと図面を閉じた俺は自室から出ることにした。
片手に例のボールをもったまま。

適当に廊下の壁に投げてみるが、まるでピンポン玉のようによく弾む。
こういう所は、市販のボールと大差ない。
半球状の機械が二つ合わさっている形といい、くす玉のように開くジョイントと言い、

「形は同じなのになー」

そうやって俺がひとりごちていると、母さんが階段の下から顔を出した。

「智ー、ご飯ですよー」

母さんは何カ月か前から、俺が建てた家に一緒に移り住むようになった。
学生結婚だったらしく、俺が二十歳になってもまだまだ若い。
一緒に買い物に出かけると、年の離れた兄弟だと思われることもある。
優しくてたおやかな自慢の母親だ。

――なんで、こんなことをいきなり喋るかって?

「ああ、分かったよ。いますぐに――――」

ふいに俺の手からこぼれるボール、それは弾みながら階下へと降りてゆき――――、

「きゃあっ!」

――ぱちっ、という音を立てて。
あっという間に、母さんの頭をすっぽり囲ってしまったのだった。

18: 名前:祖師鱈葉臥丹投稿日:2010/03/24(水) 17:20
そしたらばがにです、こんにちは。
パチモンがいい具合なので、しばらくはこっちを書こうかなとも思ってます。

注)何処までも母親を馬鹿にした描写があります。それとは別に、相変わらず頭はおかしいです。

「ぱちっともんすたあ2」

ボールはヘルメット大に膨らみ、
スイッチだった部分が窪んで母さんの首を丸々と囲ってしまっていた。

ぶるっ、ぶるっ、ぶるっ。――ぱちっ。

そして三回ほどボールが振動したかと思うと、
頭を覆った音と同じ音を立ててボールは停止した。

「母さん! 大丈夫?!」
俺は階段を駆け下りて、ボールに手を触れてみた。
すると、簡単にボールは頭がら外れ元の大きさまで縮小してしまった。

母さんは、まるで何事もなかったかのように立っている。

「あら? いつの間に降りてきたの、智」
どうやら前後の記憶が飛んでいるらしい。
俺は、とりあえずこの場を濁しておくことにした。


居間で夕飯を食べながら、俺はさっき起こったことについて検討してみた。

間違いなくあのボールは母さんに何かをしたに違いない。
それが悪いことかいいことかは、すでにあとの祭りだから確かめようはないが。

まあ、いまのところ何が起こったのかもわからないし、気にとめないようにしたい。

それにしても目の前で一緒におかずをつついている母さんは、いたって普通だ。
なんか目が緑色に光るとかそういったものを期待半分、冗談半分で想像していたが全くそういったことはない。

(確かめる、つってもなあ……。)
何処から切り出せばいいのか、わからない。
このままでは、わからないということしか手持ちの情報で共有できない気がする。
それじゃあ、母さんに何があったかもよく解らない。
ホントは慎重にいきたいところだけど、悩んでても仕方ない。
俺は、いきなり本筋を責めることにした。

「あのさ、母さん」
「なあに、智」
「今、大城戸博士から預かってるボールがあるんだけどさ。ほら、これ」
俺はズボンのポーチから例のボールを出した。

「…………」
「?」

と、ボールの不思議さを説明しようとした所で、俺の視線はボール固定された。
なんだか母さんが不思議そうにしているが、口上が出てこない。
いや、それどころじゃない。

スイッチから、赤くて細い光線が母さんの額に向かってまっすぐ伸びている。

俺は、この光線をよく知っている。
市販のボールに家畜たちをしまう時に放たれる、あれだ。
俺は反射的に閃いて、考える前に口にしていた。

「母さん、――――”戻れ”」

光線が、なんていうか、額に向かって「撃ち込まれた」とでもいうのか?
感覚で言うなら、伸びきったゴムが縮むくらい。光にしては遅すぎる速度で母さんの額へと吸い込まれていった。

そして、すぐに変化があった。

「ままーーーーーーーーーーん★」

母さんが奇声をあげて壊れちまった。

舌を突き出して、口の端からはよだれを垂れ流してる。
目は完全に白目を剥いていて、理性が残っている感じがみじんもしない。
それどころか、今度は着ている服を信じられない力で引きちぎってみせた。
その蛮族の様な母さんの無体に、俺はただ呆然とすることしかできなかった。

ふと、手元のボールが動いた。
でも、それは明らかにボールとしての機能じゃない。

{プログラムヲ、ゾッコウシテ、クダサイ}
なんとこいつ、機械音声でナビゲートをし始めやがった。

「はあ? ぷろぐらむぅ?」
俺は暴れまわる母さんを御するのに精いっぱいで、全くそれどころではなかった。
テーブルの上でドラミングをしたかと思えば、次には部屋の隅で用を足そうとしている。

そのたびに、大声が近所に漏れないよう口を塞いだり、持ち上げてトイレに連れて行ったりもした。
はっきり言って、クタクタだ。

{コノボールハ、プロトタイプデス。メザメタ、パチモンヲ、オサメルニハ、モウイチド、トウテキ、シテクダサイ}

パチモン? 何のことかわ分からないが、こいつに俺以上かかわってしまったのは母さんしかいないだろう。

「ええい! もうどうにでもなれ!」
俺は、部屋の真ん中で鼻をほじっている母さんに向かってボールを、狙って投げつけた。


今回ゲットしたパチモン。

「ママーン★(智)」  Lv.12

タイプ1:ジュクジョ
タイプ2:インラン
とくせい:やわらかいしぼう

わざ:のしかかり、はらだいこ、しめつける、したでなめる

せつめい:だれに でも ひとりは いる いだいな そんざい
      はじめて パチモンを つかう には ちょうど いい
      ひび の ストレスを こめた ドラミング は あっかん だ!

19: 名前:祖師鱈葉臥丹投稿日:2010/04/08(木) 20:11
こんにちわ、そしたらばがにです。

とかく、パチモン続きです。

「ぱちっともんすたあ3」

母さんに向けて投げたボールは、さっきと同じように母さんの頭を覆った。

カチッ、カチッ、カチッ、プツッ。
{コノ、パチモンハ、ヤセイジョウタイ、カラ、カンゼン、ニ、ホカク、サレマシタ}

電子音が響くと、ボールは外れて俺の所まで弾みながら戻ってきた。

行動を起こす必要があったけど、何が起こったかが全くわからない。

しかし、とりあえず母さんの凶行を止めることは出来たようだ。
俺は荒れ果てた部屋を眺めながら、どうやってこれを片付けるか途方に暮れた。
机がひっくり返っているのはまだしも、カーテンが引きちぎられていたり、母さんが着ている服がやぶけ・・・

「ああっ! そうだ服っ!」

母さんは床に倒れている、とりあえず息はあるようだし怪我もない。
だが、起き上がったらこの状況をどう説明したものか。
というか、千切れて絡まっている布切れを脱力している人間から引っぺがすのがこんなに手間を取るとは。

無作法に体を触るのすら躊躇するのに、その後でさらに肉親で着せ替え遊びなんて出来るわけがない。

腹を据えかねていると、同年代にしか見えないきめ細やかな肌がくねり出した。
その瞬間、頭の中に浮かんだのはなぜか、ゴシップ誌にでかでかと載った自分のまぬけな顔写真だった。

「う、う〜ん。あれ? 智どうしたの? 青い顔して」

俺はとにかく気が動転したのと、とてつもない焦りから床に思いっきり頭を擦りつけていた。

「ごめん! 母さん、ごめん!」

「家の中がしっちゃかめっちゃかなんだけど・・・これが私のストレスか・・・」

「ほんとうにごめん! 俺が変なボールの取扱いを間違ったせいなんだ!」

「ねえ、落ちついてちょうだい?あらあら、さっきまで着てた服もびりびりなのね・・・」

「何でこんなことに・・・母さんはこんなにきれいで立派な人なのに。俺なんかのせいで・・・」

「もう謝らないで、困っちゃうわ」

「本当にごめん! 今すぐに代えの服を持ってくるから!」

「え? 智って、パチモンに服を着せるの?ダメよ、そんなの。おしっことかで服が汚れちゃうわよ?」

「? 母さん? パチモンって・・・。いつ訊いたの、その言葉?」

俺だって、さっきのボールの説明ではじめて知ったのに。

「いつって、さっきあなたが私を捕まえたんでしょ? 間更 智♡」

「はあ? ちょっ、ちょっとまって。このボール、まさか・・・!」

さっき投げたボールは確かに言っていた「完全に捕獲された」と。
つまりそれは、猛獣を捕えて躾けたってニュアンスだったらしい。

「いい? パチモントレーナーたるもの、家畜には服を着せちゃダメ。智だって好きな時におまんまんハメられないなんて嫌でしょ?」

「・・・つまり、さっきの野生児人格で雰囲気が母さんになった、だけ・・・なのか?」

俺は悲嘆にくれるしかなかった。
心の中でもう半分の本音をいうと、ややこしくなくて安心したとも言えなくはないさ。
にしたってこれはないと思う。
まして以前よりも、話がかみ合っているだけたちが悪い。

「あ、お尻にうんこが付いてるわ。あらあら、みて智。これおととい食べたカレーのコーン粒よ」

ああもう、頼むから指で肛門をほじらないでくれ、母さん。あと、そのコーンはぺってしなさい。ぺって。

俺は母さんを何とか納得させて、冬物のコートを羽織ってもらった。
まだ四月とはいえ、肌寒い日も多いし。
なによりも、子持ちとは思えない瑞々しいスタイルが目の毒だからだ。

あとこれからの傾向としては、大城戸のじじいが出張から帰って来るのを待つことにした。
このボールを何のつもりで渡したかは知らないが、きちんと下調べくらいしとけってんだ。

とにかく事がひと段落し、母さんが(性格はともあれ)大人しくなってみると、夜中にバタバタしたのもあって眠気が襲ってきた。
俺は部屋を片付けた後、一足先に眠ってしまった母さんを抱き上げて寝室へ運び、ニ階の自室へ戻った。

ピピピピピピピ!!

扉を開けてすぐ、充電をしていた携帯が鳴った。
着信欄には「慈」とだけ。

大城戸 慈、あのじじいの孫娘であり、俺のライバル的存在でもあるらしい。本人自称。
字面からしておしとやかそうなイメージだが、その真相は猪突猛進でプライドが高いめんどくさい奴だ。
しかしまあ野獣相手にけもの道を進み、男と肩を並べて競って走るんだからそれくらいの気概があっても不思議じゃない。

「おーい、久しぶり。よく電波が届いたな・・・」
俺は充電器から携帯を取り外して、耳にあてた。

することがない俺とは違い慈は常に外に出向いて、じじいが雇用した仲間とともに突然変異種を追い続けている。
そういった不定期な任務だから、連絡が来るのは数ヵ月ぶりだった。
そういえば、番号教えたけど俺に電話をかけるなんて初めてじゃないか?
いままでは里帰りした次の日に鉢合ってたんだし。そうだよな? うん、そうだ。

『さ、智・・・。あ、のボー・・・は持ってるか? そ・・・えを、・・・あなすなっ!』
なんだか風が強くて聞こえづらいが、どうやら切羽詰まった状況らしい。

慈はとてつもなく負けず嫌いだから、自分の失敗でくたばる程度なら死んでも電話はよこさないだろう。
とすると、他人にも影響を及ぼしかねない大きな事件があったと考えていいだろう。

俺は、的確に慈へ指示を送った。
「慈! もっと身をかがめて、風を遮ってしゃべるんだ!」
すると少しマシになったスピーカーから、焦躁した慈の声が聞こえてくる。

『ボールだ、そのボールだけは今晩、手から絶対放すんじゃないぞ・・・!』
どこかが痛むのか、とてもつらそうな声だ。
それでも話を最後まで、俺は聞こうとした。

『ドッグタグの残党が、電波を・・・有害な周波数を世界にばらまきやがった! あ、頭が痛いっ!!』
「まだ生き残っていたか、ドッグタグが・・・」
『世界が、裏返る。ドッグタグに、管理されてしまう・・・!』
恐慌状態に近いプレッシャーがかかっているらしい。俺はとにかく名前を呼んだ!

「慈っ! 慈っ、返事をしろっ! 今どこだ!」
『自宅の近隣まで、何とかもったけど・・・。へへっ、もうダメみたいだ・・・』

『さーたんのぉ、おうちにぃ、お邪魔するぴょんぴょんっ☆彡』

ぶすばっっっっっ!!

あまりにも不意打ち過ぎて、鼻水が出た。

20: 名前:祖師鱈葉臥丹投稿日:2010/08/31(火) 11:29
題名「うさんくさい宣教記事のこと」

ジャンル「洗脳、宗教」

――かくあれかし。

人は誰しも、無知のまま生まれてきます。
どれほど優れた知識や思想を蓄え、素晴らしい友情をはぐくんでも、
後に生まれる子供たちにとって、あなたの人生は何処までも無価値です。
なぜなら、自分で体感したことだけが個人にとってのすべてだからです。
だからこそ、人間はこれからも何も乗り越えられず、戦争も差別もなくならないでしょう。

「あぺえぺきぷりくれぽかかじゃしかららららららみすすすすすじじじじ」

何故こうも言い切れるのか、不愉快に思うかもしれませんね。
確かに、人は他人と苦労を分かち合ったり、他人から学ぶこともたくさんあるものです。人の輪というものですね。
だからこそ、自分で感じ切れることには限界があると知ります。人間は一人では生きられないのだ、とも。
ですがその友人関係が織りなす成長を、もう一度よく見つめなおしてみてください。

「きゃ、きゃらららほおほほほほほほほほほおっほほほっほほほほおっほ、、、ごぶぇ」

――その成長は別に他人から学んだわけでなく、自らの力で気づいただけではないですか?

傲慢と、ある人はこの考え方を呼ぶかもしれません。他人あってこその自分なのだと。
ですが、どんなに他人が親身になっても期待にこたえる事ができない人もいるのです。
意地を張ってしまったり、根っこの主張の違いを見抜いていたり、人を信頼していなかったり、
立ち上がる気力があるのにいたずらに正論を刺されてしまって、不要な悪あがきをしてしまう人もいます。
あくまで学習できるかどうかは、本人の心の柔軟さにかかっているのです。
よって、人の輪というのは偉大ですが盤石のチカラというわけでもないのです。

まだ納得できない方のために・・・「そもそも他人とはどこまでを指すのか」を検討してみましょう。
親しくない人間でしょうか? それとも主張の合わない人間? またまた話題の「ウマ」が合わない人間?
それらは少し違います。十分ではありますが必要な要素ではありません。

――「我々」の考えはこうです。

「ああ、まんま。まんまんまんまんまあままっまあまあまなmmんまんまんmなmんあまんああ・・・」

他人とは自ら以外の全てを指し、その自ら以外の全てを不可欠ではないとする言葉なのです。
「我々」にとっての他人とは、ただそこにありふれているだけの有象無象ということです。
別に親しいとか、愛しているとか、大切だとかは関係ないのです。総て他人で自分ではない「モノ」なのです。

「我々」は別に、不幸にまみれた人や失敗続きの人が、親しき他人に救われ成長することを否定するつもりはありません。
ただ、「我々」がここで主張したいのは、その過程で起こっている心情の変化そのものなのです。

「ああ、あぁ、あれるられりるらあぁああぁあぁああぁ、あぁれ、あぁれ・・・」

挫折して落ち込んだ時、人間は閉塞的にふるまいリアリストになったり自暴自棄を起こして刺激を求めたりします。
他人は緩衝材になって、そんなやけを起こした人間を惹き戻すことができます。
一方、そんな感情の激しい爆発を起こさず、至って冷静に行動を起こす人間も稀にいるのです。

奇特な感情をもつその者は、たとえ失敗をしても自分で全てを抱え込むことができ、気に病むことさえありません。
その者の人格は、べつだん完成しているわけでも壊れているわけでもありません。それなりに傷つき、失敗もします。
ただ単に、他人に助けてもらうようなことを自分で全て解決しているだけなのです。

「・・・あ、あぁ、あ、あぁ、あ、――へ。あああああああああああああああああああああああああああっあ!?」

おかしいと思いませんか? ひとは他人がいなければまともに生きられないはずです。
失敗をしてもくじけ、不安がり、まともに前へ進む気概さえ抱けないはずなのです。
しかし「我々」は違うのです。「我々」だからこそ、そこは違うのです。

全ては、全ての過ちをどこまでも気にすることです。そしてそれを自覚しきることです。
そうすれば、人は全てに絶望します。時には命を絶ってしまうものもいるでしょう。

しかし、しかしです。その時、正に自己嫌悪から自分を傷つけようと考えた瞬間!
自発的に人の迷惑を考えられるような限られた人間は、自我を昇華させることが出来るのです!
自らを観察し、考えて、工夫することができる、「もう一人分の心の部屋」を作り出すことが出来るのです。

隣に理解者がいて、なにかを分かち合える。そんな人間は現代では一握りです。
「我々」が説いているのはそんな現代人が、人生において孤独かつ強く生きれるすべというわけです。

「―――――――――――――。」

全ての感情を受け流し、どこまでも強くあり、他人を認めつつも必要以上に受け入れない気高き精神。
これを手に入れてしまえば、人生においてみじめな挫折はもちろん、下らないなれあいをする必要もありません。
それどころか、日々充実した成長の手ごたえをを実感することも請け合いです。
全てのスタートは、あなたの人生は、「我々」――『クリス=トリス教』と共に探しましょう!

「――ハレルヤ!」

「――ハレルヤハレルヤハレルヤ! ハアーレールーヤー!」

21: 名前:nakami投稿日:2010/09/22(水) 21:47
 更新がないと聞いてムラムラしたので書きました。
 やかんさんの「秘蹟」と、and●moriのアルバム「ファンファー●と熱狂」(いちおう伏せ字)にものすごくインスパイアされてます。
 やかんさん、ゴチです。


***** ピエロと月と秋のパレード(1/5) 夏には帰ると言ってたけど、結局、帰らずじまいだった。
 ようやく馴染みが増えて楽しくなり始めた東京から、この恥ずかしくて向こうの友だちには見せらんないようなド田舎までの距離は、俺の中で遙か遠くなっていた。
 夏休みのバイト代も遊びと服に費やし、振り込んでもらってた帰省用の金もとっくに使い果たしていた。「忙しくて夏は帰れないかも」と親には言ってたし、大丈夫だと思ってたけど、じいちゃんの容態が危ないっていうから、結局もう一度親に金もらって、この中途半端な時期での帰省となってしまった。
 面倒な乗り継ぎを経てようやく到着。帰るたびにうんざりしてしまうほど、ただの田舎だ。
 着替えしかないバッグを背負い、河原をとぼとぼ歩く。
 近所の小学校から金属バットの音がする。2匹くっついたとんぼ(俺の田舎では「へっぺとんぼ」と言うらしい)がうぜぇくらい飛び回ってる。
 俺がガキの頃から、なんにも変わってない。変わる気もないんだろう。こんなところに好きこのんで住み着くような変態どもは。

「おー、あんた、タバコ持ってねえ?」
「…あ?」
 いきなり声をかけられて少し驚いた。橋の下で、DQNな格好した厨房の男女が数名、こっちを見上げてた。
「ねぇよ」
 俺は適当に答えて、さっさとその場を離れる。
「ねぇよ、だって」「かっけー」「お兄さん、抱いてー」「バッカ、お前。ぎゃははは」
 やつらが調子に乗って囃したてるのも無視だ。
 好きに言ってろ。お前らみたいのも、昔から変わってねえ。田舎でDQNのまま大人になって、DQNの田舎者のまま一生を終えるんだ。俺はお前らみたいになりたくないから、したくもない勉強をして東京の大学に合格してやったんだ。こっちに親だの親戚だのなければ、一生関わりたくねぇよ。
 俺も、下手したらお前らみたいになっていた。そう思うと寒気がする。

「アキノリくん。おかえりなさい」
「あ、ど、どもっす」
 久しぶりの我が家で出迎えてくれたのは、兄貴の嫁のイチコさんだった。
 相変わらず、どうしてこんな人が兄貴の嫁なんかにってくらい、色っぽい人だ。
 顔は美人だけど、清楚なんだ。おとなしい人だ。でも、それより体つきが、なんかこう…エロいって空気全開だ。
 スキニージーンズに薄手のニットなんて着てるから、余計にむっちりした胸とか腰が強調されてる気がする。当然、向こうにそんな気なんてサラサラないんだろうけど、いつも誘惑されてるような気がして、勝手に恥ずかしくなってしまう。ホント、なんでこんな人がうちの兄貴なんかに。
 てか、ひょっとして、今うちにイチコさんしかいないのか?
「あらアンタ、本当に帰ってきたの?」
 と、勝手に兄嫁とのいけないこと妄想をしかけたところで、オカンが奥から出てきた。あぁ、普通にご在宅でしたか。そんで本当に帰ってきたとは、何事だ。
「じいちゃんが危篤って言ってたじゃん」
「危篤だなんて言ってないよぉ。お医者さんが言うにはね、あと一月も保たないかもだって」
「あぁ? それ、去年から同じこと言ってるだろ。ふざけんなよ、俺わざわざ帰ってきたんだぞ。いいかげん医者変えれって」
 俺たちのやりとりを聞きながら、イチコさんはクスクス笑ってる。冗談じゃない。何しに帰ってきたんだよ、俺。
「せっかく帰ってきたんだから、おじいちゃんに会ってあげれば?」
 イチコさんに言われて、オカンとの不毛な言い争いはやめにする。
 ばあちゃんが死んでから、ずっとじいちゃんは体の調子を崩している。耳も遠くてしゃべることもほとんどないし、ホント、いつ葬式やるのかって感じだ。
 久しぶりに見たじいちゃんも、寝てた。「じいちゃん、帰ったぞ」と呼びかけても返事はない。たぶん、俺の顔を見ても誰かわかってない。ここ数年、ずっとこんな感じだった。調子の良いときは普通に喋れるけど、そんな時間はどんどん減っていってる。

22: 名前:nakami投稿日:2010/09/22(水) 21:48
(2/5)


「はぁ〜あ、バカバカしい」
 柱にもたれかかって、背伸びする。こんなことならオカンの電話なんて無視して、東京で遊んでれば良かった。みんな何してんだろ。講義はだいたい終わってるだろうから部室だろうか。それとも飲みにでも行く話とか。俺のいないときに面白いことは起こって欲しくない。
『じじいは安らかに睡眠中』とツイッタに書き込み、何人かにはメールする。『よかったじゃん』とか『のんびりしてこい』とか、たいした反応が返ってこないので、『安心したら兄嫁に欲情してきた』とpostしてみる。いつものスケベ仲間がさっそく食いついてきた。結局、こういうネタしかウケないのな。
 そんですぐに退屈した。俺の部屋にはテレビもPCもないし、居間で家族とテレビなんてうざいし、ここにはゲーセンすらないし。
 高校の同級生にメールしてみた。フミ。地元の役場に就職した女だ。
『飲みに行こ?』
『アキノリ、帰ってきてんの?』
『そ。行ける?』
『今日は無理。職場の人たちと約束した』
『役場と飲んでも楽しくないしょ。行こ?』
『楽しいよ。普通に若い人いるし。またそのうちね』
 フミとは中学のとき付き合ったことあるけど、あのときはキスまでしかできなかった。高校でお互い違う相手と付き合うようになったけど、なんとなくメールやたまに2人であったりの関係は続いている。
 俺としては、一度くらい体のお付き合いもしてみたい相手だった。初カノだったんだし。
 高校では結局できなかったけど、そのうち、なんとなく俺たちは寝るんじゃないかなって思ってた。でもまあ、アイツは地元就職して俺は東京に進学だったし、このメールの手応えだと、今後の進展はあまり期待できない感じか。
 まあ、いいけどさ。
「アキノリ、ここにいたんだ」
 ずかずかと、オカンがじいちゃんの部屋に入ってくる。そして、押し入れの奥から段ボールを引きずりだしてきた。
「じいちゃんの荷物整理してたらいろいろ出てきてさ。アンタ、じいちゃんと仲良かったもんね。これアンタにあげるから」
「え、もう形見分け?」
「せっかく帰ってきたんだもん。早いほうがいいっしょ」
 いくらじいちゃんの耳が遠いからって、本人の前でそんな話するのはイヤだったけど、うちのオカンはそういう人だ。
 しかも、押しつけられた段ボール箱の中身は、ガラクタみたいなものばかりだった。
 ぼろっちいラッパ、ジャグリングのボール、化粧箱。玉乗りピエロの起き上がりこぶし。
 じいちゃんは若い頃、サーカスのピエロとして全国を渡り歩いていたそうだ。40過ぎまでそんなことやって、そのうちサーカスが潰れて食えなくなって、親の住んでたこっちに帰ってきたそうだ。
 ガキの頃、じいちゃんがジャグリングやサッカーボールで玉乗り見せてくれたこともあったっけ。俺に「へっぺとんぼ」を教えてくれたのもじいちゃんだ。同級生に教えまくって、あとで「へっぺ」が「セックス」の古い方言だと知って、恥かかされたんだっけ。
 確かに俺はじいちゃんが好きだった。特にピエロの話が好きだった。
 街から街へと旅をして、テントを張ってビラ配りのパレードをする。にぎやかな音楽鳴らして街を歩くと、子どもたちがついてくる。じいちゃんのラッパと曲芸で、みんなが大喜びしてたって。ピエロはどこへ言っても人気者だったって自慢してた。
 だから俺もパレードしたいと言った。俺もピエロになりたいってじいちゃんに言った。じいちゃんは「そりゃよかったな」とニンマリ笑ってた。
 じいちゃんが俺のヒーローだったときもあった。ガキの頃はそんなもんだ。無邪気になんでもカッコイイと思ってたし、何でもなれると思ってた。
 今はそんなの全然ない。憧れも夢中になれるスターもいなかった。
 うちのオヤジやちょっと前世代の、わかりやすいスターやヒーローがいて、誰もが夢中になれてた時代ってのは、頭悪そうだけど楽しそうで羨ましい。今は若い才能が現れれば、おっさんたちが「マナーが悪い」だの「ナマイキ」だの、口からツバ飛ばして叩き潰す時代だ。
 俺たちはついてない。金もないし、大学出ても仕事もないし、才能は潰され、おっさんたちの言いなりになるヤツだけが何とか食っていける時代だ。
 就職したくねぇー。
 ピエロの起き上がりこぶしを転がし、ラッパを構えてみる。庭に出てちょっと吹いてみたけど、ピストンはガチガチだし、どっかで空気抜けてんのか、マウスピースの音しかしない。
 外は夕暮れ。小学校のスピーカーから『峠の我が家』が流れてるからもう5時半だ。ダンチョー(うちの犬)がそれに合わせて遠吠えして、庭のどこかで虫が鳴いていた。
「アキノリ〜。晩ご飯、すき焼きでいーいー?」
「何でもいいよ…」
 帰ってきて損しちまったな、俺。

23: 名前:nakami投稿日:2010/09/22(水) 21:48
(3/5)


 その日の夜、変な夢見た。
 ピエロのメイクしたじいちゃんが、目の前に立っていた。ラッパを片手に、腹に太鼓を抱えてた。
『アキノリ、久しぶりだな。東京は楽しいか?』
 楽しいよ、と俺は答えた。じいちゃんは『そりゃよかったな』とニンマリ笑った。
 懐かしい顔だ。メイクしててもすぐわかる。
 じいちゃんは、俺が何をしたと言っても、いつもこんな風にニンマリ笑って「そりゃあよかったな」って言うんだ。俺が東京行くって言ったときも、じいちゃんはたまたま頭の調子も良くて、今と同じ顔して笑ってくれたんだ。
 じいちゃんは、ニンマリしたまま、俺に顔を近づけてくる。
『じゃあ、ちょっと付き合わんか?』
「なにが?」
『昔、お前をパレードに連れてくと約束したろ。じいちゃん、ずっと約束守れなかったのが心残りでの』
「いいよ、そんなの。俺もうガキじゃないし」
『おう。だから今夜は大人向けのをしてやるぞ。お前、イチコさん好きか?』
「はぁ?」
『美人だし、いい体しとる。ああいうのお前も好きだろ?』
「いや、まあ、美人だと思うけど、兄貴の嫁だし」
『好きか。ならいいんだ。それじゃ、庭においで』
「じいちゃん、こんな夜中に何言って……」
『いいから、おいで』

 ピエロの目がグルグル回った。

「…はい」
 自分でもどうしてそんな返事したのかわからないけど、じいちゃんの言うとおりにしなきゃいけない気がして、俺は庭に下りていった。
 そこには、大きな玉に乗ったピエロと、パジャマ姿のイチコさんがいた。
「アキノリくん…?」
 細い月明かりの下、少しぼんやりした表情のイチコさんが、すごく色っぽく見えた。初めて見るパジャマ姿。体に張りついてスタイルがよくわかる。柔らかそうな肌が想像できる。そして、半開きの唇は俺を誘ってるみたいに見える。
 ピエロがラッパを吹いた。太鼓をドォンと鳴らした。真夜中なのに、でかい音だ。でも、これは夢なんだから平気だと俺は思った。ピエロは玉を器用に転がし、俺たちの周りをグルグルと走る。陽気な音楽。響く太鼓。パレードだ。
「…ははっ」
 沸き立ってくる。興奮してる。なんだか楽しくて仕方ない。
「ダメ…」
 イチコさんは大きな胸を寄せるように身じろぎして、色っぽく呟いた。俺はそんな彼女の体を抱きしめ、強引にキスしていた。
「んんっ、ダメ、アキノリくん、んっ」
 舌を差し込むと、イチコさんも絡めてきた。想像どおりとても柔らかい体は、抱き心地が最高だ。尻を揉む。イチコさんがくぐもった声をだす。下着ごとパジャマを食い込むくらい持ち上げると、のけぞって悲鳴を上げた。そのまんま俺は、パジャマの下をズリ下げてやった。
「ダメ、アキノリくん、義弟なのに、そんな…あぁッ!」
 パジャマを太ももまで下げて、イチコさんを仰向けに転がす。ピエロがラッパを鳴らす。俺はパジャマも下着も全部抜き取る。イチコさんの甘い悲鳴。ころころとピエロの玉乗り。俺は彼女の両足を持ち上げ、キスだけで濡れちゃってるソコに、自分のを埋め込んだ。
「ダメぇぇぇッ!」
 ビクン、ビクンとイチコさんが痙攣した。イってる。イチコさん、義弟の俺に挿入されただけで、もうイっちゃってんだ。
 俺はさらにグイグイと腰を往復させた。イチコさんは声にならない荒い呼吸をして、俺の腰に手を回してきた。イチコさんのここ、エロい。すげぇエロい。俺のに絡みついてきて、まるで吸ってるみたいに奥へ引っ張られる。気持ちいい。兄貴がマジで羨ましい。
 イチコさんのパジャマの上も剥がした。でかいおっぱいがぶるんて揺れる。すげぇ体だ。両手でいっぱいに握りしめる。細く長い悲鳴をイチコさんが上げる。ピエロのラッパがそれに重なる。最高。イチコさんの体は最高。
 思わずギュウって強く握る。イチコさんは痛そうな声を出す。手を緩めると、イチコさんはホッとしたように俺を見上げて、でも、色っぽく瞳を濡らした。
 もう一度、強く握りしめる。今度はイチコさんの声も甘い。
「こういうの好きなんだ? イチコさん、Mなの?」
「ち、違ッ、私、そんな、痛いっ、いやっ、乱暴しちゃ、ダメぇっ」
「でも、すっごい濡れてきてる。好きなんでしょ?」
「痛いぃぃ!」
 尻をつねってみたら、グインて腰を跳ね上げて、息をますます荒くしていった。明らかに、声がエロくなってきてた。
「イチコさん、Mなんだ。兄貴といっつもこんなことしてんの?」
「違うの、あんっ、だめっ、こんなこと、あの人には言わないで…ッ、あぁっ、アキノリさんの言うこと、何でも聞くから、内緒にしててぇ!」
 ハハッ、そうなんだ。兄貴にも内緒の性癖なんだ。
 今は俺たち、普通じゃない。ピエロの音楽と曲芸ですげぇ舞い上がってて、並の興奮じゃない。セックスすげぇ気持ちいい。兄嫁とか義弟とか、どうでもよくなってた。この興奮と快感を楽しむことで精一杯だ。
 イチコさんの胸を握りつぶしたり、尻を叩いたりしながらセックスを続ける。ピエロは玉を転がし、陽気な音楽で俺たちを盛り上げる。ダンチョーは尻尾を振って俺たちの周りを走り回る。
 熱狂だ。すごい興奮だ。俺はイチコさんの中に放出する。イチコさんは唇を噛みしめ、俺の体温を体で受け止め、仰け反ると同時にすごい声を上げて痙攣し、俺のを痛いくらい締めつけた。
 やりきった。兄嫁を抱いて、俺は最高の快感に震えていた。イチコさんと重なりあって、俺たちは息が整うまで心地よい余韻にひたっていた。
『さて、一発すんだら行くぞ。パレードのはじまりだ!』
 ピエロのラッパにピョコンと立ち上がり、俺たちは元気よく足踏みを開始した。

24: 名前:nakami投稿日:2010/09/22(水) 21:49
(4/5)

 先頭にピエロ。ラッパと太鼓で陽気な音楽を鳴らす。
 その周りを楽しそうに駆け回る犬が一匹。首輪を外したダンチョーだ。
 ダンチョーの首輪は、今はイチコさんがしている。真っ裸で、首輪して、俺に繋がれているんだ。太鼓の音に合わせてそのでかい尻をパァンと叩いてやると、「はぁぁんッ」と甘い悲鳴で応えてくれた。
 ピエロと、犬と、兄嫁と行く真夜中のパレード。
 河原を歩く俺らを細い月が照らす。橋の下に誰かいる。昼間いた厨房どもが、まだこんなところにいたのか。
 でもわかるぜ。俺もそうだった。必死で今を楽しんでるフリしてたけど、結局ここには何もないし、行く場所なんてどこにもないんだ。
「じいちゃん、あいつらも連れてってやってもいい?」
 ピエロは、俺を振り向いてニンマリ笑った。
 ドンと太鼓を叩くと、厨房どもがビクンと気をつけした。またドンと叩くと、慌てて服を脱ぎ捨てて、歓声上げて駆けてきた。
 男子3名、女子3名。男子は大人なイチコさんの体に大ハシャギだ。俺は走ってくる女子どもを体で受け止め、キスと肌触りを楽しんだ。
 一人、飛び抜けて可愛い子がいる。自分で染めたらしい汚い金髪のせいで気づかなかったが、顔を見るととんでもない美少女だ。手足も長くて顔も小さい。
 こういう子ってたまにいるんだよな。本人の努力と周りの後押しさえあれば、ひょっとしたらモデルかタレントにってぐらい素材レベルの高い美少女なのに、地元のDQNなんかにハマって、ヤンママあたりで人生終了させちゃったりする。田舎ではよくあること。この子もそういうタイプだな。
 そんな金髪女子の体を持ち上げ、駅弁スタイルでファックしてやった。すげぇ締まりキツい。でも、いい。厨房のあそこ、すごくいいぞ。
 軽くて細い体を揺すってやると、「あんあん」喘いで俺の首に手を回し、キスをねだってくる。他の女子たちも俺の体にまとわりついて、次はあたし、なんて耳元で囁いてくる。
 ピエロのラッパに、ダンチョーが吼える。厨房女子を抱く俺と、厨房男子にイジくりまわされるイチコさん。俺たちのパレードはまだ続く。
「じいちゃん、俺、フミも連れていきたい」
 ピエロはニンマリと笑って、太鼓をドドンと鳴らした。そのままパレードは続く。やがて、河原に2組の男女の姿が現れた。フミと、おそらく役場のやつら。飲みの帰りなのか、どこかだらしなさも感じさせる。てか、未成年連れて飲んでんじゃねぇよ役場。
「…アキノリ…」
 虚ろ目だけど、間違いなくフミだ。久しぶりだった。髪、切ったんだ。ショートも似合ってる。変わらないアヒルみたいな口が可愛い。俺の元カノのフミは、ちょっとだけ大人っぽくなってたけど、全然変わってなかった。
 行こう。ついでに、お友だちも連れてってやるよ。みんなで一緒にパレードだ。
 裸になったフミが俺に駆け寄ってくる。俺はフミとキスをした。久しぶりの彼女の唇。俺たちは、お互いキスが上達してた。すげぇ気持ちいい。
「んっ、アキノリ、ちゅ、ちゅく、元気だった? んん…」
 久しぶりの挨拶とキスと交わす。互いの近況を交換しながら、体をまさぐり合う。初めて見るフミの形のいいおっぱい。スレンダーな体。初めて口づけするフミの乳首。あそこの毛。手触り。キス。俺たちは恋人同士に戻ったみたいに睦み合い、歩きながら繋がる。
 バックから挿入して、へこへこと腰を動かしながら進む。不自然なセックスだけど、パレードで愛し合いたい。
「ア、アキノリと、してるっ、私たち、しちゃってるっ」
「あぁ、そうだなっ。俺たち、してるな!」
「嬉しい? アキノリ、私としたかったんでしょっ?」
「お前だって、どうなんだよ。すっげぇ濡れてるぞ」
「いやぁ!」
「きゅっきゅって、すげぇ締まってる。したかったんだろ? 俺とエッチしたかったんだろ!」
「したかった、よ! 中学んときから、ずっと!」
「俺もだ、フミ! フミぃ!」
 ピエロと犬と兄嫁と厨房と役場職員で、派手に騒いで、パレードは真夜中を進む。
 相手を変え、みんなと交わり、踊りながら川を上って、丘の上。輪になって愛し合い、ピエロのラッパに合わせて踊る。
 イチコさんは大人気だ。厨房にバックから突かれ、役場職員にイラマチオされ、両手にチンポをしごいて忙しそうに喘いでる。
 向こうでは、騎乗位で繋がる役場職員とフミの友だちの臨時職員。その男の方の顔面にフミが跨り、アソコを擦りつけている。
 俺は厨房女子3名にフェラチオを教えていた。小さい舌が3枚一度に絡んで、くすぐったいような気持ちいいような、面白い快感だ。
 玉乗りピエロとダンチョーは、動物みたいにまぐわる俺たちの間を、猛獣使いさながらで走り回ってラッパを鳴らす。
 俺たちは熱狂していた。まともな頭なんてとっくになくなっていて、みんなで気持ちいいことを分け合い、愛し合っていた。
 月がそんな俺たちを照らす。蕩けそうだった。このまま夜に溶けて消えてしまいそうだった。

『パレードはもうすぐ終わりだ。アキノリ、今日の女はみんなお前にプレゼントしてやる。達者で暮らせ』

25: 名前:nakami投稿日:2010/09/22(水) 21:50

(5/5)


 ピエロがラッパを一吹きすると、女たちは揃って整列し、四つんばいになった。俺は左から順に女たちの尻に挿入していく。
 最初はイチコさんだ。
「イチコさん、俺の女になってよ」
「あぁッ、でも、そんな、私には…」
「なれよ」
「んんんッ! あぁッ、はい…なります、アキノリさんの女に…ッ、だから、お願い。あの人には黙ってて! アキノリさんには逆らいませんから、どうか、内緒にしててぇ!」
 イチコさんは絶頂に達しながら、俺の女になると誓った。
 ピエロがファンファーレを鳴らす。メンズ役場と厨房が喝采を上げる。
 次は、フミ。
「フミ、俺の女になれ」
「アキノリ…なるよ、アキノリの女に! 私、アキノリの彼女になるよぉ!」
 ファンファーレと喝采。フミが俺のところに帰ってきた。もう俺のものだ。
 あと、金髪の厨房女子も。
「うんッ、あたしも、お兄さんの女になる! 来年、修学旅行で東京行くから、いっぱいエッチして!」
「卒業したら、親説得して東京出てこいよ。お前ならチャンスあるかもよ」
「行く! 行くから、お兄さんの家で飼って! あたしを飼ってぇ!」
 役場の臨時さんも、他の厨房女子も、俺の女だ。祝福に包まれて俺たちは絶頂に達する。
 やったよ、じいちゃん。みんな、俺の女になってくれるって。最高だ。今日は本当に最高だよ、じいちゃん。

『そりゃあよかったな』

 ピエロは、汗で溶けかけたメイクをニンマリとさせて、玉の上で優雅に一礼した。
 俺たちは拍手を送る。感動の涙を流す。鳴りやまない喝采と口笛。かっこいい。あれが俺のじいちゃんだ。俺のヒーローだ。
 俺はじいちゃんを呼ぶ。必死に呼ぶ。でもピエロは礼をしたまま姿勢を崩さない。代わりに月が、ニンマリしていた。 ダンチョーが吼えている。
「…あれ?」
 いつの間にか、朝になってた。てか、ここどこだ。じいちゃんの部屋じゃねぇか。
 あれは夢…だったのか? 体がすげぇ疲れてる。てか痛い。畳の上で寝てたせいか? 膝とか足元とか、土だらけだ。
「じいちゃん?」
 布団の中で、じいちゃんはおとなしく眠っていた。でも、口元がニンマリしてて、すげぇ幸せそうな顔だ。
 でも…なんか、変だ。息してない。じいちゃん、息してない。
「じいちゃん!」
 体を揺さぶっても返事もなくて、俺はどうしていいかわからず、オカンを起こしに部屋を飛び出す。
 ダンチョーが、空に向かってずっと吼えてた。

 次の日がじいちゃんの通夜になった。
 俺にとっては突然の出来事でも、親や親戚はとっくに覚悟出来てたらしく、準備もすぐに済んでいた。
 兄貴の喪服を借りて、じいちゃんの遺影を横にメシを食う。
 昨夜のアレはなんだったのか、よくわかんない。でも、フミはさっそく俺のこと心配してメールくれるし、イチコさんも俺のこと意識して、兄貴の横でメシ食いながら、チラチラと俺と目を合わせては恥ずかしそうに逸らしている。
 パレードは終わって熱狂は冷めたはずだ。でも、俺たちの中にはまだあの熱が残っている。
 明日の夜、フミと会うことになっていた。そこで俺たちは恋人の約束をするだろう。そして今夜は、隙をみつけてイチコさんを誘ってみよう。きっと彼女は俺を拒めないはずだ。
 そんで、東京に戻ったら、ちょっと真面目に勉強しようか。
 当分、世の中は厳しいんだろうけど、頑張れば俺でも田舎の役場くらい受かると思う。だから、俺もちゃんと目標決めて努力をしよう。
 ここに帰ってくるために頑張るんだ。じいちゃん、俺、帰ってくるよ。必ず。
 じいちゃんは、『そりゃあよかったな』って顔して、俺を見ていた。
ピエロと月と秋のパレード/おわり

26: 名前:nakami投稿日:2010/11/11(木) 12:19
人妻人形日記・序


 僕の初恋の相手は、姉からもらった人形だった。
 あれは間違いなく恋であり、初めての劣情だった。

 当時、2人の姉は一番年下の僕を妹のように扱っていた。僕に自分たちのおさがりを着せてみたり、女の子みたいな言葉遣いをさせたり、よく近所の人に三姉妹と間違われていたことを覚えている。
 僕が自分のことを男の子だって自覚できたのは、下の姉が持っていた一体の人形がきっかけだった。
 リカちゃんという名前の人形で、キャビンアテンダントの制服を着ていた。もともとは父がどこかに出張してきたときのお土産なのだが、流行遅れで下の姉は気に入らなかったらしく、タンスの上でずうっと埃をかぶっていた人形だった。
 ある日、姉たちの部屋で1人で遊んでいたとき、ふと汚れたその人形が急に可哀相になった。タオルで顔を拭いて、服を洗ってやろうかという気持ちになった。
 上の姉やその友人と一緒の人形遊びやママゴト遊びに馴染んでいた僕は、人形を大事にするのは当たり前のことのように思っていたし、人形遊びから離れていく粗雑な下の姉には怒りすら覚えていた。
 でも、その女性的なプロポーションの人形の服を脱がせながら、僕はいつになくドキドキしていた。
 なんでだったんだろう。
 これはただの人形だ。作り物だから裸でもエッチじゃない。頭ではそう思ってても、服を一枚一枚脱がせていくことに僕はドキドキしていた。
 リカちゃんの服は人形のくせによくできた服だった。ジャケットを脱がせたあとのブラウスとか、ボタンとか、スカーフとかスカートのファスナーとか、徐々にあらわになっていく人形の白い肌に、僕はそれまでに感じたことのない興奮を覚えていた。
 最後に下着を脱がせて裸になったリカちゃんの体を、僕は撫で回していた。固いけど、すべすべしてて、僕の手の中で無抵抗に動かない女の子の体がとても気持ちよかった。顔に口づけして、髪の毛を噛んだりした。そして白いお腹に舌を這わせたあたりで、ふと、僕は自分のやっていることが恥ずかしくなり、人形を姉の机の上に立たせて、逃げ出してしまった。
 自分のしたことが、いや、自分がひどく気持ち悪い人間に思えた。そんなことで興奮する自分が怖かった。
 でも下の姉は、僕のそんな思いなど関係なく、机の上で裸になってるリカちゃんを見て笑うだけだった。変なイタズラするな、とか、いらないからやるよ、とか、そんなようなことを言って、笑って僕にその人形を押しつけた。
 姉は、僕がふざけて服を脱がせただけだと思ったみたいだった。
 でもそのせいで、ほんの気の迷いで終わるはずだったこの屈折した愛情は、本物になってしまった。

 ―――僕のお人形さん。

 その夜から、僕は毎晩そのお人形さんを抱いて寝た。
 布団の中でリカちゃんの服を脱がせ、裸にして撫で回した。頬ずりし、何度もキスをした。体を舐めたり、爪で股間を擦ったりもした。
 そうして僕は苦しいくらいに興奮していた。
 だんだんと下腹部が熱くなり、おしっこがしたくなる。ムズムズしてくる。
 僕はリカちゃんをおちんちんに擦りつけた。リカちゃんに、おちんちんを抱くようなポーズを取らせて何度も擦った。
 自分がひどく悪いことをしているような気がした。お人形さん相手にこんなことしてるヤツなんて、きっと僕だけだ。
 でも、それがすごく気持ちいい。
 僕はリカちゃんを愛している。そしてリカちゃんも僕を愛している。そう妄想することで僕は自分の中で免罪符を作っていた。これは愛し合う2人の自然な行為だ。間違ってないのだと。
 激しい興奮に突き動かされ、おちんちんがビクビクってなるまで僕は何度もリカちゃんを擦っていた。やりすぎると痛くなる。でも僕はリカちゃんを愛している。
 毎晩毎晩、僕とリカちゃんは逢瀬を重ねた。

 しかし、それも長くは続かなかった。
 男の子がいつまでもお人形を抱いて寝てちゃダメだと、ある日、母さんは僕に黙ってその人形を捨てられた。
 僕にとって、リカちゃんはただの玩具じゃなかった。秘密の恋人だった。僕は母さんに怒鳴り散らして、何日も泣き続けた。しばらくはごはんも喉を通らないくらいにふさぎ込んでいた。
 そして、それから何年も経ち、僕も普通に女の子に恋をするようになり、やがて初めてのエッチも体験した。
 幼い頃は女の子みたいだと言われた僕の顔も、思春期を過ぎたあたりからは女の子に好まれる顔になり、同世代の女の子とも恋愛をしたり、もっと気軽なセックスも何度か経験し、普通の男に育った。

 でも、あんな興奮を体験したことは、あれ以来一度もない。

 普通の女性と普通のエッチをして、僕の性欲は満足を感じても、心の底からの興奮は感じない。体中の血が熱くなるような、禁断の扉をこじ開けていくような、あの異常な高揚感が僕には忘れられない。
 通販でラブドールを買って抱いたこともある。あのときと同じ人形を買って同じ行為を試したこともある。
 でも、生身の女性の温かさを知った今となっては、そんな行為も虚しさを感じさせるだけだった。
 今の僕が求めているのは、普通の人形でも、普通の女性でもない。人間的な温もりがあって、それでいて僕に完全に支配されるものと、恋愛をしたいんだ。

 その矛盾する欲求を同時に満たすものなんてあるはずない。あるはずもないものを性欲として求める僕は変態なんだ。

 ……本物の女性が人形になればいいのに……

 そんな妄想をしているときが、今は一番興奮する。
 でも、そんなこと現実にはありえない。妄想で楽しむしかないんだ。
 性に目覚めたばかりの子供の頃、初めてあのお人形さんを抱いたときほどの熱い興奮は、もう二度と味わえないのだろう。
 そう思って、あきらめていたんだ。 あのときまでは。

27: 名前:nakami投稿日:2010/11/11(木) 12:20
人妻人形日記・1
>5月16日(金) 今日も先輩の家に呼ばれた。
 家といってもマンションの隣の部屋だし、あまり気兼ねはしていない。僕の勤めている会社が社宅としてこのマンションの2部屋を借りていて、それを利用しているのが独身の僕と、隣に住んでる先輩夫婦の関川さんだった。
 関川先輩は面倒見のいい人で、僕が入社して以来、こうしてよく夕飯に呼んでもらっている。人付き合いのあまり上手じゃない僕にも、先輩はさりげなく気遣いをしてくれる。
 僕は仕事もできて親切な先輩のことを尊敬していたし、こうして家に呼んでくれることがとてもありがたかった。
 そして、僕の楽しみはもう1つある。

 先輩の奥さん―――佳織さんだ。

 佳織さんは、僕より2つ年上の24才。先輩から見ると2つ年下で、実家がお隣さん同士の結婚だったらしい。
 スタイルが良くて、肌が白くて、モデルにでもなれそうな美人だった。でも性格は少し天然っぽくて、笑ったら年上に見えないくらい可愛くなってしまうんだ。
 その眩しい笑顔が僕は好きだった。
 僕なんかはまだ結婚なんて考えたことないし、今はそんな相手もいないけど、佳織さんみたいな人と巡り会えたら、きっと何を投げ出してもプロポーズしまうだろう。
 佳織さんは僕の知るかぎり最高の女性だ。僕の理想のお嫁さんだ。

 もちろん、そんなことは佳織さん本人にも、先輩にだって言えないけど。

「孝俊くん、おかわりいるー?」
「あ、は、はい、いただきます」
 僕は佳織さんの手に空になった茶碗を渡す。少しだけ指が触れてドキドキする。
「どうだ、孝俊? 佳織の料理はうまいだろ?」
「はい、おいしいです!」
「またー。そうやって無理に言わせなくていいんだってば」
 無理になんて言ってないのに、佳織さんは恥ずかしそうに先輩の肩を叩く。そんな仕草も可愛いと思う。
「孝俊くんも、この人に合わせなくてもいいんだからね?」
 佳織さんがテーブルの上に身を乗り出すと、二の腕に挟まれた大きな胸が白いニットの下で形を変える。僕は思わず視線をそこに向けてしまい、バレる前に誤魔化す。
「い、いえ、ホントに美味しいですよ、これ。いくらでも食べられます、はい」
 僕はたぶん顔が真っ赤になってただろう。でも佳織さんは、そんな僕の内心の狼狽に気づかず「孝俊くんに褒められたー」と無邪気に笑う。先輩が「無理してコイツに合わせなくていいからな」と言って、また佳織さんに叩かれる。
 独身男の前でイチャイチャしちゃって。
 ……羨ましい。

「それでさ、佳織。今度の出張、やっぱり長くなりそうなんだ」
「そっか…。うん、わかった」
 ある程度お酒が進んだ頃、先輩が来週から行く出張の話を始めた。
 佳織さんは寂しそうだった。今度の先輩の出張は、おそらくひと月くらいはかかるだろう。
 僕たちは電力関係の技術屋で、原発の仕事もしている。あちこちの原発の定期的な点検や、大きな声では言えないトラブルの対処なども引き受けてるので、一ヶ月単位での出張なんかもたまにある。しかもその間は、外部との連絡や接触も禁止されるのもよくあることだった。
 先輩はうちの会社でも信頼の高い技術者なので、そういったトラブル対応に回されることが多い。ちなみに僕も先輩と同じ技術者なんだけど、まだ部署の中では新人で、まだ書類仕事ばかりやらされている。
「なるべく早くケリつけて帰れるようにするよ」
「うん……」
「何かあっても隣は孝俊だし、心配ないよ。な、孝俊?」
「え、あ、はい」
 いきなり先輩に話題をふられて、声が裏返ってしまった。佳織さんが寂しそうにしている。僕はできるかぎりの頼もしさを笑顔に浮かべて、佳織さんに頷いてみせる。
「だ、大丈夫ですよ。いつでも頼りにしてください!」
「……ぷふっ」
「ハハハッ」
 なぜか2人は大笑いしてる。僕には何が面白いのか、よくわからないけど。
「ほっぺにゴハン粒つけてる人に言われてもねー」
「え、あ、あぁ!?」
「子供かよ、おまえ」
「あははっ」
 佳織さんが楽しそうに笑ってる。
 恥かいたけど、それだけでなんとなく嬉しくなる。
 彼女の笑顔を見るだけで暖かい気持ちになる。こんなこと考えちゃいけないってわかってるけど、もしも佳織さんが僕を頼りにしてくれたら、きっともっと嬉しいに違いない。
 でも、いくらポンワリしてる佳織さんでも、僕に頼らなきゃならない事態なんて、そうそう起きっこないだろう。
 お隣とはいえ、会社勤めと専業主婦ではなかなか顔を合わせる機会もない。この楽しい晩餐も、この佳織さんの可愛い笑顔も、先輩が帰ってくるまでおあずけかと思うと寂しくなる。

28: 名前:nakami投稿日:2010/11/11(木) 12:21
人妻人形日記・2
>5月22日(木)


『ごはん作りすぎちゃった(T△T)』

 しかし先輩が長期出張に発ったその日、さっそく佳織さんはやってくれた。
 帰宅途中に受け取ったこのメールに、僕はなんと返せばいいのだろうか?

『えーと、明日の朝ごはんにするとか?』
『カルボナーラだよー。そろそろ帰ってくると思って2人分作っちゃった。のびるー。のーびーてーいーくー』
『それじゃ僕が半分いただいてもよろしいですか?』
『お願いします。もうお帰りなのかな? タッパに詰めとくね』
『はい。今帰る途中なのでこのまま寄ります。材料費も折半しましょう。いくらですか?』
『そんなのいいよ!無駄になっちゃうだけだもん。どーぞ召し上がってくださいませm(_ _)m』
『ありがとうございます』

 僕は自然と駆け足になっていた。
 佳織さんに会える口実が向こうからやってきた。すっごい嬉しい。

「あ、おかえりなさーい」
 玄関チャイムを押すとき僕はすごく緊張した。そして今、佳織に「おかえりなさい」を言われて、たぶん僕の顔から火が出てると思う。まるで、夫婦みたいじゃないか。僕は勝手に意識して照れまくる。
 佳織さんは、いつもと同じ笑顔だった。
「ごめんねー。ひょっとして、晩ごはん用意してたんじゃないの? ホントによかったの?」
 パタパタと台所に向かう佳織さんに、僕は笑って「まさか」と答えた。
「もう少しメールが遅かったら、いつものコンビニでお弁当でしたよ。かえって助かったくらいです」
 佳織さんは「そうなの?」と驚いた顔をした。
「いつもコンビニのお弁当なの?」
「ええ、まあ。はい」
 そんなに驚くことかな?
 僕に限らず、独身男の晩ご飯の多くは出来合いの弁当か、外食だと思うけど。
 ちなみに僕の場合、1人の外食も落ち着かないから、毎日ほとんど家弁だ。
 佳織さんはパスタと、あとちょっとしたおかずを付けてくれた。すごく嬉しい。佳織さんは、にっこり笑顔で「おやすみなさい」と言ってくれた。
 今日は思いがけず、佳織さんの笑顔と手料理をゲットしてしまった。
 ラッキーだ。人妻人形日記・3
>5月23日(金)


『今日も作りすぎたぜ!\(^▽^)/』

 なぜに笑顔?
 しかも昨日の今日でまた同じ間違いしちゃうなんて、失礼だけど佳織さんらしい。
 ニマニマしてしまう顔を同僚に見られないように、僕は隠れて返信を打った。

『もうすぐ会社出ます。今日も分けて貰っていいですか?』
『どぞどぞ。お待ちしてます』

 やったぜ。今日も佳織さんに会える。美味しいおかずが食べられる。昨日からの幸運続きに僕はガッツポーズした。
 そして、わくわくしながらチャイムを押す僕を迎えてくれたのは、佳織さんの笑顔と、可愛いハンカチに包まれたお弁当だった。
「いらっしゃーい」
「えっ……と、あれ、これ晩ごはんですか?」
「うん」
「でも、これって、あの、お弁当では?」
 昨日のタッパの詰め合わせなんかじゃなく、きちんとしたお弁当箱に入っている。
 意味がわからない僕に、佳織さんは、ニッコリと笑顔を浮かべた。
「コンビニのお弁当よりも、私のが美味しいと思うよー」
「え、あ、あの?」
「なんて、ホントは昨日のお礼。あははっ。助けてくれてありがと。お仕事おつかれさまでした!」
 それから何て言って別れたかよく覚えてない。それくらい僕はボーッとしていた。
 佳織さんのお弁当。佳織さんが僕のために作ってくれたお弁当。
 もちろん美味しかった。何よりまだ温かかった。

 僕はすっかり舞い上がってる。
 ベッドの中で目をつぶっても、佳織さんの笑顔ばかりが思い浮かぶ。
 彼女のことを考えて、眠れない。

29: 名前:nakami投稿日:2010/11/11(木) 12:22
人妻人形日記・4
>5月24日(土)


 今日は土曜日で仕事も休み。そして僕に出掛ける用事もない。
 簡単に家事を済ませて、佳織さんのお弁当箱とタッパをきれいに洗い、お弁当を包んでいたハンカチも洗濯して丁寧にアイロンをかけた。あとは返しに行くだけだ。
 それだけなのに、なぜか緊張してしまう。隣の家に行くだけなのにわざわざ着替えたりして、何を期待してるんだろう、僕は。
 ドキドキしながら、僕は隣のチャイムを鳴らした。
「はーい。あ、孝俊くんか」
「朝早くに、すみません。あの、タッパとお弁当箱をお返しに……」
「あ、なんだ。わざわざ洗ってくれなくてもよかったのに」
 ラフなジーンズ姿の佳織さんも、きれいだと思った。本人を前にして緊張が加速する。
 そして、意外とそっけない佳織さんに、勝手にがっかりしちゃってる。
「なんか孝俊くん、今日はオシャレだね。どこか出かけるの?」
「え、あ、いや」
 僕の格好を見て、佳織さんは首を傾げる。確かに同じマンションの隣に行くだけなのにジャケット着てくるヤツはいない。冷静に考えれば当たり前のことだ。
「わかった、デートなんでしょ? いーなぁ。デートいいなー」
「えぇっ、いや、違います! そんなんじゃないですって!」
「またまたー。照れなくてもいいのにー」
「い、あ、ち、違いますから、ホント違いますって!」
「はぁ〜あ、若いっていいよね…輝いてるよね…」
「佳織さんだって、僕と2つしか違わないじゃないですか。と、とにかくそんなんじゃありませんから! 失礼します!」
「あ、うん。がんばってね!」

 完全に誤解されてしまった。
 でもまさかお隣の佳織さんと会うためにフル装備でした、なんて言えるはずがない。
 用もないのに、街に出かけて2時間ほどつぶしてから、僕はすごすごと部屋に帰ってきた。
 みじめだ。完全に敗北。
 いや、そもそも勝負なんてしてないけど。そんな度胸もないけど。
 せめて、もう少し佳織さんとおしゃべりしたかった。見つめていたかった。

 これはもう恋だろ。
 佳織さんに完全にやられてるだろ、僕。

 でも、僕は先輩のことを尊敬している。先輩と一緒にいるときの幸せそうな佳織さんが好きだ。あの2人が好きなんだ。
 報われないこんな気持ちを、いつまでも抱えていたってしょうがない。あきらめなくちゃいけない。
「佳織さん……」
 壁に向かって、僕は彼女の名を呟いた。この向こうにいる佳織さんは、今、僕がこんな気持ちを向けてるなんて思いもしないだろう。
 僕は孤独だ。彼女のそばにいると幸せで苦痛だ。この満たされない気持ちを、僕はいつまで引きずり続けるのだろうか。

 あー、ダメだ。気分を変えなきゃ。

 PCの電源を入れてネットに繋いだ。モニターの向こうの世界にこもって、しばし現実を忘れて楽しむことにする。
 僕は昔から、1つことにのめり込んだら、トコトンまでイってしまうタイプだ。一度スイッチが入ると突っ走ってしまう。
 何しろお人形にも恋しちゃうくらいだからタチが悪い。ちょっと鬱な今の気分を無理にでも切り替えてやらないと、どんどん沈んでいく方向になりそうだ。
 どこかに楽しいサイトでもないかな? 僕は適当にリンクを辿っていく。
 でも、モヤモヤしながらネットしていたせいか、気がつくとアダルトサイトに到達していた。昼間っからみっともないと思いながら、どうせなら自堕落的な休日もいいかと、僕はスウェットの中に右手を突っ込んで、アダルトサイトを転々とする。
 そして、そこで目にした、ある文章に心を惹かれた。
 ある不思議な能力を手にした男が、女の子を操って犯すという、妄想だらけのショートストーリーだった。
 でも僕はそのシチュエーションに閃くものがあって、そこのリンクからいろんなサイトを巡った。探しながら僕はドキドキし始めていた。
 必ずある。
 ただの予感だけど、僕がずっと探していた答えがどこかにあるような気がしていた。僕が長年苦しんできた、自分の歪んだ欲望を叶えてくれる鍵が、どこかに眠っているという直感。
 手が汗ばんでいく。
 喉が渇く。
 僕は夢中になってマウスを操っていた。

 やがて、僕はとあるサイトに辿り着く。
 直感が確信となり、僕の歪んだ性癖がくっきりと浮かび上がる。
 僕の醜い欲望が、文章となり、物語となり、そこにコンテンツとして整然と並べられていた。
 それはまさに、僕の人生を変える出会いだった。


  “E=mC^2”
人妻人形日記・5
>5月25日(日)


 それは、マインドコントロールを主題にした官能小説専門の投稿サイトだった。
 僕は夢中になってその膨大なMC小説を読み漁っていた。いろんな作品とシチュエーションと出会った。どれも僕の願望を叶えてくれるものだった。頭がクラクラする。脳内麻薬が洪水のように溢れている。気がつくと日付は変わっていた。
 なんて強烈なサイトだ。全員変態だ。
 他人の心を歩き回れる能力に目覚めた少年が同級生の恋人を寝取るとか、発情動画が日本中に蔓延して女の人が犯されまくるとか、鉄棒でくるくる逆上がりしてる女の子からエッチな呪文を教わるとか、MCで殺したイノシシの肉を炙って食べるとか、どんだけ変態なんだ、ここの投稿者たちは。
 でも、僕が心を惹かれたのは、そんなのよりもっとリアルな催眠術を駆使して女性を手に入れていく物語だ。
 僕が求めていたのは、まさにこれだ。じっくりと心を弄られ、男の手でいいように操られ、染まっていく女性たち。そこに至るまでの過程が特にいい。たまらない。

 僕はさらに『E=mC^2』からリンクを辿り、催眠術のサイトを巡った。理論から実践まで、いろんな催眠術の情報がネットにはあった。
 僕の体はガタガタ震えていた。新しい知識や妄想が頭を巡ってパンクしそうだった。でも、完全にスイッチの入った僕は次々に催眠術のノウハウを頭に叩き込んでいく。臨床心理学の論文から胡散臭いショー催眠まで、様々な技術や理論を吸収する。故意に隠されている箇所は他の知識から転用し、想像力で埋めていく。パズルのようにネットに散りばめられている情報から、僕は“催眠術”を自分なりに構築していった。
 どうして僕はこんな簡単なことにも気づかなかったんだろう。
 今まで行き場のなかった、女性を人形にして愛でたいという長年の妄想が、“催眠術”というツールで明確な形になっていく。現実味を帯びてくる。
 でも、これだって僕の妄想でフィクションだ。本物の催眠術なんて、無学で平凡な僕のみたいな人間にできっこない。わかってる。いつもの妄想に、具体的な道具が登場したってだけだ。
 なのに今日の僕は異常だった。一度も食事も睡眠もとらず、ただモニターに張り付いていた。危険で変態的な妄想の虜になっていた。

 あの人に催眠をかける妄想ばかりしていたんだ。

30: 名前:nakami投稿日:2010/11/12(金) 12:20
人妻人形日記・6
>5月26日(月)

 今日も一日中、妄想に取り憑かれていた。
 考えないようにしようと思うのに、気がつくと僕は催眠術のことばかり考えている。
 あのサイトを見てしまってから、僕の中で変なスイッチが入りっぱなしだ。仕事中もずっとネットで催眠術を検索し、知識やテクニックを頭に詰め込んで、何度もシミュレーションを繰り返していた。
 もうやめろ。僕はあの人にそんなことしたくないんだ。たとえ頭の中でも彼女を汚すようなことはするな。
 こんなことじゃ僕を信頼してくれてる先輩にも顔向けできない。
 僕は……最低だ。

『おいっすー。ごはん\(   )/作りすぎたぜー\(^▽^)/ でも、今日のはこないだのデート報告と交換ですからね(*^-^) コイバナ弁当ですからね(*^-^)』

 なのにどうしてこのタイミングでこんなメールをよこすのかな佳織さんは。ホント天然だな、この人。
 いや、彼女のせいじゃない。彼女の厚意を自分の歪んだ欲望と結びつける僕が最低なだけなんだ。
 大丈夫。僕は平常だ。
 僕は深呼吸をして、自分の心の底まで潜り、雑念を丁寧に打ち払い、そして浮上するイメージを繰り返す。繰り返しながらどんどん深度を深めていく。落ち着いて、焦らずイメージに集中する。
 自己流とはいえ催眠術をイメトレしていた成果なのか、暗示が効いて気持ちが落ち着いてくる。

『デートじゃないですよ。なので何も報告することもないんです。本当です』
『うそだー』
『本当です。この目がウソをついてるように見えますか(ёεё )』
『ええー。そんなー。私のときめきを返せー。でもごはんは作ったからおいでよ(⌒-⌒)』
『はい。ありがとうございます。帰りにお伺います』
『おう。気をつけて帰れよ』

「いらっしゃ……きゃー! ステキ!」
 今のは僕にではなく、僕が手土産に買ってきた某有名菓子店の紙袋を見て佳織さんが上げた歓声だ。
 佳織さんがここのプリンに目がないことは、僕と先輩の間で有名なのだ。
「えー、いいの? そんなに気を使わなくてもよかったのに〜」
「佳織さん、僕はまだあげるとは言ってないです」
 すでに僕の手からプリンは奪われていた。
「それじゃ、せっかくのお土産だし、上がってお茶でも飲んでく? あ、それともごはん食べてく?」
「いや、それじゃかえって悪いですから。佳織さん、召し上がってください」
「えー、でもお土産もこんなにあるし。いいから上がって上がって」

 すっかり機嫌の良い佳織さんに続いて玄関を上がった。よく知ってる家なのに、なんだか緊張してしまう。
 期待してなかったわけじゃない。そのお土産だって、もしかして家に上げてくれるかなっていう下心と計算が入ってる。
 でもそれは、少しでも彼女と一緒にいたいからだ。おしゃべりして、笑顔が見たいだけなんだ。何かしようってわけじゃない。
 僕は妄想に取り憑かれていない。ちゃんと自分の欲望をブレーキできる。大丈夫だ。

「うん、おいしいです」
「へへへー」
 佳織さんの作ったショウガ焼きはちょうどいい味付けで、これなら何杯でもご飯が食べられそうだ。
 目の前で食べてるとこ見られるのはちょっと照れくさいけど、佳織さんと食卓を挟めるのは幸せだ。
「私もプリンいただいちゃおっかな……んー!」
 プリンを一口頬張って蕩けそうな笑顔。ハートや花柄が飛び散ってる感じ。
 佳織さんは可愛い。先輩は毎日こんなに楽しい食事なんだ。うらやましい。
 食事が終わってからも、佳織さんはお茶を出してくれて、2人でプリンを食べて歓談した。
 僕は落ち着いて会話をリードできている。昨日までの僕とはまるで別人だ。自分自身を完全にコントロールしていた。
 でもそこが怖いような気もした。
 いつもの僕なら、佳織さんの前ではそれこそ恋する中学生男子のように舞い上がってしまうのに、今の僕は落ち着きすぎていた。
 僕は常に佳織さんの様子を観察して、その仕草から彼女の気分を読もうとしていた。空気を掴んで自分のペースで話を運ぼうとしていた。
 ネットで得た知識によれば、対象を催眠術まで導くためには、自分に対する高い信頼とリラックスを与える必要がある。そのためには、相手の心理を的確に読んで会話の主導権を握ることが肝心で、僕は別のサイトで女性との話術のコツまで頭に叩き込んでいた。
 もちろん僕は佳織さんに催眠術をかけるつもりなんてない。会話のコツなんてのが、本当に役に立つのか試してみてるだけだ。
 でも、ここまでのところそれは成功している。少しネットで知識をかじっただけなのに、こんなに会話が上手くいくなんて、なんだか怖い。
 それ以上に……ワクワクしてるけど。

「あー、なんか楽しいな」
 そう笑いながら、佳織さんはスプーンでティーカップをかき混ぜる。手元が落ち着かない。楽しいという気持ちは本当だけど、少し冷静になって気まずさも感じ始めている。と、僕には読める。
「佳織さん、ずっと退屈してたんじゃないですか? 何日も先輩いないし、つまんなかったでしょ?」
「そう。うん、そうなの、ホント。1日家にいてもすることないしね」
 僕は佳織さんに自然な言い訳を与えてあげた。退屈してたから、ついつい僕と話し込んでしまった。そしてそれは、先輩が何日も家を空けてるせいだと。
 もちろんそんなのはただの詭弁だ。人妻が隣に住んでる独身男性を家に上げて話し込む理由にはならない。
 でも、佳織さんはハッキリと自覚はしていないだろうが、今、佳織さんの中で僕とこうして二人っきりでおしゃべりしていることに、正当性が作られた。
 彼女は頬杖をついて、少し身を乗り出す。でも視線はテーブルに落としている。これはおそらく、彼女なりに深い話をするときの姿勢。次にきっと彼女は個人的な不安を僕に打ち明けると思った。
 なぜか、そんな風に僕は彼女の気持ちを読み取れていた。そしてその予感は確実に当たる。
「私、結婚して初めてこっちの方に来たでしょ? もう2年くらいになるけど、こっちで遊んでくれる人もいないし。昨日なんて地元の友だちと4時間も電話しちゃった」
「あー、わかります。僕もまだそんな感じです。まあ、先輩が家に呼んでくれたりして、すごい助かったんですけど」
「そうなんだ。孝俊くんもさみしい?」
「ですねー。先輩もしばらく帰ってこれないし。こないだの土曜日も、ホントは1人でブラブラしてただけなんですよ。なにか面白いことないかなーって」
「…ふーん」
 ここで僕は話題を切り替えて、たわいのないテレビの話とか、佳織さんの反応の良い話題で会話を続けた。
 佳織さんと二人きりなのに、こんなにフランクに喋れるのは意外だった。でもすごく楽しい。なにより佳織さんも楽しんでくれてる。
 しかし、今日のところはこのまま会話を引き延ばして長居するよりも、良い雰囲気のまま、こっちから切り上げる方がいいと僕は思った。そうした方が、次にも繋がるって。
 今の僕には、自分自身も、この場の空気も、佳織さんの気分ですら自由にコントロールできるという、妙に思い上がった自信があった。
「あ、ちょっと長居しすぎですね。そろそろ失礼します」
「え……そう? もうそんな時間?」
「ごはん、おいしかったです。マジ感謝です」
「え、あ、やだな。いいよ、ホント。プリン貰っちゃったし、私のほうが得しちゃったから」
「いやー、でもコンビニ弁当って本当まずいんですよ。僕としては今日も佳織さんの手料理食べれてラッキーでした」
「また、上手いこと言っちゃってー。へへ」
 そして、僕も見送って玄関まで来てくれたとき、佳織さんは手を後ろでモジモジさせながら言った。
「あー、あのね、孝俊くん。……またゴハン食べにくる? あんまり、たいしたものは作れないけど」
 来た。
 あまりにも思い通りにいきすぎて、思わずニヤけてしまいそうになるのを、僕は満面の笑みでおどけてみせることで誤魔化した。
「じゃ、明日来ます」
「さっそくかい。あはは」
「ははっ。でも作りすぎたら、いつでも呼んで下さい。マジで」
「うん。作りすぎたらね。ふふ」

 僕はただ、佳織さんともっと仲良くなりたいだけだ。佳織さんとおしゃべりして、もっと気安く冗談を言って笑ったり、ときどき彼女の手料理を分けてもらえたりできれば十分だ。
 それ以上の邪な気持ちなんてないし、佳織さんを汚すようなことは考えちゃいけないと思っている。
 今よりちょっと仲良くなりたくて、そのために、勉強した知識を使ってみてるだけなんだ。

 本当に。

31: 名前:nakami投稿日:2010/11/12(金) 12:22
人妻人形日記・7
>5月27日(火)


 今日は佳織さんからのメールはなかった。
 だから、僕の方からメールしてみる。

『こんばんは。もうごはん食べました? 僕の今夜の夕食は、焼き鳥とビールです』

 しばらく待っていたら、佳織さんから返信が来た。
 それだけのことでウキウキしてしまうなんて、まるで子供だな、僕は。

『ビールいいなー。私は冷凍の讃岐うどん食べました。ちょっと手抜きです(*^-^)』
『手抜きうどんかぁ』
『オヤジでたー!Σ(゚口゚;』
『すみません。間違って父からきたメールを転送してしまいました。今の僕じゃないんです』
『さては酔ってるな〜?( ̄▽ ̄)』

 僕はメールを打ち続ける。
 晩ごはんの話題が尽きたら、今やってるテレビとか芸人の話とか、映画のこととか、佳織さんがノってくるよう話題ならなんでもいい。とにかく話題を途切れさせないようにメールでの会話を続ける。
 メールの気安さが普段よりも饒舌にさせる。佳織さんを飽きさせないように、普段よりも軽いジョークやふざけた会話を送る。
 顔の見えないメールは僕にとって有利だった。僕は自己暗示で気持ちを落ち着かせ、佳織さんの気分をケータイ越しに読み取り、そして操るイメージで会話をリードしている。
 そして1時間近くもメールのやりとりをしていた頃だろうか。

『私たちメール終わんないね。すぐお隣なのにもったいないかも(^_^;)』

 佳織さんにそう思わせるのが、僕の今日の目標だった。
 それじゃあ、そろそろ締めようか。
 僕と佳織さんは今同じテレビ番組を観ている。芸人さんがひたすら有名店の美味しいモノを食べ続けるっていう、どこが面白いのかよくわからない企画なのだが、今はちょうど有名洋食店のハンバーグを食べているところだった。
 じつは佳織さんの得意料理も、スパイスや香草をたっぷり効かせたハンバーグだ。この話題はちょうど使える。
『確かにもったいないかもですねー。あ、ハンバーグ美味しそう。いいな、食べたいな』
『おいしそうだよねー。明日ハンバーグにしようかな?』
『いいですねぇ。僕も明日はハンバーグ弁当にしようかな』
『お弁当好きだねw それより、うちで食べない?』
『マジっスかー!? いいんスかー!? わー!』
『う、うん(^_^;) 真面目にお仕事がんばった子には食べさせてあげます』
『やった! じゃ、明日メールします。仕事も頑張ります!』
『また明日。がんばってねp(*^-^*)q』
『ありがとうございます。おやすみなさい』

 こういうのを、ラポールの形成と言うそうだ。
 催眠術を勉強しながら知った心理学の用語なのだが、ようするに僕と佳織さんの間に信頼関係を築いていく作業だ。
 これまでの僕は、佳織さんともっと親しくなれることを密かに期待しているだけで、自分から動いたり考えたりすることがなかった。
 でも今は違う。催眠術を妄想するようになってから、僕は変なスイッチが入りっぱなしになったみたいに積極的になってる。
 いや、むしろ佳織さんの方から積極的になるように仕向けている。そしてそれは、自分でも怖いくらいスムーズに、計算通りに上手くいっている。
 今の佳織さんは僕との会話を本当に楽しいと感じているようだ。先輩がいないときに僕を家に上げることにも、抵抗を感じなくなりつつあるように見える。
 昨日と今日の2日間で佳織さんの中の僕の信頼度はかなり上がっている。その確かな感触が嬉しいし、何より楽しい作業だった。
 ここで強引になったりしてはダメだ。あせらず2人の間のラポールを熟成させればいい。
 そうすれば、いずれ……。

 と、その先を夢想している自分に気づいて、慌ててやましい想像を振り払った。
 やめろやめろ。
 いつまでそんないやらしい妄想してるんだ。

32: 名前:nakami投稿日:2010/11/12(金) 12:24
人妻人形日記・8
>5月28日(水)


「いらっしゃーい。もうごはん出来てるから、あがってあがって」
「お邪魔します」
 今日も佳織さんの手料理をいただけた。佳織さんは機嫌良さそうに笑ってる。僕との会話を楽しんでいる。
 女の人って、自分の意見に同調してくれる相手がいるだけで機嫌がよくなる。彼女が自分で言っていたことを、語彙や言い回しを変えて、さりげなく気づいたフリして言ってやるだけなのに、自分の気持ちを言い当ててくれたと勘違いする。
 そうなると安心して何でも喋ってくれる。僕のジョークにも同調して盛り上がってくれる。
 会話で一番大事で肝心なのは、相手のリズムを掴んで、それをリードしてやることだ。
 今まで気にしたことなかったけど、確かに微妙なテンポの変化で相手の気分もわかる。気分を上げたがっているときも、ちょっと休みたいときも、そのときの波に合わせてリードしてやればいい。たとえ無言になっても慌てる必要はない。それが相手にとって気持ちの良い沈黙なら、次のきっかけを用意しながら黙っているのも、会話のうちなんだ。
 僕は、佳織さんとの楽しい会話ってヤツを、完璧にこなしていた。僕はいつのまにか他人の心を掴む会話術を身につけていたようだ。
「孝俊くんって面白いね」
「そうですか?」
「こんな人だとは知らなかったよー」
「そういえば、2人でしゃべったことって、あんまりなかったですもんね」
「うん。そっか。そうだよね。いつもはあの人ばっかりしゃべってたから…」
「あ、でもうちの会社には、先輩よりもよくしゃべる人がいて、その人はホント、四六時中おしゃべりしてるんですよ。よくそんなに話題あるなってくらい」
「へー」
「でも仕事がやばいことになってきたら、どんどんおとなしくなるんです。いつのまにか消えてるし」
「あはは、さいてー」
 たまに先輩の話になりかけたら、違う話題に振り替える。僕はそのへんも上手にコントロールしてる。
 佳織さんの上半身や肩に緊張しているような硬さは無い。ややテーブルに乗り出すようにしているのは、僕にもっとしゃべって欲しい気持ちの表れだ。僕の目を見て微笑む彼女には、はっきりと僕に対する信頼の気持ちが映っている。僕は嬉しくなって、しゃべればしゃべるほど巧みになっていく自分の会話を楽しんだ。

「……ふー」
 しばらくした頃、佳織さんが両手を突き出すように伸びをした。
「あ、疲れましたか。ちょっとしゃべりすぎましたね」
 もう8時半を回ってた。長居しすぎてしまったようだ。
「ん、違うの。大丈夫。私、肩こり症なんだよねー」
「そうなんですか?」
「ひどいときは頭痛とかもしちゃってさぁ」
「大変ですね」
 そういや、胸が大きい人は肩がこるっていう話だ。
 確かに、佳織さんって胸以外はスレンダーから、そこにだけ重りをぶら下げて歩いてるようなもんだよな……。
「んー」
 と、思って眺めていたら、急に佳織さんが伸ばした手を上に反らせるものだから、薄手のパーカーに隠れていた胸がいきなり強調された。さっきまでの余裕も忘れて、僕の顔は真っ赤に、心臓はドキドキと忙しくなった。
「い、今も頭痛するんですか?」
「いやー、そこまできつくはないんだけど……あの人がいれば、マッサージお願いできるんだけどね」
 マッサージ―――。
 僕の頭の中で、カチッと変なスイッチが入った気がした。
「私、昔から肩こりがひどくってね。家の近くに整体師さんがいて、おじいちゃんおばあちゃんと一緒に並んで受けてたりしたの。あはは」
「ははっ……でも、それってかなり辛いんですよね。うちも母さんや姉さんが肩こりひどかったんですよ」
「へー、そうなの」
「だから僕も昔はよくマッサージさせられましたよ。しかも代わる代わる全員に」
「あはは、末っ子は大変だ」
 ……やめろ。そのくらいにしておけ。変な下心を匂わせでもしたら、これまでに築いた佳織さんの信頼も崩れるぞ。
 頭では必死に止めてるのに、スイッチの入った僕の口は止まらない。ここで博打を打ちたい欲望が止められない。
 目の前にある美味しそうなエサに、思わず口の端が歪んでしまう。それを、好青年ぶった笑顔で誤魔化しながら。
「ちょっとだけやってみましょうか?」
 肩を揉む仕草を見せる僕に、佳織さんは「えー」と恥ずかしそうに首をすくめた。
 引かないでください。心の中で必死で僕は彼女にお願いしている。
「いいよいいよ。あとでお風呂入ったとき、自分でするから」
「でも、姉さんがいつも言ってましたけど、人にやってもらったほうが気持ちいいんですよね? もう夜も遅いし、少しだけ肩もみしたら僕も帰りますよ。ハンバーグ美味しかったから、そのお礼です。ははっ」
 佳織さんが受け入れやすいように、僕は自分のセリフに何個も彼女の使いやすい弁解を入れておいた。
 彼女が拒絶しなければならない本当の理由――、夫がいないときに隣人の男性を家に招き、自分の体をマッサージさせるという、背徳的な状況から目を逸らさせなきゃならない。
 でも、詰め込みすぎだ。わざとらしさが、彼女にバレるんじゃないかって冷や冷やする。
 やばいかな。
 佳織さん、警戒するかな。
「えー……いいの?」
 きた。
 佳織さん、のってきた。
 マジかよって、言っちゃいそうになって堪える。
 佳織さんは、僕のことを信頼してくれているんだ。
 まさか僕がやましい気持ちでこんなこと言ってるなんて、きっと思いもしないんだ。
「いいですよ、全然。家族で慣れっこですから」
「ふふっ、それじゃお願いします」
 ごめんなさいって気持ちと、ありがとうって気持ちと…あと、すごく興奮している。
 僕は最低の妄想野郎だから。

 佳織さんの後ろに回って、最初は弱い力で肩を押した。
 初めて触れる佳織さんの体。
 人妻の体。
 僕は指先に感じる彼女の体温に感動しながら、少しずつ力を込めていく。
「んっ」
 強めに押した途端に声が漏れたのを、佳織さんは恥ずかしそうに口を押さえて笑う。僕もドキドキしてる。
「かなり凝ってますね」と誤魔化して、僕は本格的に揉み始めた。
「ん、ん〜〜……」
「痛いですか?」
「だーっ、大丈夫っ、そんな、感じでー」
 固く目をつぶって佳織さんはじっとしている。整体にかかるくらいだから、強く揉まれることに慣れてるし、そのくらいが気持ちいいんだろう。僕は遠慮なく佳織さんの肩を手のひらで揉んでいく。
 パーカー越しに感じる佳織さんの体温と柔らかさ。堂々と佳織さんの体に触れている状況に少しずつ興奮は下半身に募り、股間が充血してくる。
 このことがバレたらえらいことになる。きっと佳織さんに軽蔑されるし、先輩に殺される。
 なのに、もっと佳織さんに触りたいという欲望に僕は逆らえない。
「頭痛がするくらいってことは、背中もこってるんじゃないんですか?」
 背骨に沿って降りていく僕の指を、佳織さんは「んー」と気持ちよさそうに受け入れていく。背中を少し反らせる仕草が色っぽい。ブラジャーのひもに触れたときはドキっとした。
「……あと首とか」
 佳織さんのうなじに触れた。直に触れた皮膚のなめらかさにゾクゾクする。
「う〜」
 佳織さんは気持ちよさそうにしてる。僕は彼女の肩に片手を乗せて、もう片方の手でうなじを上下にマッサージしていく。肩のあたりのすべすべした手触りも、生え際の髪の柔らかさも、うっとりするような気持ちよさだ。
「……佳織さん、少し喉を反らしてください」
「ん」
 僕のいうとおりにカクンと首を後ろに倒す佳織さんのうなじを、上に押し上げるように揉む。少しきついのか、佳織さんの眉がぴくんと揺れたが、僕に任せてくれている。
 佳織さん、今、自分がキスを待つときの顔になってるの、気づいてるだろうか。
 僕は手が汗ばまないことを祈りながら、彼女の横顔を後ろから覗き見ている。
 多少は母相手にマッサージの経験あるのは本当だが、威張れるほど上手くもなければ知識もない。でも僕は自分の指の動きに気持ちよさそうに身を委ねる佳織さんにドキドキしていた。興奮していた。ボロが出ても構わないから、今はもっと佳織さんの体に触れていたいと思った。
「佳織さん、次は肩胛骨のあたりをやります。肩を後ろに反らすようにして」
 両肩に乗せた僕の手に合わせて、佳織さんの胸がクッと前に突き出される。
 丸い胸の形がパーカーの薄い生地を中から盛り上げた。マジで鼻からハンバーグが出そうになった。
「じゃ、あの、け、肩胛骨の下を押します。ちょっと痛いかもしれないけど」
「んっ……んっ」
「はい、OKです。肩を上げて……ストンと落として」
 僕の言葉に合わせて、肩を抱く僕の手のひらの下で、佳織さんの筋肉と関節が動いている。
 ……まるで僕が操ってるみたいだ。
「肩の力を抜いて。回しますね」
 くるくると関節を回す。佳織さんが楽しそうに微笑む。
「手をだらんとして……そう。背中を少し揉みますね」
 揉むというより、佳織さんの背骨に沿って撫でた。手のひらで押すように。そして、その感触を楽しんで。
「息をゆっくり吐いて、楽にしてください。こうすると血行がよくなります。肩の重い血が下に降りて、軽くなります。どんどん軽くなります」
「はぁ……」
「そう。そのまますーっと力を抜いてください。支えてるから大丈夫ですよ。ゆったり楽にして、背中の血行が落ちていくのを意識してください」
 緩くなる佳織さんの背中を片手で支えて、僕は何度も佳織さんの体をさすった。首から腰の近くまで何度も上下して、その柔らかさを満喫した。佳織さんも気持ちよさそうにウットリしている。
 ずっとこうしてたいと思った。佳織さんの体に触れて、僕に身を委ねる佳織さんを見ていたい。
 でも、そういうわけにもいかない。
「はい、終わりです」
「……うわー、すっきりした」
 グンと背伸びした佳織さんは本当にスッキリした顔で、僕の中途半端なマッサージでも効き目があったのかと驚いてしまう。
「すごい良かった。孝俊くん、本当に上手なんだねー。ありがと」
「え、あ、そうですか? いや、そう言っていただけると……」
「うんうん。なんていうか、マッサージも上手だけど、声もいいよね。孝俊くんの言うとおりに動かしてたら、気持ちよくなった。ホントに」

 僕の心臓が跳ね上がった。
 ダメです、佳織さん。
 そんなこと言われたらたまらなくなる。『僕の言うとおりにしたら気持ちいい』とか、あなたに言われたら―――。

「……でもこういうのって、揉み返しっていうか、次の日にはまた固くなっちゃうんですよね」
「あー、なるなる」
「そもそもマッサージって、何日か続けてほぐさないとダメなんですよ、本当は」
「へー、そうなの?」
「ええ。筋肉って緊張と弛緩を繰り返しますから、完全にコリを取るには、何度かに分けてマッサージしないと本当の効果はないんです。まあ、一度やるだけでも結構楽になるんで、自然治癒も早くなりますけど」
「ふーん」
「それじゃ、僕はそろそろ失礼します」
「え、うん。ありがと。マッサージ気持ちよかったよ〜」
「こちらこそ、ハンバーグ美味しかったです」
 そして玄関まで見送りに来てくれた佳織さんが、あの後ろで手をモジモジさせる可愛らしい照れ方で微笑む。
 僕には佳織さんの言いたいことが予想できてる。
 でも、それは佳織さんのほうから誘わせないと意味がない。僕はいくらでも待てる。
「明日はねー、今日残ったニンジンとタマネギでカレー作るんだ」
「えー、いいですね」
「……食べたい?」
「もちろんです」
「ふふっ、言うと思った」
 僕たちはイタズラの共犯者みたいに、微笑みを交わした。
「おやすみなさい」
「うん。おやすみー」

 僕の手の中には、まだ佳織さんの感触が残っている。今夜、少しの間だけど、僕たちの間の距離はゼロにまで縮まった。
 感動と興奮に僕の心は震えている。そして徐々に現実的になって近づいてくる僕の夢想。

 ……眠れそうもない。

33: 名前:nakami投稿日:2010/11/12(金) 12:25
人妻人形日記・9
>5月29日(木)


「ん……」
 今日も食後に佳織さんにマッサージする。
 僕の方から「昨日の続きさせてください」と申し出ると、少し恥ずかしそうに「じゃ、ちょっとだけ」と、佳織さんは僕に細い背中を向けた。その無防備な背中が可愛いと思った。
「息を吸って、ゆっくり吐いてください。吐くのに合わせて肩を押しますから、力抜いてください」
「んー」
「それじゃ手を下ろして楽にして……首をマッサージしますね」
 カクンと、キス待ち顔になった佳織さんのうなじを強めに撫でる。
 僕の手の中でじっとする佳織さん。ドキドキする。なのに僕は昨日よりも積極的に指示を出し、そのとおりに動く佳織さんの感触を楽しんでいる。
「少し首を動かしますね」
 額に手を当てて、佳織さんの首を揺らす。彼女はすっかり僕に任せている。目を閉じたまま、じっと僕の手の中で揺れている。
「重い血がゆっくりと落ちていきます。体を楽にして……眠るときみたいに力を抜いて……僕が支えてるから大丈夫です。楽にして……」
 佳織さんのふっくらした唇が、少しだけ開いた。扇情的なものを感じて、僕は思わず目を逸らす。それでもゆっくり首を動かす手は一定のリズムを守っている。
「眠くなっても大丈夫です。今、背中を撫でますね……暖かくなってくのを感じますか? 血行が下に落ちていって、体を暖めています。頭の先から腰のあたりまで、重たい血がみんな落ちていきます」
 キッチンの椅子の上で、僕に抱かれるように支えられてるのに、佳織さんは全身を弛緩させて為すがままになっている。このまま抱きしめて、唇を奪いたい。その欲求を必死で押しとどめる。
「ゆっくり体を戻して……これでかなり楽になったはずです。肩も頭も背中も、血を入れ替えたみたいにスッキリしてますよ……はい、終わりです」

 佳織さんが、ゆっくりと目を開けて、グーンと伸びをして笑った。
「いやー。ホントに孝俊くんのマッサージすごいよ。気持ちいー」
「はは、そうですか」
「ホーント、寝ちゃうかと思った。催眠術みたいに。ふふっ」
「……あはは」
 内心の動揺を隠しながら、努めて笑顔で返した。確かに少しその気になりかけてた。佳織さんがあまりにも素直すぎるから、このままじゃ自分でもブレーキかけれないと思った。
 まさか、かかるはずはないと思うけど……でも、もしもってことも考えてしまう。想像してしまう。
 いや、そんなの不可能だ。考えるな。
「んー」
 佳織さんが眠そうに目をこする。僕と目があって恥ずかしそうに笑う。
 そういう仕草が可愛いと思うんだ。そばにいたいって思わせる。
 でもそんな魅力を感じるたびに……僕の中でスイッチが軋むんだ。
「佳織さん、そろそろおやすみの時間ですか?」
「いやいやまだ9時前だから。子供じゃありませんから」
「でも早く眠った方がいいですよ。今、たぶん体だけじゃなくて気持ちもリラックスしてます。たかが肩こりって言っても、心の影響もありますからね」
「ふーん、そうなの?」
「たとえば僕の姉さんで言えば、学校のテストの前とかひどかったですし……母さんなら、父さんが出張でいないときとか」
「あ……うん」
 出張というキーワードで、先輩の不在を思い出させる。できれば先輩のことは利用したくないが、佳織さんの納得できる理由になるなら、あえて使うことに躊躇はない。
「その肩こりの原因って、ストレスじゃないか思うんですよ。先輩がいなくて寂しかったり不安だっていう状況が、ストレスになってるっていうか」
「うん……だから肩がこるのかな?」
「だと思うんですよね、きっと。でも母さんや姉さんには僕のマッサージは評判良かったんですよ。肩が楽になったら、気持ちも楽になるって」
「あ、わかるよー。すごい気持ちよかったもん。なんだか心まで軽くなった感じ」
 肩や首の筋肉の血行がよくなれば、頭部を中心に体が楽になる。体が楽になれば、気分だって楽になったと感じる。
 当たり前のことなのに、佳織さんは僕の話にすごく感心して頷いている。
 彼女は僕の言うことを疑おうとも思っていない。幼なじみの先輩にずっと守られて、きっと彼女は他人に騙されたこともないんだろう。
 素直で無防備で可愛い人。だから笑顔が素敵な人。永遠にその笑顔を汚したくない。
 だけど僕は──複雑な感情を、とりあえず脇にどけてしまう。
「そういってくれると、マッサージしたかいがありました。ははっ」
「…そっかぁ…私、寂しいんだ…」
 佳織さんのその呟きは聞こえないふりをして、僕は席を立った。彼女の方から合図を出すまで、僕からは手を差し伸べない。ぎりぎりまで彼女を置いてきぼりにする。
「そんなわけで、今日はお風呂に長く入って、早めの就寝をおすすめします。僕はこれで帰りますから」
「え、あ、もう? うん、ありがとね」
「こちらこそですって。佳織さんにはご馳走になってばかりですみません」
「いいのいいの。お互い様だよー」
 玄関まで見送りに来てくれた佳織さんが、また照れくさそうにしながら笑う。
「孝俊くんがいてくれてよかったよ。1人ぼっちにならないで済んでるから、すごく助かってる。ホントに」
「はは、ありがとうございます。僕のほうこそ一緒にごはん食べれて嬉しいです。1人のごはんは寂しいですから」
「だよねー」
 僕はそのまま待っている。佳織さんから誘ってくれるのを。
「あ、あのさー……じつはカレーって、2日目のほうが美味しくない?」
「もちろん、僕は最初から2日目を楽しみにしてました」
「あはは、それじゃあ……また明日?」
「はい、おやすみなさい」
「おやすみ!」

 わかってる。
 僕は佳織さんと仲良くなりたいっていうだけのささやかな願望を、自分の手で崩し始めている。

 その下に眠ってるのが、とてつもなく卑劣な欲望だと知っていながら。

34: 名前:nakami投稿日:2010/11/12(金) 22:29
人妻人形日記・10
>5月30日(金)


「ん……はぁ……」
 もう3日目になるマッサージを、佳織さんはリラックスして受け入れてくれる。僕の指や手のひらに合わせて、佳織さんの筋肉や関節が皮膚の下で動くのを実感できる、至福の時だ。
「ぁ……そこ気持ちいい……んん……」
 佳織さんの声が妙に艶めかしいのもリラックスしているせいだ。誘惑してるわけじゃない。この人は天然さんだから、自分の声がかなりエロいことになってるのも気づいていないだけなんだ。
 そう自分に言い聞かせ、接地導体を用いたATC軌道回路における誘導妨害電圧の低減法を考察することで、僕は必死で平静を保っている。
「そ、それじゃ、今日はもっと本格的にやりますね。あの、ここだと椅子が固いんで、ソファの方でいいですか?」
「ん、はーい」
 キッチンからリビングに移動する。昨日までのマッサージとは雰囲気が変わって、少し緊張する。
 でも僕は、どうしても試してみたいと思っていた。
 ダメでもいいんだ。もしも佳織さんに僕のやろうとしていることがバレても……今の僕なら誤魔化せる。
 自信はなくても、もう我慢できない。いつまでも付きまとうこの夢想にケリをつけるには、試してみるしかないんだ。
「ふふ、なんか緊張するね」
「えっ、そ、そうですか?」
「だって昨日も、孝俊くんの言うとおりにしてたら、スウッて意識が軽くなったと思って、孝俊くんに終わりって言われるまで気づかないっていうか……眠ってる感じだったもん。ホントに催眠術みたいだったよ」
 ……ゾクゾクした。
 昨日、やはり佳織さんは催眠の入り口までイってたんだ。僕はそこまで出来ていたんだ。
 興奮が背筋を伝う。暴走のスイッチが、さらに一段入る。
「ははっ、そういう心配はしなくてもいいですよ。確かに僕のマッサージって、いろいろと注文うるさいですけど」
「あはは」
「でも催眠術とかって、こんなものじゃないですよ。テレビでやってるような催眠術なんてただのショーだし、本物の催眠術だって、心理療法とかの専門家のもとでキチンとした訓練しないと、素人じゃ絶対無理なんです」
「へー、そんなに難しいの」
「みたいですね。しかも実際にはそう簡単には催眠状態まで行かないから、長い期間かけて面接して、薬飲ませたり機械を使ったりしないと、たとえ専門家でも難しいらしいですよ」
「ふーん」
「簡単にできるもんだったら、とっくに警察や病院でも使われてますよ。便利すぎますからね。ははっ」
「あ、そうだよね」
「僕のはただのマッサージですから。でも筋肉って体の奥まであるから、外から揉むだけじゃなくて、自分から動いてもらって血行の流れ良くしないと効果低いんです。つまり、僕が下手くそだから佳織さんの協力も必要なんです」
「あはは、またまたー」
「眠くなっちゃうのも、マッサージの効果の1つなんですよ。心も筋肉と同じで、緊張と弛緩を繰り返してます。佳織さんが眠くなったのは、体の筋肉がほぐれるのと一緒に、心もリラックスしてストレスを吐き出したからですね。心が楽になったから、このまま眠りたいって思っちゃうんですよ」
「へー……なんかすごいな、孝俊くん。言ってることがプロっぽいよ」
「ははっ、そうですか?」
 こんなにスラスラと嘘をつける自分に感心する。
 催眠術の勉強してたつもりだったのに、これじゃサギ師やペテン師のテクニックを身につけてしまったみたいだ。
「それじゃ、マッサージの続きしますね。少しずつ楽になってくと思うんで、そのときは寝てもいいですよ。終わったら起こしますから」
「はーい」
 肩をゆっくりと揉んでいく。手のひらを使って撫でるように。
「結構ほぐれてきましたね」
「うん、すごい調子いいよ、昨日から」
「あ、でもここは少しこってるかな?」
「んっ」
 少し強めに肩を押す。佳織さんは辛そうに顔をしかめるけど、力は緩めない。
「佳織さん、僕の動きに合わせて肩にグッと力を入れて下さい……うん、そんな感じで」
 僕の指に合わせて、佳織さんの肩に力が動く。一定のリズムでそれを繰り返す。
「それじゃ、肩を上げて……下げて……もう一度……はい、いいです。次は背中を撫でますね」
「ん……」
 上から下へ撫で下ろすのを繰り返す。僕のマッサージが優しい動きになって、佳織さんが気持ちよさそうに目を閉じる。
 僕はそのまま佳織さんの腰のすぐ上あたりを押す。柔らかな手応えを楽しみながら、温めるように手のひら全体で撫でる。
「こうしたら、背中からお腹の方が温かくなってきません? 意識をできるだけそこに集中させてください」
「ん……」
 しばらくそれを続けてから、僕は佳織さんの体を後ろに倒して背もたれに寄りかからせる。そして佳織さんの手をお腹の上に置かせる。
「ここが温かいですね? そのまま両手で抱えててください」
 深く腰掛ける体勢で、佳織さんの頭を上向かせ、軽く手を擦り合わせて佳織さんの額に乗せる。
「僕の手の温度を感じますよね? お腹の温かさと同じでしょ? 額からお腹へ、この温かさが降りていくのをイメージしてください。スウッと降りて、お腹に溜っていきます。首の血行が降りていきます。どんどん降りていきます。首の力を抜いて、降りやすいようにしましょう。肩の力も抜いて、ゆっくり呼吸して。どんどん楽になっていきますよ……」
 佳織さんの体から素直に力が抜けていく。ここ数日こうしてマッサージを続けてきたから、彼女は僕の指示を信頼してくれている。反応はすごくいい。
「もっと肩の力を抜いて……大丈夫、僕が支えていますから楽にして。首と肩から力を抜いて、全部お腹に降ろしましょう。お腹が温まるのを意識して……」
 佳織さんのお腹の上で手を重ねる。柔らかい手。大胆な行動なのに、僕は落ち着いている。自分のやってる手順が、間違ってないと確信している。
「それでは両手を離して、ゆっくり広げて……ほら、スウッとお腹から何か抜けていく。これが佳織さんの心のコリです。佳織さんはこれで楽になりました。心を締め付けていた重いモノや固いモノが出て行って、心が軽く柔らかくなりました。気持ちいいですね……」
 佳織さんの唇に、うっすらと笑みが浮かんだ。
 笑われてるのかな?
 いや、大丈夫。佳織さんは気持ちよくて自然に微笑んだに違いない。大丈夫だ。上手くいっている。信じろ。
「ゆっくり呼吸してください。そして、体が楽になっていくのを感じてください。息を吐くのに合わせて、佳織さんの体は深く沈んでいく…吸って…次は軽くなって浮いていきます…吐いて…沈んでいきます…はい、それを繰り返します」
「はぁ……」
 長いため息と一緒に佳織さんの肩が沈む。僕は佳織さんの髪を撫でながら、耳元に囁きかける。
「佳織さん……僕の声が聞こえてますか?」
「……うん……」
「心を楽にして、僕の声を聞いて下さい。あなたの体は僕が支えている。だから安心してください……佳織さん……今、あなたは自由になりました……もう何もあなたの心を縛るものはない……リラックスして……自由を楽しんで……」
 佳織さんは静かな息を立てている。ひょっとしたら眠ってしまったかもしれない。
 僕は彼女の髪を撫でていた指を離して、耳元で声をかける。
「僕の声が聞こえますか? 聞こえたら返事をしてください」
「……はい」
 その声。
 いつもの明るい佳織さんの声とは違う、ぼんやりとした、表情のない声。
 まさかとは思う。でも、佳織さんは今、本当に催眠術かかってるんじゃないだろうか。
 心臓の音が激しく僕の胸を揺らす。
「あなたの名前は……?」
「……かおり……」
 ゾクゾクきた。
 虚ろで、頼りない声。彼女の心から、ぽっかりとこぼれ落ちたように、意志の感じさせない呟き。
 これが催眠声。佳織さんの催眠声。
 たまらない。こんなに興奮する声、初めて聞く。
「佳織さん。あなたの心は今、とても身軽になって羽ばたいています……遠い空……知らない土地の上を飛んでいます」
「はい……」
「あなたは自由で、とても楽しい。今いる場所のことなど忘れてしまった方がいい」
「……はい」
「遠く……遠く……どこまでも自由に飛んでいく……」
 佳織さんの呼吸はゆっくりとして落ち着いている。
 うっすらと微笑みを浮かべているように見える。
 彼女の心は、羽ばたいているんだろうか。
 どこか知らない土地まで、飛んでいるのだろうか。
「佳織さん…あなたは今、どこにいますか? 僕にその場所を教えて下さい」
「ここ……ここは……」
 佳織さんが困ったように顔をしかめる。
 僕は喉を鳴らす。
 本当に催眠術は成功しているのか否か。
 僕の人生で、こんなに緊張した瞬間はない―――。

「……わかりません……」

 興奮が突き上げてくる。叫びたい気持ちがあふれそうになるのを、こぶしをきつく握りしめる。
 僕はさっき彼女にここがどこか忘れるように言った。そして、彼女はここがどこかわからなくなった。
 佳織さんは催眠術にかかっている。
 この僕の催眠術に!
「佳織さん……あなたは今、僕の声しか聞こえない。とても静かで落ち着いた気持ちです。何も考える必要もないし、悩みもない。それはとても幸せなことです……そうですね?」
「……はい……」
「楽しかったことを思い出してください……家族に囲まれて幸せだった幼い頃……仲の良い友だちと遊んだこと……祝福されて結婚したこと……」
 佳織さんに幸せなそうな笑顔が浮かぶ。先輩との結婚式を思い出してるのかって胸が痛くなる。
 でも、その想い出も全部、今は僕のために使わせてもらう。ごめんなさい、先輩。
「気持ちいいですね、佳織さん? あなたは今、幸せですね?」
「はい……幸せ……」
「それは僕のマッサージを受けたからです。僕を部屋に招いて、一緒の時間を過ごして、そして僕に体を触れられると、その幸せな気持ちでいっぱいになります。僕の手が触れたところは、気持ちよさでいっぱいになります。これであなたはいつでも幸せになれる。嬉しいですか?」
「うん……」
 キスしたくなるくらい可愛い笑顔だ。でも我慢しろ。今は……我慢しろ。
「佳織さん。でも、マッサージには揉み返しはあります。僕がいなくなったらあなたは寂しい。1人になってしまうから、また心にコリができてしまう。それは仕方のないことです」
 佳織さんが困ったように眉根を寄せる。僕はそっと後ろから佳織さんの肩に手を伸ばす。
「でも僕が佳織さんに触れると……今、肩に手を触れますよ。すると、ほら、マッサージの気持ちよさを思い出します。幸福で気持ちいいです。これがマッサージの効果です。僕にしかできません。僕に会えばあなたはいつでも幸せになれるのです」
 ホッとしたように佳織さんが微笑む。僕はその肩や首、髪や耳をくすぐるように撫でる。
「ほら、ね、気持ちいい。それじゃマッサージを終わりますよ……深く体を沈めて、力を抜いて……心を空っぽにして、全部忘れて……そう、あなたは僕に言われた言葉を忘れてしまいます。でも、幸せになれた気持ちは、大事にして覚えておきましょう。あなたはどうやったら幸せで気持ちよくなれるのか。どうやったら普段の寂しい気持ちを忘れられるのか。その答えは心の奥深く、あなたの意識のずっと底に沈めておきましょう……さあ、僕のマッサージが終わります。僕が肩をポンポンポンと3回叩いたら目が覚めます。あなたの体はすごく楽になってる。さあ、叩きますよ」
 3回、佳織さんの肩を叩いた。
「佳織さん、終わりましたよ」
「あ……」
 ぼうっとした顔で、僕の顔を見上げる佳織さん。どきりとするほど色っぽい。
「ん〜、スッキリしたー!」
 佳織さんは、頭の上で手を組んで、グンと伸びをする。
 僕はずっとドキドキして、落ち着かなかった。

35: 名前:nakami投稿日:2010/11/12(金) 22:31
人妻人形日記・11
>5月31日(土)


 今日は土曜日。本当なら休日だけど、昼間少し職場に出て仕事した。でも全然はかどらなくて、すぐに帰ってずっと家にいた。
 そして佳織さんのことを考えてる。
 昨夜はあれからすぐに帰った。佳織さんはもう少しのんびりしていけと言ってくれたが、あれ以上は無理だった。
 興奮して眠れなかった。僕の催眠術に佳織さんがかかったんだ。
 あの弛緩した体。虚ろな声。
 何度も思い出しては身悶えて、気がつけばもう朝だ。そして昼を過ぎて夕方近くまで何もせず過ごしていた。
 佳織さんにはメールしていない。メールして、会いに行く口実を探したい欲求を僕は必死で堪えている。

 昨日、僕は佳織さんに寂しい気持ちを植え込んだ。
 そしてそれから解放されるためには、僕に会うしかないと心の奥底に言い聞かせた。
 もしもそれが成功しているなら、佳織さんも今、1人で寂しさと戦ってることになる。
 だったら僕から誘っちゃダメだ。彼女の寂しさが行動に結びつくまで待った方がいい。そうじゃないと本当に催眠が効いたのかどうか確かめられない。
 でも、もしも本当に彼女から誘われたなら……僕は取り返しのつかないことをしたことになる。
 先輩の奥さんに、人妻に催眠術をかけて、僕に会いたくなるように仕向けたんだ。
 それはとても許されることじゃない。絶対に許されないことだ。

 そして……メールは来た。
 震える手で携帯を開く。送信者は佳織さん。タイトルは無題。

『お弁当もう買った?』

 いつも饒舌なメールを送ってくる佳織さんから来た、たった1行のメール。
 深読みしてしまう。
 手が汗に濡れて、返信がうまく打てない。僕はものすごく緊張している。

『いえ、まだです』

 佳織さんからの返信は、15分後だった。

『食べに来ない?』

 心の中で「いただきます」と手を合わせて、僕は出かける用意をした。

「ん……あ……ぁ……」
 もはや恒例になった食後のマッサージに、佳織さんはいつもよりも艶めかしく気持ちよさそうな声を出す。
 最初は普通に筋肉を揉んでいたけど、佳織さんの吐息に誘われるように、僕の手はいつのまにか体を撫で回すようないやらしい動きになっていた。
 もうとてもマッサージなんて呼べるような触り方じゃないのに、佳織さんは嬉しそうにそれを受け入れている。僕の股間はすでに熱くてやばい状態だ。
「んっ……ふぅ……んん……あん……」
 背中も脇腹も僕の手が触れる場所をくすぐったそうに佳織さんは身をよじる。僕は大胆に肩に触れ、首筋を撫で、その感触を手のひらに焼き付ける。
「佳織さん……首を楽にして、体を沈めて」
 トロンとした目をゆっくりと閉じて、佳織さんが僕の手の中で弛緩する。
「もっと楽に……心をからっぽにして。僕の声しか聞こえなくなります……今、佳織さんは僕の声だけで繋がっています。心は広く暖かい場所で休んでいます……」
「はぁ…ぁ…はぁ…」
 柔らかい。そして、少し汗ばんでいるのか、しっとりとした体。
 感じているのか。僕のマッサージが、昨日よりもずっと気持ちいいのか。
 僕の手はいやらしさを増して彼女の体を撫で回す。マッサージというよりは愛撫に近い触れ方になりつつある。そして、彼女自身はそのことに疑問すら感じている様子はない。

 彼女はトロトロと、僕のマッサージで催眠状態に堕ちていく。

 このまま抱きしめたい衝動と戦いながら、ソファに深く沈んでいく佳織さんの頭を撫でながら、僕は繰り返す。
「もっと楽にして……もっと気持ちよくなります……僕の声に任せて……もっと楽に……」
 佳織さんの呼吸は寝息のように聞こえる。僕は慎重に唾を飲み込み、佳織さんの耳元に顔を寄せる。
「……佳織さん、聞こえますか? 聞こえたら返事してください」

「……はい……」

 この声。
 弛緩した体の奥。心の底から漏れるような吐息と一緒に、頼りなげに発する声。
 催眠声だ。佳織さんの、無防備な心の音だ。

「……佳織さんは今、心をからっぽにした状態です。とても自由です。僕の質問には何でも答えます。あなたの心は僕の声に繋がってますから、何でも隠す必要はありません。安心して答えてください」
「はい……」
 しびれる。なんて魅力的な声。
 本当に催眠術にかかってるなら、この声で、彼女はどんな質問でも答えてくれるはずだ。

「佳織さん……あなたの誕生日は?」
「9月11日です……」
「血液型は?」
「O型です……」
 いい。すごくいい。この掠れるような囁き。ゾクゾクしてくる。
 落ち着けと何度も自分に言い聞かせるが、どうにも収まりそうもない。
 もっと聞きたい。佳織さんのいろんなことを、この声で。
「佳織さん……あなたは今日、どんな休日でした? 楽しかったですか?」
「昼間は……退屈でした。孝俊くんが来てからは楽しかったです……」
「た、孝俊くんに、会いたかったですか?」
「……はい……」
 僕の催眠が効いてたんだ。佳織さんは、ずっと僕に会いたかったんだ。
 ワクワクしてきた。もっと大胆なことを聞きたくなってきた。
「きょ、今日の下着の色は?」
「……ベージュです……」
「佳織さんは、処女ですか?」
「……違います……」
 何を聞いてるんだ僕は。
 佳織さんは人妻なんだから当たり前だろ。
「それじゃ……い、今までに経験した男性の数は?」
 僕は唾を飲み込んで、佳織さんの答えを待つ。
「……1人です」

 1人。
 たった1人。

 僕は狂おしいほどに先輩に嫉妬を感じた。
 そして同時に安心した。
 佳織さんには、そうであって欲しいと願っていた。僕の知らない誰かに抱かれる佳織さんは想像したくなかった。
 それでも、佳織さんを独占した先輩に対する嫉妬は胸に痛いほどで、自分を落ち着かせるのに、少しの時間を要した。
 リビングの中を、意味もなく行ったり来たりする。爪を噛む。呼吸を整え、なんとか気持ちを静める。
 でも黒々とした欲望は、まだお腹の底で渦巻いていた。
 もっといやらしい質問を彼女にぶつけたい。
「す、好きな体位は……?」
「…………」
 佳織さんが顔をしかめる。やりすぎたかも。催眠が解けるのかと僕はドキドキする。
 だけど、ずっと同じ顔をしている佳織さんに、ふと、思い至って質問を変える。
「旦那さんとエッチするときは、どんなポーズが好きですか?」
「……上から……抱っこされるの……」
 佳織さんは、体位という言葉でエッチを連想するほど性の知識はないみたいだ。中学生だって知ってる言葉だと思うけど。
 でもそういうところ、なんだか彼女らしい。しかも、上から抱っこって。正常位のことだろうか。いろいろ想像してしまう。
「し、週に何度くらい、旦那さんとエッチしますか……?」
「……3回……か……4回……」
 くやしい。
 うらやましい。
 僕ならきっと毎日でも抱いてしまう。
 一日中、佳織さんを抱いているに違いない。
「あなたのほうから、旦那さんをエッチに誘うことはありますか…?」
「…時々…」
「エッチは、好きですか?」
「きらいでは、ないです……」
「好きですか? きらいですか? どっちですか?」
「……好きです……」
 すごい。
 興奮する。
 佳織さんの心を覗いていくのはすごい快感だ。もっともっと佳織さんのことを知りたい。深く知りたい。何でも知りたい。
 僕は彼女の幼い頃を聞く。どんな遊びをしていたかも聞く。小学校の思い出。中学生の思い出。高校1年で先輩に告白したそうだ。初めてデートした場所は地元の隣の街。キスしたのはその年のクリスマス。でもエッチは高校を出てからだそうだ。すごい泣いたそうだ。
 佳織さんの好きな食べ物。嫌いなもの。友達の名前。先輩のどこが好きか。嫌いか。聞きたいことは山ほどあった。佳織さんは何でも答えてくれる。
 でも時計を見ればもう結構な時間が経っていた。これくらいにしておかないと、後で怪しまれる。
 僕は佳織さんの肩に手を乗せた。

「佳織さん……もうすぐマッサージは終わります。佳織さんは気持ちよく眠っていて、その間のことを忘れてしまう。僕との会話を覚えてません。でも、とても気持ちよくて、すっきりした気分です。だからあなたは、僕のマッサージが受けられないと寂しい。僕がいないと寂しい。でも、今は僕のマッサージが受けられて幸せです。さあ、肩を3回叩いたら目を覚ましましょう」
 言葉通りに僕が肩を3回叩くと、佳織さんはスッキリと目覚めて、体が軽くなったと微笑む。
 少し上気した顔が色っぽい。いつも以上にマッサージが効いているようだ。
「そ、それじゃ僕はそろそろ帰ります」
「えー、もう?」
 昨日よりも暗示が強く効いているのか、佳織さんは本当に寂しそうな顔をする。
「でも、こんな時間ですし」
 時計はすでに9時を回っている。
 というより、ここにいては僕の興奮が収まりそうもない。早く帰って頭を冷やしたい。
「あ、そうだ。座って座って。お返しに孝俊くんをマッサージしてあげるから」
「いや、そんなのいいですよ」
「なんでー? いいじゃない。いつもしてもらってるんだし」
 佳織さんに押し切られ、僕はソファに座らされる。佳織さんの細い指が僕の肩を優しく揉みほぐす。
「お客さん、こってますねー」
 確かに、ここ数日ずっと僕の肩に力は入りっぱなしだろう。もちろん仕事とは関係ないところで。
 まさかその張本人にマッサージしてもらうとは、変な話だ。
「んしょ……んしょ……もう少し強いほうがいい?」
「いえ、大丈夫です。気持ちいいです」
 佳織さんは機嫌良さそうに僕の肩をマッサージしてくれてる。催眠術でプライベートを覗いたこの僕に。夫婦の性生活を暴いた僕なんかに。
 今さらながら、チクチクと胸が痛んだ。
 でもそんな苦々しい僕の気持ちを、彼女が知るはずもない。
 いつもの温かい声が、僕の耳に優しくささやきかけられる。

「ね……明日は何食べたい?」

36: 名前:nakami投稿日:2010/11/12(金) 22:32
人妻人形日記・12
>6月1日(日)


 日曜日の午後。
 僕たちは夕食の材料を一緒に買いに行くことになった。
 今日の夕食もご馳走になる約束をしたとき、僕はいいかげん材料費くらい負担するといって、固辞しようとする佳織さんを強引に説き伏せた。そして、何を買おうかっていう話のときに、いきおいで一緒にスーパーまで買いにいく約束まで取り付けたのだ。
 デートっていうほど大げさなものじゃない。でも、一緒に出かけるっていう行為に、確実に縮まっている2人の親密さを感じる。
「あ、孝俊くん入れすぎだよ」
「肉好きだからいいんです。あ、鶏肉も買っちゃおう」
「だーかーらー。マーボー豆腐に手羽元は入りませんー」
 僕はさっきから好き勝手に適当な材料をカゴに放り込んでいる。どうせ払うのは僕だ。どんどん入れてやれ。
「も〜、これじゃ一週間分の食材だよ」
「ですねー」
 佳織さんが上目遣いに僕を見る。僕は彼女と目を合わせないようにして、適当に相槌を打つ。僕の言いたいこと、佳織さんはもう分かってると思う。
 少しばかり大胆なメッセージだった。でも大丈夫だと僕は確信している。この程度のわがままなら、今の佳織さんなら受け入れてくれるはずだ。
「わかったよ……孝俊くんの晩ごはんは、しばらく私が面倒見ます」
「やった」
「もう。ふふっ」

 夕食を楽しく一緒に食べた。
 佳織さんはいつもよりテンション高めで、よく笑って、よく喋って、終始機嫌が良さそうだった。
 そして、夕食が終わればいつものマッサージだ。
「んんっ……あ……はぁ」
 佳織さんの声は今日も艶めかしい。こんなにエッチな声を出してるって、本当に気づいてないんだろうか。
「くぅ、ん……ふぁ……あ……」
「佳織さん、もっと力抜いて」
「……ぁ……はい……んん……」
「今日は歩いたから、足も疲れてるんじゃないですか? 少し体を横にして、ソファに足を乗せてください」
「ん……こう……?」
 ソファの上で足を崩す佳織さんのふくらはぎを、僕もソファの隣に座って撫でるように揉みほぐしていく。
「あぁ、ぁ……くぅん……んん……」
 ピクンと体を震わせて、佳織さんの体が少しずつ崩れていく。僕に足を任せて、ソファのクッションに顔を埋めて声が漏れるのをこらえる仕草は、まるで僕の愛撫に感じているように見える。
 いや、実際に佳織さんの体は感じてる。僕に触れられるだけで幸福感と快感を覚えるようになっている。
 感じまくっているはずだ。限りなく性的な快感に近いものを。
「ふぅん、んん、ん……ん……」
「佳織さん……体を起こして。大丈夫ですか?」
 僕が背中を支えて、佳織さんをソファの上に起こす。僕の腕に上気した頬を乗せて、荒い息をつく佳織さんの色っぽさに、僕は襲いかかりたい衝動を抑えるのが大変だった。
「佳織さん、力を抜いて。リラックスしましょう」
「ん…ぁ……無理かも……今日のは効きすぎるよ……」
 あまりにも佳織さんがよく反応するから、僕もやりすぎたかもしれない。まだ息の整わない佳織さんの上下する大きな胸。手を伸ばせばすぐそこにある双丘の誘惑に、目がチカチカしそうだ。
「大丈夫です。ホラ、まぶたを閉じて……」
 手のひらで佳織さんの目を覆うと、軽く揺するように左右に首を振った。
「首の力が抜けて、肩が楽になります。ゆっくり息を吸って、吐いて……ホラ、また気持ちよくなりますよ……どんどん体が沈んで、心が楽になっていきます……僕の声だけが聞こえて、楽な状態です……」
 僕の手の中で佳織さんからクニャリと力が抜ける。佳織さんの反応は、どんどん早くなっている気がする。
「佳織さん……力を抜いて、深く沈んで……僕の声が聞こえますね?」
「……はい……」
 催眠に堕ちたときの、虚ろな声。この声を聞くたびにゾクゾクする。
 そう思ったときに、ゆっくりと上下する佳織さんの胸にまた視線が吸い込まれた。
 やめておけと、僕の頭の中で警鐘が鳴る。でも、佳織さんに催眠術をかけたときの僕は、暴走のスイッチが入っていた。本当にやめるのか? 理性が欲望に押し潰されて、軋むような悲鳴を上げた。
 僕は佳織さんの額に、そっと指を押し当てた。
「佳織さん。もっと楽にしましょう。体の力が抜けて、感覚がなくなります。体の感覚を切り離して、心を軽くしましょう。僕の指が触れているところから、感覚がなくなります。そして徐々に全身の感覚がなくなり、とても体が楽になります。もう僕の指に触れられてもわからない。全身から感覚が抜けて、心が自由になっています……ほら」
 しばらく押し当てていた指を離して、コツンと額を指先で突く。それでも佳織さんは反応しない。まぶたをくすぐってみても、なんの反応もない。
 本当に、体の感覚がなくなったのだろうか。僕の手は佳織さんの頬に触れた。
 佳織さんの反応はない。僕は撫でる。彼女の顔を。
 自分の息がどんどん荒くなっていくのは抑えようがない。
 そして、薄く開かれたその唇。
 ぽってりと柔らかそうに濡れている。いけないと思いながらも、僕はその唇に吸い寄せられていく。

 今なら、誰にもわからない。

 僕だけの秘密だ。一度だけだ。一度だけだから許してくださいと、佳織さんと先輩に頭の中で言い訳しながら、僕は両手を胸に添えたまま佳織さんに顔を寄せていく。
 佳織さんの規則正しい呼吸が僕の鼻をくすぐる。喉がカラカラに渇いていく。僕は佳織さんの顔にかからないよう息を止める。佳織さんが目を開けたらどうしよう。怖い。そう思いながらもここで引き下がりたくはなかった。そして僕の唇と佳織さんの唇が、今……触れあった。
 その瞬間、僕の体を電流が走る。衝撃がよみがえる。

 この興奮。
 魂まで焼けるような、この興奮を僕は知っている。

 あぁ、忘れられるもんか。
 僕はずっとこれを求めていた。ずっと探してたんだ。
 もう僕は自分の妄想を止めることはできない。やめろ、やめろと繰り返す理性を蹴飛ばして、僕は最後の暴走スイッチを、自分の意思で押した。
「佳織さん……あなたの感覚が戻ってくる。でも、体はそのまま僕に預けましょう。あなたは僕をとても信頼してくれているし、僕もあなたのことを大切にしています。寂しいことも忘れさせてあげるし、もっと気持ちよくしてあげます……だから、あなたは僕のお人形になって、可愛がってもらいましょう。さあ、立って」
 僕に支えられて、佳織さんがソファから立ち上がる。
「僕の手と声に従って……そう、あなたは今、お人形さんです。とても可愛いお人形さんです。もう何も考える必要はありません。心は自由です。幸せなことを思い出して、気持ちよくなりましょう。そして体は、僕に預けて任せてしまいましょう。そうすれば身軽になって、もっともっと気持ちよくなれます。さあ、手を下ろして。今、僕が肘を曲げます。このまま動かないで……そう、次に僕が下ろします。そのまま動かないで……はい、上手ですね。あなたは素直で可愛いお人形さんですね」
 内心ではすごくドキドキしている。それを出さないようにどんどん佳織さんに暗示をかけていく。
「あなたは僕のお人形さんだ。僕の動かすように動いて、僕の言うとおりに考える。あなたは可愛がられて幸せだ。もう寂しくない。僕の言うとおりにして、僕のそばにいればいい。恐怖も寂しさも不安もない。僕への信頼と幸福にあなたの心は満たされる」
 佳織さんの口元が、少しだけ幸せそうに微笑んだ。
 でもそれ以上の表情は動かない。体もじっとしたまま動かない。呼吸でわずかに胸が上下しているが、それに気づかなければ精巧なマネキンのようだ。
「佳織さん……あなたはお人形だから、目を開けても何も見えない。人形は何も見ない。さあ、ゆっくり目を開けてみて……」
 ゆっくりと彼女の目が開く。
 その目を覗き込んだとき、僕の全身にビリビリと衝撃が走った。
 足が震えて立っていられない。僕の膝は床に崩れ落ちた。這いつくばって、見上げるしかなかった。
 あぁ、その佳織さんの目。
 感情の映らない、無機質で虚ろな目。

 ―――お人形さんの目だ。

「……う、あぁ……」
 また会えた。
 やっと会えた。
 僕のお人形さんだ。
 勝手に涙がポロポロ零れていた。ずっともう会えないと思っていた。
 でも、ちゃんとここにいたんだ。

 精緻な美貌。
 完璧なプロポーション。
 従順な肢体。

「カオリちゃん……カオリちゃん人形だ……」
 リカちゃんじゃないけど、これは確かに僕のお人形だ。カオリちゃん人形だ。
 心からの感動で胸が震える。動悸が激しくて息が苦しい。ジーンズの中では、僕の股間が今にも爆発しそうに猛っている。
 チャックを下ろして固くなったペニスを解放した。そして擦った。
 出せ。早く出せ。今すぐ解放しないと僕は気が狂ってしまう。
 痛いほどボッキしたそれを僕は夢中で擦った。佳織さんの足元に這いつくばってマスターベーションするという、その異常なシチュエーションは、僕をますます興奮させた。
「はぁ……はぁ……カオリちゃん……っ」
 その微かな笑み。虚ろな目。真っ直ぐな姿勢。
 何もかもが素晴らしい。美しすぎる。
 これは僕のカオリちゃんだ。
 僕が見つけたんだ!
「カオリちゃん……カオリちゃんっ、カオリちゃん! あぁッ!」
 あっというまに僕は果ててしまった。頭が真っ白になり、腰がしびれる。フローリングの床に僕の精液がビシャビシャと跳ねる。全て吐き出したあとも僕のペニスはドクドクと脈打っている。体中を快感が突き抜けて、背中が痙攣する。ここまで気持ちのいい射精は初めてだ。
 佳織さんは、こんな汚らわしい僕の欲望が果てた先に、神々しく立っている。あの日、タンスの上で見つけた人形のように。

 僕はもう、本当にどうかしてしまったに違いない。
 こんなこと言いたくないのに。

「……佳織さん……あなたに秘密のキーワードを教えます……これは、僕と2人だけの、秘密のキーワードです……」

 もうやめろ。本当にもうやめろ。
 佳織さんをどうするつもりなんだ。彼女は先輩の奥さんだぞ。人妻なんだぞ。
 なのに、僕は僕を止められない。

「あなたは僕の口からその言葉を聞くと、いつでも今みたいにお人形さんになります。僕とあなたの、2人だけの人形遊び……楽しくて幸せなその遊びを、あなたはとても楽しみにしています。普段は人形遊びのことを忘れていますが、この言葉を聞くと、あなたはいつでもお人形さんになれます。だから僕が今から言うキーワードはとても重要です。絶対に忘れないように……心の一番奥で、大切にしてください。そして僕の合図で、いつでもそれを思い出してください。絶対に!」

 僕はきっと地獄に堕ちる。鬼畜だ。最低の変態だ。
 催眠術なんて知らなければよかった。
 E=mC^2なんてサイト見つけなければよかった。
 こんなにも甘美で切ない誘惑がこの世にあるなんて。
 僕はもうこの誘惑には逆らえない。

 催眠術。

 その欲望の秘法の前に、僕は犬のようにひれ伏し、奴隷として屈服する。

「キーワードは……『僕の催眠人形』です」

 僕と佳織さんの、秘密の1ヶ月が始まる。

37: 名前:nakami投稿日:2010/11/16(火) 12:35
人妻人形日記・13
>6月2日(月)


「おーい? 生きてるかー?」
 モニターの前で、小さな手がちょうちょみたいにヒラヒラした。
「え、生きてるよ」
 慌てて顔を上げると、経理の小田島愛が、大きな目を丸くする。
「いや、そこを素で返されるとこっちがハズいっていうか…まさか、ホントに寝てたとか

?」
 ずいっと、顔がくっつきそうなくらい近づいてきて、僕は驚いて引いてしまう。小田島

の方はこの無遠慮な距離を気にする様子もなく、まだ高校生っぽく見える笑顔をニマニマ

と浮かべている。
 彼女は僕と同期だけど2つ年下。長いつけまにコンタクトで大きくした瞳は、いつもキ

ラキラとしていて無邪気な若さが有り余っていた。
 さすがに職場に遠慮してか、ゴテゴテにメイクはしてないが、遊んでるっぽい雰囲気は

十分にある。でもおじさん連中にも愛想ができる子で、職場内でも人気が高いようだ。先

輩もこの子のこと可愛いって言っていた。
 僕は彼女にそれほど魅力を感じないけれど。ていうか、ちょっと苦手なノリかも。
「寝てないって。ちょっと考え事してただけ。さあ、仕事仕事」
「またまたぁ。休みの間に遊びすぎたんでしょ? ねえねえ、孝俊さんって、いっつもど

こで遊んでるんですかー? 愛にも教えて教えて」
 僕の肩をペチンと叩いて、そのまま体をぶつけるように寄せてくる。肩に彼女の細い腰

の感触が押し当てられる。こんな調子で、彼女はよく喋るし、スキンシップも馴れ馴れし

い。いつもこういうノリの子だった。
「失礼。今は仕事中ですので」
「寝てたくせにー。寝てたくせにー」
「うっさい、あっちいけ」
 追い払うように手でシッシッとやると、小田島は「くぅーん」とわざとらしく項垂れな

がら帰って行く。
 やれやれだ。僕は再びモニターに視線を戻した。そして、ため息をつく。

 仕事をしていても、何も頭に入ってこない。
 思い出すのは昨夜の佳織さんの姿。僕に全てを委ねる可憐な人妻。カオリちゃん人形。
 あのあと、僕の精液で汚れた床を丁寧に磨き、匂いを消し、佳織さんを元に戻したとき

にはもう9時を回っていた。
 さすがにやばいかと思ったけど、佳織さんは本当に僕のお人形になっている間の記憶を

失くしているみたいで、マッサージの最中に寝てしまっただけだと思いこんで「ごめんね

」と可愛く笑った。
 当然のごとく襲いかかってくる罪悪感。
 僕の隣の、長期出張中の先輩のデスクマットには、新婚旅行先のカナダで撮った2人の

笑顔が並んでいる。
 僕は尊敬する先輩の不在中に、間男のようなマネをしている。佳織さんの無防備な優し

さと信頼につけ込んで、料理を作らせたり、体に触ったり、催眠術にかけたりしている。
 昨夜はとうとう、唇まで奪ってしまった。
 最低だ。
「明日もゴハンおいでね。待ってるから」
 行為のあとの、佳織さんのいつもと変わらない優しさに、胸を潰されてしまいそうだっ

た。
 もう先輩の家には行くべきじゃない。理由なんてどうでもいい。行けなくなったとメー

ルするべきだ。そして、もう二度と行くな。
 なのに、僕は自分の部屋の1コ手前の先輩の部屋で足を止めてしまう。彼女を前にすれ

ば、きっと自分は誘惑に負けてしまうと知っているのに、僕はチャイムを鳴らしてしまう



「おかえりなさーい。ふふっ」

 この笑顔から離れるなんて、僕にはできない。

「ん…ぁ、はぁぁ……」
 恒例となった食後のマッサージをソファの上でする。
 佳織さんの色っぽい声が、少しずつ僕の理性を壊していく。こんなケダモノの手に体を

預けているとも知らず、佳織さんは無防備に白い喉もとを反らした。
「佳織さん、強いですか?」
「んんッ……大丈夫。気持ちいいよ」
「ちょっと揉みすぎたかもしれないから、少しさすりますね」
「あ、うん」
 揉みすぎたってなんだよって内心でツッコミながら、僕は佳織さんの肩から背中にかけ

て撫でた。
 僕のマッサージを信頼している佳織さんは、それがおかしなやり方だと疑う様子もなく

体を委ねている。僕は思う存分、人妻の柔らかさを手の平で味わい尽くす。
「ん……ぁ……ふ、ぅ……ふぅ…ん…」
 僕のいやらしい手は背中から脇腹へ。時折くすぐったそうにしながらも、佳織さんは吐

息を漏らすだけで嫌がるそぶりもない。それどころか、体から力が抜けて、僕の手の中で

クニャリと柔らかくなっていく。
 佳織さんは、僕がどんな風に触れてもそれはマッサージだと思いこんでいる。気持ちい

いのは僕が上手だからだと信頼している。
 僕はそんな佳織さんを愛おしむように撫で回す。うなじに触れ、細い脇腹を撫で、背骨

に沿って指を伝わせ、背中のブラの紐を服の上から執拗になぞる。そのたびに佳織さんは

切ない声をあげた。僕の手はその色っぽさにのぼせて、どんどん大胆になっていく。
 僕の催眠人形。
 昨日、佳織さんの心の奥に埋めたキーワードを思い出す。たった一言、その言葉を出せ

ば佳織さんは僕の人形になるはずだ。
 今、それを言えば。
 僕の催眠人形。
 佳織さんは『僕の催眠人形』なんだ―――。

「んっ…孝俊くん……孝俊くんってば」

 佳織さんに呼ばれて、僕は我に返った。
 気がつくと、僕はソファの背もたれ越しに佳織さんの腰に手を回し、後ろからのしかか

るように佳織さんの肩に顔を寄せていた。
「顔、近いよー」
 ツンと指で額をつつかれた。
 すぐ間近で見た佳織さんの笑顔と、夢中になりすぎていた自分への恥ずかしさで、僕は

真っ赤になる。
「す、すみません!」
「ふふっ、もういいよ。ありがと。気持ちよかったー」
 佳織さんがグンと伸びをする。
 怒ってはいないようだけど、佳織さんの方からマッサージを切り上げられて、僕はそれ

以上、彼女に触れる口実を作れなくなった。
 僕は朝から軽くパニってる。昨日のアレが尾を引きずってる。まるで前の自分に戻っち

ゃったみたいに、佳織さんの前で萎縮していた。
 佳織さんは、そんな僕に気づくはずもなく、僕を見上げて指をニギニギさせる。
「それじゃ、また孝俊くんもやってあげよっか?」
「い、いいえ、僕は……」
 みっともないくらい、どもって、うろたえてしまう。
 落ち着けと自分に言い聞かせて深呼吸する。
 もうやめろ。これ以上はするな。
「遠慮しないでってば。ほら、大人しくこっちおいで。ガオー」
 両手をニギニギと、赤ずきんに襲いかかるオオカミのようにして僕に迫ってくる佳織さ

ん。
 僕のしていることを何も知らずに、無邪気に信頼してくれる彼女を見ていると、自分の

抑えが効かなくなってくる。
 もっとひどいことを、したくなってくる。
「佳織さん」
「ん?」

「……僕、そろそろ帰ります。明日はちょっと早い現場なんで」

 自分の部屋に戻って、布団をかぶって、枕に頭を打ち付けた。
 これでいい。佳織さんを『僕の催眠人形』にしようだなんて、そんな考えは捨てろ。
 彼女は人妻だ。先輩の奥さんだ。そんなことしちゃいけないんだ。

 でも、したい。
 佳織さんにエッチなことをしたい。
 裸にして、全身を舐め回して、セックスしたい。
 セックスがしたい。
 佳織さんと。僕の催眠人形と。

 死んでしまえ、僕。

38: 名前:nakami投稿日:2010/11/16(火) 12:36
人妻人形日記・14
>6月3日(火)


 もう一度だけだ。
 あと1回だけ佳織さんを僕のお人形さんにする。
 そして彼女にキスをして、それを一生の思い出にして、これっきりにしよう。
 先輩。佳織さん。ごめんなさい。
 本当に、これで最後にします。

「おっかえりー」
「……いつもすみません」
「あはは、いいよ。買ってくれたの孝俊くんだしー」

 ぽってりした佳織さんの唇。
 ドキドキする。今日の佳織さんもとてもキレイだ。
 ルーズなジーンズと、ぴったりと体の線を見せるボーダーのカットソー。一昔前のファッションって感じが、部屋着の気安さで僕を迎えてくれる佳織さんのリラックスした気持ちを伝えてきて、ほんの数週間で僕たちはずいぶん仲良くなったんだなって、懐かしい気持ちになった。
 そして今日の佳織さんは、髪をポニーテールにまとめてる。少女っぽいのに、白いうなじがセクシーで、僕はこの髪型の彼女が大好きだった。

 今日、僕は佳織さんと最後のキスをする。
 僕にとって、きっと一生の特別な日になると思う。

 佳織さんの後ろ姿を見ているだけで、嬉しいような、切ないような、万感の思いに包まれる。
 そして佳織さんのあとにリビングに続いて入ったとき、突然、佳織が僕の方を振り返って、何かを発砲した。
「うわあ!?」
 情けない声を出して驚く僕に、佳織さんは満面の笑みで言う。
「お誕生日おめでとー!」
 あっけにとらえる僕の頭に、クラッカーの紙吹雪がひらひらと舞い落ちる。佳織さんが、固まってる僕の前で小首を傾げる。
「あれ? 今日だよね?」
 6月3日。そうだ。すっかり忘れてた。
 今日は僕の23回目の誕生日だ。
「よく……知ってましたね」
「えー、前に3人でテレビ見てたとき言ってたでしょー。忘れたの?」
 確かに先輩もいたとき、占いか何かの番組を観ながらそんな話をしたかもしれない。
「すみません、忘れてました…ていうか自分の誕生日を忘れてました」
「うわ、リアルでそう言う人初めて見た。私は自分の忘れたことないなー」
 それは、僕が最近あなたのことしか考えられないせいですって、言ってやりたい。
 機嫌良さそうに笑いながら、僕を出迎えるように佳織さんはテーブルの上のご馳走を見せる。僕の好きな佳織さんの手作りハンバーグ。ホワイトシチュー。鶏の唐揚げ。小さなケーキ。

「23才おめでとー。へへっ、ちょっと作りすぎちゃったから、頑張って食べてね」

 そして、いつもの笑顔で僕を暖かくしてくれる。
 佳織さん。僕はやっぱり、あなたのことが───。

「僕の催眠人形」

 この部屋の時間が止まる。
 どうして急にその言葉が口をついて出てしまった、自分でもわからない。
 そしてあまりにもあっけなく催眠状態に落ちる佳織さんの反応の速さにも、驚く頭はなかった。
 椅子に手をかけたまま、固まった佳織さんが虚ろな瞳をテーブルに向ける。
 佳織さんが欲しい。そう思ったら僕は思わずキーワードを口にしていた。催眠を開始していた。
 今の佳織さんは僕の催眠人形だ。何をしても無反応の人形だ。
 髪をすくう。サラサラの髪。
 僕はその匂いを嗅ぐ。シャンプーの匂い。でも、地肌に近いところでは、少し生々しい匂いがする。
 ごめんなさい、佳織さん。まだお風呂に入ってませんよね。こんなに近くで、あなたの肌の匂いを嗅いでごめんなさい。でも素敵です。あなたは、汗の匂いだって素敵です。
 耳の後ろの匂いを嗅ぐ。首筋の匂いを嗅ぐ。これが佳織さんなんだ。佳織さんの生の匂いなんだ。
 その体を僕は抱きしめる。できるだけ優しく抱く。
 柔らかい。胸が震える。彼女のぬくもりに、僕は感動する。
「佳織さん。あなたは今、お人形ごっこの最中です。お人形さんは可愛がってもらって幸せです。僕に抱っこされて嬉しくなります」
 髪を撫でて、耳元でささやく。通常の状態ならくすぐったい囁きなのに、佳織さんは微動だにもしない。虚ろな目に、感情すら灯らない。
 でも、僕の言葉は佳織さんの心の奥に届いている。繋がってると確信している。
「佳織さんは『カオリちゃん人形』です。可愛い可愛いお人形。肌の感覚はなくなってます。目も見えない。だけどお人形さんだから、みんなにいっぱい愛されます。寂しくもないし、不安でもない。あなたは幸せなお人形です」
 耳元に漂うシャンプーの香り。汗の匂い。料理したときの油の匂い。僕はそれを余すことなく吸い込む。
「カオリちゃん」
 彼女は僕のお人形さん。彼女の目に僕は映っていない。無遠慮に体を這う僕の手に反応することもない。
 僕しか知らない彼女の止まった時間。
 心も体も僕の手で無防備にされた彼女を、僕は―――。

「愛してるよ!」
 唇を重ねた。吸って、舌をねじこんだ。
 柔らかい体を抱きしめて、撫でた。
「愛してる…ッ! カオリちゃん、愛してる!」
 首筋に舌を這わせる。かすかにしょっぱい肌が僕を夢中にさせる。人形になった彼女のその肌は、本物の人形とは全然違って生々しい味がする。でもそれがいいんだ。このまま食べてしまいたい。おいしい。カオリちゃん人形は、とってもおいしい。
「カオリちゃん!」
 背中を撫でながら、唇を吸った。
 もう片方の手で僕は作業服のチャックを下ろす。固くなった陰茎を取り出した。激しくしごく。佳織さんのふとももに擦りつけながら、僕は彼女のお人形さん顔に欲情をたぎらせる。
「好きだ! 好きだよ、カオリちゃん! あぁッ!」
 戻れない。僕はもう善良なお隣さんには戻れない。
 僕は変態になった。今日この誕生日に、僕は人妻を人形にして興奮する変態に生まれ変わった。
 佳織さんの頬を舐める。匂いを吸い込む。柔らかい体を乱暴に抱く。揉む。擦りつける。
 愛おしいんだ。この無防備な体。虚ろな瞳。無表情な顔。温かくて柔らかくて中に血の流れている、最高のお人形さん。
 カオリちゃん。僕のカオリちゃん。好きだ。大好きだ。
 出る! もう、出るッ!
 すぐに僕の欲望は絶頂を迎える。僕はカウンターの上のキッチンペーパーを千切って、その中に精液を吐き出した。
 心臓が破裂しそうだった。僕はその場にへたりこんでしまった。
 ほんの1、2分のことだったと思う。なのに失神しそうになるくらい気持ちよかった。全身の力が抜けた。
 でも、こうしている時間もない。僕は乱れた服装を直し、佳織さんの耳元でささやく。
「僕が3度肩を叩くと、お人形遊びは終わります。あなたはこの間のことは何も覚えていません。体におかしな感触が残っていても、部屋に精液の匂いがしても気にならない。それがお人形遊びのルールです。僕があなたの肩を3度叩くと、お人形遊びは終わりますが、キーワードとルールは有効です。『僕の催眠人形』がキーワード。その間のことは忘れること。体に残った感触と匂いは気にしないこと。このルールは僕とあなたの大事な約束です。あなたにとって一番大事な約束です。それでは、肩を叩きます。そしてあなたが言うセリフは『23才おめでとー。ちょっと作りすぎちゃったから、頑張って食べてね』です。叩きますよ」
 僕は佳織さんの肩を3度叩いて、すぐに体を離した。

「23才おめでとー。ちょっと作りすぎちゃったから、頑張って食べてね」
「うわー、ありがとうございます!」

 極力、佳織さんの方を見ないで、精一杯の演技で無邪気に喜ぶ自分を偽って、僕はテーブルの上の料理に感嘆の声を上げる。
「すっごい美味しそうです! ありがとうございます!」
「え、あ、うんっ。いっぱい食べてね。ふふっ」
 一瞬、佳織さんは戸惑ってたように見えたが、すぐにいつもの笑顔を浮かべた。
 お人形さんになってる間、佳織さんは僕の催眠で多幸感だけを味わっている。その余韻は、きっと少々の疑問など吹き飛ばしてくれる。
「あ、乾杯しないと。グラス出すね」
「ありがとうございます」
 佳織さんは、「えい」と背伸びして、棚の上段から細身のグラスを取り出す。上機嫌だった。
 それから僕たちは楽しい時間を過ごした。
 昨日までの僕と違って、佳織さんを楽しませる会話ができていた。まるで憑き物が落ちたみたいに心が軽かった。
 佳織さんは僕のジョークにお腹を抱えて笑う。どうでもいいような仕事の愚痴でも僕の味方をしてくれる。お互いの高校時代の学祭の思い出話で盛り上がったりする。
 お人形さん遊びを終えた佳織さんは、すごく機嫌がよさそうだった。
「おっかしー」
 口に手を当てて笑う佳織さんの、ポニーテールが揺れる。ついさっき、僕が欲望を吐き出したときの彼女の甘い匂いと柔らかさを思い出す。
 僕の欲望が、再び彼女を求めて蠢き出す。
「あー、涙でてきちゃった」
「……佳織さん」
「ん?」

「僕の催眠人形」

 涙を拭う指もそのままに、佳織さんはカオリちゃんになる。
 僕は佳織さんの後ろに回って、そのサラサラの髪の匂いをまず吸い込む。
「カオリちゃん……」
 チャックを下ろして陰茎を取り出す。さっきあれだけ出したのに、もうはちきれそうなくらいにズキズキと脈打っていた。
「カオリちゃん!」
 僕はその醜い欲望をポニーテールの中に埋めた。想像していた以上の感触の良さにしびれる。髪の毛を絡めるようにして、僕は陰茎をしごいた。腰を振って、僕は佳織さんはポニーテールを犯した。
「あぁ! ごめんね、カオリちゃん! 好きだよ、愛してる!」
 天国に昇るような気持ちよさ。
 僕は今、佳織さんを汚している。僕の誕生日を覚えていてくれて、僕の話で笑ってくれて、僕のために料理を作ってくれた人妻の髪に、自分の陰茎を巻き付けてマスターベーションしている。
 変態だ。最低のド変態だ。
 でも僕は、そんな自分にすら酔いしれていた。
 僕は大好きな佳織さんを汚している。
 催眠術をかけて、人形にして犯している!
「ゴメンね! ゴメンね、カオリちゃん。最高だよ! 最高に気持ちいいよ!」
 すぐにでも訪れるだろう限界のために、僕はキッチンペーパーをぐるぐる巻き取る。
 止まらない。僕の興奮は止まらない。

「…今日は本当にありがとございました。美味しかったです」
「いいってば。もうー」
 玄関で、佳織さんはいつもの素敵な笑顔で見送ってくれる。
 僕はこの笑顔を汚してしまった。僕の体を擦りつけ、マスターベーションの道具にした。
 2回もカオリちゃん人形で出してしまった。
「おやすみなさい」
「うん、また明日ねー」
 なのにまだ止まらない。変態になった僕は、体までどうにかなってしまったみたいだ。
 目の前にいる佳織さんが愛しくて仕方ない。
 僕は彼女を愛している。そして、『彼女』も僕を愛している。
 恋の幸福感で胸がいっぱいだ。

「僕の催眠人形」

 笑顔で片手を上げたまま、佳織さんの時間が止まる。
 これで『彼女』は僕のモノ。光を失った瞳が、機械チックですごくそそる僕の恋人。
「カオリちゃん……」
 一度履いた靴を脱いで、チャックを下ろして、ギチギチに硬くなった陰茎を取り出す。
 止まらない。僕はもう僕を止められない。
「カオリちゃん! カオリちゃん!」
 彼女の体に抱きついて、太もものわずかな隙間に僕の陰茎を差し込み、擦り付ける。
 ソフトジーンズは少し肌に痛いけど、でも、彼女の匂いを胸いっぱいに吸い込みながら、彼女のアソコに擦り付ける喜びに比べれば些細なこと。
「すごい! すごい気持ちいいよ、カオリちゃん! 出る、もう出ちゃうよ!」

 ごめんなさい、佳織さん。
 あなたをあきらめることなんて、僕にはできない。
 そして先輩も、ごめんなさい。
 “佳織さん”は、あなたの大事な奥さんです。
 だから“カオリちゃん”だけ、僕にちょっと分けてください。

 ちょっとだけ、僕にください。

39: 名前:nakami投稿日:2010/11/17(水) 12:04
人妻人形日記・15
>6月4日(水)


「僕の催眠人形」

 佳織さんと食卓を囲んでいるだけで、どうしようもなく僕は興奮していく。
「カオリちゃん」
 僕は佳織さんの後ろに回り、ポケットティッシュを数枚テーブルの上に出して、佳織さんの手を取った。
 すべすべで温かい手。白くて柔らかくて小さなその手を、僕は自分の醜い陰茎に添える。
「あぁッ! 気持ちいい! 気持ちいいよ、カオリちゃん!」
 佳織さんの手でマスターベーションしたら気持ちいいだろうなって、朝からずっと夢想してた。
 やっぱり気持ちいい。柔らかくて、温かくて、想像以上だ。カオリちゃん人形は最高だ。
「すごい、すごいよ! 気持ちいいよ、カオリちゃん! カオリちゃん!」
 目も眩む快感に、僕はすぐに果ててしまう。

「んー、気持ちよかった。へへっ、ありがとね」
「い、いえ、そんな」
 マッサージを終えたあと、佳織さんに「気持ちいい」と言われて、僕はうろたえてしまった。
 佳織さんの記憶には残ってないはずなのに、僕のいやらしい行為を揶揄されたみたいで恥ずかしくなる。
「んー」
 佳織さんはいつもようにグンと伸びをする。形の良い胸が浮き出る。
 佳織さんの胸。
 大きくて、柔らかそうなその胸。
 さっき出したばかりだというのに、ムズムズと僕の陰茎は起き上がり、新たな欲望を主張する。
 自分でもあきれてしまう。一度外れたタガはもう戻らない。
 佳織さんの大きく柔らかい胸。僕はその中身をまだ知らない。そして知りたい。
 それは反則だと、僕の頭の中でホイッスルが鳴る。
 でも催眠人形のカオリちゃんに興奮しすぎて、僕は止まりそうもない。
 ちょっとだけだ。ちょっとだけだから、いいじゃないか。

「僕の催眠人形」

 手を挙げて、伸びをした姿勢のまま佳織さんは固まる。
 今日も彼女は、僕のカオリちゃん人形だ。
 7分丈のカットソーが胸にぴったり張り付いて、形をくっきりさせている。少し広めのネックの部分から、深い谷間がわずかに覗けている。
 どうして、こんなに無防備なんだ。僕のカオリちゃん人形。可愛い可愛いお人形。
「さ、カオリちゃん…お着替えしようね」
 本物の人形に話しかけるように、僕はカオリちゃんの耳元に囁きながら、カットソーの裾に手をかける。
 指先が震えている。心臓が大きく跳ね続けている。
 小さなおへそがちらりと覗く。それだけでもう僕の股間は射精しそう。
 佳織さんのウエストは細い。無駄な肉がない。なのに、柔らかそう。僕はおへそにそっと触る。普通ならくすぐったいだろうけど、今の佳織さんにはその感覚がない。
 徐々に、めくり上げる。カオリちゃんのお洋服を脱がせていく。僕の息がうるさいくらい荒い。カットソーを胸の上までたくし上げ、キャミソールをあらわにする。ブラが一体になったキャミだ。大きなカップが、呼吸と一緒に上下している。
 濃紺のキャミソールカップと、白い胸肌の対比。美しすぎて、僕の呼吸が詰まる。心臓が苦しいくらい跳ねてる。
 顔を近づけて、じっくりと観察する。
 ゆっくりと上下している。カオリちゃんのおっぱいが。前から、横から、僕はじっくりと観察する。
 口の中が唾液でいっぱいになっていた。飲み込んで、息を吸う。カオリちゃんのおっぱいの匂い。お人形さんなのに、いい匂いがする。でも脇の方に近づくと、少し汗の匂いがする。
 お人形なのに。カオリちゃんはお人形さんなのに。
「ハァ…ハァ…」
 僕の股間は激しくいきり立つ。
 キャミソールをめくっていく。白いお腹がめくれていく。カオリちゃんの、胸の下の曲線が見える。僕の股間からはもう汁が滲み出ている。さらにめくる。大きくて丸い。お椀のように、ステキな形をしている。カオリちゃんのおっぱいをめくる。頂が見える。

「あぁ…ッ!」

 桜色の丸い乳首が、2つ、僕の目の前で揺れた。
 カオリちゃんの乳首。佳織さんの綺麗な乳首。

 催眠術で彼女の自由を奪い、そして僕は、とうとう肌まであらわにした。ひどいやつ。最低だ。
 なのに、この興奮は生まれてから一度も味わったことがない。こんな恥ずかしい格好されて、虚ろな瞳のままぼんやりとしている佳織さん。背徳的で、生々しくて、ドキドキする。
「はぁッ、はぁッ…カオリちゃん…ッ、カオリちゃん、すごいよ…ッ!」
 こんな興奮、耐えられるはずがない。僕はめくり上げたカップを佳織さんの胸に引っかける。股間はすでに爆発しそうだ。僕は自分自身のそこに手を伸ばす。ダメだ。間に合わない。

「あぁ…あぁっ!」

 パンツの中で、僕の欲望が爆ぜた。
 目の前の、佳織さんの胸に我慢できず、すぐにイってしまった。
 びゅるる、びゅるると、下着の中で何回も跳ねて、大量の精液が溢れる。
 みっともない射精なのに、涙が出るくらい気持ちいい。
 佳織さんの胸。僕の前でおっぱいをあらわにして、手を上げたまま、彫像のように身動き一つしない。
「僕の…、僕のカオリちゃん! 僕の、お人形さん!」
 ぐしょぐしょのパンツの上から陰茎を擦る。ビリビリと射精したばかりの亀頭に快感が走り、中で大きくなっていく。
「きれいだ! とってもきれいだよ、カオリちゃんのおっぱい! 最高だよ! 最高!」
 丸く形の良い胸。大きくて、本当にきれいな胸。乳首の色だって、人妻のくせにどうしてこんなにきれいなんだ。
 気持ちいい。僕のお人形さんになっておっぱい丸出しの佳織さんに見られながらするマスターベーションは最高だ。
 綺麗だ。可愛い。美しい。佳織さんの胸の素晴らしさは一言で言い表しようがない。
 姿だけで、この興奮を、僕にかつてない興奮とマスターベーションの快楽を与えてくれる魔法のおっぱい。匂いを嗅ぐ。間近で見る。僕の激しい息を吹きかける。匂いを吸う。胸一杯に、全身に行き渡るくらいに、吸う。
 これを、先輩は佳織さんに見せてもらったり、好きに揉んだり、吸ったりしているんだ。
 嫉妬と、羨ましさと、今は僕がそのおっぱいを独占しているっていう優越感で、気が狂いそう。
 触れたい。この手で、ぐにゃりと揉んでみたい。でもこれを鑑賞しながらするマスターベーションの快楽も手放したくない。
 佳織さんのおっぱいは最高だ。正面から見ても、横から見ても、下から見ても最高にきれいで、色っぽい。
 その丸いおっぱいにキスしたい。吸いたい。
 僕は不遜にもその美しいおっぱいに唇を近づける。でも、その前に僕の陰茎は快感に耐えきれずに、悲鳴を上げる。

「あ、あぁぁ…っ!」

 おっぱいの寸前で、僕は情けない声を出して達した。
 どくどくと、股間が脈動して、欲望を吐き出す。

 僕の床に腰をついて、じわりと気持ち悪く滲んでいくズボンの前を押さえた。
 佳織さんの胸は、相変わらず白く輝いている。僕は自分の気持ち悪さに吐き気をおぼえる。

 マスターベーションで欲望を処理すると、後に残るのはいつも後悔だ。
 僕はどこまで、この人を汚してしまうんだろう。人妻の佳織さんを。あの優しくて可愛い佳織さんを。
 今日は彼女の手を道具にして、マスターベーションをした。
 先輩以外の他人には決して見せないだろう素肌を、僕の手で剥いてしまった。
 そして、それをネタに目の前でマスターベーションをした。
 許される行為じゃない。ひどすぎる。
 なのに今も、両手を挙げたまま胸を晒す彼女を見ていると、また欲望がもたげてきそうになる。
 佳織さんが魅力的だから。顔も、性格も、プロポーションも素敵すぎるから。
 そうやって彼女のせいにして、また汚してしまいそうな自分を叱咤する。
 僕って本当に最低だ。濡れた股間の不快感が、そのまま自分のキモさに感じる。
 佳織さんの耳たぶに触れて、ささやく。
「そのまま、ゆっくり手を下ろして」
 僕の言うとおりに腕を下ろす佳織さん。そして乱れた彼女の服を直して、もう一度耳たぶに触れてささやく。
「僕が玄関のドアを閉めたら、その音であなたは目覚めます。あなたはいつものように僕のマッサージを受けて、僕が帰るのを見送りました。それだけです。あとはいつもどおり過ごしてください。部屋におかしな匂いがしても気になりません。あなたは、いつもどおりに過ごしてください」
 それだけ命令して、僕は自分の部屋に戻った。

 洗濯物を放り込んで、シャワーを浴びて、缶ビールを煽って、そして佳織さんのことを考える。
 彼女の笑顔と、優しさと、おっぱいについて考える。
 割り切ったはずなのに、それでも後悔と欲望は僕を真っ二つに引き裂こうと両方からしつこく引っ張る。
 脱がすべきじゃなかった。あの姿は一生僕の目に焼き付くだろう。
 そして死ぬまで、僕を布団の中で苦しめるんだ。
 佳織さんの顔。髪。手。胸。僕の女神。
 どうしてもっと早くに彼女に出会えなかったんだろう。悔しくて仕方ない。いや、例え先輩よりも早く僕たちが出会えてたところで、彼女が僕なんかを好きになるはずがない。
 でも、催眠術があれば。
 もしも催眠術をもっと早くに覚えて、そして先輩よりも先に佳織さんに出会っていれば、彼女の心を僕のものにできたかもしれないんだ。
 いや、今からだって遅くは───。

 バカ、何考えてるんだ。そんなことできるはずない。

 でも頭の中は佳織さんでいっぱいだ。
 今頃、何をしてるんだろう。ベッドで眠っているんだろうか。それともシャワーでも浴びているのか。
 佳織さんの姿をグルグル思い浮かべる。打ち消す。でも気がつくと彼女のことを考えてる。佳織さんの笑顔。カオリちゃんのおっぱい。
 止めろ。止めろ。僕はもう止めるんだ。絶対に、佳織さんに変なことしない。

 だけど、明日になればまた催眠人形しちゃうんだろうなって、頭の片隅で僕はもう諦めている。

40: 名前:nakami投稿日:2010/11/17(水) 12:04
人妻人形日記・16
>6月5日(木)


「僕の催眠人形」

 ソファの上に、佳織さんを横たえる。
 今日もマッサージして、彼女の体に触れて、艶めかしい吐息を上げさせているうちに、我慢ができなくなってしまった。
 虚ろな瞳を天井に向ける佳織さん。
 ごめんなさい、佳織さん。僕はまた、あなたに卑劣で卑猥なことをしてしまいます。
 だから見ないでください。その瞳に何も映さないでください。どうか幸福な夢の中にいてください。
 そして、ようやく会えたね。僕の恋人、カオリちゃん人形。

 今日は朝から肌寒く、佳織さんは少し厚手のパーカーを着ている。その前開きのファスナーを僕は下げた。低価格ブランドのパーカーの中は、同じブランドのキャミソールブラだ。
 室内着だから、楽なのを着ているだけなんだろう。でも僕に対して何の疑いもなく、こんな無防備な服を着ていられる佳織さんが、可愛くて、少し苛立たしい。
 僕は男なんだ。あなたのことばかり考えて興奮している、危険な男なんだ。
 あなたに、こんなことをしまう男なんだから。
 僕はケータイを取り出して、写真を撮った。ソファに横たわり、うつろな目を天井に向ける僕のカオリちゃん人形。本当に芸術品だ。とても可愛くて、何枚も撮ってしまう。
 胸に近寄って、アップで撮る。仰向けに寝ても形の崩れない佳織さんのおっぱいは本当に素晴らしい。肌もとてもきれいなんだ。昨日はたっぷりと見せてもらった。本当にきれいだった。
 たまらなくなって、胸に触れる。とても大きくて柔らかい。キャミの上からでもわかる。佳織さんの胸の感触が、すごくよくわかる。
 僕の手の中で形を変える胸も写真に撮った。いっぱい撮った。
 服を脱がせて見せてもらおうと思ってたけど、その前に僕の我慢が出来なくなった。

「カオリちゃん!」

 佳織さんの体を跨いで、作業服のズボンから陰茎を取り出す。
 そして彼女の胸に擦りつけた。胸の柔らかさと、キャミソールの肌触り。僕の陰茎はビリビリと快感にしびれる。陰茎の先には、佳織さんの無表情な人形顔が揺れている。
 僕は、カオリちゃん人形を抱いている。汚している。
 それはとてつもない興奮だった。彼女の胸に陰茎を埋めるようにして、何度も擦りつける。かすかな痛みも快楽だ。擦りつけて、熱くなって、このまま蕩けてしまってもいい。
「カオリちゃん! カオリちゃん、いい! 大好きだよ、カオリちゃん!」
 夢中になっていた。僕の陰茎。佳織さんの胸。佳織さんの催眠顔。揺れるソファ。
「あ、ああっ、ああっ…!」
 後のことも考えずに、佳織さんのキャミソールの上に、僕は精液をかけてしまった。
 彼女の胸に、そして喉もとにまで僕の精液は降りかかる。彼女は微動だにしない。僕の欲望のかたまりに汚されていく彼女はとても美しくあった。
「…やばいって…」
 佳織さんのキャミを、べっとりと汚してしまった。あぁ、もうべっとり僕の精液だらけだ。
 どうしよう。着替えさせるか。でもバレるに決まってるだろ。
 催眠術だ。なんとかそれで誤魔化すんだ。
「か、佳織さん…聞いてください。あなたは、今、お醤油をこぼしてしまった。胸もとにべったりと付いているのはお醤油だ。匂いも醤油だ。あなたは、すぐにそれを着替えなきゃならない。今すぐ」
 僕は佳織さんの体をソファに座らせる。僕の精液がたらりと垂れてきた。
「いいですか。胸についているのはお醤油です。あなたのこぼしお醤油です。だから、あなたはパーカーの前を開いた。これは醤油。色も匂いも醤油です。すぐに脱いで着替えましょう。いいですね」
 焦って指示が早口になってしまう。ちゃんと佳織さんの無意識に染みこんでいるだろうか。上手くいくだろうか。
 僕は、バクバクする心臓を押さえて呼吸を整える。上手くいく。信じろ。催眠術を信じろ。
「僕が肩を3回叩くと佳織さんは目を覚ます…いいですね?」
 肩を叩いた。3度。
 佳織さんはゆっくりと目を開けて…そして、はだけたパーカーの下のキャミを覗いて、目を丸くした。
「あー!」
 思わぬ佳織さんの大声にビクンと震える。どっと汗が噴き出る。
「大変、お醤油こぼしちゃった。うわー、べったりー」
 そして、僕の精液のついたキャミを摘む。胸もとがかなり大きく開いて、思わず覗き込みそうになって目を逸らす。
 テンパったときの佳織さんは無防備すぎ。でも今はそんな場合じゃなくて。
「は、早く着替えたほうがいいですよ」
「うん、そうだね!」
 そう言って頷く佳織さんのアゴには僕の精液が付いてた。やばいな、あれも拭いてくれるかな。佳織さんは隣の部屋に行って、青いTシャツを持ってお風呂場に向かう。
「ごめんねー、私ったら、なんでこんなところにお醤油を…」
「あー、あーいいですから全然、僕、そろそろ帰ります!」
「え、ホント? まだいいじゃない、コーヒーは?」
 Tシャツを変えた佳織さんが、僕を玄関先まで追いかけてくる。
「いえ、じつは明日は超早い現場があって朝4時集合的な噂も…」
 ウソを取り繕う僕の前で、佳織さんはTシャツの襟元を広げて、僕の精液の匂いをクンクン嗅いでいた。
「う〜、まだお醤油くさいよ〜」
 その仕草も可愛いし、襟元の広いTシャツは大胆だし、それを持ち上げてるせいでおへそが見えちゃってるし、ていうか佳織さん、おそらくノーブラで出て来ちゃってんだろうしで、テンパったら本当に無防備というか、さっきから軽くTOLOVEる状態の佳織さんがおいしくいただけてるんだけど、余裕のない僕は焦りまくりだ。
「じゃあ、すぐシャワー浴びた方がいいですよ。とにかく僕はこれで!」
「ごめんねー、また明日ね」
「はい! しょーゆーことで!」

 テンパリまくって帰ってきた。心臓がまだドキドキしてた。
 落ち着くためにビールを飲んで、ケータイに撮った画像のことを思い出す。忘れないうちにPCに移動しておこう。誰かに見られでもしたら大変だ。
 どれもきれいな写真だった。佳織さんの催眠顔はとてもきれいだ。胸も腰も横たわる全身も撮ったけど、一番きれいなのはやはり顔だった。
 さっき出したばかりなのに、一段落したらもう僕の股間は硬くなっていた。
「佳織さん…」
 陰茎を取り出して、PCの画面を見ながら擦る。
 今日は焦った。とんだ失敗だ。
 でも、おかげで後催眠の実験も成功した。佳織さんは、自分の体にべったりと付いた僕の精液を、お醤油だと誤認していた。
 これが催眠の力か。E=mC^2にあったシチュエーションと同じだ。僕の催眠術は、佳織さんの認識まで操作することができるんだ。
 現実に、こんなことがあるなんて…。
「…ハハッ」
 焦って損をしたかもな。こんなことが出来るんなら、もっとゆっくり楽しんでも良かった。
 どうせなら、僕の精液に汚れた佳織さんも撮っておけばよかった。
 すごくきれいだった。あの佳織さんも。
「カオリちゃん…ッ!」
 どく、どくと僕の陰茎が震えて、ティッシュの中に大量の精液を吐き出す。
 もう2回も出したのにこれだ。佳織さんは、僕の欲望を無尽蔵に引き出す。まるで魔法をかえられたみたいだ。
「佳織さん…ッ」
 むくむくと、絶えることのない情熱。佳織さんの催眠顔は僕のスイッチ。
「止まらないよ…佳織さん、止まらない…!」
 幸せだ。僕は本当に幸せだ。
 明日は何をしよう。きっと今日よりも、もっとすごいことをしてしまう。毎日我慢が効かなくなっていく。
 佳織さん。佳織さん。佳織さん。
「あぁ…ッ!」
 モニターいっぱいの佳織さんの催眠顔に、僕はまた大量の精液をぶっかける。
 頭がどうにかなりそうだ。
「佳織さん…大好きです」
 また明日、彼女に会える。
 彼女の手料理を食べて、彼女の体をマッサージして、そして彼女を人形にしてたっぷりと愛し合える。

 楽しみで仕方ない。

41: 名前:nakami投稿日:2010/11/17(水) 12:05
人妻人形日記・17
>6月6日(金)


「うん。そう。土日の間だけ帰れることになったんだ」

 昼前にかかってきた先輩からの電話に、僕はあいまいな相槌を打っていた。
 おそらく内容は仕事のことだったんだけど、僕の頭にはもう何も入ってきてなくて、ただ先輩の言うことをメモする手だけ動かしていた。
「あと、係長が帰ってきたら伝えといてくれ。月曜までには現地に戻るから、会社には顔出さねえって。伝票とかはお前に預けていい?」
「はい」
「そんじゃ、帰る前にお前んとこ寄るから」
「はい」
 通話の終わったあとも、僕は受話器を耳に当てたまま、しばらく動けなかった。
 そういや、先輩が戻ってきたら報告しようと思っていた仕事の件が、いくつもあったんだった。でも、急ぐようなものは係長や他の人に対応を回してるし、休日を利用して帰ってくる先輩に心配させなきゃならないような仕事でもない。
 だから、何も伝えられなかったけど、別にいいんだ。僕は先輩に何も言わなかった。報告するようなことは、特になかったからいいんだ。
 僕は先輩に何も言わなかった。

「あ、会社にも電話きてたんだ? まあ、そりゃするよねー。うちにも来たんだけどさ、もう、急に帰るって言われても慌てちゃうよ。ゴハン何作ればいいんだろね。あの人、いっつも『何でもいい!』しか言わないんだよー」
 いつものように、晩ご飯をごちそうになりに来た僕の前で、お味噌汁の鍋を温めながら、佳織さんは機嫌良さそうだった。
「出張してる間って、民宿みたいな旅館みたいなところに泊まるんでしょ? ああいうところって、どんなお料理出るんだろうね。やっぱ和食が多いのかな?」
 そんな気を回さなくても、先輩が「なんでもいい」っていうのは本当のことだと思うんだ。佳織さんの料理は、そんなところで食べるゴハンよりよっぽど美味しいから、本当に先輩は佳織さんの手料理なら何でもいいんだよ。
 僕にはわかる。だって、僕も佳織さんの料理なら何でも毎日食べたいと思ってるんだから。
「先輩の好きなものでいいんじゃないですか?」
「あの人さー。嫌いな食べ物ってないんだけど、これが好きっていうのもないんだよね。ほんと気分次第だから困っちゃう。ふふっ。もう適当に作っちゃおっかなー。れいぞーさんに相談しよっと」
 佳織さんは、「ぱっ」と陽気なかけ声で冷蔵庫を明けて、「んー」と小首を傾げる。
 スリッパのつま先を片方立てて、ハーフパンツから覗く白いふくらはぎが眩しい。あちこち棚を覗いて「むう……私の主婦力が試されている……」と唸る佳織さんの、丸いお尻が時々揺れるのもじつに可愛くて色っぽい。
 後ろから見てても幸福を感じさせてくれる光景だが、今はそれよりもキッチンが危ない。
「鍋吹きそうですけど」
「あーッ!?」
 味噌汁のことがすっかり頭から消えてたらしい。佳織さんは慌ててスイッチを切って、鍋をかき混ぜる。
「あっぶなー。あははっ」
 佳織さんは、もう先輩の帰ってくる明日のことで頭がいっぱいのようだった。今、僕のために夕食を用意していることなんて忘れちゃうくらいに。

 なんだったんだろう。この2週間は。
 僕と佳織さんはかなり仲良くなれていた。一緒に食事したり、買い物に出かけたり、お互いをマッサージしたりもした。
 以前なら考えられないようなことばかりで、素人の催眠術で彼女を操り、汚してしまったことに、後悔と興奮の狭間で僕は苦しみ、そして喜び、それすらも感動的だった。
 濃密な十数日を佳織さんと過ごして、僕は彼女と特別な関係になれたと舞い上がっていた。
 でも、佳織さんにとって僕の存在は、相変わらず旦那さんの同僚で、お隣さんで、それだけでしかない。今、こうして二人っきりでいることも、彼女にしてみればただの近所付き合いで、僕は寂しいときの話し相手でしかない。
 そう仕向けたのも僕だ。彼女に会いたいと思わせる口実を作ったのは僕だった。
 彼女は僕に恋はしてない。僕の、彼女への恋心だけが、前よりもずっと大きく揺るぎがたいものになっているだけだ。
 催眠術で、彼女の恋心を僕に向けることはできるんだろうか。
 きっと、時間をかければ可能だ。
 でも僕が欲しいのはニセモノの恋心じゃない。そんなのは彼女が今、先輩に向けている想いに絶対に勝てるわけがない。
 2人に対する罪悪感が、今さらながらにとても重くのし掛かってくる。なのに、今も遠くにいる先輩のことを思って幸せそうな佳織さんを見ていると、強引にでも僕の手元に引き戻してやりたくて。

 罪の意識と欲望が僕を苛む。
 でも、どちらがより大きいかなんて、今さら決まりきっている。

「僕の催眠人形」

 後ろから抱きしめる彼女の体は今日も柔らかくて良い匂いに満ちていて。
 僕は至福の時を彼女の肉体から与えられ、感動に涙腺を滲ませながら、遠慮なくその喜びを余すことなく貪っていく。
「ごめんね…でも、大好きだよカオリちゃん…ッ!」
 首筋の匂いが好きだ。髪の匂いも好きだ。鼻を擦りつけ、大きく吸い込み、そしてキスをして濡らしていく。細くて柔らかい体は、華奢な僕でも強く抱きしめれば折れてしまいそうで、慎重に抱きしめてあげたいけど、どうしても無茶をしてしまいそうになる。
 好きだ。好きだよ。
 細いお腹も大きくて柔い胸も張りのあるお尻も、佳織さんの体で足りないところは1コもない。100点満点でも足りないくらい、僕を満足させてくれる。
 僕のカオリちゃん。僕のカオリちゃん人形。
 君みたいな子にもう二度と会えるはずがない。僕はもう一生、君だけで構わない。カオリちゃんを心から愛してるんだ。
「はぁ…ッ、好きだ、カオリちゃん。この抱き心地も、匂いも、大好きだ…ッ!」
 僕は彼女の正面に回る。
 あぁ、そしてこの顔。整った小さな顔。女の子らしくて、きれいで、僕より年上のくせに汚れを知らない少女みたいで、好きだ。
 君の顔の中で、一番きれいなその瞳を、催眠状態でからっぽにした今のその顔が大好きなんだ。
「愛してる…愛してる! 僕はカオリちゃんが大好きだ! 僕のカオリちゃん人形だ!」
 先輩は知らない。佳織さんのこの顔を。人形になった体を。先輩の知らない佳織さんを僕は抱いている。
「好きだ! 好きだ!」
 何度も唇にキスをする。エプロンの隙間から手を突っ込んで胸を揉み、キスをする。
 頬、首、胸にキスして跪く。お人形になった佳織さんは動かない。お玉を握ったまま、瞳を宙に向けている。僕のカオリちゃん。愛しいカオリちゃん。
「君は僕のモノだよ! カオリちゃん人形は僕のモノだ! 誰にも渡したりしないよ!」
 誰にも渡さない。
 あっさりと口に出してしまっている自分に驚いた。でも、それは当然の気持ちだ。
 僕はずっと我慢してきた。ずっと、ずっと。
 今の会社に入って、このマンションに越してきて、先輩と一緒に片付けの手伝いに来てくれた佳織さんを紹介され、そのときからずっと片思いしてきた。先輩の家に呼ばれるをずっと待っていた。佳織さんに「いらっしゃい」と言ってもらえるのを待っていた。彼女の料理を食べられるのを、彼女の笑顔が向けられるのを、名前を呼んでくれるのを、毎日毎日、どれだけ我慢して待ってたと思ってるんだ。
 ようやく、僕だけのカオリちゃんに会えたのに。僕だけの秘密の彼女が出来たのに。
 僕だけのものなんだ。彼女は、僕だけの。

「カオリちゃん!」
 エプロンごとお腹をめくって、おへそにキスをする。舐める。可愛くて美味しいおへそだ。少ししょっぱいところがいい。チュウ、と音を立てて吸う。れろれろと舐めてから吸う。
 そして、ジーンズのベルトに手をかける。
「ねえ、いいよね? 脱がせてもいいよね、カオリちゃん!」
 気が急いて上手に外せない。心臓がバクバク鳴っている。僕はカオリちゃんをどうするつもりなんだろう。彼女を脱がせて、何をするつもりなんだ。
 でも、僕の手は止まらない。彼女の全てを、キッチンなんか暴こうとしている自分に、ひどく興奮していた。
 ベルトを開いて、前開きのボタンを外す。もどかしい思いで全て外すと、彼女の下着の色、ペパーミントが鮮やかに目に飛び込んでくる。
 カオリちゃんの下着。履き慣れて見えるそれは、きっと男に見せるためのものじゃなく、彼女の普段履きの下着だ。
 当然だ。僕に下着を見せる用意なんて彼女が考えるはずがない。
 そんな彼女の下着を、僕は暴いている。嬉しい。とても嬉しいことじゃないか。それでいいんだ。彼女の僕の人形だから。佳織さんの意志も用意も僕たちには関係ないから。
 脱がせろ。僕のお人形を裸にしろ。
 下着のフチに手をかける。下げる。
 そして、わずかにずらした指の先に、彼女の陰毛を感じる。
 下着の中で、その陰毛の丘を、じょり、となぞった。
 その瞬間、何かが冷めた気がした。
 してはいけないことをしているという、そっちの意識が強くなった。
 ほんの少し下にずらす。白い肌の上に、ウェーブのかかった影が絡んで生えているのが見えた。
 それは人形の股じゃなかった。
 生々しいほど、人間の女性のものだった。

 彼女は“カオリちゃん”じゃなくて、“佳織さん”だ。

 下着を掴んでいた手を離すと、ペパーミントは元通りに彼女の股を覆い隠す。
 右手に握っているお玉は、夫のごはんを作るためのもの。左手の薬指は夫との愛を誓うもの。
 じゃあ僕のしていることは、一体なんなんだ。

「……ごめんなさい…佳織さん……」
 床に手をついて、涙をこぼす。
 何をしているんだ僕は。
「ごめんなさい…先輩…佳織さん……」

 何をしているんだ、僕は。

42: 名前:nakami投稿日:2010/11/18(木) 12:23
人妻人形日記・18
>6月7日(土)


 久々の夫婦の晩餐だというのに、人の好い隣家の夫婦は、僕も一緒にどうかと誘ってくれた。
 まぁ当然、僕は適当な理由をでっちあげて断るわけだけど。
「すいません、学生時代の友人がこっちきてるんで」
 先輩は、そっか、なんて軽く答えて頷いた。佳織さんは、それじゃまた今度だね、と疑いもせずに微笑んでいた。
 とりあえず、家にいるわけにもいかなくなったので、たまには一人で飲みに出てみる。
 適当に目をつけて入った居酒屋は、うるさくもなく、マスターも渋いおじいちゃんで、雰囲気は悪くなかった。
 メニューも料理も意外と当たりだったし、時間をかけてお腹を膨らませ、気持ち良く酔うこともできた。
 なんだ、結構いいもんだな、一人呑みも。今度からたまにやってみるかな。
 さて、これからどうするかな。帰るにはまだ早い気もするし、映画でも行こうか。それともマン喫かな。
 ちょうどそんなこと考えてたタイミングで、メールが入った。
 小田島からだった。

『愛でーす♪なにしてる〜?』

 わざわざ自撮りの画像を添付してる。どうやらどこかのカラオケあたりにいるみたいで、いつもの小田島らしい満面の笑みと、派手なネイルでマイクを握る手が白ボケしていた。

『ソロで飲んでる』

 そう返信すると、しばらくしてまた添付付きのメールが返ってきた。

『ソロ活動かっこいー☆☆☆こっちは経理課+わたしのトモダチでカラオケしてまーす。孝俊さんもこっちきてきてー!愛は孝ザイルが聴きたーい♪てか北山うっぜー!』

 次の添付画像は、経理課の若い男連中と、あと小田島の友だちらしい知らない女の子たちの、カラオケ集合写真だった。
 いつも会社の人たちと行く店だ。小田島の肩を抱いてるのは、僕らの同期の北山だ。
 そういやコイツ、小田島狙いだって言ってたっけ。ハハ、なんだよそのドヤ顔。小田島にうぜーって言われてるぞ。
 なんだか楽しそうだ。経理課の先輩たちもごっちゃになって、かなり盛り上がってるみたいだ。ちょうど良い誘いだな。こないだ新曲を仕入れたばかりだし、思う存分歌わせてもらおうか。
 僕はOKを伝えるメールを打って、送信ボタンに指をかけた。
 でも、送る直前に気が変わって、全文を消去した。

『ごめん。もう帰るとこ』

 マンションの下の公園で缶ビールを開けた。風が冷えて気持ちいい。ブランコも冷えてて気持ちいい。今の気分にピッタリだ。
 一人で飲んでて楽しいわけがない。ごまかそうと思ってもムリだった。飲んでる間も、楽しそうな小田島たちのメールみても、僕が考えてるのは、今、隣の夫婦は何をしているのかって、そのことばかりだった。
 カラオケなんて歌えるわけない。できるわけないだろ。
 缶ビールを一気に飲み干し、盛大にゲップする。そして、空を見上げる。
 あの部屋に、まだ明かりはついてるんだ。そのことを確認して、僕は自分のしていることを恥じて顔を伏せる。
 4階の左から3つ目が、先輩と佳織さんの部屋だ。そこが見える公園のブランコで、僕は3本目のビールを空けてしまった。
 目はグルグル回り始めている。二日酔い確定コースを順調に僕は歩んでいる。
 佳織さんは今、先輩と楽しい食事をとっている。笑って、恥じらって、怒ったフリして、夫婦2人きりの食事を楽しんでいるに違いない。
 出張中のこととか、それとも2人にしかわからない思い出なんかを楽しく語り合い、そして、キスをしているかもしれない。
 僕だって佳織さんとキスをした。
 彼女は覚えてないけど、僕は佳織さんとキスをしたし、ペッティングもしたし、何度も佳織さんの体に向かって射精した。
 でも彼女が愛しているのは先輩だ。唇や体を許す唯一人の男性は、僕ではなく先輩なんだ。
 そのことを想うとすごく切なくなる。大声で叫んでやりたいけど、でもそんなことしちゃうほど不明にはなりきれなくて、僕は新しいビールを開ける。たぶん、全部ここで空けちゃうだろう。
 もう終わりにしたい。こんなに苦しいなら、佳織さんとはもう会いたくない。
 彼女は僕のモノにはならないんだ。そういう人だ。だから想えば想うほど苦しむだけだ。諦めるしかないってわかってる。それしかないんだって。
 ビールの缶を握りしめる。泡と一緒にあふれ出す中身が僕の手を濡らす。
 佳織さんを諦める。それでいいだろ?
 あぁ、いいんだ。佳織さんには素敵な思い出をたくさんもらった。もう十分だ。
 僕はビニールに空き缶を放り込み、手を洗うために立ち上がった。ちょっと間抜けな象さんの形をした手洗いだ。
 そして、見上げた部屋の窓に明かりが消えていることに気づいて、心臓が止まりそうになった。
 わかってたくせに。それを確かめたくてここにいたくせに。
 なのに、僕はそれを見上げたまま動けなくなって、しばらく立ちつくしていた。
 明かりは寝室からわずかに漏れるだけ。夫婦なんだから、するに決まってる。おかしなことなんてない。僕だってわかってた。
 今夜、あの2人はセックスするって。

「…アハハ」

 わかってるよ。夫婦なんだし、して当然だ。いっぱいするに決まってる。佳織さんのあの体を、先輩は抱きしめて、キスをして、服を脱がせて、いろんなところにキスをするんだ。
 わかってる。そして、佳織さんはとても嬉しそうな顔をするんだ。先輩にキスをされて、脱がされて、体を触られて、とても気持ちよさそうな声を出すんだろう。僕にマッサージされてるときよりも、ずっと。
 そして佳織さんも、先輩にキスをする。体に触れて、あちこちにキスをして、ペッティングをして、先輩を喜ばせるんだ。
 そうやって、愛し合って、キスをして、愛撫して、繋がるんだ。
 2人で、いやらしく、暖かく、幸福なセックスをしているんだろう。

「あぁぁぁーッ!!」

 手洗いの蛇口を蹴飛ばし、靴を水浸しにする。何度も何度も石で出来た手洗いを蹴飛ばし、つま先に傷をつける。

「あぁぁーッ! あぁぁぁーーッ!!」

 引っこ抜いてやりたいけど、僕の力じゃ当然こんなの持ち上がらない。何度も蹴飛ばし、悲鳴を上げて、手洗いに八つ当たりする。
 壊れろ。みんな壊れろ。僕も、僕の周りにある全ても、みんな壊れろ。
 好きにならなきゃよかった。出会わなきゃよかった。
 こんなに苦しくなるのなら、催眠なんて、手を出さなきゃよかったんだ。
 彼女は僕のモノにはならない。彼女の瞳に映る男は僕ではなく、彼女の心を占めるのも僕じゃない。
 永遠に、手の届かない女性を愛してしまった。
 でも、それだけでは終わらない。そう思って諦められるのなら、まだやり直せる痛みで済んだ。
 僕のこの手には、まだ佳織さんのぬくもりが残っている。僕の唇にはキスの感触だってある。
 僕の愛した女性は、佳織さんだけじゃない。
 カオリちゃん人形もここにあるんだ。
 誰にも言えない、秘密の恋人が。

「わぁぁーッ! わあぁぁぁーーッ!!」

 壊れろ。壊れろ。もっと壊れろ。
 僕とカオリちゃんだけ残して、世界は壊れてしまえばいい。
 そうすれば、僕と彼女は、2人きり。

43: 名前:nakami投稿日:2010/11/18(木) 12:25
人妻人形日記・19
>6月8日(日)


「佳織さんに質問します。夕べ、あなたと旦那さんは、何回セックスしましたか?」
「…2回です…」

 2回。
 なんだ、たったの2回か。

「…フッ」

 笑ったりしてすみません、先輩。
 でも、なんだか拍子抜けです。

「気持ちよかったですか?」
「はい…」
「幸せでしたか?」
「はい…」

 お人形のカオリちゃんが、無表情に答えていく。
 今日、先輩が帰り際に僕のところに挨拶に寄ってくれた。
 とてもスッキリした顔の先輩を見送った後、「昨日の残りだけど晩ご飯どう?」なんて、軽く誘ってくれる佳織さんと2人で食事した。
 佳織さんも機嫌が良かった。いつもより1.5倍くらい明るかった。
 僕はほとんど相槌を打ちだけだった。無口な僕を怪しむそぶりすら、ご機嫌な佳織さんにはなかった。
 そんな佳織さんに食後のマッサージをして、そして、カオリちゃん人形にした。
 今、カオリちゃん人形は真っ裸だ。
 僕が脱がせた。服も、下着も、全部脱がしてやった。
 昨日はあれだけ躊躇いがあったのに、今日の僕は彼女を全裸にすることに抵抗はなかった。
 だって、僕のカオリちゃんだもん。
 彼女の体はとても綺麗だった。ビーナスのようだ。形の良い胸も、くびれたウエストも、そして、薄く繁ったあそこも、とても綺麗だ。
 先輩が夕べ何度も突っ込んだはずのそこも、人妻だというのに清潔なピンク色で、まるで少女のようだった。
 とても大切に愛されているんだろう。
 わかりますよ、先輩。こんなに綺麗で可愛いお嫁さんなんだもん。お人形さんみたいに、大事にしてあげたいですよね。僕にもすごくわかります。
 彼女の裸はすごく興奮した。でも、乱暴に扱うにはもったいなくて、僕にはろくに触れることも憚られた。
 彼女の裸を見ながら、マスターベーションしただけだ。
 4回も。先輩が彼女にセックスした回数よりも、ずっと多い。4回だ、4回!
 なのに、僕はまだこんなに猛りきっている。
 僕はソファに腰掛ける佳織さんを見下ろしながら、まだ擦り続けている。
 佳織さんは、僕の精液で顔も体もベトベトだった。
 すごい量だ。だって4回分だから。なのに、まだまだ溢れてきそうで止まらない。

「旦那さんに抱かれて嬉しかったんですね?」
「はい…」

 佳織さんは、うつろな瞳を床に向けて、抑揚のない催眠声で答える。
 僕はその顔の間近で陰茎を擦りながら、質問を続ける。

「あなたは幸せなお人形さんですね?」
「はい…」
「でも、僕に会えなくて寂しくありませんでしたか?」
「はい…寂しかった…」
「それじゃ今は会えて嬉しかったんですね?」
「はい…」

 彼女は僕に会いたがっている。カオリちゃんになる時間を楽しんでいる。
 だから、これは悪いことじゃない。お互いのためなんだ。先輩がいない間、寂しい佳織さんの相手をしてあげてるだけなんだから。
 そうですよね、先輩?

「佳織さん、これから僕のマッサージを受けるときは、あなたは下着姿にならないといけません。恥ずかしいかもしれないけど、それがマッサージの決まりだから、仕方ありません。下着姿じゃないと僕のマッサージは受けられないんです。それはあなたにとっても寂しいし、つらいことだ。だから、あなたは恥ずかしくても下着姿になりましょう。いいですね?」
「…下着に…?」
「なりましょう。いいですね?」
「……はい……」
「僕のマッサージはとても気持ちいい。触られただけで愛撫のように感じてしまう。でもマッサージなんだから気持ちよくて当たり前だ。僕は佳織さんの体のためにマッサージしているだけだ。感じすぎて恥ずかしくても、決してやましいことじゃない。あなたの大好きなマッサージだ。いいですね?」
「…はい…」
 うつろな瞳で、うつろな声で、佳織さんは僕の指示を受け入れてくれる。僕の興奮はますます高まっていく。
「佳織さん、手を失礼しますよ」
 僕は佳織さんの細い手をとって、僕の陰茎を握らせる。少し冷たい感触がすごく気持ちいい。
「そのまま握って…そう、もう少し強く。そして、上下に擦るんだ」
 きゅっと握られた手が僕の陰茎を滑って擦る。ぞくぞくとした快楽が腰をしびれさせる。
「そう…すごく、いいッ。もう少し強く握って。そんな感じ…続けて。その動きを続けて! あぁ、気持ちいい!」
 シコシコとカオリちゃんの手で僕の陰茎が擦られる。うつろな目は僕の陰茎を見もしない。なのに手は動き続けている。機械的に、単調に。
 本当に、お人形さんに擦ってもらっているみたいだ。
 これが催眠術。僕にしかできないカオリちゃんのお人形だ。

「気持ち、いい…佳織さん、あなたは“手コキ人形”だ。僕が“手コキ人形”と言ったらこの動きを思い出して。僕は、あなたの手コキが大好きだ! 君が手コキしてくれたら僕は喜ぶ! 僕の喜びは君の喜びだ! よく覚えておいて!」
「…はい…」
 僕に手コキしながら、佳織さんがうつろな声で返事する。ぞくぞくする。すごい光景だ。精液だらけの佳織さんが、僕に手コキしてくれている!
「だ、旦那さんがいない間、あなたはとても寂しい。不安だし、肩もこる。でも僕はとても優しくて頼りになる隣人だ。僕に来てもらうことであなたはとても助かっている。不安や寂しさを忘れられる。マッサージで体も楽になる。そうですね?」
「…はい…」
「佳織さんは、僕がいると安心だ。信頼できる。あぁ、だから僕に毎日来てもらっている。あなたが望んだから僕は来ているんだ」
「…はい…」
「これからも僕は毎日来る。毎日、あなたに会いにきて、ごはんを食べて、マッサージをする。あなたは僕が来てくれることを感謝している。僕が来るのがあなたも楽しみだ。そうですね? そうなんですよね、佳織さん?」
「…はい…そうです…」
「良い子だ、佳織さん。これからも…たくさん、可愛がってあげるからね」

 いいですよね、先輩?
 僕はあなたから佳織さんを奪うわけじゃない。ほんの少し、仲良くなるだけだ。彼女もそれを喜んでくれている。僕は彼女の寂しさを慰めているだけなんだから。
 だから、これは、ちょっとだけ、ご褒美をもらってるだけです。
 別にセックスしてるわけじゃないし、彼女の心を奪ったわけじゃない。
 少しだけ、ほんの少しだけ、僕の居場所を作っただけです。
 僕だけの、小さな秘密の人形部屋を。
 だから、いいですよね?
 先輩のいない間、彼女を僕のカオリちゃんにしてもいいですよね?

「カオリちゃん…! 可愛いよ、カオリちゃん!」

 僕に4回も精子をかけられて、ベットベトになった彼女の顔に、僕は5回目の精子もかけてしまう。全然、量が衰えない。1回目から、ずっとこんな調子で大量にあふれてしまう。まるで僕の体がどうにかなってしまったみたいだ。
 佳織さんはひどい匂いだ。それに、髪にまでこびりついた僕の欲望のかたまり。
「も、もういいですよ、佳織さん…」
 なおも動かし続ける手を、僕は止める。彼女は自動手コキ人形。手も顔も僕の精液でべっとりだ。うつろな目を床に向けて、顔に額から垂れ落ちる精液に全身を汚していく。
 豊満なのに、無駄な肉のない素晴らしい体。
 本当に、男の子を喜ばせるために作られた人形のようだ。
 僕のお人形。僕の言うことを何でも素直に頷いてくれる、可愛い可愛い僕のお人形。
 先輩が帰ってくるまでは、僕だけのモノだ。僕だけの。

「佳織さん…あなたは、僕が帰ったあと、シャワーを浴びた。着ていた服は脱いで、洗濯機に入れた。体が濡れているのは、シャワーを浴びている途中で電話が鳴ったから。でも、電話はすぐ切れた。間違い電話だったんでしょう。あなたは気にしない。体がベトベトしているのもボディソープだ。匂いも普通の石けんの匂いだ。気にしない。すぐにシャワーを浴びて、きれいに流して、もう一度、髪も体も洗い直しましょう。いいですね?」
「はい…」
「それじゃ、立って。はい、僕の手をとって…そう、ちゃんと立って、シャワーに行きましょう。僕が玄関から出て、ドアの閉まる音がしたら、あなたは目を覚ましてシャワーに行く。ボディソープでベトベトの体を流す。いいですね?」
「…はい…」
「それじゃ、もう一度確認します。ドアの閉まる音で、あなたは目を覚ます。僕はもうとっくに帰っていて、あなたはシャワーの途中だった。いいですね?」
「…はい…」
「それじゃ…僕はもう行きます」

 彼女の服は、すでに僕が洗濯機に入れてある。
 僕は帰る前に、僕の精子で全身を汚した佳織さんの姿をケータイに収めた。一生残しておきたい姿だ。
 愛おしさで胸がいっぱいになる。そしてまた、股間が熱くなっていく。
 本当に素晴らしい女性だ、彼女は。僕の性欲は全て彼女に奪われてしまったようだ。
 でも、明日も明後日も、彼女は僕だけのモノだから、慌てる必要はないんだ。
 明日もいっぱい、僕たちは愛し合える。
 リビングの扉を閉める前に、もう一度、僕の可愛いカオリちゃんを振り返る。
 僕の精子が、うつろな彼女の顔から胸へ垂れていく。

「とってもきれいだよ、佳織さん。おやすみなさい」

 また明日。

 

44: 名前:nakami投稿日:2010/12/02(木) 19:35
琉樹の館・1

 建築デザイン雑誌の編集をやっていると他人に説明すれば、センスの良い仕事をしているように思われる。
 確かにセンスが悪ければ売れない雑誌を作っているんだから、そう思われるべきなんだろう。イメージは大切だ。
 でも、どんな職場でも変わらないと思うが、結局のところ編集の仕事というのも、いわゆる「良好な人間関係の構築」というのが根幹であって、それは職場内外を問わずとてもストレスが多く、不合理で、我慢を強要される、泥臭くい地味な作業だった。
 私たちの主な取材対象となる建築デザイナーという人たちも、とても厄介な人格の持ち主が多い。
 特にトップレベルの仕事をする人たちは、外見こそ誰もが美しさなり逞しさなりで輝き、魅力にあふれているが、いざ仕事として接してみると、だだっ子のように頑固な気むずかし屋ばかりだった。
 妙なところに神経質で、自己中心的。思い通りにならないとすぐに不機嫌になるし、すぐに自慢をしたがる。要するに、昔ながらの職人大工と気質は変わらないのだ。
 昔ながらの頑固でわがままな職人大工の家で育った私が言うのだから、間違いない。
 そして今日の取材の相手も、相当手強そうな男だった。

 「琉樹 青葉(るき あおば)」

 日本の数多くの重大建築に携わり、今もいくつか残る重要文化財の設計者として、現代建築史に燦然と名を輝かせる「琉樹大介」の孫。
 青葉は、琉樹デザインの血統を継ぐ者として、業界に登場したときから華々しく注目を集めていた。そして、その巨大な祖父の名に臆することなく、堂々たる活躍を成し遂げ、若くして多くの企業や公共施設を手がけるのみならず、海外のコンペティションでも数々の賞を受賞してきた。
 さらには空間デザイナーとして、ファッションビルのプロデュースや一流ミュージシャンのPV、ステージなど、幅広い仕事を手がけている。
 年はまだ30を過ぎたくらいだそうだが、今もっとも注目を集める日本人デザイナーといってもいい。
 私は、数年前のコンペティション授賞式で撮影された、数少ない彼の素顔を写した雑誌のページを開いた。

『格調高い祖父のデザイン遺伝子を引継ぎながら、大胆で官能的な空間作り。多くのアーティストからリスペクトされる先鋭的なセンスが伝統を再構築する』

 大げさで意味不明な煽り文句で飾られているその男性は、まだ繊細な少年っぽさをありありと残しており、当時の実年齢よりも若く見えた。
 でも、その表情に浮かぶ才気と自信には近寄りがたさすら感じさせる。顔はイイけど、理屈っぽそう。正直、苦手なタイプだと思う。
 どうして取材嫌いで有名な彼が、まだ駆け出し編集者にすぎない自分なんかを名指しに単独取材をOKしてくれたのか、本当に理解に苦しむ。写真の目がこちらの弱気を見透かしているようで、胃が縮こまっていく。
 できるかぎりの事前勉強はすませた。彼の初単独設計からコンペの受賞作まで調べあげ、彼がプロデュースしたバーやクラブにも彼氏と飲みに行き、手がけた雑誌の表紙やアルバムジャケットまで集めた。
 あまりにも幅広い作品群に嫌気もさしながら、その途中で、彼が新婚の同級生のために無償で設計したという住宅リフォームのことを知り、わざわざ見せてもらいにも行った。
 この数週間で、ちょっとした琉樹博士になった気分だ。

「遠藤亜沙美くん」
「はっ」

 わざわざ部下をフルネームで呼ぶのは、うちの編集長くらい。私は立ち上がって姿勢を正す。編集長は、私の頭のてっぺんから爪先まで、まるで全身をスキャンするかのようにジロジロと眼光を尖らせる。
 私は、私の唯一の取り柄と言われている営業スマイルで編集長チェックに対抗する。さらに、目をパチパチさせて、昼のうちに店でやってもらったメイクをアピールすることも忘れない。

「うん。メイクはバッチリだ。誰かにやってもらったのか。そのジャケットは初めて見るが、おろしたてだな。うーむ、その色はどうだろうか……あとスカートも、もう少し短くても良かったような……んー、まあ、いいか。よし、それでいこう。オッケーだ!」
「はいッ」

 とりあえず見た目だけは気合いを入れておけ、と編集長に指示されていた。
 琉樹青葉への単独取材は、ずっと編集部としてお願いしてきたことだが、やっと出たOKが、なぜか私個人を指名してきていると告げたとき、編集長自身もその理由をわかりかねているようだった。
 しかし思い当たるとすれば、私の容姿だけだ。と、編集長はきっぱりと言い切ってくれた。
 はっきり言ってくれる上司で頼もしい。私も自分の記者としての実力は知っているので、まあ、そんなところかもしれないと思った。
 私は学生のときに少しだけモデルの仕事をやっていて、それをきっかけにこの業界に足を踏み入れている。
 新米記者の私が取材の場で役に立てるのは、この営業スマイルとお愛想だけ。私はまだ、どこの編集にも必ず1人はいるお花要員でしかない。今の自分の立場は、わきまえているつもりだ。

「余計なことは言わなくていい。とにかく褒めちぎって、作品への持論を一つや二つ貰ってこい。あと祖父さんへのライバル心ぐらいは聞き出せ。逆に祖父との微笑ましいエピソードなんかもあればいい。絶対に機嫌を損ねるな。気のあるそぶりを見せて、様子を見ろ。口の滑りがよくなるようなら、少しくらいなら体も触らせて、うちとの今後の約束も取っておけ。まあ、そこまで持っていければの話だが」
「あ、はいっ…えと、持論とライバル心…体も少し触らせる…っと」

 忙しくメモを取る私に、編集長はため息をついて、鷹揚な笑顔を見せた。

「まあ、気負うことはないさ。うちもヤツとは初めての仕事だ。ただの提灯記事になってもいい。せいぜい、にこやかに、良い関係のまま帰ってこれれば90点やる。がんばれ!」

 ビシと、私に指を突きつけ、自慢のダンディひげを揺らして編集長は言った。
 私は「はい」と口を結ぶ。
 もちろん、100点もしくは120点の仕事をしてきます。という気持ちでいっぱいなんだけど、それを編集長に約束できるだけの自信も実力も、残念ながら今の私にはなかった。
 今日の仕事で、いっぱいレベルアップできたらいいな。考えてみればすごいチャンスなんだ。私、絶対に乗り切ってみせるぞ。

「だが、そんなことよりもッ」

 私が秘やかな決意を燃やしていると、いきなり編集長の指が鼻に触りそうなくらい近づいてきて、思わず身を引いた。

「館の写真だけは絶対に忘れるな。いいな? 庭先だけでもいい。もしも中に入れさせてもらえたら、もうねっちりと撮っておけ。カードの予備は3枚くらい持っていけ。全メモリがいっぱいになるまで帰ってくるな。どんな小さいものも撮れ。時間をたっぷりかけて詳細に撮れ。むしろ泊まれ。夜の照明具合も見たい。プライベートな部屋も見てみたい。だからヤツと寝ろ。寝てください!」

 今にも鼻血を出しそうな勢いで、編集長は興奮した顔を近づけてくる。
 私は身を引きながら「そろそろ時間なんで、いってまいりますっ」と敬礼して、仕事用のバッグを肩に担ぐ。
 この数日、もう何回、編集長以外の編集部員にまで、何度同じ言葉を聞かされたかわからない。また、あの悲痛な叫びが飛んでくるぞ。

「くっそぉ! なんで俺を指名してくれなかったんだぁー!」

 編集長の叫びと、それに同調する建築マニアの編集部員たちの呻き声を聞きながら、私はダッシュで編集部から遠ざかる。
 向こうが指定してきた取材の場所は、設計者である琉樹大介自らが「空間の最高傑作」とまで称しながら、これまでいっさい内部が公開されたことのないという琉樹家の謎の私邸。
 通称、『琉樹の館』のテラスだった。

45: 名前:nakami投稿日:2010/12/02(木) 19:36
琉樹の館・2

 都心を離れて1時間。住宅街を離れ坂を上り、森に入って少し歩くとその洋館に出会うことができた。
 噂どおりというべきか、想像以上というべきか、自然に囲まれた広大な敷地にずっしりと構えた『琉樹の館』は、新米記者の私を圧倒させた。
 全て琉樹家の土地だそうだ。
 この呆れるくらい広大な空間を無駄に使って(私みたいな庶民にはそう見える)、長い時をかけて完成された、あの琉樹大介の最高傑作。なのに本人はおろか、施工した建築会社や配管会社ですら最後まで館の秘密を守りきり、その後も一切内部の様子は外に漏れていないという。
 今も日本建築史最大の謎と呼ばれている、幻の館だ。大げさではなく、本物の伝説の前に私は立っている。
 ドキドキしてきた。
 失礼のないようにしなければならない。マナー知らずの田舎娘だとバレれば、話のテーブルにつく前に追い出されることもありうる。
 緊張に押しつぶされそうになりながら、約束の時間までのわずかな猶予を深呼吸で使い切り、私は『琉樹の館』のベルを押した。

「あぁ、こんにちは。お呼び立てして申し訳ありませんでした。遠かったでしょう?」

 庭先から、ひょいと普段着の青年が現れる。
 コットンのチノパンとロングTシャツ。くつろいだ表情を見せる彼は、裕福で優雅な青年そのものだ。写真で見るよりもずっと朗らかな表情で、見た目の年齢をさらに低くしていた。
 琉樹青葉本人が、いきなりの登場だ。
 無造作で柔らかそうな巻き毛。庭をいじっていたらしく土のついた袖も、警戒心のない笑顔も、あまりにも日向的だ。
 彼の先鋭的でセクシャルな作品ばかりを追いかけてきた私には不意打ちというか、急に温かいものを喉に押し込まれたみたいで、言葉に詰まってしまった。

「……遠藤さんですよね?」
「あ、は、はい、申し訳ありません!」

 顔がみっともなく赤くなったのを自覚しながら、私は深々と頭を下げた。

「このたびは、私どもの取材を引き受けてくださり、ありがとうございます! 編集部を代表してお礼を申し上げ───」
「あぁ、そんなのいいんですよ。あなたを指名したのは僕の方だし。こんな田舎まで足を運んでいただいて、お礼を申し上げなきゃならないのはこちらの方です。さ、顔を上げてください」

 さりげなく腕に触れられ、促されるまま顔を上げる。
 琉樹さんは、私の顔をすぐ近くで見て、そして、喉、胸、腰、足首まで、じっくりと観察し、ゆっくりとまた顔まで戻ってきて、微笑みを浮かべた。
 あまりにも遠慮のない視線と、悪びれのなさに私は戸惑った。
 一応、女として生まれた者の面倒くさい使命の一つとして、この手の男の視線は今までも幾度となく受け止めてきた。だけど、初対面でここまで包み隠さずじっくりと品定めされたのは、モデルのときの社長と今の編集長以来だ。
 つまり、単なる下心ではなく、何らかの目論見があって彼は私の「外見の価値」を見定めたように思える。そして、そのことを隠す気もない。
 柔和で整ったその微笑みにはヨコシマな意図は見えないけど、私を指名してきた理由は、早いうちに聞いておいた方が良いかもしれないと思った。

「テラスへどうぞ。この時間は、あの場所が一番いいんです」

 琉樹さんの案内の後ろについて、玄関先をかすめて歩く。
 長い石畳があって、その先に数段の石積み階段があって、更に堂々と大扉が構えている。なんて重厚な佇まいの玄関。それを石壁が取り囲んでいる。二階から上は白い壁。大きな窓と煉瓦色の屋根が森からこぼれ落ちる陽光を反射し、森に返している。
 よく手入れされていて、立派なお屋敷。
 でも、空間の最高傑作という通り名にしては、その外観はあまりにも普通、と思った。
 それぞれの素材や技法に価値は感じさせるが、全体的にずしんと野放図に大きいだけで、おそらく当時の流行だったのだろう北欧風をそのまま取り入れただけの、特徴のない姿だった。
 平凡な洋館と言ってしまえば、あまりにも不遜だと編集長あたりに怒鳴られるかもしれない。だが、門の外から眺めたときの圧倒的な存在感は、ひとたび庭に足を踏み入れた途端、うそのように消え失せていた。

「つまんない家でしょ?」

 私の心を見透かしたみたいに、琉樹さんは冗談めかして笑った。
 慌てて私は両手を振る。

「と、とんでもないです! 堂々として、荘厳で…」
「威風堂々として揺るがず。琉樹大介の作品はそう言われてます。その彼の作品の中で、もっとも彼らしく、そしてつまらないのがこの家ですよ。なんだか噂ばかりが大きくなって、大層な謎があるみたいに言われてるけど、見てのとおり、ただの大きなお屋敷です。維持費だけを化け物みたいに食う、恐ろしい建物なんです」

 私の、というより編集部の聞きたかったことを先回りで否定して、彼は愉快そうに笑う。
 編集長は、今の彼の言葉を聞いて、さぞかしがっかりするだろうな。

「気になるなら、あとでゆっくり中を見せてあげますよ。でもその前に、テラスでお茶を。あの場所だけは一見の価値はありますから」
「え、中を見てもいいんですかっ」
「構いません。そのつもりでお呼びしたんですから」

 信じられない。
 孫が何て言おうが、少なくともここは現存する写真が一枚もなく、日本中の建築関係者が垂涎して中を見たがる神秘の館だぞ。それをこの私に見せてくれるなんて。

「写真も、よろしいですかっ」
「それは後にしましょうよ。せっかくあなたが来る時間に合わせてテラスをセッティングしてたんですから、少しは味わってからにしてください」
「え、あ、すみませんでした! よろしくお願いします!」

 急いで詫びて、琉樹さんの後についていく。
 ドキリとした。すぐに微笑みの奥に隠してたけど、一瞬だけ、彼の口元に不機嫌が浮かんでいた。
 こう見えて、沸点の低い人なんだろう。しかもその直前まで、柔和な表情は崩れない。
 感情をごまかすことには慣れてるけど、コントロールはできないタイプと見た。こういう人は、本格的に爆発させてしまうと、修復がかなり困難だったりする。
 この笑顔に油断するな。と、心のメモに綴っておく。今日は私の失敗をフォローしてくれる人はいないんだから。

「こちらへどうぞ」

 案内されたテラスは、確かに素敵な場所だった。
 木漏れ日が集まっている。まるで絵本の1ページのように暖かそう。
 ガラストップのスチールテーブルとお揃いの椅子。複雑に入り組んだスチールが、不思議な影を落としている。同じ素材の奇妙な形をした風車もテラスの横でカラカラ回り、その影に重なっている。
 まるで庭に影絵を作っているようだ。その黒い影が木漏れ日と相まって、音と光の揺れる不思議な空間を作っていた。

「……すてき」

 素人っぽい感想を漏らしてしまった。
 でも、琉樹さんは嬉しそうに「でしょう?」と微笑み、気を良くしたように見えた。

「少し日差しが動いたかな」

 琉樹さんは几帳面に椅子の位置をずらし、私にそこに座るように促した。
 足を踏み入れると、温度が上がった気がした。椅子も日差しで暖まっていて、固さも気にならなかった。ふわりと花の匂いも増して、ここが特等席なのだということが肌で感じられた。
 思わず私が笑みを浮かべてしまうのを見て、琉樹さんは、自慢げに目を細めた。

「なかなかのテラスでしょう? ほんの10分、そこに座っているだけで、みんな蕩けてしまうんですよ」

 蕩けてしまう、という表現に私は笑った。
 でも、そんな気持ちになるかもしれない。
 暖まったスチールの椅子は、私の体を心地よく受け止めてくれる。女性の体に合わせて緻密に配慮された構造なのだということが、座ってみて初めてわかる。
 ガラストップの下でスチール素材が描く複雑な模様は、日差しを受けて落とす濃い影と同じ色に交わり、私の足元で重なって、まるで目をきつく閉ざしたときに現れる残像みたいだった。
 カラカラと音を立てる風車の影がそれに重なる。映写機のようにそれは私の視線を惹きつけ、意味深な図形を足元に描いて走り回っていた。
 鳥の声。風車の音。まぶたが緩くなっていく。

「今、紅茶を煎れますね」

 琉樹さんの声に呼び覚まされた。うっかり仕事を忘れて、心地よさに酔ってしまいそうになってしまった。
 危険、危険。このテラスは気持ち良すぎる。

「どうぞ、リラックスしてください。取材の話は、まずお茶をいただいてからで構いませんよね?」

 琉樹さんは慣れた手つきでカップを温め、紅茶の葉をポットに漂わせ、素敵な香りをテーブルに広げていく。

「すみません、琉樹さん手ずからお茶を煎れさせてしまって」
「いえいえ。少し時間がかかりますので、待っててくださいね」

 待つ間、何か琉樹さんに聞くことはないか考える。
 でも、紅茶の香りと、この柔らかい空間に思考は細切れに絡まり、うまく考えがまとまらない。

 変だな。

 体が沈んでいく。目の前で回る影が迫ってくる。背中がまるで椅子に張り付いたみたいだ。なんとかそれを剥がすと、今度は体が前に傾いていった。風車はくるくる回る。カラカラと鳴ってる。鳥は、複雑な鳴き声を規則的に絡み合わせている。
 気怠いのに、気持ちいい。なによりまずいのは、自分のそんな状態を、自分でもどうにもできない。
 それよりも、もっと身を任せたいと体は欲求している感じ。

「耳をすませてください。心地よい音ですよね?」
「……はい……」
「でもね、じつはこの風車、モーターで回っています。鳥の鳴き声も、これ、スピーカーから流れてるんです」

 琉樹さんの声が、フィルターを通したみたいにぼんやりと聞こえる。白いティーカップが目の前に差し出される。いい香り。溺れそう。

「全部、演出ですよ。作り物です。あとこれ、今日のあなたの仕事も僕が作っておきましたから」

 そして、ティーカップの下に書類が差し込まれる。
 タイプされたその文章を、私は目をこらして、ゆっくりと辿っていく。
 簡単な生い立ち。館での生活。祖父の作品を見て育ってきた環境への感謝。2、3の代表作の解説。幅広い交友関係と、刺激を受けたデザイナーやアーティストの名前。
 幼い頃、祖父にクレヨンで描いた家を見せたら、その構造的欠陥を大まじめに指摘されたという、微笑ましいエピソードのオマケまで付いている。

「まあ、だいぶん脚色はしてますけど、だいたいこんなものでしょ。これであなたの仕事は終了ですよね?」

 インタビューすべきことは、ここにまとまっている。
 そうか。それじゃ私の仕事は終わりだ。これだけで十分に記事は書けた。私のすることはもう何も残ってない。
 でも、それでいいんだろうか。
 私が一番聞きたかったことが、ここにないような気がする。

「さあ、これであなたは、ただのお客さんだ。琉樹の館へようこそ、遠藤亜沙美さん」

 私はまだ彼の原稿を目で追っている。
 せっかくここまで来たのに、これで終わっていいはずない。
 私の初めての単独取材で、しかも相手はこんな大物なんだもん。
 もっと、何かできないのかな。全然足りない。仕事したい。
 原稿を追っていく。ぼんやりと霞んでいく頭で、必死で文字を追いかける。でも、頭が動いている気がしない。
 ぽたりと、原稿に雫が落ちた。私のよだれだ。
 みっともない。バッグからハンカチを出す。重い。手が動かない。のろのろと、ハンカチで拭いても拭いても口が閉まらない。

「仕事は終わったんですって」

 あごを、琉樹さんの繊細な指でつまみ上げられる。
 私の口からは、赤子のように息を漏らす声しか出ない。

「甘いものでもいかがですか? 今、クッキーが出てきますよ」

 さく、さく、と庭を踏む音が聞こえる。
 メイド服を着た女性が、トレイにクッキーを載せて、私の前に置いた。
 彼女、見たことがある。その整った横顔に視界を動かそうとする私に合わせて、琉樹さんが、力の入らない私のあごを持ち上げてくれる。
 私は知っている。彼女のことを、知っている。
 女優、道端小春だ。

46: 名前:nakami投稿日:2010/12/02(木) 19:37
琉樹の館・3

 年は30代の前半ぐらい。艶やかな日本顔とすらりとした長身はハリウッド映画に起用されるほどの美貌で、今や日本を代表する大女優。私は、彼女がよく表紙を飾る雑誌を毎号買っている。
 その彼女が、こんな場所にメイド服で現れ、私たちに給仕してくれている。とても優雅な仕草で、微笑みすら見せて、クッキーの駕籠と皿をテーブルに載せている。
 でもそんなわけがない。ぼんやりと頭に靄がかかって、現実感がない。夢を見ているんだと思った。

「本物ですよ。サインでも貰いますか?」

 琉樹さんが私の顔を支えたまま囁き、道端小春は上品に微笑む。
 私はこの状況が理解できなかった。

「小春は下がっていいよ」
「はい、青葉様」

 メイド服を着た大女優が、恭しく頭を下げて退場する。
 琉樹さんがクッキーを一枚取って、私の口元に持ってきた。

「どうぞ。我が家自慢の、道端小春特製クッキーですよ」

 バターの甘い香りが鼻孔をくすぐり、私は促されるまま歯を開き、端っこを囓った。
 美味しい。

「彼女は、女優になる前からこの館にいます。有名になった今も、仕事がオフの時はこうして戻ってきて、ああいう下品な服を着て、館の仕事を手伝ってくれているんです」

 ますます混乱してくる。
 道端小春さんは、琉樹青葉の親類?

「彼女は館の調度品です」

 調度品って何だろう?
 ますます意味がわからなくなっていく。
 琉樹さんが身を乗り出して、クッキーのついた私の口元をぺろりと舐めて、優雅な仕草で拭った。
 琉樹青葉に、キスされてしまった。
 ぼんやりとそう思うだけで、どう反応していいのか、考えはまとまらなかった。

「空間芸術っていうのはね、一言でいえば調和ですよ。空間と人が、いかに調和して折り合っていくか。その場所を作るのがデザイナーの仕事です。僕は、個人的にはその調和を壊す方が好きなんですけど、でも、時代を超える作品を作ってやろうと思えば、どうしても『調和』でまとめてやらないとダメなようです。それは人間の性向的にどうしようもない」

 琉樹さんが、何か仕事の話をしている。
 メモを取りたいが手帳がない。録音したいのに、レコーダーも取り出せない。

「しかしそこに生きた人間が住むとなると、どうしても調和は崩れる。人の我が出てしまうと、どんな空間も乱れ、視界を汚してしまうんです。ちょっとした自己主張、少しの手抜き、時間による劣化。どんなに完璧な空間を作ってやっても、そこに住む人間の怠慢次第で完璧はすぐに壊れる。でも、自分1人分の責任で間に合うような小さな完璧を作ったとしても、そんな狭いスペースには、当然デザイナーの満足は生まれない」

 紅茶を一口含んで、琉樹さんは続ける。
 私はぼんやりした頭で、必死に彼の早口を追いかける。

「僕の祖父が目指したのは、広大で、生きた人間が存在し、永遠に完璧を保ち続ける居住空間だった。そこに人が生活する以上、普通に考えれば不可能です。でも祖父はその問題に答えを出しました。人間ではなく、調度品を揃えれば良いのだと。両腕を失ったミロのヴィーナスが完璧な美となったように、人間から余分な我を奪って完璧な調度品に仕立て上げ、完璧な館のために働かせればいいと。とても簡単で、明確で、美しく、狂った回答だ。そう思いませんか?」

 ダメだった。途中から言葉がこぼれ落ちて前後が繋がらない。体が熱くて、頭が働かない。
 私のあごを支えるのに飽きた琉樹さんの指はいつの間にか離れていて、私はテーブルに顔を突っ伏している。
 ガラス越しに私の足元をくるくる回る風車の影が、とても艶めかしい物語を連想させる。絡み合う男女の姿のようだ。紅茶の良い香りが私の官能をかき立てる。鼻孔の奥になすりつけるように、夢中になってスンスンと吸い込む。体が熱い。たまらない。
 私の手は、股間に挟まっていた。
 どうしようもなく疼いて、太ももが勝手に動いていた。

「では、人間から余分を取り除き、館に仕える調度品として整えるには、どうすれば良いか。祖父は、空間の美と、人から我を奪う空間催眠を、同時に成立させた。一分の隙もなく、完璧な調和を実現させるには、館自身が美しい催眠装置でなければならない。祖父はそう考えて、見事に設計してのけた。まさしく彼は天才だ。その知識と工夫も素晴らしいが、なによりも賞賛すべきはその執念だ。異常者としかいいようのない男ですよ」

 私は、欲情している。
 渇くほどに体が熱く疼いて、目の前にいる男性を欲しがっている。
 いや、この渇きを埋めてくれるものなら、なんでもいいとすら。

「調度品は女です。美しい女たち。なぜなら、館は男だから。でも、ただきれいなだけの人形では困ります。この館に相応しい調度品には、内面の美しさも必要です。美しく理知的な人間が、館のための道具として献身的に機能することに意味がある。それでこそ、館に永遠の美と命が与えられるんです。わかります?」

 わからない。でも、うなづく。私はテーブルに頬を擦りつけ、必死にうなづく。

「だから、僕はふるいにかける。女を館の虜にし、余分な我を削り落とし、館に相応しいと認められる女だけを、調度品として館に残す。これが大変な作業です。僕の代になってからは、今まで4人の女を調度品にしました。落第させた女も4人です。姿が美しいだけではダメなんですよ。気品と魅力とセックスと美意識。主である僕と、そして何よりこの館を満足させるだけの女でなければ」
「はぁっ…!? んっ、んっ、あっ、あぁっ」

 琉樹さんの爪先が、テーブル越しに私の股間に伸びてきた。そして、私の下着の上からぐりぐりと指を押しつけてくる。
 破廉恥で無礼なこの振る舞いを、押しとどめるだけの理性は今の私にはない。
 無遠慮に、足の指で琉樹さんは私の股間を蹂躙する。恥ずかしくて、悔しいのに、私は彼の行為に反応してしまう。
 指が上下に動くたび、腰に痺れが走って震える。
 唇を噛んで声を堪える。でも、下着ごと入ってきそうなほど強く親指を押しつけられて、私は大きな声を出してしまった。

「……維持費を化け物みたいに食う、恐ろしい建物ですよ。でも、つまらない家と言ったのはウソです。じつに美しく楽しい家だ。あなたもきっと気に入ると思います。この館の調度品にしてくれと、心から願うことでしょう」

 クリトリスのあたりを、乱暴に指で挟まれた。
 濡れた下着がよじれて、肌に食い込む。
 ガラステーブルに爪を立てて、はしたない悲鳴を上げて、私はエクスタシーに達した。

「感度はいいようですね。あぁ、セックスではなく、あなたが今の状態に堕ちるまでのタイムの話ですよ。あなたの感受性は悪くない。第1関門クリアといったところですね。さあ、立って。玄関まで案内します」

 琉樹さんに腕を掴まれる。
 足に力が入らなくて、立ち上がるのもつらい。でも乱暴に私を立たせて引っ張っていく琉樹さんに、抵抗する力もない。

「亜沙美さん、どうです? この館、さっきと違って見えませんか?」

 私は、琉樹さんの腕にしがみついたまま館を見上げる。
 門の外から眺めたときは、近寄りがたいほどの威厳を漂わせた巨大な洋館だった。
 しかし一歩、門の中に踏み入れて近くで見てみると、それは大きいだけで凡庸な外観で、拍子抜けすらした。

 でも、今、私の目の前にそびえるのは、下腹が震えるほど雄々しく官能的で、男性的な包容力に満ちた美しい館だった。
 私は口の中にあふれる大量の唾液を、喉を鳴らして飲み込む。胸をときめかせる。

「さっきは立つ場所を間違えてたんですよ。季節、時間、天候に応じて、見るべき位置も変わる。今の時間、あなたの身長なら、この位置がベストだ。どうです? まだこの館がつまらないと思いますか?」

 そんなはずない。こんなにも美しく逞しい館なのに。
 ごつごつとした石の壁が、光と影で複雑なパターンを刻む。2階は白い壁。やや突きだした窓の反射が、手すりのなめらかなラインを艶めかしく浮き出していて、そのカーブを目で追うだけで、腰からうなじを撫でられるような感覚にぞくぞくした。
 力強い外壁と、それが描く陰影の繊細さ。影と光の巧妙な誘い。そそり立つ尖塔、外に向かって張り出すような複雑な組窓のエロティックな逞しさ。
 官能に押しつぶされそうだ。
 大きな男性に押し倒されたみたいに、抗えない。

「これが『琉樹の館』の本当の姿です。祖父、大介が理想とした男性の魅力を、館にすればこうなる。僕には古くさく思えるけど、まだ世の女はこういう男に魅了されるようです。亜沙美さんも、好きなんでしょ?」

 うなづく。何回も。私は全身で欲している。
 私の耳のすぐそばで、琉樹さんが甘い声を出す。

「……琉樹の館に、抱かれたいですか?」

 抱かれたい。
 飲み込まれて、めちゃくちゃに抱かれたい。乱暴にされたい。こんな衝動は初めてだ。耐えられない。叫びたい。

 この館と、セックスがしたい。

47: 名前:nakami投稿日:2010/12/02(木) 19:37
琉樹の館・4

 理性が吹き飛んでみっともないことを口走ってしまう直前で、私は仕事のことを思い出した。大事なことだ。とても大事なこと。
 琉樹さんの腕を、強く掴んだ。

「…しゃ、しん」
「ん?」
「しゃしん……いい、ですか…?」

 やっとの思いで、口にできた。
 琉樹さんは、私の顔のすぐそばで、唇を歪ませた。

「残念。館は撮影禁止ですよ、亜沙美さん。仕事熱心なのは結構ですけどね」

 そうか。やっぱり写真はダメか。
 編集長は、がっかりするだろうな。

「あなたは真面目な方ですね。それもまた良い素質です。それに、仕事が大事っていうのも良い心がけです。この館にはするべき仕事も多いから、きっとあなたもやりがいを感じてくれることでしょう。さあ、中に入る前に、次は少しここを歩いてもらいましょうか」

 琉樹さんに引きずられるまま、門の前に立たされる。
 真四角の石畳が、玄関までの短い道に続いている。
 入ったときもこれを見た。でもそこに立ったとき、私は軽い目眩を感じた。

「ルヴィ、頼むよ」
「かしこまりました」

 いつの間にか、私の横に外国人の女の子が立っていた。
 道端小春が着ていたものよりも、おとなしいメイド服。金色の長い髪を、頭の両側で結んで上品に垂らしている。大きな青い瞳で、上目遣いで私を見るのが愛らしい。とてもキレイな顔をしている。
 こういうお人形、アキハバラにたくさん置いてありそうだ。細くて小さくて、可愛らしい。

「ルビィと申します。本日は、私がご案内役を仰せつかりました。さあ、私の手を握ってください、お姉様」

 流ちょうな日本語だった。声まで可愛らしい子だ。
 ルヴィという名前らしい。その子が私の手を取って、エスコートしてくれる。

「足元に気をつけて、ゆっくり歩いてください。私がついてますから、大丈夫」

 石畳を、おかしな方向に歩き出す。
 右へ曲がったり、くるりと踵を返したり、足元の安定しない私は、ついていくのが大変だ。
 玄関は、すぐそこに見えているというのに。

「お姉様、足元注意です。石畳をよく見て、私の手を握っててください。すぐに御館にご案内できるようになりますから」

 ルヴィは、私のおぼつかない足取りに合わせて、とても慎重に歩いてくれた。彼女の小さな手を握って、私は彼女の歩くとおりに石畳の上を行ったり来たりする。石ごとに描かれている不思議な模様が、私の歩む方向に繋がっていたり、途切れていたり、捻れていたり、真っ直ぐ伸びたり、じっと見ながら歩いているうちに、感覚がおかしくなっていく気がした。

「亜沙美さんは、『CUBE』という映画をご存じですか?」

 琉樹さんの声がすぐ近くで聞こえる。でも、彼の姿はすごく遠くに見えている。石畳が、さっきよりも伸びている。ずっと遠くまで伸びている。

「とんでもなく大きな箱を作り、そこに人間を閉じこめ、脱出しようと足掻く姿の滑稽さを描いた映画です。なかなか愉快な作品ですから、オススメしますよ。でもね、人を惑わせ、閉じこめてしまうだけの仕掛けなら、あんな大げさなのはいらない。祖父が作ったキューブは、今、あなたの足元にある4×7の28個の石畳だけだ。だけど、あなたはじきに祖父の作ったキューブに惑うことになります」

 くるりと方向が変わった。そうすると、琉樹さんの姿はすぐ近くに、声は遠くに変わった。

「これに刻まれた模様は、じつは正しく並べれば館の平面図になります。でも、わざとそれをデフォルメで描いてバラバラにしてるんです。そして、人の感覚を狂わせる配置にした。ある一定の順序でここを歩き続けると、あなたの方向と距離の記憶が混乱する。館に入ると、あなたは自力で脱出できなくなる。それだけじゃない。位置の次は、感覚だ。テラスで蕩けたあなたの頭は、ここを歩き続けることによって常識と感覚と感情が繋がりを失い、バラバラになります。CUBEに閉じこめられた人間たちが弱さと狂気を露呈していくように、あなた自身も脆くなっていく。そして、あなたは館に自分の常識と判断を委ねてしまう。そういう道を、今、あなたは歩いてるんですよ」

 歩く。歩く。火照る体はますます熱くなっていく。官能で体はぐずぐずに蕩けてしまいそうなのに、頭は冷静になっていく。私はとても冷静で、いろんな考えが次々に湧いて頭の中を回る。
 隣にいるルヴィは優雅な笑みを浮かべて私をエスコートしてくれている。年は10代半ばくらいかな。子犬みたいで可愛い。なでなでしたい。なんか熱いな。すごく熱い。そうだ、仕事だ。琉樹青葉に取材しなきゃ。館まではまだまだ遠い。でもここを曲がればすぐそこだ。あ、また遠くなった。今日はセックスしたい。帰ったら彼に電話しよう。この石畳の模様は一つずつ見ればプリミティブな筆致で単純に描かれた線にしか見えないけど組み合わせはパズルみたいで趣深いな。さて、仕事しよう。でも今は歩くのが楽しい。体が熱い。セックスしたい。したい。すごくしたい。今すぐ。

「熱くありませんか、お姉様?」
「うん、熱い。すごく熱い」
「お洋服をお預かりします」
「いいの?」
「はい。どうぞ、全部脱いでください」

 私はジャケットを脱いでルヴィに預けた。まだまだ熱いからシャツも脱いで、スカートも脱いで、ルヴィに預けた。
 パンプスも脱ぎ捨て、ストッキングも脱ぐ。
 ブラを外したら、窮屈だった胸に涼しい風が当たって、ため息が出た。下も脱いだら、濡れた股間が解放されて、ますます熱くなってきた。

「……お姉様の体、とってもおきれい」

 ルヴィに褒められて、少し照れくさい。「ありがとう」と言って、濡れた下着も渡す。ルヴィはイヤな顔ひとつせず、可愛らしくお辞儀して、私の服を腕にかける。
 そして、私をまた歩かせる。体が軽くなって、とても清々しい。日差しを受けて暖まった石畳の感触も気持ちいい。

「お姉様、ご主人様にご挨拶を」

 琉樹青葉が私の目の前に立っている。私の体を隅々眺めて、彼は満足そうに微笑んだ。

「思ったとおりだ。あなたは、ファッションセンスは最悪だけど、体のデザインがじつに素晴らしい。ここの調度品になったら、しばらくは服を着ることを禁止しましょう。全裸で歩くあなたは、とても気持ちいい」

 私、褒められたのかな? けなされたのかな?
 それよりも、ご挨拶しなきゃ。
 私はニッコリといつもの営業スマイルを浮かべ、前もって考えておいたご挨拶を言う。

「遠藤と申します。このたびは、私どもの取材を引き受けてくださり、ありがとうございます。編集部を代表してお礼申し上げます」

 琉樹さんは、きょとんとして、そのあと笑った。ルヴィもぷふっと吹き出したけど、すぐに澄ました顔を作った。
 なんでだろ。どうして笑われたのかわからない。ちゃんと噛まずに言えたのに。

「本当に仕事熱心な人だ。いいでしょう。これは取材だ。あなたはこれから『琉樹の館』を取材する。しっかりと体験して、あなたの脳と体にこの館のしきたりを染みこませるといい」
「…んっ、はい。あ、はぁ」

 琉樹さんの手が私の胸に触れる。握られて、声が出てしまう。少し刺激が強くて、変な気持ちになってしまいそうだ。
 でも、編集長は少しくらいなら体を触らせろと言っていた。これで琉樹さんの機嫌が良くなるなら、触らせておくべき。仕事がしやすくなるから。

「んんっ、ふっ、んっ、あっ、あっ」
「肌触りもいい。見た目には引き締まっているけど、固すぎるわけでもない。楽しめる体です。でも、あまりここで長居をすると風邪を引かせてしまいそうだ。中へご案内させましょう。ルヴィ、亜沙美さんの手を引いてあげて」
「はい」

 私の手が、再びルヴィの小さな手に導かれる。
 はあ、と熱のこもった息を吐き出し、私はその手を強く握り返す。危ない危ない。仕事を忘れてしまうところだった。
 私は琉樹の館に入る。誰も見たことのない芸術の館に。
 館を見上げる。ぞくぞくする。顔がカァっと熱くなった。
 まるで、初めての男に抱かれる前の高揚に似ていた。

「お姉様、まいりましょう」

 相変わらず体はふわふわしていて、前に進んでいるのかどうかもわからない。私は歩いているはずだけど、足を出す位置がここでいいのか、目の前に見えている玄関に行くには、このまま進めばいいのか、それとも後ろに戻るべきなのか、夢の中を散歩しているようで、私にはわからない。
 ルヴィが、私の手を握ってくれている。この少女に私の道行きを委ねるしかなかった。
 扉が開く。ルヴィも、私も、手を触れてもいないのに。
 私たちはそこに吸い込まれる。くぐり抜ける瞬間に、しびれた。私の体に小さなエクスタシーが走った。ルヴィもまた、私の手を強く握り返してくる。
 私とルヴィは、館に入ると同時に達した。その秘密を打ち明け合うように、私たちは目配せをして、こっそり微笑んだ。

 琉樹の館は、私を迎え入れてくれた。

48: 名前:nakami投稿日:2010/12/02(木) 19:38
琉樹の館・5

 とても美しいと思う。昭和初期から中期の建築によく見られた近代欧風の意匠をベースにしている。でもそこかしこに新しい部分もある。大介と青葉のデザインが混在しているように見えた。
 大きな玄関ホール。シックな階段の手すり。オーロラのように歪んだ照明が印象に強い。大きさも長さも不揃いな板張りの床が、私の距離感を狂わせる。
 動いていた。館が、生き物のように蠢いて見える。自分の立っている位置がわからなくなっていく。館が不安定な私を飲み込んで、形を変えていく。

「お姉様、私の手を離さないで。そのままじっとしていてください」

 ルヴィが耳元で囁く。
 私は彼女の手を強く握り返す。彼女の細い手はとても暖かくて、彼女の温度が錯覚に溺れる私の意識を現実に繋ぎ止めてくれる。

「慣れるまで時間かかります。少しずつ体に馴染ませてください。つらかったら、私に寄りかかってもいいです」

 頭一つ低い彼女に肩を預ける。指を絡ませて、ルヴィが私の手を握ってくれる。目眩はまだ続いている。目の前の光景が伸縮し、歪む。まるで館自体が呼吸しているみたいだった。

「どうです。美しい玄関ホールでしょう? 今日の館はとても活き活きしています。まるで館自体が生きて呼吸しているように見えませんか? これが琉樹の館だ。あなたは正しい手順で館に招待され、館本来の姿を見ている。これはね、呼吸してるんじゃないですよ。あなたを、咀嚼しているんです」

 目眩はやがて、トランスの心地よさに変わっていった。館に潜むセクシャルが、私の興奮を煽り立てた。
 厳格な父性を感じさせるどっしりとした佇まいが、力強く私を抱擁する。若々しく洗練されたセンスが、私を愛撫し高揚させていく。
 太ももを伝う液体。いつのまにか私は、変な声を出していた。いやらしくて切ない声だ。男を求める声だ。

「亜沙美さん。つらいのなら、四つんばいになってはいかがですか?」

 とてもありがたい提案だった。私はもう立っているのもつらかった。
 琉樹さんに「ありがとうございます」とお礼を言って、私は四つんばいにならせていただいた。
 額を板張りにあてると、ひんやり冷たくて気持ち良かった。お尻を高く上げて、私は安堵のため息を漏らした。

「お姉様のスーツを預けてきますので、そのままの格好でお待ち下さいね」

 ルヴィが私のお尻を撫でていく。くすぐったくてよじれる。すました顔してたくせに、やっぱりあの子、イタズラっ子だ。

「ごゆっくり、どうぞ」

 そう言ってルビィがいなくなった後、別の手にお尻を開かれる。いきなり強引な手つきに驚いた。でも、全然悪い気はしない。もっと開いて、私のこの熱を外に逃がして欲しい。ふにゃふにゃに溶けたこの体を、どうにかして欲しいと思っていた。
 そして、電気を流されたみたいな衝撃がいきなり襲ってきた。
 願いどおりに、私の中に、男が入ってきたんだ。

「あぁぁーッ!」

 股間から侵入してきた衝撃は、一瞬で私の全身を駆け上り、頭の後ろでズシンと弾けて、すぐに絶頂に達してしまった。
 でも、彼はさらに何度も奥まで入ってきて、そのたびに背骨の中まで貫かれるような感覚に襲われ、私は意識が飛んでしまいそうになった。

「ひあぁぁッ! あぁぁーッ!?」

 琉樹青葉が、私を犯している。がくん、がくんと、乱暴に。
 私は失神しそうなほどの快楽に翻弄された。甘い官能の海に、強引に顔を沈められ、溺れているような感じだ。私の肺は熱い息に満たされ、呼吸するのも間に合わないほどだった。大声を出さないと、おかしくなってしまう。

「やっぱり、中も抜群だ。本当にあなたは素晴らしい体をしている。セックス、かなりお好きなんじゃないですか?」

 恥ずかしいことを言われ、私は怒りを感じたが、激しい快楽を否定できず、床に擦りつけるように何度も頷いた。
 それよりどうして、私は人の家の玄関で、セックスなんかしてるんだろう。しかも、琉樹青葉と。
 快楽に翻弄させながら、頭のどこかは冷静で、私はそんなことを考えていた。でも、そんな疑問もすぐに別の快楽に塗りつぶされていく。
 館に、食べられている。私の常識と理性が。
 裸にされて、床に顔を押しつけられて、犯されている自分を疑問に思いながらも、これも仕事だから仕方ないと思っている。
 そうだ。これも仕事だ。編集長だって、琉樹さんと寝ろと言っていた。これで彼の機嫌が良くなるなら、私はいくらでも体を開くべきなんだ。

「今までに何人と寝たんですか?」

 でも初対面の男にそんな失礼なこと聞かれて、答えられるはずもない。私はいつもの営業スマイルを浮かべて誤魔化す。

「こ、こまり、ます、そんなこと、訊か、あぁッ、訊かれてもォ!」
「亜沙美さん、床を見て。不思議な組み合わせでしょ? よおく見て」

 床は、黒い板張りだ。大きさも長さも不揃いで、複雑だ。目で追っていくと、どこかでぐにゃりと歪みだして、追いかけられなくなっていく。壁も、窓から入る陽光も、ぐにゃぐにゃで、不安になっていく。落ち着かない。この不揃いが何かイヤだ。

「それじゃ、次の課題だ。今から君の大事なプライベートについて訊く。でも君の秘密は君だけのものだ。大事に隠して、ごまかしてごらん。でも君の口から出てくるものはあべこべだよ。秘密は口から、ごまかしは心の中。ここでのルールはそれで決まりだ。さあ、もう一度うちの床を見てごらん。素晴らしい板張りだろ?」

 琉樹さんに従って、もう一度床を見る。さっきまでは不快にすら思えた板張りに、深い芸術性を感じる。長い歴史を刻みながらも手入れの行き届いた素晴らしい床材で、素材を限定したせいか、一枚一枚は不揃いな大きさであるにも関わらず、琉樹の館に相応しい調和と気品に満ちたで、館を支えていた。

「今までに何人と寝たんですか? 教えてください」

 2人だけだ。
 最初の男はモデル時代の事務所の社長で、不倫だった。2人目が今の彼氏だ。
 でもそんなことを初対面の男性に言えるはずもないので、『だから、そんなこと言えませんよぉ』と適当に笑っておく。

「なるほど。今の彼氏は、何をしている人なんですか?」

 彼は学生時代の2つ上の先輩で、情報誌の編集をしている。
 事務所の社長とのことが親にばれ、大騒ぎの末に別れて、心機一転するつもりで就活を始めたときに、いろいろお世話になって、そのまま付き合うようになった。優しい人だ。
 当然、琉樹さんには『秘密です』と答えておくけど。

「そうですか。同業者なら、なかなか忙しくて会える時間もないでしょう。セックスは満足してましたか?」

 イライラする気持ちを隠しながら、『もう、どうしてそういうことばっかり訊くんですか?』と苦笑いをしてみせる。
 私が本気で嫌がってること、この人は気づかないんだろうか?

「なかなか、会えませんからッ。あんっ。セックスは、あんまり、してないですッ! こんなに、気持ちいいのに、セックス、できなくてッ、あぁッ、あぁーッ!」
「彼氏はセックス上手ですか? 最初の男と比べてどうです?」
「全然、へたくそなんです! 社長は、いやらしい人だったけど、そのぶん、セックスは上手だったみたいで、あぁっ、初めて今の彼に抱かれたとき、んんっ、あぁっ、ちょっと、がっかりしちゃって、あっ! でも、彼の優しいとこが、好きだから、エッチは、そんなに、あっ、いいかなって、思ってますっ」
「でも、本当は不満だったんでしょ?」
「不満です! だから、さりげなく、教えるように、して、んんっ、だんだん、マシには、あっ、なってきてたんですッ、でも、あぁ、やっぱり、あの人、余裕ない、からッ、まだへたくそで…でも、好きなんです。彼のこと好きだから、いいんです!」
「今の男と、最初の男と、そして僕。誰のセックスが一番気持ちいいですか?」
「琉樹さんです! こんなに気持ちいいセックス初めてで、あぁっ、今の彼に、見せてやりたい! 私がこんなに感じてる顔、彼、見たことないからっ。セックスで、私、こんなに気持ち良くなれるんだよって、見せてやりたいっ、あぁーッ! 琉樹さん、琉樹さぁん!」

 この人、変なことばっかり言う。
 『そんなこと言えないですよぉ』とか、適当にごまかしてはいるが、私はホステスじゃないっつーの。
 イライラするのに、彼に子宮を突かれるたびに、どうでもよくなっていく。こんなに気持ち良くしてくれるんだから、多少のセクハラくらいは我慢しなきゃっていう、おかしな気持ちになる。
 取材のためにセックスしてるんだし、ちょっとくらいは仕方ないのかも。

「僕とセックスするの、好きですか?」
「大好き! 大好きです、琉樹さんのセックス! 優しくて、強引で、繊細で、最高です! 琉樹さん、最高ですぅ!」
「そろそろイキそうですか?」
「イってます! 私、さっきから、ずっと…! 琉樹さん、琉樹さん! 気持ちいい! 気持ちいいです! イキすぎて、頭、おかしくなりそォ…! もう、許して! 死んじゃうぅ!」
「あなたにとって最高のセックスは、この館で僕に抱かれることだ。これ以上の快楽なんてこの世にないんだから、よく覚えておいて」
「はい、はいぃ! 琉樹さん! 琉樹さぁん!」

 ずりゅ、と私の一番奥を突かれた。
 全身を震わせる痙攣に、私は引き攣った声を噛みしめる。しかし次の瞬間、快感が弓で放たれたように脊髄を駆け抜け、私は口を大きく開けて、思い切り叫んだ。

「ああぁあぁああぁぁぁあああッ!」

49: 名前:nakami投稿日:2010/12/03(金) 12:29
琉樹の館・6

 ひどい声だった。セックスでこんな声を上げたのは初めてだ。獣みたい。きっと館の遠くまで私の声は響いたに違いない。恥ずかしい。
 手足の力は抜けて、体は崩れ落ちる。快感の波は、いつまでも私の中を押しては寄せ、痙攣させた。口元からおちるヨダレが床を濡らすのを、どうにもできない。しゃべることもままならない。
 琉樹さんが、私のお尻に精液をかけた。
 その熱さに私はまた小さなエクスタシーを感じる。琉樹さんは射精しながら立ち上がり、私の顔のあたりにまで精液をかけた。
 ねっとりとした感触と、強烈な男の匂い。でも、抵抗する気にもなれない。もう好きなようにしてくれてもいいと思えるくらい、彼のセックスはすごかった。
 本当に、すごかった。

「館の主である僕に抱かれたから、あなたの体はもうこの館の一部だ。でも、これで終わりじゃないですよ。体なんてのは人間のパーツの一部でしかない。君はまだ館の中に入る許可を与えられただけだ。もっと深く館を体験して、館の調度品となるに相応しいか、心の細部まで確認させてもらいますからね」

 館に入る許可。
 そうだ、私は仕事で来ているんだ。
 何度も自分に言い聞かせているのに、ついつい忘れてしまう。自分のダメさぶりにイヤになる。

「…すばらしい、ホール、です…お祖父さまの、遺されたまま、なんですか…?」

 メモ、取らなきゃ。
 でも体をまさぐっても、ポケットがない。そういや、私は裸だった。まったく、仕事のときに服すら着ていないで、おっちょこちょいな記者だと思われてるに違いない。

「ハハッ、本当に、素晴らしい記者根性だ。ええ、それがあなたの仕事でしたね。質問には答えてあげますよ」

 嘲笑混じりのその言い方は少し癇に障ったが、彼が取材に応じてくれるのは有り難かった。

「そうですね。ここはほぼ祖父の遺したままですが、照明のあたりは僕の手を加えて、少し現代的な趣にしてます。妹は気に入らないみたいだけど、今どきの女性を招くなら、あまり堅苦しくしすぎないほうがいい。祖父の目指したスタイルを崩したわけでもないし。あなたもそう思いませんか?」

 もちろん『そのとおりですね』と私は言う。
 『おかげで雰囲気が柔らかく感じます』とも付け加えておく。

「……少し、浮いているような気が、します……前の照明が、見てみたかった……」

 でも琉樹さんは、まるで私がおかしなことを言ってるみたいに、眉を片方上げた。

「あなたは、ファッションもそうだけど、元モデルで、しかもデザイン誌の編集をやっているというわりに、感性が古めかしいというか、ズレてるというか……」

 苦笑しながら、そんなこと言われる。
 じつは私も自分のセンスには自信がない。友だちにもよく言われるし、職場でもたまにネタにされたりする。
 親が厳しかったから、ファッションの勉強始めるのも遅かった。周りに追いつきたくて、いきおいでモデルなんて分不相応なバイトを始めたのも、その反動だった。
 モデルやめてからは、またファッション関係に疎くなってしまった。エクササイズや食事コントロールくらいは健康にいいから続けているが、今の彼氏もファッションにうるさくない人だし、怠け気味だ。
 最新のデザインやってる人から見れば、そりゃあ私の感性なんて子豚さんレベルに違いない。余計なこと言わずに、ひたすら褒めておけばいい。編集長もそう言っていた。
「申し訳ありません」と私は謝る。こんな格好では逆に失礼のような気がするが、体が重くて動かない。申し訳ありませんと、何度か繰り返して謝る。

「まあ、いいですよ。ただこの先、あなたのその程度の感性で琉樹の館の調度品に相応しい変化を受け入れられるかどうか不安ですね。なんだか、今日も期待はできないかもしれませんね。容姿は抜群なだけに、残念だ」

 どうやら私は琉樹さんを失望させてしまったらしい。変なこと言ったかな? 気難しい人だから、発言には気をつけないといけない。これもさっき自分に命じたはずなのに。

「ルヴィ、拭いてあげて」
「はい」

 いつの間にか戻っていたルヴィが、私の股間を拭った。彼女がスカートから出した白いハンカチに、私の液体が染みていく。
 汚すからやめて欲しい、と私は言うが、「お気になさらず」と、ルヴィは丁寧な手つきで私の股間を拭ってくれる。
 しばらくそうされているうちに、じわりと中から新しい液体が染みてきて、私はますます恥ずかしくなる。ルヴィはそれでも、優しく拭ってくれる。

「お姉様のお顔も」

 ルヴィの綺麗な瞳が近づいてくる。そして、私の顔についている琉樹さんの精液をぺろりと舐められた。くすぐったくて、また変な声が出てしまう。

「逃げないで、お姉様…私がきれいにして差し上げますから」

 頬も、まぶたも、唇も、ルヴィの柔らかい舌で撫でられ、ぞわぞわとする。

「はぁ…ッ!」

 股間を拭いていた指が、中にまで潜ってきた。体が仰け反る。ルヴィの軽い体が、その上にのしかかってくる。甘くて熱いため息が、私の耳の中に入ってくる。

「ルヴィ、そこまでだ。次に進むよ」
「はい」

 ふっ、と淫靡な気配がその表情から消えて、ルヴィが私から離れた。忠実なメイドがそうするように主人の横にかしこまり、あらためて、私の手を取って立ち上がるように促した。

「ルヴィはあなたを気に入ったようだ。あなたが調度品になったら、もっと仲良くしてもらえますよ」

 からかうような琉樹さんの言葉に、ルヴィは微笑みを浮かべる。
 私もこの子は、嫌いじゃない。

「ルヴィ、白兎(はくと)は?」
「今日はお見かけしていません」
「そうか……小春は厨房かい?」
「はい」
「わかった。ま、白兎にはそのうち会えるだろう。ルヴィは彼女の手を引いてあげて」
「はい。お姉様、一緒にまいりましょう」

 ルヴィの小さな手が、私の指にキュッと絡みついてくる。懐かしいぬくもりを見つけて、私は安堵する。

「次は客間を見せてあげよう。ついておいで」

 やった。中を見せてくれるみたいだ。
 一時はどうなるかと思ったけど、まだ私に仕事をさせてくれるみたい。嬉しい。

「この館には、離れを別にすれば、大小合わせて27の部屋があります。そして、それぞれの部屋に、通常の居住空間とは別の意味と機能が備わっています。あなたにはそれをいくつか体験してもらう。順序も僕が決める。それが終わったとき、あなたは新しい自分に目覚める。琉樹の館の調度品として、この館に相応しい女として生まれ変わるんだ。もちろん、その資格が君にあればの話だけど」

 なんだか小難しいこと言ってるのかもしれない。メモを取れないのが痛い。これらの言葉のどこかに琉樹青葉を知る手がかりがあるのかもしれないのに。
 それにしても、27も部屋があるのか。そんなに大きい館なのか。ダメだと言われたけど、やっぱり写真が欲しい。
 もう一度だけ、お願いしてみようかな。
 歩いているだけでも、こんなにぐにゃぐにゃ歪む館なんだから、全然構造がわからない。

「ルヴィの手を離さないで。君の方向感覚も距離感も、ここの廊下では役に立ちません。君1人では一生この館からは出られませんよ」

 それは怖い。ルヴィの手を強く握る。ルヴィは、そんな私をからかうように指の間をくすぐった。

「こちらへどうぞ」

 シックでシンプルな部屋だった。
 ベッドとテーブル。小さなカウンター。チェストと、壁掛けの絵。

「この客間に迎えるのは、調度品になる前の女だけです。琉樹の館に客などなく、主と館があるだけです。そのどちらでもないのは、今のあなたと同じ、調度品に加工される前の女だけなんです」

 私は絵の前に立った。女の絵だ。とても優しくて悲しそうで怒りに満ちた笑顔を浮かべている。よく見るとそれは私の顔だった。私の表情に合わせて絵が動いている。いいや、この絵に合わせて私が動いている。
 くるくると表情を変えるその絵を見ているうちに、不思議なことが起きた。
 客間は私の部屋になっていた。私が幼少時代を過ごした古い家。その後、建て直した新しい家。学生時代を過ごした寮と、モデル事務所の社長が借りてくれたマンション。そこから引っ越した今の部屋も。

「ここであなたは、昔の自分を見るでしょう。そして、その過去を告白してください。全て、この館では無用なものだ。この場に捨てて、次へ行きます。今のうちに、見ておきたい過去は見ておくといい」

 懐かしくて泣きそうになった。まだ若い頃の父と母がいる。大工だった乱暴な父には良い思い出がない。母と私はいつも父に気を使って暮らしていた。家が嫌いだった。
 両親のことを理解するのは時間がかかった。妻子のいるモデル事務所の社長なんかとおかしな関係になったのは、そのことが影響していると言えなくもない。父のせいにする気はないけど、大学で初めて父から解放されたばかりの私は、自分を安定させるのにとても苦労していた。
 今まで被ってきた窮屈な殻を破りたくて努力した。無理をしちゃって、良いことも悪いこともあった。
 古い思い出も新しい思い出も、この狭い部屋の中をぐるぐると駆け回る。
 でも、どうしようもなく思い出すのは、子供のときの、父に対する恐怖だ。
 あの頃の私にはどこにも逃げ場がなくて、息苦しくて死にそうだった。
 母に言ったことがある。私を連れて逃げてくれないのって。私は泣いていた。母は、困った顔して笑っただけだ。
 母はいつもそうだった。私が父の悪口を言うと、いつもは優しい母が決まって───。

「……祖父は、この館に今よりたくさんの調度品を置いていた。全部で何人いたのかな。とにかく、たくさんだ。小さい頃の僕には、当然、ただの使用人兼愛人にしか見えなかったけど」

 過去を見て、語り、涙を流す私に、突然割り込むように琉樹さんが、自分の話を始めた。

「僕の母も、この館にいた。ここに住んでいたんだ。でも僕は、館に住む資格はないから、離れに住まわされていた。裏にある、小さくみすぼらしい建物さ。僕はそこで個室を与えられ、他の何人かの子どもと同じように、母と離れて暮らしていた」

 ぷつ、と私の記憶の輪は途切れた。
 目の前にあるのは、見たこともない女の肖像画だった。

「僕が母に会えるのは、祖父がいないときだけだった。こっそりと、見つからないように母に会いに行った。子どもの僕にとっては命がけの大冒険だったけど、でも、それだけの価値があった。母は優しくて美しい人だった。世界で一番美しい人だ。それなのに、あんな男の───」

 ルヴィの咳払いで、琉樹さんは言葉を切った。
 そして沈黙した。
 私はじっと肖像画を眺めている。彼がどんな表情をしているのか、ここからではわからない。私はなぜか、面白くもない女の絵なんかをじっと眺めている。
 動けないのではなく、今の彼と目を合わせるべきじゃないと、幼い頃に培った防衛本能が警鐘を鳴らしていた。
 きっと彼は私を、やり場のない怒りのぶつけどころにするだろう。なぜ、琉樹さんが怒るのかわからないけど、背中に感じるヒリヒリした空気は、男の人が怒っているときの感じだ。私はそれを、とてもよく知っている。そして今でも、すごく怖い。
 でも、おとなしく待つべきなのか、それとも積極的に話題を変えるべきなのか、私が取るべき行動の、どれが正しいのか自信がない。

「……行こうか。君の過去なんてどうでもいいや。次の部屋に行こう」

 冷たい口調だった。やっぱり、私は彼を怒らせたのかもしれない。
 私はとにかく謝った。この部屋を褒めて、もう少し見せて欲しいとお願いした。
 でも琉樹さんは、もういいと言うだけだった。

「いいんです。あなたの過去は、もう十分だ」

 がっかりだ。私は本当に仕事がへただ。
 そして琉樹さんはルヴィに私の手を引くように言って、話を変えた。

「あなたの知り合いで、最も美しい女性は誰ですか? もちろんまだ独身の人で」

 おかしなことを聞くと思いながら、私の先を歩く琉樹さんの背中に向かって、大学時代の同級生の名前と、今の職業を教えた。

「へえ。あの朝の番組で、キャスターやってる人ですか?」

 大学時代のミスで、頭も良い子だった。最初はお互いライバル意識していた関係だったが、ミスキャンパスのコンテストを私が辞退した直後くらいに、彼女の方から近づいてきた。
 たまたまモデルのバイトの都合でキャンセルしただけだったのだが、向こうは私が負けを認めたとでも思ったらしく、上からの態度で気にくわなかったが、彼女の考え方には得るものも多いので、なんとなく付き合いは続いている。

「良い知り合いをお持ちですね」

 軽い口調で琉樹さんはうなづき、その話は終わった。少し機嫌が良くなったようだ。彼の質問の底にはいやらしい目的が潜んでいる気はしたが、それ以上は何も言ってこないので、私も口をつぐんだ。
 おとなしく廊下を歩く。琉樹さんが前で、私はルヴィと手を繋いで後ろに続く。

50: 名前:nakami投稿日:2010/12/03(金) 12:30
琉樹の館・7

 前に進んでいるのか、どこかで曲がったのか、私にはわからない。デジャヴを繰り返しているような、不思議な感覚。
 女性がいた。ルヴィと同じ衣装を着た女性が2人、扉の前に立っている。
 どちらも私と同年代くらい。1人は、短髪長身のスレンダーで、引き締まった貌をしていた。もう1人は、隣の彼女より背は低いが、グラマラスな体をしていて、髪も顔立ちも柔らかそうな人だった。
 彼女たちは、まるで機械仕掛けのように揃った動きで、恭しく扉を左右から開く。明るい日差しが部屋から漏れてきて、その白い光の中を琉樹が入っていく。
 ルヴィが何かの合図を送るように、私の手を一度、キュッと強めに握った。私たちも彼に続いて部屋の中に入っていく。
 いい匂い。10人掛けほどのテーブルが料理でいっぱいになっている。そして、その脇には3人の女性が立っている。
 食堂だ。ここは館の住人が食事を摂る場所。
 廊下を歩いてきたときの、ぐにゃぐにゃとした目眩は治まった。
 大きなテーブル。シャンデリア。白い壁に、墨色で大きな木目調が描かれていて、とても不思議な感じ。
 ぴかぴかに磨かれた卓面に並ぶ料理まで欧風だ。まだ窓から差し込む日差しも明るいのに、煌々と焚かれるシャンデリアの灯り。それに負けじと輝く料理。そして壁の不思議な模様。
 ぐにゃり、とまた目の前が歪む。でも、理解をすればすぐ視界はもとに戻った。
 歪むのは、足りないからだ。
 このテーブルには、まだ料理が足りない。
 ルヴィの手を私から離す。私は、琉樹さんの座る上座まで歩く。そして、彼の横に立つ。
 料理人はどこ?

「失礼します」

 食堂の奥にもう一つ扉がある。そこから現れた女性の存在感に、食堂はさらに輝きを増した。
 道端小春だ。

「青葉様。本日の料理は、全て私がご用意させていただきました。ただいまより、メインの皿もご用意させていただきます」

 あの大女優の手にかけていただけるなんて、夢みたい。
 私は小春さんに促されるままに、テーブルの上に仰向けになり、琉樹さんに向かって足を広げて膝を立てた。
 小春さんの後ろに、3人のメイドさんたちと、さっき扉の前にいた2人のメイドさん。そして、ルヴィも並ぶ。

「亜沙美さん。紹介が遅くなりましたが、これが本日、この館にいる調度品たちです。本当はあと1名いるんですが、彼女は少し特殊なので、また後ほど。小春とルヴィはもう紹介は終わってますね。あとは先ほど扉の前にいた、背の高い方が橘夏で、もう1人がイーリンです。あとその隣が、藍花、真生、リズです」

 彼女たちは、とても美しい所作でお辞儀して微笑みを浮かべてくれる。
 足を広げたままで申し訳ないと思いつつ、私もお愛想と会釈だけはお返しする。
 すごい。みんな美人で、可愛い子ばかり。小春さん以外にも、どこかで見たことあるような気のする人もいる。

「ここにいる以外に、あと3名の調度品がいます。でもみんな、それぞれ仕事や学校があって、今日はいません。昔と違って、今は人を完全に囲っておくのは難しい。中には戸籍も国籍もなく、ここでしか生活できない子もいますが、だいたいみんな、それぞれの『普通の生活』というのを、のびのびと過ごしてます。そして仕事の合間の休日、あるいは放課後、ここに帰ってきて再び調度品に戻る。わりと自由な職場なんです。意外でしょ?」

 小春さんが、手際よく食材や調味料をテーブルに並べていく。後ろでお手伝いしている人たちも、テキパキと無駄がなく、まるで熟練の舞台を観ているようだ。

「あなたがもし、ここの調度品になっても、今の仕事を望むなら続けても良いですよ。ただし、帰ってくる家は変わる。あなたは、職場にも、家族にも、恋人にも言えない秘密を抱えることになる。でもそれはとても名誉で甘美な秘密だ。あなたはこの館の一部となることに喜びを感じて、進んで館に奉仕をするようになるでしょう。僕たちと一緒に過ごす、この密やかで美しい暮らしを、あなたは気に入ってくれると思いますよ。さあ、小春」
「はい」

 小春さんが、指にドレッシングを一滴のせて、私の鼻にちょこんと塗った。そして、リップを塗るみたいに、私の唇をゆっくりとなぞった。

「あなた、とてもきれいなお顔と体をしているわ。料理のしがいがありそう」

 貫禄すら感じさせる、慈愛に満ちた微笑みで小春さんは言う。彼女に褒めていただけるなんて、なんだかとても嬉しい。
 そして小春さんはチューブに入った白いソースを絞り、私の喉から下腹まで、一気に線を描いた。
 冷たさと艶めかしい感触が私の肌を感じさせ、思わず悲鳴を上げて仰け反った。

「ダメよ。あなたはみんなに召し上がっていただく食材なのよ。暴れないの」

 そうだった。私は今から皆さんに召し上がっていただく料理になるんだ。せっかくあの小春さんに料理していただけるんだから、邪魔しちゃダメ。
 でも、彼女の手が触れるたび、飾り付けの食材が、お腹や胸に乗るたびに、私はビクンビクンと、はしたなく感じてしまって、やらしい声も出てしまう。

「あなたのこと、みんなに良く知ってもらわなきゃ。美味しいお料理になって、喜んでもらうのよ。みんなであなたを食べて、味わって、愛してあげるわ。嬉しいでしょ?」
「あぁッ、はいっ、う、嬉しいです! は、ぁ…ッ、あ、ダメっ、そこ、ダメです! 摘んじゃ、あっ、あぁっ、だめぇ!」
「ふふっ、もう、おてんばしないの。あなたを、とっても美味しくしてあげるんだから、じっとしてて」

 小春さんの手が、私の乳首を摘み上げて、くるりとその周りにソースを回す。そして、ねっとりとしたキャビアをスプーンで乗せる。

「あなたの乳首、とてもきれいな色をしてるから、キャビアによく映えるわ。美味しそうよ」

 顔が熱くなるのを感じた。
 小春さんは容赦なく私の体を調理し、盛りつけていく。
 鎖骨をなぞるようにドレッシングを盛り、ハーブを並べる。くすぐったくてゾワゾワした。胸の谷間にセロリスティックを何本も挟まれ、卑猥なことを連想してしまい、目を背けた。
 小春さんはソース皿に指先を浸し、その手で私のお腹を撫でる。脇腹に流れるような線を描かれ、仰け反って歯を食いしばった。その上にローストビーフを丁寧に並べられる。ぞくぞくして、また声を出しそうになる。
 そして太ももに、冷たいチューブのドレッシングで下から上に線を描かれ、私はとうとう悲鳴を上げた。暴れる私の体を、調度品の方たちが左右から取り押さえた。
 私は、何度か小さなエクスタシーにも達した。
小春さんが触れたり、食材が盛られるたびに感じてしまい、抑えようがなかった。
 肌が、信じられないくらい敏感になっている。
 絶え間のない愛撫のような調理に、私は全身を翻弄され、喘いだ。
 はしたなく濡れて、おそらく今もヒクヒクと震えているのだろう私のアソコを見ても、小春さんは目を細めて微笑むだけで、手も触れてくれなかった。
 そこは、青葉様の場所だからと言って。

「じつは、小春は今年いっぱいで調度品を卒業する予定なんですよ。祖父の代から勤めてくれたベテランさんなんですけどね。彼女、来年には結婚する予定なんです。20歳も年上の映画監督さんと。あ、今のはオフレコでお願いしますね」

 琉樹さんが冗談めかして笑うと、私の顔に指でソースを塗っていた小春さんも、肩をすくめて微笑んだ。

「僕はね、結婚も卒業も自由に許しているんですよ。祖父の時代とは違うんだ。調度品にだってそれぞれの幸せを得る権利はあるでしょう。それに、調度品自体が永遠であるはずもないからね。でも、次の補充はしなきゃならない。小春の抜ける穴は大きいんだ。だからこうして、新しい人をスカウトしているんです。調度品に相応しい人材を探すのは大変なんだ。美しければ誰でも良いというわけにもいかないし」

 琉樹さんは、大仰なため息をついて愚痴をこぼす。
 でも私は、それどころではなかった。
 小春さんの指が体の上を繊細に動き回り、私は彼女の指先に翻弄されて悲鳴を上げる。
 強烈で終わりのない愛撫には、溺れるしかなかった。この人の指で、体を開かれ、骨まで抜かれてしまいたいとまで思った。
 やがて、彼女の指はぴたりと止まる。

「出来ました、青葉様」

 指先まで痺れて、力が入らない。閉じることもできなくなった唇から、たらりと唾液が垂れてきて、テーブルを濡らした。
 私の体は隈なく料理された。琉樹さんは私の股の間から全身を眺め、満足げに笑った。

「相変わらず見事な腕前だ。もうすぐこれが見れなくなるなんて、残念だよ」
「青葉様がお望みなら、私はいつでもお料理を振る舞いに参ります。結婚しても、自分がこの御館の調度品であることは、決して忘れはしません」
「ありがとう、小春。誰か、写真を撮ってあげて。彼女の料理をいただく前に、この美しい作品を永遠に残しておこう」

 私のすぐ上で、シャッターの音が鳴って、自分の仕事を思い出した。
 そうだ。私は、琉樹青葉と、琉樹の館を取材しなきゃならないのに。どうしてすぐ忘れちゃうんだろ。
 聞こう。聞きたいことがたくさんある。
 でもそのとき、いきなり私の股間に入ってきた衝撃に、私は悲鳴を上げた。

「うぅあぁぁああーッ!?」

 琉樹さんが、私の太ももを持ち上げ、固いペニスを挿入してきた。火照った体の中をいきなり抉られ、私は大きな声を上げてすぐに達してしまった。
 積もりに積もった快感の大波はすぐには引かず、私の体をしばらく痙攣させた。

「…あ…あ、あ……」

 喉からは、まともな声も出てこない。体中の酸素がからっぽになったみたいに、呼吸が間に合わない。
 そんな私を見下ろして、琉樹さんは愉快そうに口端を上げて、周りを見渡した。

「それじゃ、みんなにも紹介しよう。彼女の名前は遠藤亜沙美さん。今はくだらない雑誌の編集記者さんだけど、ご覧のとおり、以前はモデルもやっていたほどの美貌の持ち主だ。彼女が立派な調度品になれるかどうか、みんなの舌でも味わってみてよ。どうぞ、召し上がれ」
「あ…あっ……いやっ…いや、いやあぁぁッ!」

 あちこちから、一斉に手が伸びてきて、私の肌をまさぐる。顔も、胸も、お腹も、彼女たちの舌と手が這い、余すことなく咀嚼される。
 腕を押さえられた。足も広げられた。身動きもできないまま、琉樹さんに貫かれ、メイドの格好をした館の調度品たちに愛撫される。

「んー! んんーっ!」

 顔中を舐められる。口と舌を吸われ、助けを乞う私の悲鳴もふさがれる。耳の中にまで舌が入ってくる。喉を執拗になぶられる。
 強く胸を握りつぶされて、痛みと快楽に体が引き攣った。
 もう片方の胸は優しく舌で撫でられ、くすぐったさによじれる。お腹の上の肉をピチャピチャと咀嚼される。音がいやらしい。太ももの内側を甘噛みされる。ぞくぞくする。
 琉樹さんは私の体の反応を楽しむように、ゆっくりとしたペースで、私の中を行き来していた。強く、緩く、私の体を好きなように揺すっている。
 かつてないほどの大きな快感が、私の全身を這い回っていた。多人数で私1人の体を味わいながら、彼女たちは息を合わせるかのように愛撫の強弱をつけ、快感の波を操っている。
 右の胸が強く吸われれば左は優しく円を描き、足先を舐められる甘い刺激は太ももの甘噛みに引き継がれ、へそを舐め上げられる快楽のさざ波は脇の下で大きな波となり、耳たぶを囓られる強烈な刺激となって私にはしたない声を上げさせた。
 料理人の腕も確かならば、彼女たちもまた、マナーと味わい方を知り尽くした美食家たちだった。
 奇妙なことに感心しながら、私は彼女たちに自分の体を味わっていただく快楽のディナーに溺れていく。何度絶頂に達したのかわからない。その感覚も最後には失っていた。半ば気を失っていたと思う。
 琉樹さんのピストンが激しくなって、揺さぶられた。
 悲鳴を上げる気力もなくした私は、琉樹さんの精液をまたお腹と胸にかけられ、彼女たちにそこを舐め取られながら、呆然としていた。

「亜沙美さん、ごちそうさま。とても美味しい体でした」

 小春さんが、私の髪を優しく撫でる。唇についたソースを舌で舐め取る仕草が、とても色っぽいと、ぼんやり思う。

「でもね、御館はまだあなたを味わい足りないみたいなの。おかわりいただいても、いいわよね?」

 言っている意味がわからなかった。
 私はもう、死にそうなくらいの快楽をイヤと言うほど味わって、考えるのもつらかった。
 コロンと、体を裏返らせる。
 そして、火照った背中に、いきなり冷たいクリームを落とされ、私は悲鳴を上げた。

「動いちゃダメ。あなたの体は、背中までとてもきれいね。まるで極上のスイーツ……甘くて、柔らかくて、素敵よ。私がもっと、あなたを美味しくしてあげる」

 敏感になった肌の上に、次々と高い位置からクリームを落とされる。冷たいのに、なぜか塗られたところから熱くなって、体がいやらしい反応をする。周りのメイドさんたちに押さえつけられた。私はまた小春さんに料理されるてしまうんだ。
 これ以上されたら、本当に死んじゃう。助けて。もうやめて。

「大丈夫よ、死にはしないわ。求められたら、応じなさい。感じたなら、受け入れなさい。あなたの体は御館のもの。あなたの意志は奉仕するもの。それが今日からあなたの仕事で、使命なの」

 小春さんのぽってりとした唇が、私の耳に微かに触れる。そしてくすぐったい声で囁かれる。

「あなたの仕事を全うしなさい」

 背中に落ちたクリームを、ぐちゃぐちゃにかき混ぜられ、指で拡げられる。
 彼女の手が触れたところが、ぞわぞわと痺れて、体が浮いてしまう。
 口の中に指が入ってきた。小春さんの甘い指が私の舌を捉えて蠢く。クリームを塗りたくられる。私は、声にならない呻き声を上げた。

「……ルヴィさん、あなたは亜沙美さんを召し上がらないの?」

 ルヴィは、私から離れた扉のそばに立っていた。私と目が合うと、自分の体を抱くようにして、赤くなった目と顔を逸らした。
 その純情そうな仕草に、私の方が羞恥を覚える。
 私をそばで支えていてくれたあの子に、このいやらしく乱れた姿を見られていたことが、すごく恥ずかしいと思った。

「とっても美味しいわよ、この子。あなたも一口いかが?」
「わ、私は……」

 耳まで真っ赤にして、私はいいです、と消え入りそうな声でルヴィは顔を伏せる。小春さんは、くすりと、私の耳のそばで微笑む。

「あの子ったら、あなたのこと本当に好きになってしまったみたい。あなた、意外と手が早いのね。この体で彼女を誘惑したのかしら?」

 顔が熱くなる。
 違う、と言いたいのだけど、小春さんの指はイジワルに私の舌を転がしている。

「それとも、このぽってりとした可愛い唇でキスをしてあげたのかしら? 私たちのルヴィさんを誘惑するなんて、いけない子……ふふっ」

 うなじを噛まれた。
 にぶい痛みはすぐに快感に変わって、私の背すじを震わせる。
 小春さんの指が、私の口から唾液の糸を引いて離れた。肺にいっぱい空気を吸い込んで、熱い息にして吐き出した。

「あなたからもお願いしなさい。ルヴィさんに、私を食べてって。あなたも食べて欲しいんでしょ?」

 食べて欲しい。私だって、あの小さなお口で、私をたっぷり味わって欲しいと思う。
 でもその前に、私はもっとするべきこともあるし、聞かなきゃならないこともたくさんあった。まだダメ。大事なことを忘れちゃダメ。
 私の仕事を全うしろ。

「はぁっ、はぁっ、はぁーっ…あぁ、あの…あの…」
「何かしら?」
「こ、小春さんに、お聞き、んっ、したいことが」
「……私に?」
「あの、んっ、小春さんは、琉樹さんの話を、ど、どう思われますか? んっ、ここを、ぁっ、出て行かれる、あなたにとって、琉樹の館とは、んっ、本物の永遠、でしたか? はっ、はぁ」

 私の口のすぐそばで、小春さんの横顔が止まる。

「永、遠…。はっ、はぁ、はぁっ、本当に、んんっ、本当に、ただ、それだけのために、ッ、この家は、あるのですか? はぁっ、はぁ、はぁ…では、んくっ、その、永遠とは、誰のための、んっ、永遠、なんですか?」

 体が疼いて、頭の中も真っ赤に煮えたぎっている。
 言葉もカラ回りしている気がする。

「誰の目にも、触れず、ただ永遠に、在り続けるための家なんて、どうして、必要なんでしょうか? んっ、琉樹家の人たちが、そこまでの情熱を注ぐのは、あっ、一体、何のためなんですか……、はぁ、はぁ、知っていたら…、いえ、あの、あなたはたぶん、知っていると思うんですが、んっ、その、教えて、くださいませんか、小春、さん……」

 聞きたいことが、上手くまとまらない。疑問だけ次々浮かんで、聞くべきことを間違えてる気もする。
 小春さんも、私の言いたいことが伝わらないのか、固まったままだ。
 もう、自分のダメさがイヤになる。ちゃんと整理したいのに、頭が回らないんだ。
 小春さんは、ゆっくりと私の目を見た。
 その微笑は、さすが女優さんと思える魅力に満ち溢れ、優しく、美しく、とても落ち着いていた。

「さあ? あなたの言ってること、私には全然わからないわ」

 やっぱり、笑われた。きちんと考えて、聞きたいことをまとめなきゃ。
 そう思った瞬間、お尻に強い痛みが走った。私は大声を上げて仰け反る。ビリビリと、尖った感覚が全身を突き抜けて、すぐにそれは快感に変わって全身に広がる。
 小春さんが、私のお尻をぶった。

「あなた、本当に素敵な子ね。こんなに楽しいお料理は、私も久しぶりよ。たっぷりと、可愛がってあげる」

 何度も、何度もぶたれる。でも逃げられない私は、悲鳴を上げるだけ。痛みと快感が交互に攻め寄せてくる。
 私は小春さんにめちゃくちゃにされる。
 殺されるかもしれないと、本当にそう思う。

「橘夏さん、あなたも手伝ってくださる?」
「はい、小春様」

 ここに来るとき、扉の前にいた女性の背の高い方。短い髪と、勝ち気そうな顔立ちの女性だ。

「彼女に、とびきり甘い生クリームをプレゼントしてあげて」
「かしこまりました」

 軽やかな足取りで、彼女は私の前でホイップクリームのチューブを手に取り、くるりと片手で器用に回して構えた。
 そして、私の後ろに立った。

「いやあッ!?」

 いきなり、アソコの中に太いものが入ってくる。
 そして、ブチュチュといやらしい音を立てて、何かが私の中に注ぎ込まれてきた。

「いやっ、いやぁっ!? や、あああぁぁッ!?」

 形容しがたい、壮絶な感覚が私の体を駆けめぐる。
 私はひたすら悲鳴を上げる。懇願して、許しを乞う。
 でも道端小春は私を押さえつけ、お尻を叩き、橘夏さんという人は私にクリームを注ぎ続ける。
 ルヴィは、私の悲鳴から逃げるように、耳を塞いでしゃがみ込んでいた。痛みと快感は、大波のように私の脳みそを揺さぶる。
 やがて、私の意識はぶつりと途切れてしまった。

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